ブランディングとは、結局何をすればいいの?
ブランディングが重要だと言われる。
競合との差別化をしよう。
ブランドの世界観をつくろう。
顧客から愛される存在になろう。
言っていることは、なんとなくわかる。
しかし、実際に仕事として任された瞬間、急に何をすればいいのかわからなくなる。
ロゴを変えるのか。
ブランドコンセプトを考えるのか。
SNSのトーンを統一するのか。
「高品質」「信頼できる」と広告で伝えるのか。
ブランディングという言葉は、重要そうに聞こえる一方で、具体的な作業が見えにくい。
そのため、ロゴやブランドムービーなど、わかりやすい制作物に仕事が置き換わりやすい。
もちろん、それらが間違いなのではない。
問題は、何を変えるためにつくるのかが曖昧なことである。
ブランディングとは、ブランドをかっこよく見せる仕事ではない。
顧客が商品を必要としたときに思い出し、見つけ、選べる状態をつくる仕事だ。
では、結局何をすればいいのか。
5つのアクションに分けて考えてみたい。
第1章 「どう思われたいか」から考えるのをやめる
多くの企業は、「どんなブランドになりたいか」から考える。
革新的と思われたい。
信頼されたい。
若々しく見られたい。
しかし、これは企業側の願望である。
「信頼できるブランド」と定義しただけで、顧客が商品を買う場面で思い出してくれるわけではない。
最初にやるべきことは、事業上の問題を顧客の選択に置き換えることだ。
そもそも知られていないのか。
知っているが購入候補に入っていないのか。
店頭で競合と見分けられないのか。
限られた用途でしか思い出されていないのか。
購入後の体験が悪く、再購入されていないのか。
認知が足りないのにロゴを変更しても、知らないブランドの見た目が変わるだけである。
店頭で見つけられないことが問題なら、理念を言語化するより、パッケージや配架を改善した方がよいかもしれない。
ブランディングの最初のアクションは、ブランドコンセプトを決めることではない。
顧客が自社を選ぶまでの、どこで止まっているのかを特定することである。
第2章 顧客の頭の中に何が残っているか調べる
現在地を知るために、ブランド調査を行う。
ただし、「このブランドが好きですか」「品質が高いと思いますか」と聞くだけでは不十分である。
ブランドに結びつく属性には、大きく分けて記述属性と評価属性がある。
評価属性とは、「おいしい」「品質が高い」「信頼できる」「使いやすい」「かっこいい」など、ブランドの良し悪しを判断する言葉である。
一方、記述属性は、「赤いパッケージ」「コンビニで買える」「仕事中に使う」「家族で利用できる」など、そのブランドが何であり、どのような場面に関係するかを説明する情報だ。
ここで重要なのは、評価属性には使用経験の影響が入りやすいことである。
ブランドイメージ測定に関する研究では、利用者は非利用者よりも、自分が利用しているブランドに評価的な属性を結びつけやすいという「usage bias」が確認されている。
つまり、
「品質が高いと思ったから買った」
とは限らない。
反対に、
「買って使ったから、品質が高いと回答した」
可能性もある。
大きなブランドほど利用者が多いため、多くの人から好意的な属性を付与されやすい。
ブランドイメージの高さを、そのまま売れた原因と解釈するのは危険だ。
調査では、利用者と非利用者を分けて分析する。
そのうえで、どのような特徴で認識されているのか、どのような購買場面で思い出されるのかまで確認する。
見るべきなのは、「好かれているか」だけではない。
顧客の頭の中に、何が、どの場面と結びついて残っているかである。
第3章 どの場面で思い出してほしいか決める
顧客は、いつもブランドのことを考えているわけではない。
「朝、頭を切り替えたい」
「仕事中に眠くなった」
「家族で手軽に外食したい」
このような状況が生まれたとき、初めてカテゴリーの購入を考える。
こうしたカテゴリー購入の入口となる記憶は、カテゴリー・エントリー・ポイントと呼ばれる。
Ehrenberg-Bass Instituteも、メンタルアベイラビリティを高めるためには、ブランドを購買の動機や状況と結びつける必要があると説明している。
そこで、自社の商品カテゴリーが購入される場面を洗い出す。
いつ買われるのか。
どこで買われるのか。
誰といるときに買われるのか。
どのような気分や目的があるのか。
何の代わりとして選ばれるのか。
次に、現在自社が結びついている場面と、今後強化したい場面を決める。
市場規模や購入頻度があり、自社商品が実際に対応でき、継続的に訴求できる場面を優先する。
注意したいのは、一つの狭い用途にブランドを閉じ込めないことだ。
「若い女性のご褒美」
「特別な日のための商品」
このように限定しすぎれば、ブランドが思い出される入口も減ってしまう。
ブランディングで決めるべきなのは、何と思われたいかだけではない。
顧客がどのような状況になったとき、自社を思い出してほしいかである。
第4章 思い出し、見分けられるブランド資産を育てる
思い出してほしい場面を決めたら、その記憶を自社ブランドと結びつける。
広告を見て「おしゃれ」「楽しそう」と感じても、どのブランドの広告だったか思い出せなければ、投資は自社の資産にならない。
そこで、ブランドを識別する要素を棚卸しする。
ブランド名、ロゴ、色、パッケージ、商品の形、キャラクター、音、コピーなどである。
そして、それぞれについて確認する。
ブランド名を隠しても自社だとわかるか。
競合と間違われないか。
多くの人に認識されているか。
長期間使い続けられるか。
Ehrenberg-Bass Instituteは、ブランド資産を、買い手がブランドを認識するための観察可能な特徴と位置づけている。
ブランド資産は、つくった瞬間に完成する制作物ではない。
顧客が見た瞬間にブランドを思い出せるまで、繰り返し使って初めて資産になる。
企業側は、同じ表現を何度も使うと飽きる。
しかし、顧客は企業が思っているほど広告を見ていない。
社内で飽きた頃に、顧客がようやく覚え始めていることもある。
必要なのは、毎年新しい世界観をつくることではない。
覚えられるまで、同じ資産を一貫して使い続けることである。
第5章 ブランドを育てる仕組みと指標をつくる
最後に、ブランディングを単発の制作プロジェクトから、継続的な運用へ変える。
測るべきものは、ブランド好意度だけではない。
購買場面ごとの想起率。
ブランド資産の識別率。
広告の到達率。
店頭やECでの見つけやすさ。
購入者数や浸透率。
新規購入者数。
商品体験への満足度。
これらを分けて見る必要がある。
「思い出されない」
「見分けられない」
「買える場所にない」
「買った後に不満がある」
これらは、すべて別の問題だからだ。
運用ルールも決める。
何をブランド資産として守るのか。
何は変えてよいのか。
誰が管理するのか。
各施策でどの購買場面を強化するのか。
どの指標を、どの頻度で測るのか。
ここまで決めて、初めてブランドは継続的に育つ。
なお、ブランドの成長に「競合と違うと思われること」が絶対条件とは限らない。
17カテゴリーを分析した研究では、多くの購入者が、自分の購入しているブランドを独自だと認識していないことが示された。
そのため、研究者らは、差別化だけでなく、容易にブランドを識別できる独自性へ目を向けるべきだと論じている。
ブランディングから得られる最大の学びは、価値は伝えた内容ではなく、相手の記憶に残った内容で決まるということだ。
顧客の頭の中を調べる。
思い出してほしい場面を決める。
その場面とブランドを結びつける資産を使い続ける。
そして、本当に選ばれやすくなったかを測る。
ブランディングでやることは、実はそれほど曖昧ではない。
顧客の記憶を、選ばれやすい方向へ積み上げていく。
それが、ブランディングという仕事である。
▼おすすめ記事
参考URL
Ehrenberg-Bass Institute
「Image Measurement and the Problem of Usage Bias」
https://assets.marketingscience.info/4909.pdf
Ehrenberg-Bass Institute
「The Effect of Advertised Messages on Light and Heavy Users’ Brand Image Beliefs」
https://assets.marketingscience.info/light.pdf
Ehrenberg-Bass Institute
「How Do You Measure ‘How Brands Grow’?」
Ehrenberg-Bass Institute
「Category Entry Points: The Last Two Strategic Pitfalls Unraveled」
Romaniuk, Sharp & Ehrenberg
「Evidence Concerning the Importance of Perceived Brand Differentiation」
https://journals.sagepub.com/doi/10.1016/S1441-3582%2807%2970042-3
