パワハラで異動寸前だった平社員が、過去最高売上を40%更新するまで
上司の言動について、会社に相談したことがあります。
会社は、上司の言動に問題があること自体は認めました。
私の受け取り方の問題だと否定されたわけでも、単なる行き違いとして処理されたわけでもありません。
それでも、会社が選んだのは、上司に厳しく対応することではありませんでした。
「上司は替えが利かない。
つらいのであれば、あなたが異動してもいい」
要約すると、そのような回答でした。
問題があるのは認める。
しかし、組織にとって必要なのは上司の方だから、耐えられないのであれば私が離れる。
それが、会社の判断でした。
当時、部門の実務の大半を担っていたのは私でした。
それでも会社にとって、替えが利かないのは問題のある言動をしていた上司であり、私は異動させても問題のない平社員でした。
悔しかったのは、異動を勧められたことだけではありません。
私が担ってきた仕事も、会社に訴えた苦しさも、自分の能力も、上司を残すという組織の都合より軽いものとして扱われたことです。
その判断が、どうしても納得できませんでした。
だから私は、会社が切り捨てようとした自分の価値を成果で証明することにしました。
【言葉で評価を変えられないなら、売上で変える】
社内での評価や人間関係は、自分一人ではコントロールできません。
誰が信用されるのか。
誰の意見が通るのか。
誰が「替えの利かない人材」と見なされるのか。
そこには、役職、社歴、人間関係、声の大きさなど、さまざまな要素が影響します。
当時の私は平社員でした。
予算を決める権限もありません。
人事権もありません。
役職を使って、誰かに指示することもできません。
しかし、売上は分解できます。
たとえば、売上は次のような要素で構成されています。
・市場の大きさ
・商品やサービスを知っている人の数
・購入できる人の数
・実際に購入する人の割合
・購入頻度
・単価
売上を構成する要素を分解すれば、その中には、自分たちで動かしやすい数字と、簡単には動かせない数字があります。
私は、社内で自分の正しさを主張することをやめました。
代わりに、
「どの数字を動かせば、事業全体の結果が変わるのか」
を考えるようになりました。
人事評価や社内の評判は、自分では完全にコントロールできません。
しかし、事業の構造を分解し、顧客の行動を変えることならできるかもしれない。
言葉で評価を変えられないなら、売上で変える。
それが、私がマーケティングを本気で学び始めた理由でした。
【教えてくれる人はいなかった】
当時の会社には、マーケティングの専門部門がありませんでした。
体系的にマーケティングを教えてくれる上司も、先輩もいませんでした。
必要な知識は、自分で身につけるしかありませんでした。
通勤時間には、オーディオブックや専門家の解説を聞きました。
朝の散歩中にも音声で学びました。
移動中も、入浴中も、情報収集に使いました。
尊敬するマーケターの著書は、何度も読み返しました。
インタビュー動画も繰り返し聞き、知識だけではなく、問題の捉え方や思考の順序まで身につけようとしました。
仕事中のパフォーマンスを落とさないため、食事や睡眠、運動にも気を配りました。
朝に散歩をし、ストレスをコントロールし、仕事に集中できる状態をつくろうとしました。
今振り返ると、かなり極端だったと思います。
私は、仕事で成果を出すために、私生活まで最適化しようとしていました。
それが健康的だったとは、今では言い切れません。
ただ、当時の私には、自分の価値を証明するために、そこまでやる必要があるように思えていました。
【マーケティングを自分で組み立てた】
本や動画から知識を集めるだけでは、売上は伸びません。
世の中には、さまざまなマーケティング理論があります。
顧客を深く理解する。
ファンを増やす。
ブランドを強くする。
広告を増やす。
価格を変える。
体験価値を高める。
どれも、間違いとは限りません。
しかし、すべてを同時に実行できるほど、人も予算も時間もありません。
重要なのは、自分たちの事業では、どこにリソースを使うべきなのかを見極めることでした。
そこで私は、学んだ理論を自社で使える形に組み直し、自分なりのマーケティング戦略の手順を作りました。
【私が考えた基本手順】
① 結果を構成する要素を分解する
② 動かしやすい数字と、動かしにくい数字を見極める
③ 少ないコストと工数で、再現性を持って伸ばせる数字を探す
④ 誰に、どのような価値を、どの方法で届けるかを決める
⑤ 戦略が実行可能で、継続できるものかを確認する
事業が伸びないとき、つい新しい施策を探したくなります。
しかし、施策を増やす前に、そもそも何が売上を制約しているのかを見極めなければなりません。
認知が不足しているのか。
購入できる場所が少ないのか。
商品の価値が伝わっていないのか。
価格に問題があるのか。
一度購入した人が戻ってこないのか。
課題が違えば、打つべき施策も変わります。
私が身につけたのは、マーケティングの知識だけではありません。
複雑な問題を分解し、限られた資源を、最も結果が変わる場所に配分する考え方でした。
【平社員のまま、複数の部署を動かした】
戦略を作るだけでは、売上は伸びません。
実行するためには、人と予算を動かす必要があります。
しかし、当時の私には十分な権限がありませんでした。
売上責任を持つ部門と、広告宣伝費を持つ部門も分かれていました。
私は平社員の立場から、それぞれの責任者に説明し、マーケティングに使えるリソースを増やしてもらう必要がありました。
関係部署にも協力を依頼し、立場も目的も異なる人たちを、同じ方向へ動かさなければなりませんでした。
役職で指示することはできません。
だからこそ、次のことを、できる限り論理的に説明しました。
・なぜ、この数字を伸ばすべきなのか
・なぜ、この施策に投資するのか
・どの程度のリターンが期待できるのか
・他の選択肢より、なぜ優先すべきなのか
・実行しなかった場合、何を失うのか
もちろん、最初からすべてが理解されたわけではありません。
反対意見もありました。
思うように進まないこともありました。
失敗した施策もありました。
それでも、
仮説を立てる。
実行する。
結果を確認する。
原因を考える。
次の打ち手につなげる。
この繰り返しを続けました。
【過去最高売上を40%更新した】
結果として、事業は、それまでの過去最高売上を40%上回りました。
一つの広告が偶然当たったわけではありません。
一人の天才的なアイデアで、突然売上が伸びたわけでもありません。
売上を構成する要素を分解する。
伸びしろのある数字を特定する。
人、予算、時間を、そこに集中させる。
施策を実行し、効果を検証する。
成果の出た方法を広げる。
その積み重ねによって生まれた結果でした。
数字が変わるにつれて、社内での私の扱われ方も変わっていきました。
以前は退けられていた提案が、事業戦略として検討されるようになりました。
意見を聞かれる側ではなかった私が、意思決定を任されるようになりました。
そして最終的に、私はマーケティングマネージャーに就きました。
一方で、かつて会社から「替えが利かない」と説明されていた上司は、別の部署へ異動しました。
「つらいなら、あなたが異動してもいい」
そう言われた平社員の私が、その組織に残り、マーケティングを率いる立場になりました。
替えが利かないとされた人が異動し、替えが利くと判断された私が、その後を引き継いだのです。
正直に言えば、何も感じなかったわけではありません。
私が担ってきた仕事も、会社に訴えた苦しさも軽く扱われた。
その悔しさが、ようやく数字によって覆されたように感じました。
言葉では変えられなかった評価を、顧客が支払った売上が変えてくれました。
【売上が証明したものと、証明できなかったもの】
過去最高売上を40%更新した。
平社員だった私は、マーケティングマネージャーになった。
かつて「替えが利かない」とされた上司は、別の部署へ異動した。
物語として切り取れば、確かにスカッとする結末かもしれません。
私自身にも、「結果で見返すことができた」という感情はあります。
しかし、売上が証明したのは、私に事業を成長させる能力があったということだけです。
当時の会社の対応が正しかったことを証明したわけではありません。
私が過去最高売上を作れなかったとしても、受けた言動が正当になるわけではありません。
成果を出せる人だけが、尊重されるべきでもありません。
また、同じような状況にいる人に、
「逃げずに残り、結果で見返すべきだ」
と勧めるつもりもありません。
離れることも、助けを求めることも、自分を守るための正しい選択です。
私の場合は、悔しさを学習と行動に変えたことで、結果的に自分の能力を発見できました。
ただし、それは唯一の正解ではありません。
心身を壊してまで、続ける価値のある仕事はありません。
この経験から私が学んだのは、理不尽には耐えるべきだということではありません。
人の評価は間違う。
組織の判断も間違う。
だからこそ、他人から与えられた評価を、自分自身まで信じる必要はない。
自分の価値は、今いる組織の評価だけで決まるものではない。
そういうことです。
【私にとって、マーケティングとは何か】
この経験を通じて、私の中でマーケティングの意味が変わりました。
マーケティングは、広告を作る仕事ではありません。
人を巧みに説得する技術でもありません。
SNSを運用することや、流行のツールを使うことだけでもありません。
私にとってマーケティングとは、
「事業の結果を構成する要素を分解し、限られたリソースを、最も結果が変わる場所に配分すること」
です。
そして、もう一つ。
マーケティングは、社内の思い込みを、顧客の選択によって検証する仕事でもあります。
社内で誰の声が大きいかは、顧客には関係ありません。
肩書がある人の意見だからといって、市場でも正しいとは限りません。
有名なマーケターが提唱した理論も、成功企業の事例も、それだけで自社に当てはまるとは限りません。
重要なのは、
どこまでが事実で、
どこからが解釈で、
何を実行すれば、
本当に顧客の行動が変わるのか。
それを考え続けることだと思っています。
【このnoteで書いていくこと】
このnoteでは、マーケティングやビジネスについて、
「実務」「データ」「研究」
の3つの視点から考えていきます。
たとえば、次のようなテーマを扱います。
・有名なマーケティング理論は、どこまで正しいのか
・ブランドの一貫性は、本当に必要なのか
・ファンやロイヤル顧客を増やせば、事業は成長するのか
・売上が伸びた施策と、売上を伸ばした施策はどう違うのか
・データ分析を、どうすれば意思決定につなげられるのか
・広告や施策の本当の貢献を、どのように測るのか
・なぜ、すべてのビジネスパーソンがマーケティングを学ぶべきなのか
成功法則を紹介するだけのnoteにはしないつもりです。
自分自身の成功体験も、無条件には信じません。
なぜなら、
「成果が出たこと」と、
「その成果についての説明が正しいこと」は、
別だからです。
実務だけで、研究を否定しない。
研究だけで、現場を切り捨てない。
有名な理論を、信仰しない。
反対すること自体も、目的にしない。
どの条件では有効なのか。
どこからは言い過ぎなのか。
別の説明はできないのか。
他の環境でも再現できるのか。
その境界線を考えていきます。
【成功者の答えではなく、成功が起きる構造を知りたい】
私が知りたいのは、成功した人が何を語ったかだけではありません。
なぜ、その成功が起きたのかです。
その人だから成功したのか。
環境に恵まれていたのか。
偶然だったのか。
別の方法でも同じ結果が出たのか。
他の会社でも再現できるのか。
成果を出した経験があるからこそ、自分の成功を物語として美化するのではなく、構造として分解したいと考えています。
成功者の答えを集めるのではなく、成功が起きる構造を見つけたい。
それが、私がこのnoteでやりたいことです。
かつて私は、自分の価値を売上で証明しようとしました。
これからは、その過程で身につけた考え方を、誰かの意思決定に役立つ形で残していきたいと思っています。
マーケティングを雰囲気や信仰ではなく、再現性のある意思決定の技術として考えたい。
そのような方に、読んでいただければうれしいです。
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その過程で身につけた考え方や、キャリアに起きた変化については、以下の記事で詳しく紹介しています。
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