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アンケート回答の約半分は、次回には変わる。それでも消費者調査が役に立つ理由

アンケートで、ある消費者にこう聞いたとします。

「このブランドは高品質だと思いますか」

その人が「はい」と答えたなら、数週間後に同じ質問をしても、当然同じ答えが返ってくるように思えます。

しかし、実際にはそうとは限りません。

1997年に発表されたブランド態度に関する研究では、同じ消費者に再度インタビューしたところ、前回と同じ態度的な「Yes/No」の回答をした割合は、平均すると約50%でした。

つまり、ブランドに対する態度やイメージについては、次に聞かれたときに回答が変わることが珍しくなかったのです。

もちろん、これは「あらゆるアンケートで、回答者の半分が次回には違うことを答える」という意味ではありません。

ブランドに対する態度を繰り返し測定した、特定の研究結果です。

それでも、私たちがアンケートを見るときに抱きがちな、ある思い込みを崩すには十分です。

アンケートの数字は、消費者の頭の中に保存されている固定的な本音を、そのまま取り出したものではありません。

では、回答がこれほど揺れるなら、消費者調査には意味がないのでしょうか。

私は、そうは思いません。

大切なのは、アンケートの数字を現実そのものだと考えないことです。

アンケートの世界と現実の世界が、どのように対応しているのかを把握することが重要なのです。



人は、質問された瞬間に答えをつくっている 


消費者は、自分が利用するすべての商品について、明確な評価を頭の中に保存しているわけではありません。

質問されたときに思い出した経験、直前に見た情報、その日の気分、質問の表現、選択肢の並び方などを材料にして、その場で回答をつくります。

だから、同じ人でも回答が変わります。

さらに、回答の不安定さは、消費者側だけの問題ではありません。

ブランドイメージを測る回答形式を比較した研究では、「当てはまるものをすべて選ぶ」形式の安定率は41%、7段階評価では59%、一項目ずつ「Yes/No」で判断させる形式では70%でした。

同じ消費者の同じブランドに対する認識でも、聞き方によって回答の安定性が変わったのです。

つまり、「消費者の気持ちが曖昧だから回答が変わった」とは限りません。

調査票の設計そのものが、回答を不安定にしている可能性もあります。

アンケートとは、消費者の心をそのまま撮影するカメラではありません。

設問、選択肢、回答形式、調査対象者、調査環境を通して現実を測る「測定装置」です。

測定装置である以上、そこには必ず癖があります。

正しい数字より、ズレ方が分かる数字

消費者調査では、できるだけ正確な割合を出すことが重視されます。

もちろん、市場規模や利用者数を推計する調査では、絶対値の正確さが重要です。

しかし、商品開発やマーケティングの意思決定に使う調査では、アンケートの割合が現実と完全に一致することだけが重要なのではありません。

例えば、発売前の調査で「購入したい」と答えた人が40%いたとします。

ところが、発売後の実購入率は8%でした。

この結果だけを見ると、購入意向調査は5倍も過大だったように見えます。

しかし、過去の類似商品でも、

購入意向40%に対して実購入率8%。

購入意向30%に対して実購入率6%。

購入意向20%に対して実購入率4%。

このような対応関係が安定して観測されているなら、調査結果は十分に意思決定に使えます。

次の商品で購入意向が25%だった場合、実購入率は5%前後になる可能性があると予測できるからです。

常に2度高く表示する温度計でも、「常に2度高い」と分かっていれば補正できます。

困るのは、ズレがあることではありません。

どのようにズレるのか分からないことです。

アンケートには、記憶違い、設問の読み飛ばし、見栄、その場の気分、回答形式による影響などが含まれます。

それでも、同じ条件で測定を続け、現実の行動と比較すれば、集団全体に一定の規則性が見つかることがあります。

個人の回答は揺れていても、集団ではパターンが残る。

消費者調査で見るべきなのは、そのパターンです。

購入意向と売上だけを比べてはいけない

ここで、もう一つ重要な問題があります。

発売前の購入意向と、発売後の売上を比較するだけでは、調査の精度を正しく評価できません。

発売前のコンセプト調査では、回答者に商品の情報を強制的に提示します。

回答者は、商品を認知し、一定程度コンセプトを理解した状態で購入意向を回答します。

しかし、現実世界では違います。

そもそも商品の存在を知らないかもしれません。

広告を見ていないかもしれません。

広告を見ても、伝えたかった特徴を理解していないかもしれません。

商品を欲しいと思っても、店頭に置かれていないかもしれません。

そのため、購入意向が高かったのに売れなかった場合、少なくとも次の可能性を切り分ける必要があります。

認知率が低いのであれば、広告露出やリーチの問題です。

認知率は高いのにコンセプト伝達度が低ければ、広告表現やパッケージの問題かもしれません。

コンセプトは伝わっているのに購入意向が低ければ、商品の便益、価格、競合との比較に問題がある可能性があります。

購入意向まで高いのに購入されていなければ、配荷、在庫、売り場、購入導線などのフィジカルアベイラビリティを疑う必要があります。

売上が伸びなかったという結果は同じでも、原因はまったく異なります。

認知不足なのに商品コンセプトを変更しても、問題は解決しません。

店頭に商品がないのに広告表現を修正しても、売上は増えません。

優れた調査とは、結果が悪かったときに、どこで問題が起きたのかを切り分けられる調査です。

設問をつくる前に、売上までの構造をつくる

消費者調査の設問設計は、質問文を考えるところから始めるべきではありません。

まず、商品が売れるまでの構造を分解します。

認知

商品内容の理解

自分との関連性

購入検討

購入意向

商品との接触

実購入

継続購入

そのうえで、それぞれの段階に対応する設問や行動データを用意します。

発売前であれば、次のような項目を測ります。

・商品の内容を正しく理解できたか
・どのような便益があると感じたか
・どのような人向けの商品だと思ったか
・自分にとって必要だと感じたか
・想定価格でも購入したいか
・競合商品と比較して選びたいか
・購入をためらう理由は何か

発売後には、次のような項目を測ります。

・商品名を知っているか
・広告を見たことがあるか
・広告からどのような特徴が伝わったか
・店頭やECで商品を見かけたか
・購入を検討したか
・実際に購入したか
・購入しなかった理由は何か

このように設計しておけば、調査を発売前の予測だけでなく、発売後の原因分析にも使えます。

調査は、予測装置であると同時に診断装置でもあります。

重要なのは、発売前と発売後の調査を別々に考えないことです。

事前調査を設計する段階で、発売後にどの指標と答え合わせするのかを決めておく必要があります。

コンセプト伝達度は、正解を教えずに測る

特に注意したいのが、コンセプト伝達度の設問です。

広告を見せた後に、

「この商品は、忙しい朝でも簡単に栄養を取れる商品だと伝わりましたか」

と聞けば、設問そのものが正解を教えてしまいます。

回答者は、広告から理解したのではなく、質問文を読んで「そういう商品なのか」と理解するかもしれません。

最初は自由回答で、

「この商品は、どのような商品だと思いましたか」

「最も印象に残った特徴は何ですか」

と聞く方が、自然に受け取られた内容を確認できます。

その後に選択肢を提示し、

・伝えたかった便益が選ばれているか
・競合との違いが理解されているか
・想定していた利用場面が想起されているか
・意図していない誤解が発生していないか

を確認します。

企業が広告で「言ったこと」と、消費者に「伝わったこと」は違います。

コンセプト伝達度で測るべきなのは、企業が伝えた内容ではなく、消費者の頭に残った内容です。

設問設計で意識したい6つのポイント

1.何の意思決定に使うかを先に決める

商品を発売するか、広告案を選ぶか、需要量を予測するかによって、必要な設問は変わります。

判断に使わない設問は、興味深くても増やしすぎない方がよいでしょう。

2.抽象的な意識より、具体的な行動を聞く

「健康を意識していますか」ではなく、「直近7日間に、健康を理由として商品を選んだことがありますか」と聞きます。

期間、行動、場面を具体化するほど、回答者による解釈の差を小さくできます。

3.現実に存在する制約を入れる

購入意向を測るなら、価格、競合商品、予算、購入場所、「何も買わない」という選択肢も考慮します。

商品だけを見せて「欲しいですか」と聞く状況は、現実の売り場とは異なります。

4.一つの設問で一つだけ聞く

「デザインがよく、使いやすいと思いますか」では、デザインはよいが使いにくい人が回答できません。

評価したい要素は分けて聞きます。

5.回答形式を軽視しない

選択肢をすべて選ばせるのか、一つずつ判断させるのか、段階評価にするのかによって結果は変わります。

過去調査と比較する場合は、設問文だけでなく、回答形式や選択肢の順番もそろえる必要があります。

6.調査後に、必ず現実と答え合わせする

調査結果を報告書にして終わらせてはいけません。

認知率は、実際の検索やサイト流入と対応していたか。

コンセプト伝達度が高い層や地域ほど、購入率が高かったか。

購入意向と実購入率には、どの程度の対応があったか。

店頭接触率や配荷率と販売数は連動していたか。

これを繰り返すことで、自社の商品カテゴリー、自社の設問、自社の販売環境に適した補正ルールが蓄積されます。

サンプル数を増やすだけでは、対象者の偏りや測定方法による偏りは消えません。

調査誤差には、標本誤差だけでなく、調査対象のカバレッジ、無回答者の偏り、設問や回答形式による測定誤差なども含まれます。

回答者を増やして小数点以下の精度を上げても、測り方そのものが偏っていれば、間違った数字を高い精度で算出するだけです。

アンケートの目的は、本音を言い当てることではない

消費者調査の結果を見ると、つい小数点以下の差に注目してしまいます。

購入意向が31.2%なのか、32.8%なのか。

認知率が前月より1.5ポイント上がったのか。

しかし、同じ人でも回答が変わり、設問の聞き方でも数字が変わることを考えれば、その数字を現実の絶対的な真実として扱うのは危険です。

一方で、アンケートが無意味なわけでもありません。

同じ条件で継続して測定し、実際の認知、コンセプト伝達、配荷、購入、売上と比較すれば、アンケートと現実の間にある規則性を見つけられます。

正確なアンケート結果を出すことが、最終目的ではありません。

アンケートを使って、正確な意思決定に近づくことが目的です。

個人の回答は揺れます。

アンケートの数字と現実の数字も一致しません。

だからこそ、調査結果をそのまま信じるのではなく、現実世界との対応を測り続ける必要があります。

良い消費者調査とは、回答者の本音を一度で見抜く調査ではありません。

想定と現実が違ったときに、なぜ違ったのかを説明できる調査です。

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参考URL

Dall’Olmo Riley, F., Ehrenberg, A. S. C., Castleberry, S. B., Barwise, T. P. & Barnard, N. R.(1997)
The variability of attitudinal repeat-rates

https://doi.org/10.1016/S0167-8116(97)00023-2

Dolnicar, S., Rossiter, J. R. & Grün, B.(2012)
“Pick-Any” Measures Contaminate Brand Image Studies

https://doi.org/10.2501/IJMR-54-6-821-834

American Association for Public Opinion Research
Standard Definitions

American Association for Public Opinion Research
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