Web広告は、本当にテレビCMより効果が高いのか?
テレビCMに1億円使いたいと提案すると、たいていこう聞かれます。
「それで、何件売れるの?」
テレビCMを放映した人と、放映しなかった人を完全に分けることは難しいため、この質問に即答するのは簡単ではありません。
ところが、Web広告なら答えられます。
「想定CPAは5,000円です」
「ROASは300%を見込んでいます」
「このターゲットに絞って配信するので、無駄な広告費も抑えられます」
管理画面を開けば、クリック数、コンバージョン数、CPA、ROASまで表示されます。
テレビCMよりも効果が明確で、無駄も少ないように見えます。
それなら、広告予算がテレビからデジタルへ移っていくのも当然です。
しかし、ここで一度立ち止まって考える必要があります。
広告管理画面に表示されている数字は、本当に広告によって生まれた成果なのでしょうか。
Web広告は効果が高いから選ばれているのではなく、効果があるように説明しやすいから選ばれているだけかもしれません。
1.広告管理画面が見せているのは「効果」ではない
たとえば、ある人が商品名を検索し、検索広告をクリックして商品を購入したとします。
広告管理画面には、広告経由のコンバージョンとして売上が計上されます。
しかし、その人はすでに商品を知っており、広告が表示されなくても自然検索から購入していたかもしれません。
この場合、広告のあとに購入は発生しています。
しかし、広告によって購入が増えたとは限りません。
広告管理画面が得意なのは、
「広告に接触したあと、何が起きたのか」
を記録することです。
本当に知りたいのは、
「広告を出さなかった場合と比べて、何が増えたのか」
です。
前者はアトリビューション、つまり発生した成果を広告や接点に割り当てる考え方です。
後者はインクリメンタリティ、つまり広告によって上乗せされた増分効果です。
広告経由の売上と、広告によって増えた売上は同じではありません。

この問題は、単なる理屈ではありません。
Facebook上で行われた15件の広告実験、約5億件のユーザー・実験データと16億回の広告表示を分析した研究があります。
この研究では、一般的な観察データを使った広告効果の推定と、ランダム化比較実験によって確認された効果を比較しました。
その結果、年齢や性別、過去の行動など大量の変数を調整しても、観察データによる推定は、実験による本当の広告効果を正確に再現できないことが多いと報告されています。
データが細かいことと、因果効果が測れていることは別なのです。
2.eBayが検索広告を止めて分かったこと
この問題を象徴するのが、eBayが行った大規模な検索広告実験です。
eBayは一部の地域で有料検索広告を停止し、広告を表示した地域と表示しなかった地域の購買行動を比較しました。
通常の広告管理画面では、検索広告をクリックして購入した売上が、広告の成果として計上されます。
ところが実験の結果、従来の非実験的な方法で推定された広告効果は、実際の増分効果を大きく上回っていました。
特に、すでにeBayを頻繁に利用している顧客への効果は小さく、効果は新規顧客や利用頻度の低い顧客に偏っていました。
考えてみれば当然です。
「eBay」と検索している人は、すでにeBayを利用する意思を持っている可能性が高いからです。
その人が検索広告をクリックして購入したとしても、広告が需要を作ったとは限りません。
購入するはずだった人の途中経路に広告が入り、その売上を広告の成果として回収しているだけかもしれません。
検索広告が売上を生み出したのか。それとも、すでに存在していた売上を捕捉しただけなのか。
広告管理画面だけでは、この違いを判断できません。
3.ターゲティングすれば、無駄な広告は減るのか
Web広告が魅力的に見えるもう一つの理由が、ターゲティングです。
年齢、性別、興味関心、サイト訪問履歴、過去の購買行動などを使い、商品を買いそうな人だけに広告を配信できます。
興味のない人にも広く広告を見せるテレビCMより、無駄が少ないように見えます。
しかし、ここにも落とし穴があります。
広告配信のアルゴリズムが見つける「買いそうな人」は、広告によって買う人とは限りません。
広告がなくても買う可能性が高い人かもしれないのです。
企業が本当に広告を届けたいのは、
広告によって行動が変わる人
です。
一方、広告プラットフォームが見つけやすいのは、
広告接触後にコンバージョンする確率が高い人
です。
両者は一致するとは限りません。
20万人以上を対象にしたリターゲティング広告のランダム化実験では、広告プラットフォームは購入確率の高い人へ積極的に配信していました。
しかし、もともとの購入確率が高い人ほど広告効果も高い、という証拠は確認されませんでした。
研究者は、プラットフォームの最適化が広告主企業の利益にとって最適ではなく、企業側の利益を失わせる可能性を指摘しています。
つまり、管理画面上のCPAを改善しようとすればするほど、もともと買いやすい人に予算が集中することがあります。
コンバージョンは獲得できます。
CPAも改善します。
しかし、会社全体の売上はほとんど増えていないかもしれません。
ターゲティング精度が高いことと、増分効果が高いことは別です。

4.デジタル広告に予算が流れる「稟議の構造」
ここからは、研究結果ではなく私の仮説です。
広告予算がデジタルへ流れてきた理由は、デジタル広告の効果がテレビCMより高かったからだけではありません。
デジタル広告の方が、社内で効果を説明しやすかったことも大きいのではないでしょうか。
テレビCMの効果を説明するには、地域別の売上、放映前後の変化、ブランド認知、指名検索数、競合の動き、季節性など、複数の情報を組み合わせる必要があります。
結果が出るまで時間もかかります。
稟議書にも「放映すれば何件売れる」と簡単には書けません。
一方、Web広告には、CPAやROASという分かりやすい数字があります。
ターゲットを限定できるため、「無駄なく効率的に配信する」という説明もできます。
少額から始められ、停止や変更も簡単です。
上司にとっても、承認しやすい広告です。
担当者にとっても、成果を報告しやすい広告です。
広告代理店にとっても、自分たちの貢献を数字で示しやすい広告です。
この構造では、事業への貢献が高い媒体よりも、成果を自分の手柄として説明しやすい媒体に予算が集まりやすくなります。
テレビCMは、本当に効果がないから稟議が通らないのでしょうか。
それとも、効果を一つの数字にして提出しにくいから、稟議が通らないのでしょうか。
反対にWeb広告は、本当に効果が高いから稟議が通るのでしょうか。
それとも、広告管理画面の数字を、そのまま成果として提示できるから通りやすいのでしょうか。
事業にとって正しいことと、組織の中で説明しやすいことは一致しません。
5.P&Gはデジタル広告費を2億ドル削減した
世界最大級の広告主であるP&Gも、デジタル広告の数字を無条件には信用しませんでした。
P&Gは2017年、デジタル広告費を約2億ドル削減しました。
視聴データを精査した結果、広告が狙った人に十分届いていないことや、モバイルニュースフィード広告の平均視聴時間がわずか1.7秒だったことなどが判明したためです。
ただし、P&Gがデジタル広告を全面的に否定し、テレビCMだけに戻ったわけではありません。
P&Gは広告費全体を減らしたのではなく、効果が疑わしいデジタル広告への投資を削り、テレビ、音声、ECメディアなど、より広く消費者へ到達できる手段に再配分しました。
重要なのは「テレビかデジタルか」という結論ではありません。
管理画面に成果が表示されていても、実際に誰まで届いているのか、何秒見られているのか、同じ人に何度も配信していないかを検証したことです。
P&Gが疑ったのは、デジタル広告ではありません。
検証されていないのに、効果があるように見えている広告費です。
6.テレビかWebかではなく、増分効果を測る
では、どの広告媒体を使えばよいのでしょうか。
答えは、商品、顧客、商圏、予算、目的によって変わります。
テレビCMが優れていると決めつけることも、Web広告が優れていると決めつけることもできません。
大切なのは、広告を出したあとに管理画面を見ることではありません。
広告を出す前に、
広告がなかった世界と比較できる設計を作ること
です。
たとえば、地域を分け、一部地域にだけ広告を出します。
顧客をランダムに分け、一方には広告を配信し、もう一方には配信しません。
一部の検索広告やリターゲティング広告を一定期間停止し、売上や利益が本当に減るかを確認します。
広告を実施した地域と実施していない地域を比較する「地域実験」は、Googleの研究でも広告の増分効果を測る方法として紹介されています。
広告費を増減させる地域をランダムに割り当てることで、広告がなかった場合との差を推定します。
最初から大規模な実験をする必要はありません。
小さく試し、増分売上と増分利益を確認します。
うまくいけば広げ、効果がなければ止めます。
Web広告であっても、テレビCMであっても考え方は同じです。
見るべき数字はROASではなく、広告によって増えた利益です。
7.最初の仮説は、既存研究から作る
もちろん、あらゆる媒体を手当たり次第に試していては、広告予算がいくらあっても足りません。
そこで役立つのが、アレンバーグ・バス研究所などが蓄積してきたマーケティング研究です。
研究は、自社にとっての正解を直接教えてくれるものではありません。
しかし、最初にどの仮説から試すべきかを教えてくれます。
アレンバーグ・バス研究所は、ブランドを成長させるためには、既存顧客や一部の買いやすい顧客だけに対象を限定するのではなく、将来の顧客を含むカテゴリー購入者全体への到達を重視しています。
これは、ターゲティングを全面的に否定する考えではありません。
市場を狭めるためのターゲティングではなく、これまで届かなかったカテゴリー購入者へ到達するためにターゲティングを使う、という考えです。
ここから、広告を試す際の初期仮説が作れます。
同じ人へ何度も配信するより、未接触者へのリーチを増やした方がよいのではないか。
既存顧客やサイト訪問者だけでなく、カテゴリー購入者全体へ広げた方がよいのではないか。
購買直前の刈り取り広告だけでなく、ブランドを思い出してもらう広告にも投資した方がよいのではないか。
こうした研究を出発点に仮説を作り、自社で実験する。
それによって、広告費を無駄にする確率を下げることができます。
研究結果を自社へそのまま当てはめるのではありません。
研究で勝率の高い仮説を作り、実験で自社にとっての正解を確認するのです。
数字が見えることと、効果が見えることは違う
Web広告には、少額から開始できること、配信を素早く変更できること、実験を行いやすいことなど、多くの利点があります。
テレビCMにも、短期間で広い層へ到達し、ブランドの記憶を形成できる可能性があります。
どちらか一方が、常に優れているわけではありません。
問題は、広告管理画面に数字があるだけで、Web広告の効果は測定できていると思い込むことです。
テレビCMは、効果が見えないのではありません。
管理画面を開くだけでは、効果が表示されないのです。
Web広告は、効果が見えるのではありません。
広告接触後の行動が、効果のように表示されやすいのです。
テレビCMの弱点は、効果を説明しにくいことです。
Web広告の弱点は、効果ではないものまで効果に見えてしまうことです。
広告媒体を選ぶ基準は、管理画面の数字でも、稟議の通しやすさでもありません。
小さく試し、広告がなかった場合と比較し、本当に増えた売上と利益を確認する。
その結果、自社にとって最も効果の高い手段に予算を配分する。
それが、本当の意味でデータドリブンな広告運用ではないでしょうか。
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参考資料
Brett R. Gordon et al., “A Comparison of Approaches to Advertising Measurement: Evidence from Big Field Experiments at Facebook”
https://pubsonline.informs.org/doi/10.1287/mksc.2018.1135
Thomas Blake, Chris Nosko and Steven Tadelis, “Consumer Heterogeneity and Paid Search Effectiveness: A Large-Scale Field Experiment”
Thomas W. Frick et al., “Incentive Misalignments in Programmatic Advertising: Evidence from a Randomized Field Experiment”
https://pubsonline.informs.org/doi/10.1287/mnsc.2022.4438
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