弱さ、小ささ
幽鬼王は呆然とした。
シャーリィの行動の意味が分からなかった。
「何を……」
父の頭に花冠を乗せる動きを最後に、少女の体から力が抜け、くたりと崩れ落ちた。
次いでシャラウも、ギデオンの頬をひと撫でしたのち、意識を失う。
「ちち、うえ……」
普段から森中を駆け回り、基礎体力に富んでいるシャイファだけは少し持ちこたえたが、それもやがては昏倒に至る。
「あ……ああ……っ」
目の前で倒れ伏した妻子らを、しかしギデオンはどうすることもできなかった。
思わず差し伸べそうになった手を、断腸の思いで引っ込める。
三人とも肌が青白くなり、ぴくりとも動かない。
背筋を悪寒が走った。
「シャラウ……?」
もし。
このまま、三人が二度と動かなかったら。
もし。
愛おしい者たちを、自らの手で殺めてしまったのだとしたら。
――きっとギデオンダーバーヴィルズという男は、その場で壊れてしまうのだろう。
「シャラウ……シャイファ……シャーリィ……返事を……返事をしてくれ……っ」
そこへ、小さな影が割り込んできた。
異界の英雄の一人――人族の少年だ。三人の口元に次々と耳を当て、次いで手首を掴んで何事かを確認した。
「呼吸も脈拍も正常。体温がちょっと低くなっているけど、問題ない範囲であります。三人とも、体力を消耗しすぎて眠っているだけであります」
「……う、あ……」
安堵の念がどっと押し寄せ、腰がすとんと床に落ちた。
その目の前に、人族の少年は正座して相対した。
「ギデオンどの」
真っ直ぐとした、透明な視線を向けてくる。
その目になぜか、射すくめられた。
「どうして、何も言わずに陛下や殿下たちのもとを去ってしまったのでありますか……?」
「う……」
「答えてほしいであります」
「う、受け入れられるはずが、ないと……」
「今の三人の態度を見てもなお、そうおっしゃるつもりなのでありますか……?」
「な、にを……言っている……」
呻いた。
床に手をつき、後ずさりそうになるのをどうにかこらえる。
そこで、トウマが口を開く。
「おや、わかからないかな? じゃあ僕がフィンくんの言葉をわかりやすく言い換えてあげようか」
ギデオンの傍に跪き、その言葉を吹き込む。
「あなたに去られれば、この三人がどれだけ悲しむかわからない――そういう思いやりよりも、あなたは「受け入れられるはずがない」という恐怖心を優先させた……この三人の心を守るよりも、自分の心を守ることを優先させた」
「違うッ!! 私は……違う……!!」
「ではどうして受け入れられるはずがないなんて思ったんだい!? 逆の立場だったらあなたは受け入れられないからでは!? だから、家族がアンデッドになっても受け入れることができた三人の気持ちが理解できないのでは!? そんな人間が存在するということを想像すらできなかったからでは!?」
「黙れッ!! 黙れ黙れ黙れェ!! ふざけるなッ!! 百年も生きていないお前ごときに何がわかるッ!!」
その首をへし折ろうと、鉤状に強張らせた五指をトウマに伸ばす――が、思わず動きを止めた。
フィンの手が、ギデオンの腕を掴んで止めたから。柳眉を逆立てたまま、泣いていたから。その凄愴なまでの涙を、どういうわけか無視できなかったから。
「まだ語り合えるのに。笑い合えるのに。時間制限つきだけど、触れ合えるのに……! まだ失ってないのに……!」
真っ赤に泣き腫らしながら、炯と見据えてくるその目。
それはどこか、トウマ・クジミヤの目から受ける圧迫感と、不思議なまでに共通するものがあった。
――ギデオン、あなたはそれでいい。だけど自覚はすべきだ。
常々彼が語りかけてきた言葉が、ふと意識に浮上する。
「トウマ・クジミヤ」
「……なんだい?」
「私は、間違っていたのか?」
「それを決めるのはあなた自身だ」
肝心なところで突き放される。いつもそうであった。
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