少年の死
それは。
いままでずっと蓋をしてきた負い目で。
彼女の笑顔に眩惑されて、ずっと目を背け、考えないようにしてきた罪悪感で。
〈お前がこの世界に来たせいで……? お前がのうのうと息をしているせいで……?〉
〈ひ……〉
だからこれは、正当な糾弾で。
だからこそ、フィンは言い返せなかった。
〈……あァ、なんだ、お前、元の世界がそれほど恐ろしかったのか。カイン人? 滅亡の淵にある? それは大変だな。そしてお前はわが身可愛さにそこからひとり逃げ出し、シャーリィを犠牲にして今ここにいると言うわけだ。大した英雄だよ、まったく恐れ入る〉
〈……う、あ……〉
〈――死ねよ〉
何の熱もない、ただ必要なことを確認するかのような言葉だった。
命令や、罵倒ですらなかった。
〈死ね。死ねよ。早く。ほら早く〉
〈……ひ……ゆ、ゆる……〉
〈私が許す許さないの問題ではないだろう。お前の心にひとかけらでも良心や誇りや羞恥心があるのなら、自ら命を絶つべきだ。何の罪もない少女の幸福を永遠に奪い、自分は責務を放棄し、そして一人幸福を掴もうとしている。男として、とても耐えられん恥辱だ〉
〈……あ……ひ……〉
かつて、思った。
自分は、幸福になっても良いのではないのか、と。
皆、優しかったから。
笑っていいんだよ、って。泣いていいんだよ、って。
皆が皆、そう言ってくれていたから。
優しい世界の中で、優しい人たちに囲まれて。
だから、目を背けることができていた。
自分の中で、どこか、納得できないものをが残っていたけれど。
皆、大好きだったから。
大好きな人たちのために、自分に嘘をついた。
幸福になることを、自分に許しかけていた。
シャーリィの言葉よりも。総十郎の言葉よりも。烈火の言葉よりも。リーネの言葉よりも。
今、ここでかけられた言葉の方が、圧倒的に腑に落ちた。
〈これよりお前を下の湖に落とす。よもや命永らえようなどと考えるなよ〉
〈あ……あ、あ……〉
瞬間、いきなり風がごうごうと全身を打ちつけた。
元の世界に、追い出された。
足元には何もない。ただ、気の遠くなるほど遠くに、闇色の湖面があった。
「う……うう……」
フィンは、目を閉じた。何をする気にもならなかった。何も考えたくなかった。
ただ、あれほど流すまいと誓った涙が、零れて空中に散っていった。
「ごめん、なさい……」
顔が引き歪み、あとからあとから涙が零れ出た。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
手向かって。救えなくて。弱くて。責務を放棄して。泣かないという誓いすら守れなくて。この世界に来て。息をして。
生まれてきて。
「……ごめん、なさい……」
フィンは、昏い水へと落ちて行った。
●
「ギデオンッ!! やめてくれと言ったはずだ。いくらあなたでもこれは許せない」
「許せない……? お前はなにを心得違いをしている。あの少年は何だ? 味方か? 庇護対象か? ――敵だろうがッ!」
大喝に、〈道化師〉は歯を軋らせる。
反論不可能な正論であった。
「彼を殺すこと自体は、展開によっては致し方ないと覚悟はしていた。だがそれなら物も言わず速やかに命を奪えばいいじゃないか! なぜあんなひどいことを……!」
「許せと言うのか? シャーリィがシャロンの二の舞となったことを、お前は許せと言うのか? その元凶に対して何の意趣返しもするなと? たいした聖人ぶりだな」
「ギデオン……違うんだ……彼だって僕たちと同じだったんだよ……!」
「何を言っている」
駄目だ。この男に補正のことを話しても理解はしてもらえまい。
それに、今は一分一秒が惜しい。
「……この話は後でしよう。今はとにかく玉座へ」
「ふん」
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