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少年たち

  目次

「――そんなの、どこが友達なのでありますかっ! ぼく、頼りないかもしれないけど、役に立たないかもしれないけど、あなたをひとりじゃなくすることぐらいはできるであります! トウマ・クジミヤどの……!」

 目に涙が溜まっていった。
 だから、〈道化師〉のとった仕草をはっきりと見ることができなかった。
 だけど――彼は今、目元をぬぐったのではないか?
 その気づきにはっとして、慌てて目をこするフィン。

「……いつぶりだろうな」

 その声は、少し、震えていた。

「言葉というやつに、胸を打たれたのは」

 〈道化師〉――トウマ・クジミヤは、両手をポケットに突っこんだまま、顔を上げ、空を見ていた。

主人公・・・なんてやくざな商売をしているとね、感動ってものがなくなっていくんだ」
「え……」
「誰も彼も、僕の言葉で一方的に心を掻き乱され、多くを学んでゆく。そしてみんな、僕を置いていくんだ」

 その目には、どこか、彼らしからぬ感情があった。
 劣等感の色が。

「胸を張り、毅然と前に進んでゆく彼らを、僕はいつも見送る側だった。ふふ、君で二人目だよ。ちゃんと自分の道を見つけながら、こちらを振り返って一緒に行こうと手を引っ張ってくれたのは」

 そして、微笑む。いつもの超然とした傍観者の笑みではなく、心からにじみ出るような、少し困ったような笑顔だった。

「フィンくん、君は相手の心を揺さぶるような補正はもっていない。つまり今、僕の心を揺さぶったその言葉は、間違いなく君の真実から出たものだ。〈宿命〉に言わされたのではなく、君が、僕に言ってくれた言葉だ。……ありがとう。とてもうれしい」
「トウマどの……」
「ふふ、名前も覚えててくれたんだね」
「もちろんでありますっ」
「――サイバーパンク幻影アクション小説『極彩磁界ユグドラシル』の主人公、トウマ・クジミヤ。それが僕の立場で、役割で、――呪いだ」
「え……?」

 フィンは、困惑した。トウマの言っていることがよくわからなかった。

「急には理解できないだろうけど、どうか聞いてほしい。僕たち〈枢密竜眼機関〉の本来の目的は、この世界に十二人の主人公を呼び集め、協力を取り付けることだった。エルフ王朝の魔法奥義に、異界の英雄を召喚するものがあることはわかっていたから、それを使ってもらうためにわざと〈虫〉とオークたちを動員して王国を追い詰めたんだ。だけど――シャーリィ殿下の召喚者としての資質は僕たちの予想を遥かに上回っていた。あと一人だけ来てくれればそれで良かったのに、彼女は三人も呼び出してしまった。この瞬間から、僕の目的は鵺火総十郎と黒神烈火をこの世界から排除することに切り替わった。主人公の数は十二人でなければならない。頭数外に主人公補正を垂れ流す存在がいると、僕たちの大目的の進行に支障をきたす可能性が高いからだ。だけど――」

 トウマは、苦悶の皺を眉間に刻んだ。

「――正直に言おう、今の僕は、そういう本来の目的よりも、ギデオンの助けになってやることを優先している。あの不器用な男の魂に、それでも何らかの救いを用意してやれないかと、僕はそれを第一に考えるようになっている」
「どうして、でありますか……?」
「他人事とは、思えないからさ」

 銀髪の少年は、ゆっくりと目を閉ざした。
 その目尻から、一筋、透明な哀しみの精髄が滴り落ちた。

大好きな人たちはいつも死んでしまう。命を捨ててでも守りたいと思ったものは踏みにじられ、自分はいつも間に合わない。何もできない。一体どうして
「……っ」

 それは、初めて会ったときに、トウマがフィンに言った言葉だった。

「主人公か、そうでないかなんてどうでもいい。彼の痛みも、苦しみも、僕には同じように痛く、苦しい。彼を見殺しにしたまま、自分だけが助かろうとは思わない。彼は友達なんだ。たとえ十二人に加わる資格がなかろうと、僕にとっては、かけがえのない、友達なんだ……」

 トウマは眼を開く。そしてフィンを見つめる。

「この気持ちは、揺らぐことはない。彼のしていることは疑いなく悪だ。だけど、必死に頑張れば大切な人を守れる望みがあるような幸福な人たちに、彼の気持ちがわかるとは思えない。だから僕は、森を滅ぼすよ。それだけが彼の救いだと言うのなら」
「それは……違うでありますよ」

 フィンは、トウマに歩み寄った。

「ギデオンどのを本当に救いたいのなら、彼の苦しみを解消してあげないといけないであります。苦しみのまま突き進むのを助長しても、彼は決して救われない」
「君がそうだったように、かい?」

 こくん、とフィンは頷いた。

「シャーリィ……お、お姉ちゃんに、教えてもらったのであります。森への憎しみに凝り固まった心をなんとかしないと、きっと彼は、本当に守るべきだったものを取りこぼすことになるであります」

 トウマ・クジミヤは、すっと目を細めた。
 フィンの魂の底まで見抜くような、透徹した眼差しだった。

「それが、シャーリイ殿下に召喚されることで〈宿命〉のさだめを脱した君の、真実の言葉ということか」

 首を傾げるフィンに、トウマは柔らかに笑いかける。

「……わかったよ、僕の負けだ。教えてほしい。どうすれば、ギデオンを救えるんだい?」
「トウマどのっ!」

 満面の笑みを浮かべて、フィンはトウマの手を取った。両手で握り締め、ぶんぶんと振る。

「おっと。ふふ」
「いっしょにがんばるでありますっ!」

 システムメッセージ:主人公名鑑が更新されました。
◆銀◆主人公名鑑#4【トウマ・クジミヤ】◆戦◆
 十五歳 男 戦闘能力評価:A-
 〈道化師〉。常に微笑。相手の深層心理を見抜き、自覚を促す。
 サイバーパンク電飾アクション小説『極彩磁界ユグドラシル』の主人公。大気中に斥力を帯びた磁場を自在に展開できる進化人類。その際にEL反応を励起してさまざまな幻影を紡ぐ電飾師。芸術家肌の少年で、美しい幻影を紡いで人々に笑顔をもたらすことが生きがいだった。しかし電飾師間の宗教抗争に巻き込まれ、自らの技を軍事転用される。誰もが幽玄電飾を手段としか見ない世界に打ちのめされている。非常に達観しており、その言葉は相手の心の根源を貫いて成長を促す。心を打つ幽玄電飾を紡いだ少女に想いを寄せていたが、自らの補正のせいで彼女が死すことを知ったとき、少年はひとつの決断をした。
 所持補正
・『やれやれ系主人公』 因果干渉系 影響度:A
 常に相手に対して心理的に優位に立つさだめの主人公補正。トウマから余裕を奪うことは極めて困難。その言葉には他者をはっとさせずにはおかない霊威が宿る。ただし、即物的に戦闘で有利になるような効果は一切ない。
・『■■の■■』 因果干渉系 影響度:■
 ■の■■■でありながら、■いに■を■じることを■いられ■けるさだめ。■し■いの■■は■を■えて■さない。
・『さよならの■』 自己完結系 影響度:■
 ■■ただ■■の■をし、■を■り■いながら■に■すさだめ。

【続く】

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