どんぐり農家を続けるべきか・・・#33 そんなに俺が悪いのか!
どんぐり農家を続けるべきか・・・。
大変な事件が起こっってしまった。
一昨日から草食系の博文が行方不明になっているのだ。
朝から集会所に、地区の男衆の皆が集まって対応を協議した。
「これは地区抜けに違いないっちぞ?アヤツは地区を捨てて逃げたのだ!
どうするのだ!山主様にバレたら大事ぞ!どうするのだ!」
保さんが一人でイライラして喚き散らしていた。

「いや待て!慌てるな!山主様に言うのはまだ早かろう!たぶん正座では済まんのだぞ!」
地区長の実良は山主様に叱られ、信用を失うことを恐れているのだ。
この山に生きていれば仕方ない部分はあるが、皆が山主様に怒られることばかりを話していて、つい腹が立ち大声を出してしまった。
「博文の身の安全が先であろう!」
集会場がシーンと静まり返る中、博文の父 博男が涙ぐみながら、自分の足にすがりついて来た。
「アベマキのお人(ちょっといい階級#32参照)に目をかけて頂き、博文も感謝しておりました。もったいないお言葉、ありがたき幸せ…」
博文に目をかけた覚えは一切ないが、悪い気はしない。
しかし、今は本当にそれどころではないのだ。
「誰か博文を見た者はいないのか!誰かおるであろう!」
実良が泣きそうな顔で皆に問うと、
「そういえば、おとついの昼ぐらいに地蔵前で博文を見たっちな。カナブンがひっくり返ったみたいにジタバタやって。若者の考えることは分かんねえっちって思っとったわい。」
長太郎が呑気に笑うと、
「俺っちが先に地蔵前で博文がPKを貰いたいサッカー選手みたく、転げまわってるのを見たぞ!」

被せるように太郎が言い出したことで、長太郎と太郎は睨み合い、
『どちらが先に博文を見たのか』
『カナブンみたいだったか、転げまわるサッカー選手みたいだったか。』
2つのテーマを織り交ぜながら喧嘩を始めた
「先にカナブンから、サッカー選手になったのだ!」
「いや、先にサッカー選手で、後からカナブンになったのだ!」
「いやオマエっちが家から出て来るところから、俺っちは見ていたのだ!」
「それは、ありえん!俺っちは朝から忍沢の桃田 章一の家でどんぐりと小魚を賭けてスーファミでマリオカートをやっていたのだ!」
太郎と長太郎の家は向かい同士であるが、親子5代に渡り仲が悪いのだ。
この緊急事態時にバカバカしい争いを見せられてイライラしてきた。
「もういい!俺が法螺貝サイレンを回して、山主様に伝えてやる!それで山民全員で一斉捜索したら良かろうが!」
あまりにも博文をないがしろにする地区の連中を怒鳴りつけると、地区長 実良が泣きそうになりながら、すがりついてきて、
「待て!もし山主様に伝われば、詫びを入れに行くことになるぞ!地区内で俺っちの次に地位の高い、アベマキのオマエっちも来させるからな!」
それは、嫌すぎる!
また正座させられて、怒鳴られて、変な棒で頭を小突かれては、ネチネチ責められるのだ。
しかも、博文が地区を抜けて山を捨てたとなれば、何時間正座させられるだろうか・・・・
「なぜ、最優遇してやっているどんぐり農家が山を捨てるのだ?お前らが地区で悪政を行っているのであろう!思い当たることを全て言ってみろ!」
「地区抜けした者の世話代は誰が払うのか?二人で話し合って答えろ!」
居なくなった者の何を世話するのかさっぱりわからないが、必ず全体責任みたいな話になるのだ。
今の山主様は若く、スイッチやプレイステーションで対戦ゲームをやりながら説教し、ゲームが思い通りにいかないと、コントローラーを投げつけた流れで、こちらに怒鳴り散らしたりすることもある。
軽く5、6時間は正座させられながら、100回ぐらい舌打ちされて、頭を小突かれるだろう。
下手をしたら正座させられ、頭を小突かれるために何日も通わせられるかも知れない。

「そもそも、博文はなんで居なくなったのか!原因はなんなのだ!」
腹立ちまぎれに大声を上げると、突然、あの男が叫んだ。
「博文が悪いのだ!博文が階級が高いと自慢してきたのだ!」
アホの幸三が涙を浮かべ叫ぶと、兄、幸次が怒りに震えながら続いた。
「幸三は悪くない!博文が悪いから、幸三は悪くないであろう!」

幸三と幸次を一度落ち着かせて、何がどうしたのか話を聞くと、
まず、幸三が突然、博文に「碧ちゃんは自分と付き合うので諦めろ。」と宣言した。
博文はその件で「自分は幸三より山での階級が高いので、碧ちゃんには自分の方が相応しい。」と思った。
幸三にそのことを告げると、幸三が焦って勝手に仔馬宿公民館に走って行って、「博文は碧ちゃんが好きだが、階級を自慢するような奴だから今すぐ、フッて欲しい。」と碧ちゃんに頼みに行った。
幸三が『碧ちゃんにそう言ってやったっちからな!』と、博文に得意げに伝えてやると、博文は地蔵前で悶絶して、どこかへ走り去ってしまった。
これが事件の全容であった。
皆、あまりのことに脱力しながらも、どうするべきか頭を抱えていた。

