【建築のタネ】借景
借景
─風景を借りて場をつくる─
No.093
日常のなかの何気ない風景も、建築の力で特別なものに変えられる。そんな可能性を秘めた「借景」という手法について、少し立ち止まって考えてみませんか?

■「借景」とは風景との対話
「借景(しゃっけい)」は、もともと日本庭園の技法として生まれた言葉です。庭の外にある山や空、時には遠くの塔や木々などを、あたかも庭の一部であるかのように見立てて取り込む。視覚的な境界を曖昧にし、空間に広がりと奥行きをもたらすこの手法は、建築においても大きなヒントとなります。

設計:村野藤吾 / 作庭:中根金作
奥に見えるのは敷地外の山(借景)である
撮影:ののの(BEAVER)
現代建築では、窓越しに風景を切り取るような「フレーミング」の技術がよく使われますが、これも借景の一部と捉えてもよいでしょう。たとえば、ルイス・カーンが設計した「ソーク研究所」では、中央の水盤越しに海の水平線が正面に広がります。壁と開口部の配置によって、ただの「景色」が特別な「場」へと昇華しているのです。

TheNose - https://www.flickr.com/photos/tatler/339218853/
CC 表示-継承 2.0
■風景を活かす、建築の態度
借景において重要なのは、風景それ自体の美しさ以上に、それをどう建築と関係づけるかという視点です。借りる風景は、必ずしも名勝である必要はありません。たとえば、隣家の屋根越しに見える空、工場の煙突、季節によって色づく街路樹。そういった「ありふれた日常」を、建築が丁寧に切り取ることで、そこに新しい意味が生まれます。

基本設計:神戸大学施設部+狩野忠正
総合監修:狩野忠正
実施設計:村野・森建築事務所所
写真:神戸大学HPより
■借景というまなざし
借景とは、設計者の「まなざし」そのものです。風景を読み取り、どう生かすかを考えること。それはすなわち、場所を深く理解しようとする態度の現れでもあります。あなたがもし建築をつくるなら、その土地の外に目を向けてみてください。そこにきっと、建築と共鳴する風景が見えてくるはずです。
その土地にもとより存在した美しさが、新たに建築が立ったことで引き立つこともあるのです。建築にはそういう力があります。
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