カスハラやクレームが日本からなくならない本当の理由は「サービスのバグ」にある。 『カスハラクレーム予防の教科書』出版記念セミナーリポート(第1回目)
2026年6月29日。愛知県勝川にて「カスハラクレーム予防の教科書」出版記念セミナーが開催されました。様々な職業、異なる立場の方々にお集まりいただき、深い学びの時間を過ごすことができました。お忙しい中ご参加いただいた皆様に、改めて心より御礼申し上げます。



今回の講演会でお伝えした内容は、新刊でお話しきれなかったクレームやカスタマーハラスメントの「本質」に迫るものです。
濃い内容となりましたので、3回に分けてリポートをお届けいたします。
は、なぜ今、超一流企業で炎上が相次ぎ、現場が疲弊するほどの過剰な要求が生まれてしまうのか、その構造的な問題について紐解いていきます。
超一流企業が陥る「内向きの論理」と顧客へのコスト転換
現在、大手航空会社や、夢の国と呼ばれるテーマパークがネット上で大きな議論を巻き起こしています。
航空会社の事例では、これまで熱心に飛行機に乗り続けてステータスを上げてきた上級会員に対して、突然「提携クレジットカードを年間300万円以上使わなければラウンジの利用を制限する」という実質的な足切りが行われました。
その背景には、ラウンジが大衆食堂のように混雑してしまい、対応しきれなくなったという企業側の事情があります。
さらに、システム改定に伴うエラーが多発し、予約が消えるなどのトラブルが起きた際、コールセンターは2時間も3時間も繋がらない状態が続きました。待たされている間も課金されるナビダイヤルに、顧客の困惑と不満は頂点に達しています。
一方、夢のテーマパークも、今やサービスに追加料金が発生する「課金の国」と揶揄されるようになりました。
アプリを駆使して課金を重ねなければ満足に予約も取れず、現場ではフードを買うために1時間も並ぶという過酷な状況が生まれています。
これらに共通しているのは、
企業が効率化や利益最大化という「内向きの論理」を優先した結果、本来は企業側が負担すべきシステム上の不備や混雑のコントロールというコストを、顧客の利便性や金銭的な負担へと転換している点にあります。
資本主義経済において利益を追求することは上場企業の宿命ですが、事前期待と現実のギャップがあまりにも大きくなった時、顧客の中に強いストレスが蓄積されていくのです。
サイレントマジョリティが黙って消えていく恐怖
サービスの世界において、クレームを発する顧客の存在は目立ちますが、本当に恐れるべきは別のところにあります。
仮に100人の顧客がいたとするならば、そのうちの約60パーセントは、不満や不都合があっても何も言わない「サイレントマジョリティ」です。
公共インフラや一部の専門サービスでは、そもそも頻繁に連絡をとる必要がないため、大半の顧客は静かにサービスを利用しています。
こうしたサイレントマジョリティの方々は、サービスに困惑やストレスを感じても、その場でお店や企業に怒りをぶつけることは滅多にありません。
その代わりに、二度とその店を訪れず、他社へと黙って乗り換えてしまいます。
リピート率がビジネスの存続を左右する企業にとって、この「何も言わずに去っていく顧客」こそが最大のボリュームゾーンであり、深刻な機会損失となります。
ネット上の口コミに星1つの厳しい評価を書き込むのは、困惑が怒りに変わり、そのエネルギーが表面化した一部の人たちです。
私たちは、目に見える激しいクレームだけに目を奪われるのではなく、水面下に隠れているサイレントマジョリティの声なき声にいかに耳を傾けるか、という視点を持たなければなりません。
クレームの導線は「困惑」から「怒り」へと繋がっている
人が突如として怒鳴り散らすクレーマーに豹変することは、特定の悪質な事例を除いて基本的にはありません。クレームが表面化するまでには、必ず「困惑」から「怒り」へと移行するプロセスが存在します。
頼んだ生ビールが15分経っても来ないとき、顧客はまず「忘れているのかな」と困惑します。
この困惑している段階で「大変お待たせいたしました、今すぐお持ちします」と適切な対応がなされれば、事態はそこで収まります。
しかし、声をかけたにもかかわらずさらに放置されたとき、困惑は明確な怒りへと変わります。
サービスには、安全であることや約束が守られることといった、絶対に揺らいではならない「軸」があります。この軸が乱れたときに顧客は困惑し、その後の企業側の説明不足や不誠実な動線によって、火に油を注がれるように怒りを増幅させていくのです。
カスハラやクレームを生み出しているのは、個人のモラル低下だけではありません。企業が設計した不条理なシステムや、現場に負担を強いる効率化のバグが、顧客を困惑から怒りへと誘導してしまっているのが本質なのです。
航空会社に予約を入れて、システムエラーで予約が消え、問い合わせは電話のみ。コールセンターに電話をするも数時間繋がらない。
そして、決定打が「その電話はナビダイヤルで永遠に課金される」。
こんな扱いをされたら、誰でも怒鳴りたくなるでしょう。
それもその航空会社にシンパシーを感じ、ファンを自認してリピート利用している人に対して、こんな仕打ちができる企業風土には驚くばかりです。
この歪んだ構造が現場の労働環境にどのような影響を与えているのか、現場の疲弊は経営が考えている以上に深刻です。
私が思うに、現場の最前線で怒鳴られ、嫌味を言われ、ただ頭を下げ続けるしかない社員さんは気の毒でなりませんが、中間管理職の中で「幾ら何でも、このやり方はダメでしょう」と上層部や役員に進言する人はいないのでしょうか。
上司の耳に痛いことを言えない企業風土があるとしたら、仮に今回の炎上をやり過ごしたとしても、その先に明るい未来があるとは思えません。
(第二回に続きます)


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