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ビジネスコーチングをヨーロッパで確立したジョン・ウィットモア卿について調べてみた

「河童の目線で人世を読み解く」市井カッパ(仮名)です。
「すべての組織と人間関係の悩みを祓い癒し、自然態で生きる人を増やす」をミッションに社会学的視点から文章を書いております。

御覧いただき、ありがとうございます。
火曜は教育ネタ、ということでしたが、今日はもう少し範囲を広げてコーチングのネタをひとつ。ちょっと気になって調べてみたシリーズです。第一回ですが。

前に行った対談の文字起こしの作業をしていまして、その中で、Wikipediaのコーチングに掲載されていた下記の言葉が気になりました。

ジョン・ウィットモアは、コーチのほとんどは自分たちが行っていることの心理的原則を十分理解しているとはいいがたく、理解していなくてもコーチングの方法を表面的になぞることはできるかもしれないが、期待するような結果は出ないだろうと述べている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%B3%E3%82%B0

そしてもうひとつ。下記の記事にも書きましたが、ジョン・ウィットモアの言葉から。

60 年代のエサレンやベトナム戦争反対運動は、人類の進化において今日も続いているものの最初の種だった... ついに、人々が自分自身に責任を持ち、階層に頼らない段階に近づいている。コーチングの主な成果は自己責任である。コーチングはこのニーズを満たすために成長した。私たちは、すべての人が自己責任を負える段階に到達しなければならない。そうなれば、コーチングという言葉は消えるだろう。

https://note.com/bizknowledge/n/ncb02cb61123c

この2つの言葉を読んで、とてもジョン・ウィットモアという人に興味を持ちました。元レーサーでガルウェイの弟子、ヨーロッパにインナーゲームを持ち込んでコーチングを広めた人、というくらいの認識でしたが、もっとこの人のことを知りたくなりました。

で、調べたのですが、特に自伝や伝記のようなものはなく、動画はいくつか残っていました。

こちらは英国チェルトナムで開催されたTEDに登壇されたときの映像です。アップされたのは2013年。ジョン・ウィットモアが亡くなられたのが2017年ですから、その数年前ということになります。

この動画の中で彼は、人類の歴史において教育が問題だ、と言っていて、人類が進化するためには教育にコーチングを取り入れ、子ども達に選択肢を与えて、自己決定させてその結果から学ぶようにしなければならない、と言っています。そのために彼は4つの教育関係の非営利組織に関わっている、と言っています。

彼が挙げている例は、若者の飲酒運転や違法薬物に手を染めることですが、個人的にも、例えば戦争となったときの兵士に個人的な意思決定が許されるのなら、戦争が起こらなくなることもあり得るのではないか、とも思っています。

さておき、こんなジョン・ウィットモアは一体、どんな人だったのか?

仕方がないので、英語版のWikipediaから読み解いてみます。

Sir John Henry Douglas Whitmore, 2nd Baronet (16 October 1937 – 28 April 2017) was a pioneer of the executive coaching industry, an author and British racing driver.

https://en.wikipedia.org/wiki/John_Whitmore_(racing_driver)

コーチング産業のパイオニア、著者であり、英国のレーサーであった、と書いてあります。

Family life and background

John Whitmore was born on 16 October 1937, the son of Sir Francis Whitmore and Ellis Johnsen. He was educated at Eton College, Royal Military Academy Sandhurst and Cirencester Agricultural College. He inherited The Orsett Estate Company at Orsett, Essex, in 1962, on the death of his father. The inheritance included the family seat of Orsett Hall, from the grounds of which he used to take off and land his plane. In 1968, he sold the house to his friends, Tony and Val Morgan. He married twice, first to Ella Gunilla Hansson, from whom he was divorced in 1969, and later to Diana Becchetti. He had a child from each marriage. He died on 28 April 2017.

https://en.wikipedia.org/wiki/John_Whitmore_(racing_driver)

ジョン・ウィットモアは、ジョン・ウィットモア卿と称号がつけられて語られることが多いのですが、これは英語ですと、Sirですね。Sir はナイトないし準男爵(バロネット)の勲位をもつ男性につけられるもので、お父様からの継承なのでしょうか? でも、ウィットモア自体は資産を知人に売却。2回結婚している、と。確かに自由人の匂いがします。お子さんの名前は書かれていません。

Early career (in motor racing)

In his first year in the competition, 1961, Whitmore won the British Saloon Car Championship in his BMC Mini Minor. In 1963 he drove again in the BSCC and came second in the championship in a Mini Cooper, finishing just two points behind Jack Sears. In 1965 he won the European Touring Car Championship in a Lotus Cortina (KPU392C). He won by finishing first in his class in 8 of the 9 1965 ETCC races (and finishing first overall in 6 of the races).Sir John drove in the 24 Hours of Le Mans for five years between 1959 and 1966. In the first year he finished tenth overall and second in class along with Jim Clark in the Border Reivers Lotus Elite. In 1965 (with Innes Ireland) and 1966 (with Frank Gardner) he raced in a works Ford GT40, but had to retire from the race both years with mechanical problems. At the end of 1966 he retired from racing. He returned later in life to driving in historic car events such as the Goodwood Revival.

https://en.wikipedia.org/wiki/John_Whitmore_(racing_driver)

レーサーだったのは1959年から1966年の7年間だったのですね。29歳で引退したようです。30歳以降が第二の人生だったのでしょうか。

Later career (in business and coaching)

After leaving racing and the world of motor-sports, he became interested in transpersonal psychology and its emphasis on the principle of will, intention, or responsibility. He went on to apply his learning and skills first to the world of sport and then to business. In 1970, he studied at the Esalen Institute in Slates Hot Springs, California, with the likes of William Schutz (creator of team development model FIRO-B), and then trained with Harvard educationalist and tennis expert Timothy Gallwey, who created the Inner Game methodology of performance coaching.

https://en.wikipedia.org/wiki/John_Whitmore_(racing_driver)

トランスパーソナル心理学に興味を持ち、エサレン研究所でウィリアム・シュッツ(チーム開発モデルFIRO-Bの考案者)から学び、その後、エサレンでガルウェイからインナーゲームを学び、それをコーチングに進化させた、ということになります。

と、まあ、しれっと書いていますが、この記述の中で、「ウィリアム・シュッツ(チーム開発モデルFIRO-Bの考案者)から学び」としれっと書いていますが、これ、どういうこと?と思いました。

ウィリアム・シュッツ(William Schutz)は、ウィル・シュッツとも記載されるようですが、前に翻訳しながら読み進めた The Hidden History of Coaching には、第1部のエサレンのところと第4部の様々なテストのところの2か所に出てきます。

英語のWikipediaもありました。

シュッツの「心理学」の基盤がどこにあったか、最後に書かれていましたので、自動翻訳したものを張り付けておきます。

熱心な学生であったシュッツは、メイン州ベセルの国立トレーニング研究所(NTL)でTグループ方法論(「T」はトレーニングのT)を学んだほか、フロイトと同時代のイタリア人、ロベルト・アサジョーリが考案したイメージを伴う精神指向の技法であるサイコシンセシス、ハンナ・ワイナーから心理劇、アレクサンダー・ローウェンおよびジョン・ピエラコスから生体エネルギー学、アイダ・ロルフからロルフィング、そしてポール・グッドマンからゲシュタルト療法を学んだ。彼自身の言葉によれば、「私はあらゆる身体的、心理的、精神的なことを試しました。あらゆる食事療法、あらゆる療法、あらゆる身体療法、ジョギング、瞑想、インドでのグル訪問、34日間の水だけの断食などです。これらの経験が、私の20年間の科学研究のバランスを取り、科学と経験の統合に対する強い願望を私に残してくれました。」

https://en.wikipedia.org/wiki/William_Schutz

ちなみに、MBTIにも彼は影響を与えたようで、会社のHPに、FIROとシュッツに関する説明ページもありました。

整理しますと、ジョン・ウィットモア卿はトランスパーソナル心理学に興味を持ち、Tグループの実践者であり、ゲシュタルト心理学にも詳しいウィリアム・シュッツから心理学を学んだ、ということになります。

ということは、最初に挙げた文章で、「コーチのほとんどは自分たちが行っていることの心理的原則を十分理解しているとはいいがたく」という、この「心理的原則」、言い換えれば、「コーチングが機能する心理学原則」というのは、トランスパーソナル心理学あるいはTグループあるいはゲシュタルト心理学に求められる、という風に読み取れます。

さらにちなみに、下記の「公認心理師・臨床心理士の勉強会」というサイトの記事に、エンカウンターグループのロジャース派とシュッツ派の違いがわかりやすく書かれていて、こちらも参考になります。

グループエンカウンターとは、集中的なグループ体験のことを指します(この意味の場合は、エンカウンターグループも含む)。
参加者はクライエントや患者に限定されず、すなわち、治療を求めてではなく、自己啓発や自己変革を求めて参加する人を対象にしています。
こうした集中的なグループ体験には2種類あります。
その1つは、カール・ロジャーズらを創始者とするベーシック・エンカウンターグループです(単にエンカウンターグループと呼ぶことの方が多いかもしれない)。
ロジャーズによれば「経験の過程を通して、個人の成長、個人間コミュニケーションおよび対人関係の発展と改善」を意図した集中的グループ体験が、エンカウンターグループということになります。
もう1つは、オープン・エンカウンターで、ウィリアム・シュッツらによって提唱されました。
こちらはヒューマニスティック心理学の文脈から生じており、ゲシュタルト療法のパールズもシュッツのいる研究所(エスリン研究所)に所属していました。

これら2つの相違は、エクササイズの活用の有無にあります。
ロジャーズのそれは「計画された「演習」を避ける」というものであり、非構成的とも表現されます。
これに対して、シュッツらのグループはエクササイズを活用します。
こちらは日本において、主に國分康孝らによって「構成的グループエンカウンター(Structured Group Encounter:SGE)」と命名され、1970年代後半から提唱・実践され始めました。
SGEは、ふれあい(本音と本音の交流)と自他発見(自他の固有性・独自性・かけがえのなさの発見)を目標として、個人の行動変容を目的としています。
このように、エンカウンターグループ(実存主義と来談者中心療法)と構成的グループエンカウンター(実存主義、プラグマティズム、論理実証主義とゲシュタルト療法)は別の潮流をもつものと言えます。

https://public-psychologist.systems/13-%E6%95%99%E8%82%B2%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E5%BF%83%E7%90%86%E5%AD%A6%EF%BC%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B/%E5%85%AC%E8%AA%8D%E5%BF%83%E7%90%86%E5%B8%AB%E3%80%802020-26/

いや、面白いです。

私は最近、自分も含めて全体とか社会とか世界とかを語りたがる人たちを「ゲシュタルトの影響を受けた人たち」だと認識しているのですが、ジョン・ウィットモア卿もそうした一人だったのだな、と思いました。

ジョン・ウィットモア卿のWikipediaに戻ります。

Sir John founded the Inner Game in Britain in 1979 with a small team of Inner Game coaches trained by Gallwey. Initially they coached tennis players and golfers but they soon realized the value for leaders and managers of organizations. At this point Sir John coined the term "performance coaching" - this was the birth of the modern coaching movement as we know it.
In the early 1980s he and partners founded Performance Consultants, a provider of coaching, leadership development and performance improvement. Sir John and his colleagues spent much of the 1980s developing the methodology, concepts, and techniques for performance improvement in organizations and showed it was possible to improve performance, increase learning and enjoyment, and find a sense of purpose in work.

https://en.wikipedia.org/wiki/John_Whitmore_(racing_driver)

ガルウェイに学んだことをヨーロッパに持ち帰り、最初はテニスプレーヤーやゴルファー向けにプログラム提供していたのを、これはビジネスの世界でも有効なのではないかと思い立ち、組織のパフォーマンスを上げる方法としてのビジネスコーチングを開発した、という流れのようです。これはガルウェイがATTに請われてインナーゲームを組織に取り入れて電話交換手たちのモチベーションを向上させたのと同じ流れですね。

ここで直感的に思ったのは、いわゆるパーソナルコーチングとビジネスコーチングの違いです。前者がどちらかというとカール・ロジャーズの影響を強く受けているのに対し、後者はウィル・シュッツの影響を強く受けていると考えれば、なんとなくこの2つの思想的違いが理解しやすいのかな、と思いました。日本であまりこういう違いについて語っている人がいないので、これは実は重要な発見かもしれません。

Sir John is regarded as the pioneer in the field of business coaching. Along with Tim Gallwey, Laura Whitworth and Thomas J. Leonard, he is credited with launching modern coaching in the 1970s. For some people, Sir John will always be best known as the co-creator of the GROW model, one of the most established and successful coaching models. He presented at numerous conferences around the world and contributed to many other books such as Challenging Coaching and Coaching at Work.
In the 1990s, Sir John was a co-founder, along with Eric Parsloe, David Clutterbuck, David Megginson and Julie Hay, of the European Mentoring and Coaching Council (EMCC).Sir John was involved with the Professional and Personal Coaches Association (PPCA), an organization that merged in 1998 with the International Coach Federation (ICF). He served as a Trustee for the ICF Foundation until his death in 2017.

https://en.wikipedia.org/wiki/John_Whitmore_(racing_driver)

・GROWモデルの共同創造者
・ヨーロッパメンタリング・コーチング協議会(EMCC)の共同設立者
・1998年に国際コーチ連盟(ICF)と合併したプロフェッショナル&パーソナルコーチ協会(PPCA)にも関わる
・2017年に亡くなるまでICF財団の評議員

ということで、ティモシー・ガルウェイ、トマス・レナード、ローラ・ウィットワースと並べて称されています。ガルウェイはインナーゲームの発見者、トマス・レナードはパーソナルコーチングの父でICFの設立者、ローラ・ウィットワースはCTIの創設者で、いずれもエサレン研究所やESTに関わっていて、やはりエサレン研究所という場のエネルギーがすごかったんだろうな、と思いました。

ちなみに、シュッツの著書 JOY、ウィットモアの著書 Coaching for Performance は下記のように日本語でも翻訳されていましたが、いずれも品切絶版のようです。

Coaching for Performance には質問の順番としてのGROWモデルが紹介されていますが、そこに書かれているウィットモアの解説がこれまた好ましいので、引用しておきます。

この順序の頭文字をとるとGROWという覚えやすい形になるので、私はこれをよく使う。しかし重要なことは、「意識」や「責任感」とそれを生み出す質問のスキルという文脈を離れて行うGROWはあまり価値がないということだ。こうした覚えやすい言葉はビジネス研修に氾濫している。SPIN式営業技法にSMARTゴール、GRIT(緊急緩和イニシアチブ)、そして今度はGROWコーチング。これらはビジネスの万物に効く特効薬であるかのように提案されたり誤解されたりすることがあるが、決してそういうものではない。これらは特有の状況においてのみ価値があるのであり、GROWの背景となるのは「意識」と「責任感」である。

ジョン・ウィットモア『はじめのコーチング』PP.97-98

さて、ここまでで、日本ではコーチング業界の方でもあまり知らないであろうジョン・ウィットモア卿について紹介してきました。

なお、エンカウンターグループに関しては、コーチング黎明期における自己啓発セミナーの闇同様に、高度成長時代に日本で研修で取り入れられた際の闇の話もあり、これもなかなかOPENになっていない話ですが、それもこの分野の研究が日本であまり進んでいないし、文献も発見しにくい一因になっている可能性もあると思っていますので、どこかでこのあたりも記事化したいな、とは思っています。

個人的には、ジョン・ウィットモア卿のコーチングを取り入れた教育論というのも、読んでみたかったな、と思いましたが、それはこれからの我々の仕事かもしれませんね。

現場からは以上です。お読みいただき、ありがとうございました。面白かった、参考になった、という方は是非、高評価いただけると嬉しいです。フォローも大歓迎です。

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