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暗黙知が消える組織には、足りない問いがある

ナレッジを言語化してくださいという指示が、静かに空転していく光景があります。スタートアップや成長期の組織に支援として入ると、このシーンに何度も立ち会います。

経営陣は、ベテランのノウハウを組織の資産にしたいと言います。担当者も、わかりましたと答えます。ツールが導入され、Wikiのページが作られ、ナレッジ共有の文化をつくろうというスローガンが社内に貼り出されます。

でも数週間後、誰もそのWikiを更新していない。
書かれているのは、業務フローの概要と、実際の判断には使いにくい注意事項だけでした。

うちは言語化が苦手な人が多くて、という言葉とともに、そのプロジェクトは静かに終わります。
ツールが変わっても、また同じことが繰り返されます。

私はその光景を見るたびに、違和感を覚えていました。
問題は、言語化の技術ではないと思っていたからです。


言語化しようという号令が機能しない理由

自分のノウハウを言語化してくださいと言われたとき、多くの人は困ります。何を書けばいいかがわからないからです。

自分が日々やっていることは、自分にとって普通のこととして認識されています。長年かけて染み込んだ判断の感覚、経験から来るなんとなく変だという察知の力、正確には説明できないけれど確かに機能している判断基準。

これらは、本人にとっては特別なことではありません。
だからノウハウを出してくださいと言われても、特に何もない気がします、という答えが返ってくる。

これはスキルの問題ではありません。問いの問題です。
自分のノウハウを出してくださいという指示は、問いの形をしていますが、実は問いとして機能していません。
答えるための切り口が与えられていないからです。切り口のない問いに、人は答えられません。それは知識がないからではなく、どこから話せばいいかがわからないからです。

言語化が苦手な組織は、言語化するスキルが低いのではなく、言語化を引き出す問いが存在していないことがほとんどです。

言語化できないのは、問いがないからだ

問いを設計するという発想は、インタビューの技法として語られることが多いですが、私はそれを組織設計の一部だと思っています。

組織の中で暗黙知が言語化されるとき、そこには適切な問いがあります。
先週の仕事で、判断に迷った場面を一つ教えてください。こう聞かれると、人の記憶に具体的な切り口が生まれます。迷った場面という観点を与えられると、人はその場面を思い出しやすくなります。

そこから、そのとき手元にあった情報、最後まで迷っていた選択肢、最終的な決め手を順番に聞いていく。すると、本人も気づいていなかった判断の構造が言葉になっていきます。

当社では顧客対応を大切にしています、という抽象論ではなく、この条件が重なったときは、先方の担当者ではなくキーマンに直接連絡を入れる。そのほうが結果的に早く動くからです、という実際の判断に使える言葉になる。その差は、話した人のスキルではなく、問いの質の差です。

問いを持たない言語化の取り組みは、自由に書いてくださいという作文課題に等しい。人は制約のない自由の中では、かえって何も書けなくなります。だから私は、言語化の前に、まず問いを置く必要があると考えています。

BizOpsが入ると、組織に問いが生まれる

BizOpsとして現場に入るとき、私が最初にやることの一つはヒアリングの問いを設計することです。

何を聞けば、その人の経験の中に眠っている判断軸が浮かび上がるか。どういう順番で問えば、普段は意識されていない当たり前が言葉になるか。どのタイミングでなぜを聞けば、表面的な手順の奥にある意思決定の構造が見えてくるか。

この問いの設計は、個人のインタビュースキルの問題ではなく、組織としてどこに観察の焦点を当てるかを定める作業です。何を問うかによって、組織から引き出される情報は全く変わります。

観察の焦点が定まらないままヒアリングを重ねても、出てくるのは手順の断片になりやすい。問いの設計が丁寧だと、一回の対話の中にも、再現性のある判断基準の手がかりが見えてきます。

BizOpsが担える機能の一つは、問いを持ち込むことです。答えを提案することではなく、今まで問われていなかったことを問うことで、組織の中で眠っていた言語化されていない知識が動き始める。
ツールや研修だけでは、この変化は起きにくい。問いを設計できる人間が現場に入り、何を観察するかを定めて初めて、眠っていた知識が動き始めます。

だから私は、BizOpsの仕事を答えを持ち込む仕事だとは捉えていません。
むしろ、組織がまだ持てていない問いを、現場の中に置いていく仕事だと考えています。

問いを持てる人が、沈黙する組織を動かす

うちは言語化が苦手な組織で、という言葉を、私はそのまま受け取らないようにしています。

言語化が苦手なのではなく、言語化を引き出す問いが設計されていないだけかもしれない。沈黙しているのは、話すことがないからではなく、何を話せばいいかを示す問いがないからかもしれない。

そして、この問題を放置したまま時間が経つと、組織はあるコストを払い続けます。知識を持った人が去るたびに、その人の頭の中に蓄積されていた判断の蓄積が、組織から失われていくコストです。
採用して、育てて、経験を積ませて、ようやく形成された判断の感覚が、退職や異動とともに消える。そのサイクルが繰り返されます。

暗黙知が組織に蓄積したまま消えないのは、その知識を持つ人の問題ではなく、その知識を引き出す問いを設計できていない組織の問題です。

問いを設計できる人が組織にいると、沈黙は少しずつ情報に変わります。情報が言葉になると、それは次の問いを生む材料になる。そうやって問いと言語化が循環し始めたとき、組織はようやく、自分たちの知識を自分たちで扱えるようになっていくのだと思います。

そのきっかけをつくるのが、BizOpsが組織に持ち込む問いの機能だと、私は思っています。

#BizOps #組織設計 #ナレッジマネジメント #スタートアップ #経営企画 #仕組み化


現場が黙るのは、怠慢ではなく構造の問題だ
現場が話さない、提案しない、共有しないという現象を、個人の姿勢ではなく構造の問題として捉え直した記事です。本記事で扱った沈黙を情報に変えるというテーマと合わせて読むと、問いを設計する前に整えるべき組織側の条件が見えやすくなります。

属人化は「タスク」と「ジャッジ」で分けると、打ち手が変わる
属人化を作業の偏りではなく、判断の偏りとして捉え直した記事です。本記事で扱った暗黙知の言語化とつながる内容で、特にベテランの判断基準を組織に残したいときに、何を切り出すべきかを考える補助線になります。


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