3-7-③ あの日へ③
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
仗助は、白い雪の中にいた。
(どこだ……ここ……雪が降ってる?)
嶺冥山は、晴れた夜に満月が明るく輝いていたのに、今は真っ暗な横殴りの雪の中だった。
立っている地面は山の斜面ではなく平地だが、足が埋まるほどの新しい雪が積もっている。
唸るような風が吹き荒れ、湿った雪が体に叩きつくようにぶつかってくる。
寒さに震えた仗助は、ダウンを涼子にかけたことを思い出した。
(さみーーーっ、どこだよここー。あのスタンドの攻撃か? )
見渡す限り広く平らに雪が積もっているが、等間隔に街灯がぼんやりと明かりを照らしているのを見ると、道のようだとわかった。街灯の横に葉を落とした木が並んで生えているが、建物はなく、遠くは白く煙ってしまって見えない。おそらくは、ほとんど車の通らない田舎道、アスファルトではなく、農道だろう。
足元の白く積もった雪の中、真新しいタイヤ跡が見えた。
辿っていくと、向こうに車が1台だけ止まっている。いや、その場でエンジン音を上げているが、動く様子がない。雪の中でスタックしたようだ。
(あれ? あの車……前お袋が乗ってた車にそっくり……)
車の運転席から黒髪のおかっぱの女が出てきた。車の周囲をあれこれ見て、雪を蹴飛ばした。が、どうにもならない様子で、また車の中に戻っていく。
(あれは……おふくろ? でも、今より若い、どう見ても20代だぜ)
そこで仗助は先ほどのスタンドと典明たちの会話を思い出した。
英語なのでほとんど聞き取れなかったが、”チェンジ・ザ・パスト”と言っていた。
(”チェンジ・ザ・パスト”……過去を変える……ここは、過去、なのか?)
仗助は若い母親の乗っている昔の車に少し近づいた。
目を凝らすと助手席に子供が乗っているのが見える。
4、5歳の男の子で、額に濡らしたタオルを乗せ、赤い顔で苦しそうに口を開けて息をしている。
昔のアルバムで見る小さい頃の自分にそっくりだった。
(あれは、ガキの頃のおれだ! 待てよ、この状況は……)
ホル・ホースと涼子には話したが、仗助は5歳の時に、突然高熱を出し、50日間死にかけたことがあった。
病院に入院して色々検査もしたが原因はわからなかった。
50日後、何もなかったように、突然回復した。
そして、回復した後、仗助にスタンドが発現した。
このスタンドとその前の50日の体調不良は、何か関係があるのか。
この10年ずっと疑問に思っていたが、今日ホル・ホースが説明してくれた。
110年前、仗助の父方の曽祖父の肉体を、吸血鬼DIOが乗っ取った。さらに10年前、弓と矢でDIOがスタンド使いになった。その影響で血縁である仗助にもスタンドが発現しそうになった。が、幼かった仗助はスタンド使いになりきれずに高熱状態となったが、ジョセフや典明たちがDIOを倒したことで結果命拾いした。
10年前、その後50日に及ぶ高熱の当初は、普通の風邪と思い、家で看病されていた。
しかし、夜になって、熱はどんどん上がり、息も苦しく体も痛んできた。
その夜は良平は夜勤で不在で、茂庭医院はやっておらず、母の朋子はS市の病院に仗助を連れていくことに決めた。
何重も重ね着して毛布をかけ、頭に濡れタオルを置いた仗助は、うんうん唸りながら車の助手席に乗っていた。
運の悪いことに、その年の杜王町は、18年ぶりの大雪の年だった。
例年より異様に早い11月末から雪が降り始めた。
S市への近道に裏道を使おうと農道を選択した朋子の車は、チェーンを巻いているにもかかわらず、雪の中動かなくなってしまった。
アクセルを踏んでも空回りするばかり。車の周囲に雪はどんどん降り積もる。あたりに建物は見当たらず電話をかけられるところもない。
仗助の目にも母は動揺し焦っていた。
その時、”あの人”が現れたのだ。
雪の中、どこからともなく、徒歩で。
見ず知らずのその男は、母の車の後ろから声をかけ、自分の学ランを車の後輪の下に敷き、後ろから車を押してくれた。
雪の暗い夜で顔は見えなかったが、リーゼントに改造学ランを着ていたのが、後ろを振り返った仗助にも見えた。
彼のおかげで仗助たちはスタックから脱出でき、病院に辿り着くことができたのだ。
しかし、その後、お礼をしようとその人を探したが、見つからなかった。
学ランだったので、学生だろうと、教職である朋子が知り合いのあらゆる伝手を使い、不良のようなので警官の良平もあれこれ手を尽くして調べたが、”あの人”はどこにもいなかった。
自分の自慢であろう学ランを、通りすがりの親子のためにためらいなく犠牲にした、”あの人”。
仗助は、彼を尊敬し、彼に憧れた。
彼のようになりたい、彼と同じになりたいと、思った。
仗助は、”あの人”と同じ髪型をし、同じような服を作ってもらった。
同じ髪型を馬鹿にされると、どうしようもなくプッツンした。
”あの人”を馬鹿にされたと思い許せなかった。
それくらい、大切な人だった。
”あの人”は、仗助の人生の指標だった。
あの日、”あの人”の名前も聞かなかったことを、母は後悔していたし、仗助もだった。
(これは……あの日だ!
これから、”あの人”がきて、学ランを敷いて車を押してくれる!
会える……”あの人”に会える!)
仗助は、電柱の脇で、その人が現れるのを待つことにした。
吹き荒れる風、降りしきる雪。
風の音のほかには、車のエンジン音と、キュルキュルとタイヤの空回りする音だけが響いた。
ほかに通る車の音も聞こえず、人影も見えなかった。
時折母が鳴らすクラクションが風に消えた。
仗助は待った。
(こない……こねーじゃあねーかよ……ッ!)
母は何度も車から降りて、雪をかき、車に戻ってはアクセルを回したが、車が動き出す様子はなかった。
遠目にも母に焦りが見え、車の周囲の雪はどんどん高くなっていった。
(なんで、なんでこねーんだよッ!)
雪の中で車がスタックしたらどうしたらいいか。
あの後、仗助は繰り返し、良平に教わった。
スタックから抜け出せなかったらどうなるかも、嫌ってほど聞かされた。
(このままじゃあ……)
周囲を何度も見回したが、動くものは車と仗助だけだった。
雪が車のマフラーを隠し始めた。
(やばい、限界だ……)
体が動いていた。
仗助は母と幼い自分の乗っている車の後ろに立った。
突然現れた顔に怪我をした不良に、何?と嫌悪感を出した若い母が仗助を追い払おうとした。
が、仗助は学ランを脱いでいった。
「……車押してやるよ……」
”あの人”と同じセリフを言い、同じように学ランを車の後輪の下に敷いた。
後部ガラス越しに驚く母の顔と、こっちを振り返る幼い自分の顔が見えた。
仗助は顔を合わせないように俯いて、車の窓の下に両手を置き、
「……さっさとアクセル踏みな。走り出したら止まんな、また雪にタイヤ取られるから……」
覚えている通りにセリフをいうと、雪の中で両足を踏ん張って、車を押し始めた。
車はアクセルをふかして発進し、スタックから抜け出すと、一気に加速して雪の中を進んでいった。
ガラス越しに子供の自分がこっちを見ているのが見える。
仗助はタイヤに轢かれた学ランを拾い上げて肩にかけ、車と逆方向を向き、歩き始めた。
混乱しながら。
(どーゆーことだよ……こなかったじゃあねーか、”あの人”こなかったじゃあねーか……何でだよ……何で”あの人”じゃあなくて、おれがおれを助けてんだよ。”あの人”はどこいったんだよ……)
スタンドを出して学ランを治し、羽織る。
(”チェンジ・ザ・パスト”……過去を変える……過去が変わっちまったのか……じゃあ、変わった後の過去が……おれの知ってるおれの過去?)
混乱して頭がおかしくなりそうだった。
(10年前おれを助けたのは、10年後からきたおれだったってこと……
じゃあ、じゃあ、”あの人”は……おれ、だった……のか……)
”あの人”なんていなかった。
仗助は自分を見て自分に憧れたのだ。
(ウソ……だろ……、マジかよ……おれは、おれはこの10年ずっと……)
同じ髪型、同じ学ラン。
何と同じだったのか。
「おれは……おれは……ずっと……ずっと”あの人”みたいな男になりたいって……」
仗助のつぶやきは風に消え、風が答えた。
──そっくりじゃあないかッ! 君は、ジョースターさんに
白い雪の舞う夜道が、黒く暗く歪んでいく。
おれは……
おれは……何だ……
