1-1-③ 悪霊の街、スタンド使いの挨拶③
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
目次 前書き&注意点 前の話(1-1-② 悪霊の街、スタンド使いの挨拶②)
立ち上がったホル・ホースがボインゴに札たばを渡すと、マライアがそれを取り上げ枚数を確認し、3枚だけボインゴに返した。
マライアは取り上げた金を棚の引き出しに入れると、コーヒーを3杯入れてテーブルに置いた。
ホル・ホースとボインゴは、椅子に座ってコーヒーをすする。
ホル・ホースはコーヒーをすすりながら、さりげなく周囲を見回した。
(マライアにボインゴ、それに……ケニーGも。全くクセ強え連中だ)
自分を含めた4人は、全員”スタンド使い”だった。
”スタンド”──精神が形になった超能力。
守護霊のように傍に立つため、スタンド、と名付けられたという。
その力は、スタンド使いでない他人には見えず、触れられず、だが確かに世界に干渉する。
自分の意思で使いこなせるようになれば、どんな武器よりも強力だ。
ホル・ホースのスタンドは、皇帝<エンペラー>という名前である。
銃の姿でホル・ホースの右手に現れ、弾丸を打つことができ、打った後に弾道を変更できる。
スタンド使いでない人間には見えないため、ホル・ホースは暗殺者として名を馳せていた。10年前までは。
マライアは、バステト女神。
コンセントを任意のところに出現させ、触った人間の体が磁力を帯び、金属のものを引き寄せるようになるという能力である。このスタンドは発現の特徴上、一般人にも見て触ることができる。
ボインゴは、トト神。
ボインゴがいつも持ち歩いている大型の漫画本の形をしていて、一般人にもみたり触ったりすることが可能だ。
漫画のページに未来の出来事が勝手に浮かび上がる。ボインゴ自身関わる内容が多く、予言は100%絶対当たる。だが、表現が曖昧で、読み解き方や行動次第て結果が変わることもある。
ホル・ホースが”館”の主人・ケニーGの姿を探すと、
「出てこないわよ、あの人。あんた嫌いだから」と妻のマライアがいった。
「また入り口変えたのかよ、あいつ。コロコロ変えやがって」
「そうさ。滅多に顔出さないくせに、他人を利用する時だけやってくる輩をブロックしないといけないからねえ」
ケニーGのスタンドは、ティナー・サックス。
別の建物、別の世界の、幻覚を見せる能力を持っている。
ホル・ホースは、”館”へ来るたびにスタンドの能力は経験しているが、スタンドの姿は見たことがなかったし、ここ数年は本体の顔も拝んでいなかった。
今日も挨拶に来る気はないらしい。
ホル・ホースは”館”に入る時の少年を思い出して、マライアに尋ねた。
「なんだよ、あのガキは?」
「SPW財団に頼まれたのよ。マイルド、とかいうやつ?」
「ああ、確かに見えてたし、聞こえてたようだな」
*
スピードワゴン(SPW)財団は、世界的な大富豪、ロバート・E・O・スピードワゴン氏が設立した組織だ。
彼はイギリスから単身アメリカに渡り、石油発掘で莫大な富を得た。
その富を医療や自然保護、人類の発展のために捧げる目的で財団が設立された。
現在では、医療分野を中心に、世界中に支部を持つ巨大組織へと成長し、10年前に起こったウィルソン・フィリップス上院議員暴走事件での、被害者救済にも尽力した。
しかし、医療と自然保護の財団の裏の顔が、超常現象、そして、スタンドに対する研究だった。
財団がスタンド使いたちに本格的に関与し始めたのは、今から10年前。
当時、エジプトカイロを中心に、インドやシンガポールといった日本へと至る各地で、スタンド使いたちの”見えない戦い”が繰り広げられた。
その戦いに敗れ、生き延びたのが、今ここにいる4人だ。生き残ってしまったというべきか。
戦いに勝ったスタンド使いたちを支援していたのが、SPW財団で、負けたスタンド使いたちは財団の管理下に置かれることとなった。
4人とも、以前からスタンド能力を利用して、盗みや殺しなどの犯罪行為を行なって生計を立ててきたが、財団により違法行為は禁止され、マライア夫婦はグレーゾーンの旅館経営へ、ホル・ホースは暗殺者から何でもござれの探偵業へ、そして、当時9歳だったボインゴは財団の援助を受けて学校へ通うことになった。
スタンドも見えない一般人に、スタンド使いが監視され管理されるというのは、気分のいいものではない。
実際、DIOに金で雇われていた連中の中にも、財団の監視を嫌って行方をくらました者も多い。
アレッシーにラバーソール──ホル・ホースでさえ、連中がどこにいるのか知らない。
とはいえ、財団によるスタンド使いの管理は、悪いことばかりでもなかった。
財団は世界中に散らばるスタンド使いを積極的に探し始め、またスタンド能力についての研究を進めた。
ホル・ホースたち、生まれながらのスタンド使いは幼い頃からスタンド能力を発現する。
が、なぜ自分がこのような能力を持っているか理解できないし、周囲にも理解されない。
ヨーロッパでは魔女狩りとして火炙りにされ、アフリカでは呪術者と誤解されて村を追われたりした。成長できても悪の道に走ってしまうことも多い。
そうした孤独なスタンド使いたちに、「スタンドという能力」や「他にも自分と同じ存在がいること」を教え、能力のコントロールを学ばせる──それは、確かに意味のあることだった。ホル・ホースも財団の活動には一定の理解を示していた。
マライアやボインゴたちがどう感じているかは、正直、知らない。
さらに、”スタンド”がどこから来るのか、財団の研究でわかってきたことがあった。
ホル・ホースは、生まれながらのスタンド使いで、スタンドという名前を知る前から、この銃が皇帝<エンペラー>ということを知っていた。まるで生まれる前から備わっていたかのように。
マライヤやボインゴも、同じようにスタンドを持って生まれた者たちで、その名──エジプトの神々の名前──を、自然と知っていた。なぜかはわからない。
タロットのカードに由来するスタンドを持つ者たちは、世界中に点在している。ホル・ホースもそのひとりだった。
一方、マライヤたち、エジプトの神の名を持つスタンド使いは、ここエジプト周辺に集中していた。ホル・ホースの知る限りでも、9人。人間でないものもいたが。
しかし、ケニーGは違った。
奴は生まれながらのスタンド使いではない。スタンド使いになった、のだ。
スタンド能力を後天的に得る方法──それは、特殊な弓矢で人間を射るという、危険極まりない手段だった。
射られた者のほとんどは命を落とす。だが、ごく一部、生き延びた者に”スタンド”が発現する。
弓矢による後天的なスタンドは名前がない。
なので自分でつけたり、周囲がつけたりする。
ケニーGは、ティナー・サックスと自分で自分のスタンドに名づけた。
*
10年前、ケニーGの他にもスタンド使いになったものたちがいた。
親子兄弟などスタンド使いには血縁のものも多い。
生まれつきのスタンド使いのほか、弓矢でスタンド使いが生まれると、その身内にもスタンドが発現する場合もあるらしい。
しかし、全員がうまくスタンド使いになれるとは限らない。
精神的に強くない人間や攻撃性の乏しい温厚な人間は、スタンド使いになるのは難しいようだ。
さらに、スタンド使いではないが、スタンドが見えるだけ、という人間も一定数いることが、財団の調査で判明した。
人の見えないものが見えるため、霊感が強い人間とみなされている人間の一部。多くの人間はそのまま一生を終えたり、またスタンドが見えなくなったり、するが、ごくごく稀に、その中からスタンド使いに変化するものがいる。
その途中、うまくスタンド使いになれず、倒れ、50日間高熱を続けて亡くなるケースもあるという。
SPW財団はこういったスタンド関係者を、名前をつけて分類した。
・ナチュラル──生まれながらのスタンド使い。ホル・ホースやマライヤ、ボインゴ。
・アウェイク──弓矢などで後天的にスタンド使いになったもの。ケニーG。
・マイルド──スタンドは見えるが、能力は持たないもの。
・シビア──能力発現の途中で高熱により命を落とすもの。
・ノーマル──スタンドを持たず、見ることもできない一般人。
財団はこの分類に基づき、スタンドの関係者の発見・監視・援助などの対応を進めている。
”館”の前に座っていた少年は、財団が見つけたスタンドが見えるだけの人間ということで、マライアたちが監視を依頼されたらしい。
現在弓矢は失われ、財団が探している。
「あいつはスタンド使いになりそうなのか?」
ホル・ホースの問いに、タバコを取り出して咥えると、マライアが答えた。
「わからないわねえ。孤児だから親がスタンド使いかもわからないし、ガキだから弓矢で射られたかも覚えてないみたいね」
残念ながらここエジプトで、孤児は珍しいものではなかった。
「”あんな”スタンドがどんどん作られて増やされたら、世界は滅びるかもしれないねえ」
タバコに火をつけながらマライアは続けた。
ホル・ホースたち生まれつきのスタンド使いたちのシンプルな形態能力のスタンドと異なり、弓矢で生み出された新しいスタンドは、能力が高く複雑なものが多かった。
”あんな”スタンドが次々に現れて、しかも悪用されていったら──世界が滅びるのも、そう遠くないだろう。
おそらくSPW財団もその背後にいるスタンド使いも、それを防ごうと世界中を動き回っているのだろう。
しかし、マライアは、世界がどうなろうとどうでもよさそうだった。
窓の外には建物が並び、その上には雲一つない空が広がっている。
遠くに時計塔が見えた。
