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3-8-② 黒の囁き②

*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません
おもいっきりネタバレしています!!!

目次  前書き&注意点  前の話(3-8-① 黒の囁き①)


「だれだッ!」
典明が叫んで向き直り、ホル・ホースはエンペラーを右手に現して構えた。
仗助も自分のスタンドを出現させて声のする方を見た。

黒い研究所の建物の横、紫がかった霞に覆われた木々の間に黒い人影が佇んでいた。
(いつからいやがった?! 気配が全然…… ってことは、こいつを殺ったのも……)
仗助が目を凝らすと、徐々に霞が晴れ、人影が顕になっていった。
編笠を被った虚無僧姿の男だった。
袈裟の代わりに弓を肩にかけ、斜めにかけた靫の中には1本だけ弓が入っていた。

「おっしゃるとおりです、なんでも言う通りにいたします、貴方様に従います──といった舌の根も乾かぬうちに平然と裏切りおる。醜く、汚く、嘘つきだ。これだから他人は信じられぬ。信じられるのは、血を分けた肉親のみ。そう思わぬか、花京院典明よ」
そう言いながら男がゆっくりと編笠を取ると、中から現れた顔はびっしり包帯に巻かれ真っ白だった。

「おいおいおいおい、吸血鬼の次はミイラ男かあ?」
冗談まじりに茶化すホル・ホースの横で、花京院典明が答えた。
「──仮頼宿大仁」
男は愉快そうに笑った。
「はっはっはっ。幼い頃一度おうたきりだと言うのに、よう覚えておった。やはり其方は優れた跡取りだ。いや、だった、と言うべきかな」
そう言って今度はスルスルと巻かれた包帯を解いた。

包帯の下から現れた顔は、色白のつるりとした綺麗な皮膚の顔に、やや釣り上がった細い切長の目をしていた。
解けた包帯からは長い髪がパサリと広がる。真ん中で分けられ揃えられた前髪に、耳の横で揃えた横髪、さらに後ろ髪は長く伸ばされ、肩にかかりながら後ろでまとめられ、平安時代の姫君のような髪型だった。
優しげで中性的な印象を与える顔立ちではあるが、男が女の髪型をしている印象は拭えない。
僧衣に弓といい、若い声に年寄りくさい話し方をするところといい、チグハグな印象を与える男だ。

「ヒロヒト? 仮頼宿っつーことは」
「そうそう、仗助君。君とお祖父さんには私の孫が色々世話になったようだ。礼を言うよ」
仗助の疑問に狐のような目で男は答えた。
「孫って……」
仮頼宿一樹は20代後半の警察官だったが、目の前の男は20歳そこそこにしか見えない。一瞬戸惑った仗助だったが、男の黒い首巻きに納得した。
(こいつも吸血鬼か……だれかスタンド使いが、首を……)

典明が仮頼宿大仁をまっすぐ睨む。
「うちから盗んだ水晶を、返してもらおう。」
「それについてはたいへん申し訳ないことをしたよ、花京院典明。
まさかアクリドルの水晶が花京院本家にあるとはなあ。灯台下暗しとはこのことよ。時間がないので急いでいたら、配下のものが御当主たちに大変無礼を働いてしまった。
もちろんこちらでも罰しておいたが、水晶と無礼の件、お詫びとお礼をしたい」
大仁は狐目の笑顔のまま軽く頭を下げた。
「返して、もらおう」
典明は無視して続け、大仁は目をさらに細めた。
「すまんがそれはできんな。今必要なのだよ、花京院典明。
今宵儀式をとり行い、アクリドルの水晶で我々は生まれ変われる。
手にした力で、千年の時を越え、今こそこの国を手に入れるのだ。
仮の宿を捨て、京に戻り、我々を不当に追い出した輩たちに復讐をしようではないか。我が同胞、千年前からの姉の子、花京院よ」

「興味ないな」
あっさり典明は切り捨てた。

クックック、と大仁は笑った。
「だろうのう。其方は生まれつきのスタンド使いだそうだからなあ、そのつもりがあればとっくにやっていただろう。
他人を操り、邪魔者を殺し、人を金を地位を名誉を、欲しいものを手にいれる……其方のハイエロファントグリーンにはその力があると言うのに、其方はその力を隠すばかりで使おうとしなかった。何故だ? 儂は不思議でならんよ」
「僕が欲しかったのは、そんなものじゃあな──かった」
「そうか。ではこちらはどうだ? おいで、一樹」

大仁が建物を振り返って声をかけると、黒いドアが開いて、黒い僧服の男がもう一人出てきた。
色白のつるりとした顔にやや釣り上がった細い切長の目でおかっぱの髪型の青年──仮頼宿大仁によく似た顔の年が上に見える孫、仮頼宿一樹だった。紫の布で包んだ袋を首から下げている。
祖父と揃いの服装だったが、こちらもチグハグな印象だった。
警官の服装はそれなりに板についていたのにこちらはまるで似合っておらず、着せられている感が丸出して、まるで育ちすぎた稚児のようだった。

良平の話によれば、仮頼宿一樹は、仗助が気球にして飛ばした後、錯乱して警察に逮捕されたはずだった。ここにいるということは。
「ちっ、脱走しやがったのか、おまえ。留置所帰れよ、ジジイが心配すんだろ」
仗助が声をかけたが、一樹は仗助を見ようとしなかった。
「……花京院……典明ッ!」
典明を見た一樹は、その名を呼ぶとものすごい目で睨んだ。
「……仮頼宿一樹」
典明も一樹を見ながら名をよんだ。

仗助が典明を見ると、同級生だ、と典明が続けた。
そういえば、この学生服を着た幽霊は、本来なら27歳になるのだと、仗助は思い出した。生きていれば。
敵として現れた大仁の孫の一樹に典明は警戒しているようだった。
が、一樹は憎悪をこもった目で典明を睨みつけている。
同級生で何かあったのか、と仗助は思ったが典明の方はそんな様子はなく、知り合いに対する対応なので内心首をひねった。

「さあ、一樹や」
大仁が狐目を細め、猫撫で声をあげると、一樹は無表情になって大仁に礼をし、
「はい、お祖父様」
と首から下げていた紫の包みを解き、中から白い壺を取り出して大仁に渡した。

それは、桜の柄の入った──骨壷だった。

「ッ!そ……それはッ、典明お兄ちゃんのッ!」
涼子が驚いて手で口を多い、それを見た仗助が怒鳴った。
「て、てめえッ!なんてことしやがるッ!」
幽霊の顔色が変わる。
「……僕の……」

「お、おい、なんだよ、どうした? それって……?」
渡された白い壺に、なぜ3人がそこまで動揺したのかわからなかったホル・ホースが、仗助に尋ねた。
「ああ、ホル・ホース君、それにボインゴ君、君たちにはわからなかっただろうねえ」
と骨壷を手に大仁が、ホル・ホースとボインゴを見ながらにっこり笑って答えた。
「君たちの国では人が亡くなると土に埋められる土葬が一般的だ。だが、ここ日本では火葬といって亡くなった人間は燃やされ骨だけが残った状態にされ、壺に収められて墓に埋葬される。この壺の中には」
大仁は続けた。言葉のない典明を見ながら。

「花京院典明の骨が入っているのだよ」

「げえッ!」
「ほ、骨ッ!」
ホル・ホースとボインゴの理解が追いつき、2人ともゲロを吐くような顔になった。

「死体の骨かよ……燃やすって、そんな、吸血鬼じゃあるめえし……しかも幽霊の前に持ってくるなんて、シュミが悪すぎんぜ……」
「ああ、君の地元だったか、吸血鬼伝説は。趣味が悪いかどうかは感覚によるが、これは違うのう、ホル・ホース君。儂は花京院典明にお礼とお詫びがしたいのよ」
大仁の言葉に、涼子が噛み付いた。
「な、何を、何をいっているのッ!……典明お兄ちゃんの、墓を、墓を暴いておいて……何をッ!」
典明の顔色を見た仗助も吐き捨てるように続けた。
「兄貴のいう通り、悪趣味にもほどがあんだろ、何がしてんだ、てめえらはよお!」

「反魂の術。この骨にそこにいる魂を宿らせて花京院典明を甦らせる」

「僕を……甦らせる……?」
典明は自分の骨の入った骨壷を見つめながら、大仁の言葉を繰り返した。いつも冷静な典明だが、今は視点が定まっていない。まるで夢の中にいるようだった。
「ど……どういうこと?」
涼子もおそろおそるといった様子だが、興味を惹かれたようだ。

「花京院典明のその姿、見えてはいるが実態を持たない。幽霊のような魂のみの状態だ。」
大仁は5人に骨壷を見せながらゆっくりと歩き始めた。まるで理科の先生が授業を始めるようだ。

「ペット・サウンズの飲み込んだ花京院典明の生前の記憶を、壊れたものを治すことのできる仗助君のスタンドが復元し、今の花京院典明の魂が出現した。なんかぐるぐるーってなったんだったか」
「盗み聞きかよ、ますます悪趣味ってやつだぜ」
仗助が10回吐いた後のような顔になったが、大仁はむしろ愉快そうに続ける。
「しかし、その効果も弱まってきている。左足の膝から下が薄いね。ゲオルグは強かっただろう?」
典明は黙って見返した。

「スタンドは精神エネルギーだ。ではそのエネルギーはどこからきているのか?もちろん肉体だ。しかし、君には肉体がない。このままでは、遠からずエネルギーを使い果たして消滅する」
大仁は典明を指差し、
「この世から永遠に消え去るのだ。家族にも友人にも知り合いにも、もう二度と会えない」
涼子を指差した。
「……典明お兄ちゃん……」
涼子は典明を見た。わかっていたこととはいえ辛いことのようだ。
「……だから……なんだ」
典明は大仁を睨む。

「しかし、新たに肉体を復元し、その中に魂を入れれば、再び生きていけるのだよ。花京院典明。そして、今ここに、その材料が揃っている」
というと大仁は、骨壷を持たない右手を掲げて握りしめた。長く黒い爪が手に食い込み赤い血が流れ、ポタポタと白い雪に血が滴り置いた。

「私は元々研究者でね。戦前からこの嶺冥山防疫研究所で研究に携わり、獨逸に派遣され、この吸血鬼の肉体を手に入れた。
素晴らしい肉体だよ。
生まれながらに苦しんできた持病は癒え、傷はたちまち治り、老いることもない。」
パッと大仁が右手を広げて見せると、手のひらに爪の食い込んだ傷があったが、みるみるうちに傷が塞ぎ消えた。

「この60年、私はこの吸血鬼の体を研究してきた。君たちが会ったゾンビたちは研究成果の一部だ。そして、実験を重ねるうちに、吸血鬼の血液から人間にはない因子──K因子を発見した」
大仁は、治った右手の指を2本立てて、ピースのサインをして見せた
「このK因子の作用は大きく2つ。1つは肉体の再生、増幅、分化だ。君たちも見てきただろう?どれだけ壊されようと元に戻ることができ、もとの人間の肉体の限界を超えて大きく成長することもできる。しかしそれなら、仗助君のスタンドも同じようなことができる。K因子の真骨頂はもう1つの作用──」
人差し指だけ残した。

「魂だ。
このK因子は肉体に魂を強く結びつける作用を持っている。
だから吸血鬼は死なない」

「は?」
「……魂……」
仗助が首を捻り、一応聞いていたらしいボインゴがつぶやいた。

大仁は黒い首巻を取り去った。その首にはぐるりと傷が一周している。スタンド使いの首を刎ね、大仁の首をつなげスタンド使いの肉体を乗っ取った後だ。
やっぱりかと思った仗助は、100回吐いた後のような顔になった。

大仁は骨壷を左手に抱えたまま、右手を自分の胸に当てて、典明を見ていった。
「今この体の中には2つの魂がある。
1つは儂、仮頼宿大仁の魂。もう1つはこの肉体、スタンド・メジェド神のもとの持ち主タルカン・カラジャの魂だ。
今は君も肉体を持たない魂だ、花京院典明。そして、魂の君はスタンドを使うことができる。そう、スタンドは肉体ではなく精神の元である魂から湧き上がるのだ。きっと魂を入れ替えるスタンドなんてものがあったら、魂と一緒にスタンドも移り変わるのが見られるだろう」

大仁は、靫の中から1本だけの矢を引き出し、指し棒のように弄んだ。
「12年前、DIOはこれと同じ矢でいられ、スタンド使いになった。同時にジョナサン・ジョースターの肉体からも2つ目のスタンドが湧き上がった。イバラのような映像をうつすスタンド……ジョセフ・ジョースターのハーミットパープルに似たスタンドだ。
だがおかしいと思わないか?すでに死んでいるジョナサンの肉体になぜ魂があったのか?」

今度は矢で自分の首から胸元を示した。
「答えはこの通り、首を刎ねられて死んだ肉体の魂は、吸血鬼の血液を入れられることで、その肉体に縛り付けられその中で眠り続ける。賭けに負けて人形の中に入れられるように。
だから儂らは、肉体の中の魂を通じて、そのスタンドを使うことができるのじゃ」

黙ったままの6人の前で、狂った授業はさらに続いた。

「この作用で生き返った死人がおる。そなたの父、ジョセフ・ジョースターじゃ」
大仁は今度は仗助を矢で示した。
「……死人?」
「10年前、花京院典明がDIOと戦い死んだ後、ジョセフはDIOに血を抜かれて一度息絶えておる。昇天する魂をその孫は見たというのだから確実だ。しかし、DIOを倒した後、その体から抜かれた血がジョセフに輸血されてジョセフは息を吹き返したのじゃ」
典明が目を開いた。
「自分の血を取り戻したから?スタンドで心臓マッサージをしたから? 
違う。人間が失血によって心停止を起こせば、数分で不可逆的に死に至る。
いくら自分の血液を後から入れて心臓マッサージをしようと生き返りはしない。しかし、」
持っている矢をぐるぐると回し、楽しそうに大仁は続けた。
「このK因子が入ったことで、肉体が修復され、まだ近くにいた魂が肉体にもどされた、と考えれば、話は通る。
だから今度は同じことをやり、花京院典明を生き返らせるのじゃ」

矢を靫に戻すと大仁は、再び右手を握りしめて血を流した。
左手の骨壷と右手の血を見せながら、典明をみていった。

「今、目の前に魂はある。
肉体の元になる骨にこの儂の吸血鬼の血をかけ、肉体を再生させて、魂をその中に戻す。
さすれば──花京院典明は蘇る」

「僕が……蘇る……」
花京院典明は困惑した表情を浮かべ、仮頼宿大仁を見つめ返した。

それを見た大仁は、一樹のそばにいき、血の止まった右手でその肩を抱いた。祖父より年上に見える孫は、まっすぐ前を見たまま何も言わず何も見なかった。
「一樹を見たまえ。本当なら君もこうなっていたんだよ、27歳の大人に。同級生はみんな元気だ。今からでも遅くない、奪われた未来を取り戻そう。学校に行き、社会に出て、結婚し子を持ち父になる……そんな人生をもう一度手に入れようじゃあないか。それに……」
表情を変えない一樹の周りを、大仁はゆっくりと回り始めた。骨壷を掲げながら。

「昨日会うたのであろう?其方の父君と母君に。其方にとっては数ヶ月ぶりの感覚かもしれん。
だが、この10年、母君はずっと其方を思って泣いていた。
この血を分け与えこの世に迎えたかけがえのない大切な存在を失うのは、身を切られるより辛いことだ。実際、母君は一度其方の後を追おうとしたのだぞ。母の涙をその手で拭ってあげたいとは思わんか?」
典明は俯いて視線を逸らした。
涼子が典明を見ている。悲しげに。

それを見て、さらに、大仁は続けた。
「ジャン・ピエール・ポルナレフ……ジョセフ・ジョースター……空条承太郎」
典明が視線を上げて大仁を見る。
視線がぶつかり、大仁の笑みが浮かぶ。
「其方が命をかけて救った旅の仲間たちじゃ。
もう一度会って手を握り、抱き合いたいと思わんか。
このまま、2度と会うことなく永遠に消え去って、本当に良いのか。」

典明が大仁を見つめ返していた。
その瞳が揺らいでいるのが、仗助にもわかった。

「もう一度、父母と、仲間たちと、生きようではないか、花京院典明!」
大仁は手を伸ばした。
「……」

「さあ、手を。花京院典明」
仮頼宿大仁が典明に
手を差し伸べた。
真っ黒な長い爪の伸びた白い手を。

──さあ、手を。花京院典明

(……DIOッ!!!)

典明の瞳に力がこもった。

「断る!」
花京院典明は仮頼宿大仁の視線を睨み返してきっぱりと答えた。

「僕は……僕は、二度と吸血鬼の手は取らない!」

「……典明お兄ちゃん……」
悲しそうな、でもどこかほっとした顔で、涼子がつぶやいた。

「残念だよ、花京院典明。非常に残念だ」

ガシャン。

骨壷が雪の上に投げつけられて割れた。

中から、花京院典明の頭蓋骨が、何本もの白い骨が、飛び出て辺りに散らばった。

「てめえッ!」
仗助がどなり、スタンドを現して、大仁に殴りかかった。
大仁は人の何倍もの高さに飛び上がって逃れた。

仗助のスタンドはそのまま割れた骨壷と骨を殴りつけた。
「ドラアッ!」
割れた骨壷が治りその中に骨が収まって、元に戻った。
「先輩ッ!」
仗助が骨壷をバスケットボールのパスのように涼子に投げてよこした。
「ちょっちょっと!」
「骨ッ!」
涼子とボインゴが慌てて受け取る。
「だ、だめよ、投げちゃあ」
「悪いッ!」
仗助はそのまま大仁を追い、さらにスタンドで殴りかかるが、大仁はひょいひょいと飛び回って逃げ、徐々に紫の霞の中に身を隠していった。

それまで何も言わず何も表さなかった仮頼宿一樹が声をあげた。
「お祖父様! ぼくに許可をッ!」
僧衣の懐に手を入れ何かを取り出して見せた。
目と牙の生えた口元のある石でできた仮面だった。
「てめえッ! それは、石仮面かッ!」
ホル・ホースが右手にエンペラーを現して構えたが、その前にいきなり紫の霞が現れて視界を遮る。
「よかろう、一樹。其方もこちら側へくるが良い」
大仁の声が霞から響いた。

「やめろ!仮頼宿一樹!」
典明が一樹を止める声をあげた。
「石仮面を使い、吸血鬼になって、人の生き血を吸って生きるつもりか! バカな真似はよせッ!」
「……黙れ」
一樹は目を見開いて、典明を睨みつけた。

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れえええええええええ! 
おまえは、おまえは何もわかっていない、花京院典明いーーーーーーーーッ!」

一樹のすごい剣幕に典明は怯んだ。
「この町でスタンド使いが自分だけで寂しかったか? 
初めてスタンドを見てもらって嬉しかったか? 
仲間との命懸けの旅は楽しかったか!」

──……の、のり、あき、くん……あの、ぼ、ぼく……
──うちに泊まりに来てるんでしょう?お祖父様に聞いてるよ。
──そ、そう……それで、ぼく……きみと……
──うん、自分ちみたいにして。台所の冷蔵庫にプリンがあるから食べてね。それじゃ。
──あ、あの……の……

「ぼくは、ぼくはずっとお前の傍にいた……なのに、なのにお前はぼくを見ようともしなかったッ!
……お前は今日初めて、ぼくの名前を呼んだんだ、花京院典明ッ!」

「あ……」
典明は息を呑んだ。
一樹は顔に石仮面を被ると、仮面の口元の牙で指を切り、でた血を仮面になすりつけた。
ガッシャアアンと仮面の傍から骨針が突き出し、一樹の頭に深く刺さった。

「あ……が……が……ぐあああああああーーー」

石仮面を被った一樹の指の爪が黒く伸びていった。
その手で仮面を剥ぎ取った一樹の口に、長い牙が生えていた。
それを典明は、自分の胸に牙が刺さったような顔で見た。

「ハハッ、ハハハハハッ、ハーハハハハハッ、」
「ウケッ、ウケッ、ウケコッ、ウケコッ、」

場にそぐわない笑い声が響いた。

典明が振り返ると、ホル・ホースとボインゴが雪の上に座り込んで、腹を抱えて笑っていた。

「なッ、何をやっている、こんな時に、ホル・ホースッ! ボインゴッ!」

見ると、先ほどまで大仁を追いかけていた仗助が雪の上に突っ伏している。
「っ……っく……ぐ……え……」
「な……なんだ……泣いているのか……仗助君?」

涼子も雪に膝をついて俯いて顔を覆っていた。
そばへ心配そうにサルジュが降り立った。

辺りを紫の霞が覆っていく。

「これは、まさかッ!」

「そう、儂のスタンド、メジェド神は紫の霞のスタンドじゃ」
霞が晴れて現れた木の上から、大仁が典明を見下ろして言った。
「能力は、人間の”ひとつの感情”を増幅させ、その感情で精神を満たす──いや、支配する」
雪の山に、啜り泣きと笑い声が同時に響いた。
「人は感情の生き物じゃ。喜、怒、哀、楽──どれか1つでも極限まで高まれば、思考は感情に縛られ、動けない」
「貴様ッ!」
典明が叫んだ。
「ふむ……やはり脳がないとこのスタンドは効かぬか。なれば──」
その視線の先、紫の霞の奥で何かが蠢いた。

霞の中から、次々とゾンビが現れてきた。

(囲まれていたッ! しかもこの数ッ、100体以上はいるッ!)

ゾンビが次々と、ホル・ホースにボインゴに仗助に涼子に、襲いかかる。
「くそッ!」
典明はハイエロファントグリーンを現し、4人を守るように緑の触手を伸ばした。

「スタンドは人の精神、つまり心じゃ。心を責められるとスタンド使いも脆いものよのう」
大仁は木の上から楽しげに嗤った。

   


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目次  前書き&注意点  前の話(3-8-① 黒の囁き①)

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