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3-7-① あの日へ①

*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません
おもいっきりネタバレしています!!!

目次  前書き&注意点  前の話(3-6 夜空にたなびく赤いマフラー)


「いやー、助かったぜ~仗助……」
「大丈夫っスか? 兄貴?」
座って右腕を回しているホル・ホースを、仗助は心配そうにのぞき込んだ。
「ほれ、この通りだぜー」とホル・ホースは右手を開いたり閉じたりして見せると、
「本当にオメーのスタンドは便利だよなーありがとよ」
と、仗助の背中をバンバンと叩いた。

仗助と涼子は、迎えにきた典明にホル・ホースが重傷を負ったと告げられ、大急ぎでハイエロファントグリーンの触手で山の木々の上を飛び越え、ホル・ホースとボインゴの元へたどり着いた。
ホル・ホースのちぎれた右腕は、仗助のスタンドがすぐに治した。
ボインゴは血にぬれた抜き身の日本刀を持っており、この刀で吸血鬼の首を飛ばしたと聞いたので、仗助と涼子は驚いた。まさか本当に日本刀を使って戦うとは思っていなかったからだ。ちなみに涼子の持ってきた薙刀はどこかへいってしまっていた。
ランプと懐中電灯の灯りで照らす中、リュックとナップザックから取り出したものに加え、さらに追加でサルジュに持ってきてもらったおやつと飲み物で休憩し、タオルで顔を拭って、日本刀を拭って鞘に納めた。

怪我の治ったホル・ホースは、いつも通り軽口を叩いていたが、どこか疲れているようにも仗助には見えた。
仗助がまだホル・ホースを心配そうに見ていると、お茶を飲んでいたホル・ホースはあちこち血がついたままの仗助の顔を見返して、「オメーの方こそ大丈夫なんか?」と聞き返した。

「ふふーん」と仗助はニタリと笑って右手を差し出すと、
「実はおれ、波紋ができるようになったんス!」
と波紋の黄色い光を纏わせた。
「な、何ッ! それが波紋かあーーッ!」
「……ひ……光ってる」
「波紋を身につけたのかッ?! どうして? 仗助くん……」
仗助の波紋を見た3人は次々に聞き返した。
「まー先輩とサルジュのおかげ?っつーか?」
と仗助が涼子とサルジュを見ると、
「イシス女神の記憶を再現させて体感させるスタンド能力で、ジョセフ・ジョースターさんが波紋を使うところを仗助くんに体感してもらったの。」
と涼子が続けた。

「そうか……本当に、ジョースターさんの……」
典明は、仗助の右手の黄色い波紋を見つめながら、なんとも言えない表情になっていた。
仗助はさっき繰り返し体感した波紋の記憶を思い出した。
DIOと対峙する仗助の父親、ジョセフ・ジョースター。
確かにその傍に花京院典明もいた。
貯水槽に叩きつけられ息絶えながら。

──ジョースターさんは
──僕の最期を看取った人だ

あの花京院典明の言葉は本当だった。
彼とジョセフ・ジョースターは、共に吸血鬼との命懸けの旅を続け、命懸けの戦いをし、ジョセフ・ジョースターに看取られながら花京院典明は息を引き取ったのだ。

ふと典明を見ると、左足の膝から先がほとんど消えそうに薄くなっていた。
「おい……足どうした?」
と仗助が尋ねると、典明は渋い顔になり、「あの、ゲオルグという男のスタンドにやられた」と答えた。
「え、やられたって……おめー幽霊だろ? 攻撃なんてすり抜けるんじゃあねえのか?」
ホル・ホースが聞いた。
仗助のスタンドとイシス女神の能力が混ざって現世に現れた花京院典明は、いわゆる幽霊状態であらゆるものを通過していた。実際には足は地面についておらず、影もない。ただ立って歩いているのは、”構成された記憶”が再現されているからだろう、と推測されていた。

「僕のこの体、というのだろうか、幽体というのだろうかわからないが、この体は全てすり抜けてしまう。だから攻撃も当たらない。しかし、僕のスタンド・ハイエロファントグリーンは生きていた頃と同じようにものを触ったりすり抜けたりできる。そして、スタンドとの戦闘もできる」
と典明は仗助を見て続けた。
「……スタンド同士の戦闘でハイエロファントグリーンが傷をつけられると、それが僕の今の体に反映されるらしい。さっきのセト神は斧で攻撃をしてきて、左足をやられた。その後から左足が薄くなってしまった。薄く見えるし動かせるが感覚が少し鈍い」
ホル・ホースがお茶のペットボトルを手にしながら、典明を指さして言った。
「ってことは、ハイエロファントがスタンド攻撃を喰らい続けると……」
「……消滅、してしまうんだろうな、僕は」
「……え……」
涼子が両手で口もとを押さえて典明を見た。
「そんなッ!」
涼子は典明に駆け寄ろうとして踏みとどまった。抱きつこうとして通り抜けるのを思い出したようだ。
「いやよッ!典明お兄ちゃん……消えるなんて、そんなの……!」
泣きそうな顔になった涼子を典明は寂しそうに見下ろした。

「あ、じゃあ、また補給?すりゃあいいんじゃねえか?」
と仗助がいい、典明と涼子が振り向いた。
「そいつが現れた時みてーに、おれのスタンドとサルジュのイシス女神でよー、なんか”ぐるぐるーっ”てもう1回やればいーんじゃあねーか?」
涼子は悲しそうに首を振った。
「多分……もうできないの」
「できない?ってどういうことっスか?」

涼子が言うには、サルジュは10年前、DIOとジョースター一行の戦いを見て記憶していた。
花京院典明が死ぬ時も、そこにいた。
その時スタンド能力で、死にゆく花京院典明から、彼の記憶の全てを吸い取ったのだという。
傍に落ちていた、さくらんぼのイヤリングの片方とともに、10年間ずっと持ち続けていた。イヤリングは鳥籠に、記憶はスタンドの中に。
10年後、何者かに杜王町に連れてこられた鸚鵡は、イヤリングを飲み込んだ。
そして昨日、仗助のスタンド能力とイシス女神の能力が合わさり、花京院典明の幽霊が現れた。吸い取った彼の記憶はすべて放出され、今の彼の顕現に使われてしまったのだという。
「多分、今の典明お兄ちゃんを形作るには、生きていた時の記憶が必要なんだと思うの。でも、もう全部使ってしまったから……だから……」

黙って聞いていた典明は、だいぶ高くなった月を見上げて、自分の腕時計を見ると、
「どちらにしろ時間がないようだ。そろそろ出発しよう」
と言った。

5人と1羽は山の坂道を踏み締めて登って行った。

頭上を覆うほどに高かった木々は、山の上に近づくについれて小さいものに変わっていった。山体の熱により冬季でも積雪が少なめということだったが、この高さになるとところどころに見えるだけだった雪があたり一面を覆うようになってきた。
典明以外は雪に足を取られつつの山登りになり、時折スタンドの手を借りながら登って行った。
サルジュは涼子の肩に停まって少しでも暖を取ろうとしているようだった。

木々の隙間が開けた先に、厚い氷の張った池が現れた。
「……氷……」
ボインゴが氷のはった池を珍しそうにのぞきこんだので、「上に乗ると氷が割れることがあるから乗らない方がいいわ」と涼子は声をかけた。
月明かりを反射してキラキラと光る池に惹かれたのか、サルジュも涼子の肩から飛び立って池の辺りに降り立った。

その時、ひらり、と何かが風に吹かれて飛んできた。
四角い紙のようなものが、涼子の目の前に落ちた。
(?何かしら?)
涼子が拾い上げて表に返した。
「ッ!こ、これは……ッ!」
写真だった。
10年前の涼子、典明、父と母、それに伯父や伯母、従兄弟たち。ピラミッドを背にみんなが笑っている──あの時の記念写真だった。
(これは、10年前のあの家族旅行の時に撮った、典明お兄ちゃんとの最期の写真!……なんで、なんでこんなところにあるの?)

雪が舞い飛び、涼子の目の前が真っ白になった。

葬儀の日は雪だった。

5ヶ月も行方不明で学校に行っていなかったのに、多くの同級生や先生たち、桜洋商事の関係者、杜王町の近所の人々など、数多くの人々が、花京院典明の最期の別れに集まった。
この年、杜王町は記録的な大雪で、町中まで雪が積もり、遠方から来た参列者の中には、スリップをしたりハマったりした車もあったらしい。

──みなさま、お、お足元の悪いなか、の、典明のためにお越しいただきまして、ま、誠に……

いつも落ち着いた声で澱みなく話す伯父様が、挨拶で何度も何度も言葉に詰まった。
伯母様は、典明お兄ちゃんにそっくりな顔のまま、魂が抜けたようにぼんやりしていた。参列者が礼をするたびに立ち上がってお辞儀をし、お礼を言っているのだけど、その目には何も写っていないようだった。

典明お兄ちゃんは制服姿のまま棺に安置されていた。
エジプトでの事故に対応したスピードワゴン財団が、若くして客死した日本人に哀悼の意を示し、遠方への移動で傷まないようにと、エンバーミングというめずらしい処置をしてくれたのだという。だから服は変えずにそのまま埋葬するように言われていた。
男にしては色の白い肌、高い鼻、横に少し大きい口はしっかりと閉じられ、唇には弾力があった。切れ長の両目には縦に傷が走った痕があったが、眉毛もまつ毛も綺麗に整えられ、顔を見た皆が眠っているようだと口々に囁いていた。

じっと見ていたら、目を開けて、「やあ、涼子ちゃん」って優しくいってくれるんじゃあないか、そう思えるぐらいだった。
なんで典明お兄ちゃんは起きないのだろう。
スピードワゴン財団の人たちが、キレイにお腹を縫ってくれたっていってたのに。
私が頭を切って縫ってもらった時は、キレイに治ったのに。

斎場から霊柩車が出発し、音のない雪道を通って、火葬場に到着した。

伯父様たちの手で棺が火葬炉の前に置かれた。

住職の読経に合わせて皆で手を合わせた。

──それではみなさま、最期のお別れになります。合掌してお見送りください。

ガコンと、機械の作動する音がした。
これから火葬炉で典明お兄ちゃんは焼かれるのだ。

炎に焼かれたら、
もう典明お兄ちゃんは戻ってこない。
連れていかれる。
炎に、連れて行かれてしまう。

「…やだ…」
涼子は棺に飛びついた。
「やだ!ヤダヤダヤダやだーー!
いやああああ!典明お兄ちゃあああああーーーん!
いっちゃやだあああああ~!いかないで、いかないで、いかないでえええ~~」
涼子、涼子、涼子ちゃん、と周りの大人たちが困った声で手を伸ばし、涼子を抱き上げて、棺から引き離した。
「やだあああーーーー!」

ガシャンと、扉が閉まる音がした。

「あ……ああ……う……あ……の……のり・あき……」
傍で伯母様が泣き崩れる声が聞こえた。
「のりあき、のりあき、のりあき……のりあき!
のりあきーーー!
のりあきいいいいいいいいいいーーーー!!!」

こうして、
私の大好きな大好きな典明お兄ちゃんは、
真っ白な骨になった。

形見分けをもらった。

──典明のこと忘れないであげて。

忘れない。
忘れられない。
忘れられるわけない。

典明お兄ちゃんが死んだのは──
私のせいなのだから。




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