4-3-① 墓参り2①
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
地下室はひんやりと冷え切っていた。
コンクリート打ちっぱなしの頑丈に隔離された室内。
冬でも暖かなカイロの市街地の中、そこだけ別世界に切り取られたようだった。
うす暗い室内に天井の蛍光灯は鈍い光を放っていたが、1本は時々チカチカと光をなくし、もう消えてしまいそうだと不安げに泣いているようだった。
1989年1月17日。
あの死闘の翌日。
DIOを朝日で完全に灰にした、その夕方。
地下室には、マットレスに足があるだけの簡素なベッドが3台並べられていた。
1台のベッドには、何もなかった。
1台のベッドには、小さな塊に布が被せられていた。
1台のベッドには、人型に布が被せられていた。
皆の感情がひとしきりおさまった後、今後の対応を相談することになった。
アヴドゥルの遺体は敵のスタンドに飲み込まれ残らなかった。
が、墓を立てて埋葬をしたいと皆の意見が一致した。たとえ空っぽの墓でも。
そのアヴドゥルは、両親を早くに亡くし、親戚もいなかった。高名な占い師として近年は海外を飛び回っていたが、生まれはエジプトの地方でハンハーリに占いの店を構えていた。
またイギーは、元もとニューヨークで野良犬をしていたのを、アヴドゥルが確保し、現在はSPW財団所有の犬になっていた。
よって、アヴドゥルはカイロに、イギーはニューヨークに、それぞれ葬るのが適切かと思われた。
が、それにポルナレフが反対した。
「俺は、見たんだッ! 一緒に旅立ったんだよ、この2人はッ!」
アヴドゥルとイギーは、それぞれ敵の攻撃からポルナレフを庇って死んだ。
敵を倒した後、イギーを肩に乗せたアヴドゥルの幻影が現れ、彼を励まして消えたのだと、ポルナレフは語った。つまり彼らの幽霊を見たのだと。
普通なら信じないだろう。
しかし、承太郎は信じた。
なぜなら彼も、同じようなジョセフの姿を見たからだ。声まで聞いた。
ジョセフは承太郎が蘇らせた。この手で死の淵から引っ張り出し、取り戻した。
だが。
だが、花京院は──
「イギーはアヴドゥルと一緒に眠らせてやってくれねえか。一緒にいるんだよ、こいつらは。きっと、今も……ずっと……」
頼むよ、ジョースターさん、という包帯まみれの男の涙ながらの懇願を受け入れ、アヴドゥルとイギーは共にエジプトカイロに葬られることになった。
一方、花京院典明には、家族がいた。
元々彼は日本の高校生であり、スタンド使いであることを隠して生きてきた。夏にエジプトに家族旅行に行ったところDIOに見つかり、肉の芽を埋め込まれて操られた彼は、承太郎を襲ってきたのだった。
その彼の両親に遺体を渡すのか。
その場合、息子が亡くなったことをどう説明するのか。
スタンド使いでない人間にスタンドの説明をするのは困難だと、生まれつきのスタンド使いはいった。
「難しいと思うぜ。俺の妹も17年一緒にいたが、いくら俺がスタンドを見せても説明しても、全くわからなかった。」
スタンドに理解があり協力しているSPW財団でさえ、その意見には同意した。
考え込んだ末にジョセフは、いった。
「では、こうしよう。花京院典明は一人で日本からエジプトに旅行に行って事故に遭って死んだ。我々とは会ったこともなかった。」
「はあッ?!」
「どういうことだ、ジジイ?!」
ポルナレフと承太郎は驚いてジョセフを見た。
「いうた通りじゃ。花京院の両親には偽りの説明をして、彼を返す」
「なんでだよッ!あいつは俺たちとずっと旅をしてきたんだぜ? 俺が妹の仇を討てたのだって、DIOを倒せたのだって、あいつがいたからだろう?!」
「ああ、そうじゃ。そして戦い、殺され死んだ。
それをそのまま両親に言うのか?
『おたくの息子さんは、あなたたちが持たず知らないスタンドという能力を持っていました。そのため、エジプトの旅行中に、吸血鬼に見つかり操られ、我々を殺しにきました。正気に戻った彼は我々と吸血鬼を倒す旅に出てエジプトに向かい、そこで吸血鬼と戦い殺されました。』
そう、花京院の両親に説明するのか?」
ジョセフに言われてポルナレフは口ごもった。
「……そ……そりゃあ……」
「我が子が死んだら、親としては死因を知りたいだろう。当然じゃ。しかし、それには吸血鬼にスタンドといったにわかには信じがたい事実を説明しなければならない。
全く信じないならそれでいい。
だが、疑問に思い真実を知りたいと思ったら?
彼の家族が、彼の死因を知りたいと、エジプトにやってきたら?
まだDIOの仲間がどのくらいいるのか残っているのか我々にはわからんのだ。ことは彼の家族を危険にさらす可能性がある」
承太郎は思い出した。ポルナレフが合流する前、空港で日本を発つ時だ。
本当に一緒に来て良いのかとジョセフに聞かれて、花京院は答えていた。
──僕は家出中なんです。
──肉の芽に操られて、置き手紙を置いて家を出てきました。
──DIOに会ったのは家族旅行の最中で、一緒にいた僕の従姉妹も巻き込まれるところでした。今僕が家に戻っても、また奴らがやってくるかもしれません。その場合、僕の家族も巻き込んでしまう。
──僕はDIOに操られて家出をしました。だから、奴を倒して家に帰ります。
DIOを倒すこの旅で、スタンド使い同士の戦いに巻き込まれて、多くの一般人が巻き込まれて亡くなった。花京院の両親がスタンド使いでなく、スタンドについて知らなかったのなら、知らずに済ませた方が安全だろう、とジョセフは続けた。
自分たちと関係があることを知らせればどうしてもスタンド使いとの関わりが浮かび上がる。関係なかったことにした方がよいだろうと。
「じゃあ、俺たちは、こいつと赤の他人になっちまうのか?
命懸けの旅をずっとしてきたのに?
こいつの葬式にも出れねえし、墓参りにも行けねえのか?」
ポルナレフの問いにジョセフは答えなかった。
自分の右手の手袋を外すと、花京院をそっと撫でた。髪を、そして真っ白な顔を。
触ると氷のように冷たいことを、承太郎は知っていた。
「わしらが覚えていればいい。
わしが、わしらがこうして生きているのは、彼が一緒にいたから……わしらが生きていることが花京院が一緒にいた証じゃ。わしらの記憶にとどめておけばいい。」
「花京院は……一人で……旅をして……」
ぽつり、と、頬に涙が落ちた。
「……一人で……死んだ……のじゃ……」
ぽつり、ぽつり……ぽつり……
花京院の頬を濡らしていった。
また、あいつが、冷たくなってしまう。
血を流し、冷たい水にさらされて、もう十分冷たいのに。
ポルナレフは、真っ赤になった青い瞳を、腕でゴシゴシと拭った。
そして、自らのスタンド・シルバーチャリオッツを呼び出した。
銀色に輝く甲冑の騎士は、その剣を構え捧げた。
「俺は、忘れないッ! 決して忘れないッ!
我が命尽きるその瞬間まで、お前を、お前たちを思い続ける!
ここに誓うッ! 必ず……必ずだッ!」
ポルナレフを見たジョセフは、花京院から手を離し、ずっと黙っていた承太郎に呼びかけた。
「承太郎もそれでいいな?」
「……」
承太郎は花京院を見ていた。
「承太郎?」
──承太郎。
「ああ……」
承太郎は帽子を深く深く被り直して答えた。
「ああ……いいぜ」
こうして、承太郎たちと花京院の一切の関係は絶たれた。
SPW財団が各所に働きかけ、花京院と彼らの旅の記録は、口止めされ修正され、上書きされ書き換えられ、消去され抹消された。
あらゆる記録は消えた。
残ったのは記憶と、それから──
