なぜ人は被害者を非難してしまうのか?|公正世界仮説から読み解く被害者非難の構造【社会心理学】社会的認知④後編
今回は、社会学および社会心理学の観点から被害者非難を考える重要性について説明します。このテーマは、私たちの職場や社会における人間関係にも深く関連しており、ぜひご一読いただければ幸いです。
私たちは日常生活の中で、「被害者は被害にあっても仕方がない人だ」といった考え方に無意識に陥ることがあります。これは、被害者の責任を問うことにつながり、結果として被害者にさらなる心理的負担を与えてしまうことがあります。
公正世界仮説を示したラーナーとシモンズの実験
ここで紹介したいのが、アメリカの心理学者であるメルビン・ラーナーとアメリカの認知心理学者であるキャロリン・シモンズの実験です。この実験は私たちがどのような認知的傾向によって不公正な状況を正当化してしまうのか、またそれが被害者にどのような影響を与えるのかについて重要な示唆を与えてくれます。
この実験では、実験参加者が女性の問題解決の様子を観察し、彼女が問題を間違えるたびに強い電気ショックを受けるという状況が設定されました。実際には、その女性の様子は事前に録画された映像であり、電気ショックも与えられていませんでした。しかし、実験参加者には現在進行中の出来事であり、電気ショックも現実に与えられていると説明されていました。
この場面において、被害者への評価は実験参加者の認知的なバイアスによって大きく変化することが確認されました。被害者が良い人であると認識されるほど、その不幸な状況は「世界は公正である」という信念にとって脅威となり、その結果として被害者への評価が低下するという現象が確認されました。
実験結果から見える被害者非難の心理

※aの値は女性に対する魅力の評定から実験参加者自身に対する魅力の評定を減じたものである。値が大きいほど、相対的に女性の魅力を高く見ていたことを意味する。
※bの値の範囲は5から30。値が大きいほど女性を好意的に見ていたことを意味する。
引用:「よくわかる社会心理学p17」
表を見ると、女性が苦痛を受け続ける、あるいは今後も苦痛が続く可能性があると認識された「殉教者条件」「継続条件」「未決定条件」では、魅力の評価が大きく低下していることがわかります。一方で、「報酬決定条件」「終了条件」「録画条件」では評価の低下が比較的小さくなっています。
これは、被害者の苦痛が解消される、あるいは実際の被害ではないと認識された場合には、被害者への否定的評価が弱まることを示しています。逆に、不公正な状況が継続すると認識された場合、人々はその状況を認知的に正当化しようとし、その結果として被害者の評価を低下させる傾向があると考えられます。
現代社会における被害者非難
この実験から得られる教訓は、単なる理論的なものではありません。私たちの社会では、被害者が非難される現象が実際に存在しています。
例えば、性的被害やいじめなどの被害者が、「なぜ避けられなかったのか」、「本人にも問題があったのではないか」といった形で責任を問われることがあります。このような反応は、被害者にさらなる心理的苦痛を与え、その回復を妨げる要因となり得ます。
社会学から考える被害者非難の構造
社会学的な視点から見ると、被害者非難は個人の認知だけでなく、社会全体の価値観や文化とも深く結びついています。
私たちは無意識のうちに、「努力した人は報われる」、「正しい人には良いことが起こる」といった価値観を共有しています。しかし、この価値観が強くなりすぎると、不幸な出来事に遭遇した人に対して、「何らかの原因が本人にあったのではないか」と考えてしまうことがあります。
このように、被害者非難は個人の問題だけではなく、社会の中で再生産される認識のあり方として捉えることができるのです。
私たちに求められる視点
私たちは、被害者に対する無意識の偏見を克服し、その苦境に共感しながら支援する姿勢を持つことが求められています。
そのためには、公正世界仮説を理解し、自らの思考や判断の癖を見直すことが重要です。社会学的・社会心理学的な観点からみると、私たち一人一人の態度や行動は、周囲の人々や社会全体のあり方に少なからぬ影響を与えています。
被害者非難を乗り越えるために
この記事があなたの視野を広げ、社会の複雑さを理解する一助となれば幸いです。私たちが社会の一員として、より良い環境をつくるためにできることは少なくありません。
ぜひ日々の業務や人間関係の中で、この視点を取り入れていただければと思います。
コミュニケーションにおいて「なぜ相手に自分の考えが伝わらないのか」という問題の正体を、社会心理学や社会学の視点から紐解いたものです。▼
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