アフリカで広がる「トークン化投資」!ナイジェリア発PagaとTBookに見るフィンテック新潮流
日本の個人投資家が海外の商業不動産を買おうとすれば、通常は数千万円単位の資金が要ります。
ところがナイジェリアでは、スマホ決済アプリや提携企業のアプリを通じて、海外の実物資産や固定利回り商品などに少額からアクセスできる仕組みが立ち上がろうとしています。
旗を振っているのは、アフリカ最古参のフィンテック企業の一つ、Pagaです。
銀行口座の普及率は日本より低いはずのアフリカで、なぜ「オンチェーン金融」がこれほど早く立ち上がるのか。

Pagaの一手を追いながら、その背景と、日本のビジネスパーソンにとっての意味を読み解いていきます。
1. Pagaとは——ナイジェリア発フィンテックの成長とPaga Engine
まずPagaという会社をご紹介します。Pagaは2009年にナイジェリア出身のTayo Oviosu(タヨ・オヴィオス)氏によって設立された決済企業です。
2010年代初頭に商業サービスを本格化させ、2023年時点でナイジェリアに2,000万人超の顧客基盤を築いたとされます。

現在も数千万人規模のユーザーにリーチするフィンテックとして成長を続けています。
スマホから送金や支払いができる「モバイルマネー」の先駆けとして、銀行口座を持たない人々にも金融サービスを届けてきました。
Pagaの中核ライセンスは「モバイルマネーオペレーター(MMO)」免許ですが、Oviosu氏は2023年の英The Banker誌の取材で、ナイジェリア中央銀行(CBN)からマイクロファイナンス銀行免許も取得済みだと明かしています。
この免許は、Pagaが単なる決済事業者にとどまらず、より広い金融サービスへ展開する土台の一つになり得ます。

ただし、トークン化投資商品の提供には、各国の証券・投資商品規制との整合も必要になります。
近年のPagaが力を入れているのが、決済インフラ事業「Paga Engine(パガ・エンジン)」です。
Paga公式発表によれば、2025年には1億6,900万件、17兆ナイラ超、米ドル換算で約110億ドル(約1兆7,000億円)規模の取引を処理しました。
Paga Engineは、Meta、LemFi、Qatar Airways、Vertoなどを含む300社超の企業に利用されているとされています。

2. PagaとTBookの提携——RWAトークン化投資で何が変わるのか
Pagaは2026年6月、ブロックチェーン基盤のスタートアップTBookと提携し、利用者が「トークン化された実物資産(RWA:Real-World Assets)」に投資できるようにすると発表しました。
トークン化とは、不動産や債券といった実物資産や金融商品に関する権利・持ち分を、ブロックチェーン上で表現・取引できるデジタルの「トークン(証票)」に変換することです。
今回の提携では、Pagaの決済・コンプライアンス(法令順守)基盤と、Suiというブロックチェーン上でRWAを扱うTBookの資産発行者ネットワーク(マーケットプレイス)が接続されます。

関連報道によれば、想定される投資対象には次のようなものが含まれます。
定期預金のようなフィックスト・インカム(固定利回り)商品
トークン化された未公開資産(プライベートアセット)
海外の商業不動産ポートフォリオの持ち分や、政府証券・プライベートクレジット(企業向け融資)への少額投資
従来、こうした投資適格の資産は高い最低投資額の壁があり、一般の個人には手が届きませんでした。
トークン化はこの壁を下げ、小口の投資家でも「一部だけ」買えるようにします。
一部報道では、最低投資額を100ドル(約1万5,000円)程度に抑える設計とも伝えられています。ただし、Paga公式発表では具体的な最低投資額は明記されていません。

Oviosu氏は声明で、こう述べています。「私の願いは、アフリカ人が世界の商取引に完全に参加し、資産を増やせるようにすることだ。この提携は、歴史的に手の届かなかった投資適格の機会を、普通のアフリカ人に開くものだ」
さらに、「Paga Engine上で開発する企業は、自社アプリでこれらの投資商品を提供でき、リーチが大きく広がる」とも語っています。

3. Sui・USDsui・Crossmint——Pagaが進めるブロックチェーン金融戦略
今回の動きは突然のものではありません。Pagaが着実に積み上げてきた「ブロックチェーン・インフラ戦略」の一手として読むと、筋が通ります。

一つの伏線が、2026年5月の動きです。
米マイアミで開かれたSuiのイベントで、Oviosu氏は「暗号資産を活用した、利回りのつく投資適格商品」をアフリカの消費者向けに増やしていく方針を語りました。
実際にPagaは、Mysten Labsが主要開発に関わるLayer1ブロックチェーンのSuiと提携し、米ドル連動ステーブルコイン「USDsui(Sui Dollar)」を統合しました。
USDsuiは、米ドルに1対1で連動し、米国債級の流動資産に裏付けられるステーブルコインです。
Pagaはこの基盤を使い、ドル建て決済や、RWAに裏付けられた利回り型商品への接続を広げていく方針を示しています。ステーブルコインとは、価値が法定通貨に連動するよう設計された暗号資産のことです。

さらに6月には、ステーブルコイン基盤のCrossmintと組み、Paga Engineの現地通貨オン/オフランプと、Crossmintのマルチチェーン・ステーブルコイン決済基盤を接続する提携を発表しました。
決済、貯蓄、そして今回の投資でPagaは金融の各領域でブロックチェーン基盤を組み上げ、「金融インフラのプラットフォーム」になろうとしているように見えます。

そしてPagaにとって、投資商品への参入自体は初めてではありません。
2020年にはナイジェリアの投資プラットフォームWealth.ngと提携し、農業・不動産・固定利回り商品で年利最大16%の運用機会を提供しました。
ただ今回は、そのアプローチが「オンチェーン金融」へと明確に舵を切っている点が違います。

ケニア・ナイロビで暮らしていても、こうした変化の土壌は日常的に感じます。
もちろんPagaの主戦場はナイジェリアですが、モバイルマネーを入口に、送金、支払い、貯蓄、少額運用へとサービスが広がっていく感覚は、東アフリカでも珍しいものではありません。
街角のモバイルマネー取扱店では、送金や支払いだけでなく、貯蓄や少額運用の相談をする人の姿も見かけます。
「銀行に口座を作る」という段取りを飛ばして、スマホの中でお金を動かし、増やそうとする——トークン化投資も、そうした土壌の上に載る話だと感じます。

4. アフリカ金融インフラの商機——Paga Engineが狙うプラットフォーム化
この提携は、単なる新商品の追加ではありません。意義をいくつかの角度から見ていきましょう。
① Paga Engineのプラットフォーム化
Pagaは、自社が提供する金融サービスだけでなく、他社が顧客に届ける金融商品を裏側で支える立場を狙っています。
Paga Engineを使う300社以上の企業が、自社アプリにトークン化投資商品を組み込めるようになれば、Pagaは「投資商品の流通チャネル」に育つ可能性があります。
決済で稼ぐだけの会社から、金融インフラそのものへという転換です。

② 決済アプリ内の残高をどう活用するか
TBookの共同創業者Nick Young氏は、こう指摘します。
「あらゆる消費者向けフィンテックは、顧客にも会社にもほとんど何も生まない『眠っている残高』を抱えている。とりわけ新興国ではそうだ」
決済アプリに滞留する顧客資金を、規制された投資適格資産で運用に回せれば、企業は手数料以外の新たな収益源を得て、利用者は利回りを受け取れます。
預金を抱えるフィンテックにとって、これは新たな収益モデルとして注目される領域です。

③ 金融包摂としての投資アクセス拡大
これまでアフリカの多くの個人にとって、海外の不動産や政府証券は縁遠い存在でした。高い最低投資額がそれを阻んでいたからです。
トークン化はその入口を下げます。Young氏の言葉を借りれば、「これこそが、規模を伴った金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)の姿」だということになります。
5. StableFiとRWA市場——トークン化資産の成長とリスク
Pagaの動きは、単独の出来事ではありません。世界的に広がる「StableFi(ステーブルコイン金融)」という潮流の一部として捉えると、全体像が見えてきます。
TBookは、フィンテックが自前でブロックチェーン技術を構築せずとも、利回りのつくトークン化商品を自社アプリに組み込めるようにする「差し込み型」のインフラを提供しています。
同種のプレイヤーにはBlend、OpenTrade、Stableなどがあり、ステーブルコイン(通貨)・不動産(資産)・金(コモディティ)といった対象を扱います。

すでに欧州には先行例があります。
スペインのフィンテックCriptanは、OpenTradeの基盤を使い、関連報道では米ドル建てのUSDCで年利最大8.5%、ユーロ建てのEURCで最大5.5%の利回り商品を提供しているとされます。
TBook自身も2025年11月、フィリピン最大級の決済企業OmniPayと組み、消費者向けアプリを通じてトークン化投資商品を配信しています。
エンドユーザーに直接売るのではなく、フィンテックのパートナーを通じて広げる、これがTBookの戦略です。
市場そのものも急拡大しています。関連報道では、分析会社CoinMarketCapのデータに基づき、トークン化RWA関連トークンの時価総額が約100億ドル(約1兆5,500億円)に達したとも伝えられています。
これは2024年初頭の9億5,730万ドルから2年で約10倍の水準です。
業界トラッカーのrwa.xyzでは、ブロックチェーン上で保有されるトークン化実物資産の総額は315億9,000万ドル(約4兆8,900億円)にのぼります。
インドの調査会社Mordor Intelligenceは、より広い資産トークン化産業を2025年時点で2兆800億ドル(約322兆円)規模と推計し、2031年には18兆7,400億ドル(約2,900兆円)に達する可能性があるとしています。
ただし、RWA市場の規模は「上場トークンの時価総額」「オンチェーンで保有される実物資産価値」「広義の資産トークン化産業」など、定義によって大きく異なります。
数字の大小だけでなく、その値が何を数えたものなのかを見極めることが欠かせません。

ただし、明るい話ばかりではありません。
トークン化は幅広いアクセスや流動性、決済の速さをもたらす一方で、裏付けとなる資産そのもののリスクを消してくれるわけではないという点は見落とせません。
例えばトークン化された不動産は、依然として正当な法的所有権、独立した資産管理(カストディ)、正確な評価、そして所在国での規制監督に依存します。
また、トークン化されたからといって、すぐに自由に売買できるとは限りません。
実際には、発行体の信用力、二次流通市場の厚み、償還条件、現地通貨とドルの交換規制、利用者保護の仕組みなどによって、投資家が負うリスクは大きく変わります。
Pagaも「事業を展開する国で規制された主体を通じてのみ投資商品を配信する」としています。

6. アフリカフィンテックを投資商品ではなく金融インフラとして見る
ここで日本の読者に向けて、視点を切り替えてみます。
日本では2024年に新NISAが始まり、「貯蓄から投資へ」の掛け声のもとで個人の資産運用が広がりました。しかしその前提は、銀行口座と証券口座を持つことです。
一方アフリカでは、銀行口座を持たない、あるいは十分に使っていない人々が、スマホ決済アプリを入口に、将来的にはトークン化された海外資産へアクセスする可能性が出てきています。
順番も入口も、日本の常識とはまるで違います。この「前提の違い」は、日本企業にとって商機でもあります。

ジェトロによれば、2025年のアフリカのスタートアップ資金調達額は前年比25%増の41億ドルに達し、分野別ではフィンテックが14億9,000万ドルで最多でした。
もっとも、フィンテックは引き続き最大分野である一方、その調達額自体は前年比12%減でした。
日本からも、ケニアで配車ドライバー向けの中古車融資を手がけるHakki AfricaがシリーズCで27億1,000万円を調達するなど、現地の金融課題に挑む動きが出ています。

またトークン化投資がアフリカで根づくかどうかは、最終的には二つの問いにかかっています。
消費者がこの新しい商品を受け入れるか。そして各国の規制当局が、ブロックチェーン金融をどう扱うか。
答えが出るのはこれからです。ただ、日本にいると気づきにくいこの動きを早めに知っておくことは、次の市場を読むうえで無駄にはならないでしょう。

※本記事は、特定の金融商品や暗号資産への投資を勧めるものではなく、公開情報に基づくビジネス動向の解説です。トークン化資産は、裏付け資産、発行体、カストディ(資産管理)、流動性、規制、為替、スマートコントラクトなど複数のリスクを伴います。
❚ 関連note
❚ アフリカのフィンテック・オンチェーン金融への参入を検討されている方へ
ナイジェリアやケニアをはじめアフリカ各国では、決済からトークン化投資まで、日本の常識では測れないスピードで金融ビジネスの機会が広がっています。
アクセルアフリカは『日本とアフリカ諸国を繋ぎ、社会課題解決型ビジネスを共創することで、アフリカの持続的成長に貢献する』をビジョンに掲げ、日本企業のアフリカ市場参入を一気通貫で支援する日系コンサルティング会社です。
ケニアに事務所及びコミュニティハウスを構え、アフリカ主要国をカバーしながら、フィンテック領域の市場調査から現地パートナー探索・事業開発支援まで幅広く対応しています。
「アフリカの金融イノベーションをビジネスチャンスにしたい」とお考えであれば、ぜひお気軽にご相談ください。
❚ 情報参照元
[TechCabal] "Paga turns to tokenised investments in latest infrastructure push" (2026/06/30)
[TechCabal] "Paga expands into stablecoins and tokenised assets with Sui" (2026/05/08)
[TechCabal] "The next fintech race is infrastructure. Paga wants in" (2026/05/27)
[CoinMarketCap] "Real World Assets (RWA)"
[Mordor Intelligence] "Asset Tokenization Market"
[ジェトロ] "2025年のアフリカスタートアップ調達額は25%増の41億ドル" (2026/01)
