見出し画像

アイズナー賞2025ノミネート作品が発表されました

漫画界のアカデミー賞と言われるアメリカのマンガ賞アイズナー賞2025のノミネート作品が発表されました。2024年1月1日から12月31日に発表された作品を対象に、32カテゴリーにわたってさまざまな作品、クリエイターが選ばれています。受賞者・作品は2025年7月25日の夜(現地時間)、サンディエゴ・コミコンで発表されます。

以下では作品を中心にノミネートを見ていきます。筆者の備忘録代わりなのでスーパーヒーローものは弱いです。ご了承ください。

Youtubeライブでもノミネート作品について3回にわたって詳しくお話しています。こちらもご覧ください!


BEST SHORT STORY

  • “Anything Sinister,” by Ross Murray, in NOW #13 (Fantagraphics)
    「NOW」はファンタグラフィック社から不定期刊行されていて、これまでアイズナー賞やイグナッツ賞にノミネートされてきたコミックアンソロジー。ベテランから新進気鋭の作家まで多彩な作品を読むことができるそうです。今回のBEST SHORT STORYノミネート6作品中3作品が「NOW」掲載作品ですね。
    作者のロス・マレーはニュージーランド在住のイラストレーターさんのようです。

  • “Day 1703,” by Chris Ware, in Smoke Signal #43 (Desert Island)
    「Smoke Signal」はブルックリンにあるオルタナティブコミックの書店「Desert Island」が発行するフリーペーパーで、残念ながらこお43号で紙版は終了とのことです。40人の作家が1ページずつ作品を掲載。ノミネートされているのは『ジミー・コリガン』などで有名なクリス・ウェアの作品ですが、そのほかにもアート・スピーゲルマン、チャールズ・バーンズ、ジリアン・タマキなどの作家が参加されています。なんと贅沢なフリーペーパー。

  • “Pig” by Stacy Gougoulis, in NOW #13 (Fantagraphics)
    作者のステイシー・グーグリスはオーストラリアの先住民族クリン族の土地で活動をされているそうです。現在ファンタグラフィック社からデビュー作を制作中。

  • “Spaces,” by Phil Jimenez, in DC Pride 2024 #1 (DC)
    DCがプライド月刊にあわせて毎年刊行している「DC Pride」から、昨年話題になった『Wonder Woman Historia: The Amazons』の作家フィル・ヒメネスの作品です。

  • Water I’ve Loved: Moving Day by Pam Wye, in MUTHA magazine
    「MUTHA magazine」は「母性」をテーマにしたさまざまなコラムやインタビュー、コミックなどを配信するネットメディアのようです。その中からPam Wyeが連載しているシリーズ「Water I’ve Loved」シリーズの1作品がノミネートされています。

  • “You Cannot Live on Bread Alone” by Kayla E., in NOW #13 (Fantagraphics)
    作者のケイラ・Eはファンタグラフィック社のクリエイティブディレクターでもあるそうです。

BEST SINGLE ISSUE/ONE-SHOT

  • Abortion Pill Zine: A Community Guide to Misoprostol and Mifepristone by Isabella Rotman, Marnie Galloway, and Sage Coffey (Silver Sprocket)
    ミソプロストールとミフェプリストンという薬を用いた中絶について解説した40ページのZINE。中絶賛成派のコミュニティメンバーによって制作されたものです。

  • Ice Cream Man #39: “Decompression in a Wreck, Part One,” by W. Maxwell Prince and Martin Morazzo (Image Comics)
    『Ice Cream Man』という2018年に創刊されたシリーズの39号。チョコやバニラだけでなくホラーやドラッグ中毒、ファンタジーなどさまざまなフレーバーを提供してくれる「アイスクリームマン」。各エピソードで、さまざまな苦悩を抱えた個性的なキャラクターが登場するようです。アメリカ版『笑ゥせぇるすまん』みたいな感じなのでしょうか。39号40号での2号続けて(続けて読む必要はないみたいですが)は「事故船での減圧」というエピソードみたいです。

  • PeePee PooPoo #1, by Caroline Cash (Silver Sprocket)
    2024年のアイズナー賞BEST LIMITED SERIES受賞作。刊行の順番と号数がめちゃくちゃでシリーズ4冊目にして第1号だそうです。今号の作者キャロライン・キャッシュは、60年代アンダーグラウンドコミックを現代的でゲイっぽく解釈しているそうで、アリソン・ベクダルの名作コミックのオマージュもあるそうです。

  • Sunflowers, by Keezy Young (Silver Sprocket)
    キージー・ヤングさんは私が注目している作家さんです。双極性障害を抱えるある人物の体験を描いた自伝的コミック。双極性障害が躁状態では非常に明るく意欲的なことから誤解されがちであることはジェレミー・ウィットレー作グリヒル画の『ワスプ』でも描かれていましたね。こういう作品が増えるのはとても良いと思います。

  • Unwholesome Love, by Charles Burns (co-published with Partners and Son)
    ブラック・ホール』のチャールズ・バーンズの新作。この少し前にファンタグラフィック社から刊行された『Kommix』というマンガとも関連があるみたいです。

  • The War on Gaza, by Joe Sacco (Fantagraphics)
    ジョー・サッコは『パレスチナ』、『ガザ 欄外の声を求めて』とパレスチナのルポルタージュ・コミックを描いてきました。本作はコミックジャーナルのウェブサイトに連載されたコミックとコマ割りイラストのシリーズで、イスラエルによるジェノサイドと、ジョー・バイデン大統領とアメリカの共謀に対する痛烈な批判になっているとのことです。

BEST CONTINUING SERIES

  • The Department of Truth, by James Tynion IV and Martin Simmonds (Image)
    アイズナー賞ではお馴染みのシリーズですね。陰謀論ものです。2025年2月に単行本5巻が出ています。

  • Detective Comics, by Ram V, Tom Taylor, Riccardo Federici, Stefano Raffaele, Javier Fernandez, Christian Duce, March, and Mikel Janín (DC)
    『Detective Comics』といえば1930年代からスタートした1000号を超える歴史あるバットマンのシリーズですが、このタイミングでノミネートされるとは2024年に何かあったんでしょうか? 個人的には『Dawn Runner』がツボにはまったのでRam VとカバーアートでEvan Cagleが組んでた時期の『Detective Comics』はちょっと欲しいです。

  • Fantastic Four, by Ryan North, Carlos Gomez, Ivan Fiorelli, and others (Marvel)
    『Fantastic Four』も長いシリーズですが、2022年からRyan Northによるシリーズが始まっているようです。2025年7月には映画も公開されるのでホットなシリーズですね。

  • Santos Sisters, by Greg & Fake, Graham Smith, Dave Landsberger, and Marc Koprinarov (Floating World)
    犯罪に立ち向かい男性とデートし日常を楽しむサントス姉妹の物語。クラシックな特大サイズの新聞用紙にオフセット印刷されて刊行されているようです。単行本はファンタグラフィック社から2025年に出る予定。

  • Ultimate Spider-Man, by Jonathan Hickman, Marco Checchetto, and David Messina (Marvel)
    妻子のいる中年のスパイダーマンの物語ということでシリーズ開始時から話題になっていましたし、北米の売上ランキングでもよく見かける作品です。個人的に読んでみたいので邦訳してほしいです。

  • Wonder Woman, by Tom King and Daniel Sampere (DC)
    今年はTom Kingが4部門でノミネートとアーティストとしては最多選出なのですが、そのTom Kingが2023年からスタートしたシリーズです。

BEST LIMITED SERIES

  • Alan Scott: The Green Lantern, by Tim Sheridan and Cian Tormey (DC)
    グリーンランタンと言えば古くからいるDCのキャラクターですが、数10年ぶりに初代グリーンランタンが描かれる初の単独シリーズだそうです。

  • Animal Pound, by Tom King and Peter Gross (BOOM! Studios)
    檻に閉じ込められることに辟易とした動物たちが人間に反乱を起こし、動物の国をつくる。どのように法律を定め、民主主義を築いていくか…といった物語です。ジョージ・オーウェル『動物農場』に始まり、バンド・デシネでも『Le Château des animaux』という動物たちの国をテーマにした作品が人気になっていましたが、こういうテーマは普遍的に人気を集めるものなのですね。

  • The Deviant, by James Tynion IV and Joshua Hixson (Image)
    ジェームズ・タイノン四世はアイズナー賞でもよく名前が挙がる作家ですが、その新作です。1972年、ミルウォーキーの雪が降り積もる夜、血まみれのサンタクロースが若者に対して想像を絶する残虐行為を繰り返した。50年後、問題を抱えた若い作家が、牢獄の中で無実を主張する「常軌を逸した殺人鬼」にインタビューをするが、クリスマスが近づく中、再び過去が研ぎ澄まされた斧を振りかざして現れる…。ちょっとあらすじだけ見ると韓国BLの『クリミナル・インタビュー』を思い起こしてしまったのですが、どんなストーリー展開になっていくのでしょうか。アメリカ図書館協会2024年成人向けグラフィックノベル部門でベスト10入り。

  • Helen of Wyndhorn, by Tom King and Bilquis Evely (Dark Horse)
    人気の戦士キャラ、オーサンの生みの親であるパルプ・ライターの父が悲劇的な死を遂げ、娘のヘレン・コールは祖父が残した広大な屋敷「ウィンドホーン・ハウス」に呼び戻される。その屋敷の無数の部屋や廊下にはさまざまな秘密が隠されていた。それは父が物語に描いた伝説の冒険ともかかわっていて…。『英雄コナン』と『オズの魔法使い』が出会ったような剣と魔法のゴシック風ファンタジー。

  • Rare Flavours, by Ram V and Filipe Andrade (BOOM! Studios)
    悪魔のようなラークシャサ(インド神話の鬼神)ルービン・バクシュは、次のアンソニー・ボーディンになるという夢を実現するため、かつては映画を誇った映画監督モーに、世界に名高いインド料理とその料理人を記録してほしいと依頼する…。アンソニー・ボーディンはシェフで食レポで有名な方だそうです。Ram Vは『The Many Deaths of Laila Starr』(不老不死の技術を発見した科学者に会いに、仕事がなくなりそうな死神がムンバイに行く話)や『Dawnrunner』(巨大ロボットSF)でとても気になっている作家なのですが、インド料理ものということでこれも面白そうですね。作画のFilipe Andradeさんもちょっとニコラ・ド・クレシー味があって気になります。

  • Zatanna: Bring Down the House, by Mariko Tamaki and Javier Rodriguez (DC)
    THIS ONE SUMMER』『ローラ・ディーンにふりまわされてる』『ローミング』『ハーレイ・クイン:ガールズ・レボリューション』など数々の翻訳が出ているマリコ・タマキさんのDCものです。このザターナというキャラクターは全く知らないのですが、手品師もののスーパーヒーローなんですかね? サンプルを見るとサイケデリックでポップなカラーリングで可愛いです。

BEST NEW SERIES

  • Absolute Batman, by Scott Snyder and Nick Dragotta (DC)

  • Absolute Wonder Woman, by Kelly Thompson and Hayden Sherman (DC)
    バンド・デシネ翻訳者の原正人さんとやっているポッドキャスト「海外マンガRADIO」で北米の売上ランキングを毎月チェックしているんですが、アブソリュートシリーズはすごく人気です。

  • Minor Arcana, by Jeff Lemire (BOOM! Studios)
    ジェフ・レミアはアイズナー賞でよくノミネートされている印象があります。田舎町で詐欺師の霊能者をやっている母が病気になり、娘のテレサは看病のためにしぶしぶ帰郷する。しかし彼女が思っていた以上に魔法には「何か」があり、町は切実にテレサの助けを必要としていた…。小アルカナというタイトルどおりタロットに着想を得たストーリーらしいです。

  • The Pedestrian, by Joey Esposito and Sean Von Gorman (Magma Comix)
    さあ、歩行者よ! 奇妙な訪問者がサマーシティに足を速足で踏み入れ、住民たちの生活を静かに変えていく。しかし、この静かな小さな町は静寂に包まれているわけではない。道路標識の秘められた歴史にまつわる、古代の争いが勃発しつつあるのだ! 歩くな…走れ! 歩行者よ、正義は常に道を行く! 表紙から何なんでしょう…。かなり風変わりなマンガのようです。

  • The Power Fantasy, by Kieron Gillen and Caspar Wijngaard (Image)
    「スーパーパワー」、その言葉には明確な定義がある。それは「核兵器と同等の破壊力を持つ人物」。地上にはそんな「スーパーパワー」を持つ人物が6人いる。地球の存続は、彼らが決して争いに巻き込まれないこと。だいたいのマンガだとスーパーパワーを持った人間が戦ったりするのですが、これは戦いを回避しようとする物語のようで面白いです。「抑止力としての核兵器」といったリアルなテーマを能力者に置き換えたようで興味深いです。

  • Uncanny Valley, by Tony Fleecs and Dave Wachter (BOOM! Studios)
    オリバーは一見ごく普通の12歳の少年。母親の過去と謎めいた家族の歴史、そして説明のつかない奇妙な力を持っていて、時にトラブルに巻き込まれることを除けば…。シュールでマンガのような能力に戸惑いつつ、奇妙なカラスの大量殺人事件に巻き込まれ、オリバーの家族の歴史の隠された謎が明らかになる…!

BEST PUBLICATION FOR EARLY READERS

  • Bog Myrtle, by Sid Sharp (Annick Press)
    陽気なベアトリスと不機嫌なマグノリアという姉妹は、すきま風の吹き込む古い家に、親切なクモの家族と暮らしています。ベアトリスは、持続可能性にこだわる森の巨大なクモ、ボグ・マートルから魔法の毛糸をプレゼントされ、クモたちと一緒にとびきり暖かいセーターを編み始めます。しかし、貪欲なマグノリアは利益しか考えず、すぐに古い家を魔法のセーター工場に改造してしまいます。疲れ果てたクモたちは襲撃に駆り立てられ、ボグ・マートルは不機嫌になってしまいます…。「ボグ・マートル」は、資本主義、環境保護主義、労働者の権利、そして善良な人間であることといったテーマに触れた、機知に富んだ現代の民話です。

  • Club Microbe, by Elise Gravel, translated by Montana Kane (Drawn & Quarterly)
    細菌の世界が学べる遊び心あふれる入門書。細菌の一部は病気の原因になるという悪い印象があるが、ほとんどは食べ物を消化したり、チーズを作ったり、雪の結晶を形成できるようにするといった有益な生き物。微生物の目に見えない仕事が紹介されます。作者エリーザ・グラベルはカナダ・ケベックの作家。

  • Hilda and Twig Hide from the Rain, by Luke Pearson (Flying Eye)
    日本語版が3巻まで刊行されNetflixアニメも人気なイギリスのマンガ『ヒルダの冒険』シリーズの最新作。

  • Night Stories, by Liniers (Astra Books)
    新聞マンガ『マカヌード』で人気のアルゼンチンのマンガ家リニエルス。日本では『マカヌード』のキャラクターによる絵本マンガ『エンリケタ、えほんをつくる』が翻訳されています。『Night Stories』は古典的なラテンアメリカの3つの民話をリニエルスならではのユーモアのセンスで語ります。

  • Poetry Comics, by Grant Snider (Chronicle Books)
    春先の雲を眺める時間から晩秋の自転車の行方不明まで、一年の浮き沈みやその間の出来事を、登ったり、浮かんだり、泳いだり、回転したりしながら描いてくれます。

BEST PUBLICATION FOR KIDS

  • How It All Ends, by Emma Hunsinger (Greenwillow/HarperCollins Early Readers)
    空想好きな13歳のタラ。中学生になり新学期が始まったけど学校に馴染めない。みんなが好むような刺激的な番組を見るのも、もの悲しい音楽を聴くのも、弟とごっこ遊びをやめるのも気が進まない。しかしリビーという同級生に出会って…。大人への階段を上るときの面白さと恐怖、初恋を描く。

  • Next Stop, by Debbie Fong (Random House Graphic/Random House Children’s Books)
    ピアは物静かな中学生。弟を亡くし、両親とともに新しい町に引っ越すことになった。家庭の悩みを忘れようと、ピアは家族の友人と一緒にバス ツアーに参加し、奇妙で風変わりな道端の観光名所に立ち寄ります。最終目的地は、地元の人々が魔法の力があると噂する神秘的な地底湖。ピアはこの水が壊れた家族を修復する答えを握っているかもしれないという希望を抱き続ける。悲しみから立ち直る道のりを描く。

  • Plain Jane and the Mermaid, by Vera Brosgol (First Second/Macmillan)
    Anya's Ghost』や『Be Prepared』のヴェラ・ブロスゴルさんの新作。家から自立するためにジェーンは王子さまのようなピーターにプロポーズしようとする。しかしピーターは人魚にさらわれてしまった! ジェーンはピーターを救出するために、美しい謎と危険な生き物が潜む海中の世界へと冒険に出かける。

  • Weirdo, by Tony Weaver Jr. and Jes & Cin Wibowo (First Second/ Macmillan)
    11歳のトニー・ウィーバー・ジュニアはコミック、アニメ、ビデオゲームが大好きで、そこに登場するキャラクターたちに憧れている。しかし新しいクラスメイトからは変わり者と思われいじめられる。同級生から受け入れられないことに苦しみ、他人の期待に応えようと努力するトニー。

  • Young Hag and the Witches’ Quest, by Isabel Greenberg (Abrams Fanfare)
    ヤング・ハグとその母親と祖母はイギリス最後の魔女だった。しかし母を失うという悲劇に遭遇したヤング・ハグは魔法なんて信じられない。ある日、森の中で取り替え子の赤ん坊を見つけ、本物の魔法を目の当たりにしたヤング・ハグは、魔法をイギリスに持ち帰るという人生最大の冒険へと旅立つ。アーサー王伝説の壮大な冒険と母を亡くした少女が魔法を再び信じるまでの旅。

BEST PUBLICATION FOR TEENS

  • Ash’s Cabin, by Jen Wang (First Second/Macmillan)
    アッシュはいつも孤独を感じていた。大人たちは気候変動の危機を無視し、アッシュと同年代の子どもたちは変化のために戦うことよりも、ポップスターや人気コンテストに興味を持っている。アッシュの家族でさえ、人生を夢遊病者のように過ごしている。アッシュのことを理解してくれているのは、祖父のエドウィンだけだった。亡くなる前、祖父はカリフォルニアの荒野の奥深くに秘密の小屋を建てる話をしていたことを思い出し、アッシュは孤独感から逃れるために、祖父の小屋を探しに行く。アッシュはひとりになりたいと願うが、本当にひとりで幸せになれるのか。世界に自分の居場所がないと感じたときの人生の選択を描く、感動的な物語。

  • Big Jim and the White Boy, by David F. Walker and Marcus Kwame Anderson (Ten Speed Graphic)
    南北戦争前の南部を舞台に、自由を目指して旅する奴隷ジムと相棒のハックを描いた『ハックルベリー・フィンの冒険』。1885年に誕生したこの小説は、人々の心をつかむと同時に、黒人アメリカ人に対する描写をステレオタイプや戯画として問題視されており、現代版として再構築。

  • The Deep Dark by Molly Knox Ostertag (Scholastic)
    高校卒業を間近に控えたマグダレナ・ヘレラは、病気の祖母の世話、アルバイト、恋人がいる女の子との密かなキスと、さまざまな悩みを抱えていた。彼女には秘密があり、そのせいで毎晩地下室に引きずり込まれ、血を流していた。その秘密が漏れれば、誰かを傷つけ、死に至らしめてしまうかもしれない。そんなとき幼馴染のネッサが町に戻ってきて…。
    個人的にちょっと気になっていた『The Girl from the Sea』のモリー・オスタータグさんの新作。
    ハーベイ賞2024Best Young Adult Bookノミネート作

  • The Gulf, by Adam de Souza (Tundra)
    高校生活が終わりに近づき、居場所を見つけられない4人が離島のコミューンを探すために家出をする。『スタンド・バイ・ミー』と『ライ麦畑でつかまえて』がマリコ・タマキ&ジリアン・タマキ『GIRL』を経由して出会ったような作品だそうです。

  • Lunar New Year Love Story, by Gene Luen Yang and LeUyen Pham (First Second/Macmillan)
    アメリカン・ボーン・チャイニーズ』のジーン・ルエン・ヤンが原作を、ルーエン・ファムが作画を手掛けた、運命、家族、恋愛を描いた心温まるロマンティック・コメディ。何世代にもわたって恋愛運のない家庭に育ったヴァル。恋愛を諦めかけていた彼女は、偶然、二人の獅子舞の舞手に出会う。これは本当の愛なのか、家族の呪いを解くチャンスなのか、それとも彼女は永遠に失恋を抱えたまま生きる運命なのか?
    BEST GRAPHIC ALBUM—NEWノミネート。ハーベイ賞Book of the Yearノミネート作

  • Out of Left Field, by Jonah Newman (Andrews McMeel)
    歴史の授業とオタク映画が大好きで運動神経はからきしの9年生のジョナひょんなことから野球チームに入部した。そこにはキュートなショートのエリオットがいるから…? 異性愛規範に基づく社会的なプレッシャーからスリリングなロマンスまで、ジョナはさまざまな課題に直面していくなかで、本当に大切なものが何かに気づき、自分のゲイとしてのアイデンティティを受け入れていく。

BEST HUMOR PUBLICATION

  • Adulthood is a Gift! by Sarah Andersen (Andrews McMeel)
    女性の何気ない日常を描いたウェブコミックシリーズ「Sarah's Scribbles」 で人気を博したサラ・アンダーセンのデビュー作『Adulthood is a Myth』のパロディー版。コミック、エッセイ、写真やスケッチを収録した5冊目の本。

  • Forces of Nature, by Edward Steed (Drawn & Quarterly)
    ニューヨーカー誌に掲載された、伝統的な形式主義にのっとった一コママンガ。

  • Kids Are Still Weird: And More Observations from Parenthood, by Jeffrey Brown (NBM)
    『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』をはじめとしたスター・ウォーズのパロディで知られるジェフリー・ブラウンの新作。子どもたちがいかに奇妙で面白いかを親の視点から描く。

  • A Pillbug Story, by Allison Conway (Black Panel Press)
    田舎の夏、それはあらゆる種類の虫、鳥、獣が共存するまさに昆虫界のニューヨーク。ダンゴムシのミリーは、他の昆虫と違い常に体を濡らしておかないと生きていけないし、おしっこも出ないし、唯一のベジタリアン。ユーモアたっぷりにメスのダンゴムシの日常を描く。

  • Processing: 100 Comics That Got Me Through It, by Tara Booth (Drawn & Quarterly)
    ジュリー・デュセやアライン・コミンスキー=クラムのようなアンダーグラウンドの女性マンガ家の偉大な伝統を受け継ぐタラ・ブースの作品。

BEST ANTHOLOGY

  • EC Cruel Universe, edited by Sierra Hahn and Matt Dryer (Oni Press)
    1940~50年代に犯罪・猟奇・恐怖・SFマンガなどを刊行していたアメリカの出版社ECコミックス。特にホラー誌『テールズ・フロム・クリプト』が有名だったが、そのECコミックスの精神を受け継ぐコミックシリーズがOni Pressにより復活。

  • Godzilla’s 70th Anniversary, edited by Jake Williams and others (IDW)
    ゴジラ誕生70周年を記念したアンソロジー。

  • Now: The New Comics Anthology #13, edited by Eric Reynolds (Fantagraphics)
    BEST SHORT STORYでもなんと3作品がこの中から選出されたファンタグラフィック社のコミックアンソロジー。

  • Peep #1, edited by Sammy Harkham and Steve Weissman (Brain Dead/Kyle Ng)
    ベテランから新世代まで35名以上の作家が参加したアンソロジー。『マウス』のアート・スピーゲルマンも参加。

  • So Buttons #14: “Life and Death,” by Jonathan Baylis and various artists (So Buttons Comix)
    原作者であるジョナサン・ベイリスの自伝をさまざまなアーティストがマンガにするというアンソロジーのようです。キックスターターで刊行。

BEST REALITY-BASED WORK

  • Djuna, by Jon Macy (Street Noise Books)
    狂騒の20年代といわれる1920年代のパリの文壇で今世紀最も有名な無名作家ジューナ・バーンズの伝記マンガ。作家、芸術家、クィアの急進派であり、史上最高のレズビアン・ラブストーリー『夜の森』を生み出し、素晴らしい文学的才能と挑発的な態度で世界から称賛され、また軽蔑もされた女性の人生を垣間見る魅力的な窓。

  • The Heart That Fed: A Father, a Son, and the Long Shadow of War, by Carl Sciacchitano (Gallery 13/S&S)
    ベトナム戦争を体験し戦争の恐怖とPTSDによって変わってしまった父親を理解しようとする息子によって語られる感動的なノンフィクション。1960年代の混乱とベトナム戦争のさなか、大学を中退したデイビッド・シアッキターノは空軍に入隊し、海外派遣を志願した。前線から離れた航空機整備士であったにもかかわらず、デイビッドはテト攻勢と1975年の撤退中の戦争の混乱を経験した。戦火から無傷で帰還したデイビッドだが、それはまるで彼の一部が永遠に置き去りにされたかのようだった。
    パブリッシャーズ・ウィークリー誌の2024年ベストブックトップ10、ニューヨーク公共図書館の2024年大人向けベスト新作コミックに選出。

  • The Mythmakers: The Remarkable Fellowship of C. S. Lewis & J. R. R. Tolkien, by John Hendrix (Abrams Fanfare)
    『ナルニア国物語』のC.S.ルイスと『指輪物語』のJ.R.R.トールキンという2人の文豪の素晴らしい友情と創作仲間の物語と、ふたりがどのようにして傑作を書き上げたのかを描いた伝記。牧歌的な子ども時代から第一次世界大戦、1929年のオックスフォードでの初めての出会い、そして第二次世界大戦…。インクリングと呼ばれる文学サークルの重要性、ふたりの友情の揺れ動き、そして二度の世界大戦を経てふたりの作品がどのように20世紀の人々を魅了していったのか描く。

  • The Puerto Rican War: A Graphic History, by John Vasquez Mejias (Union Square)
    精巧な木版画と豊富な史料を駆使し、1950年にプエルトリコで発生した反乱(38人の死者とハリー・S・トルーマン大統領暗殺未遂事件)の物語を綴っています。運動の指導者たちのもとにマイケル・コリンズとガンジーの亡霊が訪れるという寓話形式で語られる本書は、アメリカ史における重要でありながらしばしば見過ごされがちな瞬間、そしてプエルトリコ独立運動の歴史的試金石を描いています。

  • Suffrage Song: The Haunted History of Gender, Race, and Voting Rights in the U.S., by Caitlin Cass (Fantagraphics)
    「彼女は努力を重ねたが、まだやるべきことはたくさんある」。南北戦争前の時代に始まった女性参政権の歌は、1世紀以上も続く、全米を揺るがすスローガンとなった。この歌の精神を捉え、ニューヨーカー誌の漫画家ケイトリン・キャスは、アメリカにおける女性参政権の壮大な歴史を描き出す。女性の権利を求めて戦った世界中の女性たちの歴史については、ノルウェーの『ウーマン・イン・バトル』が日本語で読めますが、この作品はアメリカの歴史に絞った物語のようです。

BEST GRAPHIC MEMOIR

  • Degrees of Separation: A Decade North of 60, by Alison McCreesh (Conundrum)
    10年間にわたり、北緯60度以北で暮らしたアリソン・マクリーシュの経験。極寒の北極圏での暮らしや仕事、旅や、水道のない小さな小屋で赤ん坊を育てる苦労まで、特有のユーモアと人間味あふれるタッチで描く。

  • Feeding Ghosts: A Graphic Memoir, by Tessa Hulls (MCD/Farrar, Straus & Giroux)
    三世代にわたる中国人女性を描き、愛、悲しみ、亡命、そしてアイデンティティを探る。祖母のスン・イーは、1949年の共産党勝利の混乱に巻き込まれた上海のジャーナリスト。香港に逃れた後、彼女は迫害と生存についてベストセラーの回顧録を執筆したが、その後すぐに精神衰弱に陥り、二度と回復することはなかった。作者のテッサは、母と祖母を悩ませてきた恐怖とトラウマ、そしてそれらを結び付ける愛を明らかにする。
    ピュリッツァー賞伝記部門の受賞作。

  • The Field, by David Lapp (Conundrum)
    1970年代のオンタリオ郊外、開発業者が小さな町の端にある畑を掘り起こし始め、大人たちは破綻した結婚生活や隣人同士の恨みに気を取られている間、子どもたちは野原を自由に走り回る。複雑で決して無邪気とは言えない子ども時代の夏を描く。

  • I’m So Glad We Had This Time Together: A Memoir, by Maurice Vellekoop (Pantheon)
    1970年代、トロント郊外のブルーカラー地区でオランダ人移民の4人兄弟の末っ子として生まれた作者は、労働者階級の環境にもかかわらず、芸術、音楽、映画に深く親しんで育った。彼は本を読むよりもテレビでシェールとキャロル・バーネットを見るほうがずっと好きで、バービー人形で遊んだり、母親が自宅の地下で経営する美容院を手伝ったりするのが大好き。彼はゲイだったが、家族は厳格なカルヴァン派のキリスト教改革派教会に属していた…。アリソン・ベクダル『ファン・ホーム』、マイア・コベイブ『ジェンダー・クィア』の精神を受け継ぐ自伝マンガ。

  • Something, Not Nothing: A Story of Grief and Love, by Sarah Leavitt (Arsenal Pulp Press)
    作者サラ・リーヴィットが22年連れ添ったパートナーのドニモは、長年、慢性的な痛みに悩まされていたが、2020年4月、医療の甲斐なく亡くなった。ドニモの死から約1か月後、サラは深い悲しみと喪失を埋めるために再びマンガを描き始める。愛する人の死後、芸術が変容と癒しをもたらす力について描いた感動的なグラフィック・メモワール。

BEST GRAPHIC ALBUM—NEW

  • Final Cut, by Charles Burns (Pantheon)
    ブラック・ホール』のチャールズ・バーンズの新作。BEST SINGLE ISSUE/ONE-SHOTでも『Unwholesome Love』という作品がノミネートされていましたね。
    ブライアントと友人のジミーは子ども頃から悪趣味な遊びをしていた幼馴染。映画監督を志すブライアンはジミーと町に越してきたばかりの少女ローリーと一緒に、『ボディ・スナッチャー』のオマージュとして肉体のないエイリアンの子宮から人間が生まれるというSFホラー映画を撮影するために、古いカメラを手に人里離れた森の小屋へと向かう。夢と現実、想像と知覚の境界をあいまいにし、芸術を通して自己表現することの真の意味を鮮やかに描き出す。

  • Lunar New Year Love Story, by Gene Luen Yang and LeUyen Pham (First Second/Macmillan)
    アメリカン・ボーン・チャイニーズのジーン・ルエン・ヤンが原作を、ルーエン・ファムが作画を手掛けた、運命、家族、恋愛を描いた心温まるロマンティック・コメディ。何世代にもわたって恋愛運のない家庭に育ったヴァル。恋愛を諦めかけていた彼女は、偶然、二人の獅子舞の舞手に出会う。これは本当の愛なのか、家族の呪いを解くチャンスなのか、それとも彼女は永遠に失恋を抱えたまま生きる運命なのか?
    BEST PUBLICATION FOR TEENSノミネート。ハーベイ賞Book of the Yearノミネート作

  • My Favorite Thing Is Monsters Book Two, by Emil Ferris (Fantagraphics)
    1巻が出たときにも話題になったエミール・フェレスの『My Favorite Thing Is Monsters』の2巻。1960年代後半のシカゴの政治情勢を背景とした10歳のカレン・レイエスの絵日記風コミック。カレンは、ホロコーストの生き残りである謎めいた上階の住人アンカ・シルバーバーグの殺人事件を解決しようと奮闘するが…。B級ホラー映画やパルプ・コミック誌のモンスターを彷彿とさせる描写が随所にちりばめられ、アンカのナチス・ドイツ時代の過去と現在、個人的な出来事と政治的な出来事が交差する。

  • Sunday, by Olivier Schrauwen (Fantagraphics)
    作者のいとこである架空の人物ティボーの一日。ガールフレンドが長期旅行から帰ってくる日、ティボーは目を覚まし、何もせず、ジェームス・ブラウンのことが頭から離れず、酒を飲み、タバコを吸い、恋人との関係に妄想を抱き、メールを書くのに苦労し、『ダ・ヴィンチ・コード』を見る。その間ずっと人との接触を避け、自分の思考と恐怖の深淵へと堕ちていく。一方、かつての片思いの相手とティボーの別のいとこがティボーにサプライズ誕生日をプレゼントしようと計画し、外部と内部が衝突する。

  • Victory Parade, by Leela Corman (Pantheon)
    第二次世界大戦中、ブルックリン海軍工廠で働く女性ローズと、彼女が引き取ったドイツの強制収容所から逃れたユダヤ人移民のルースの目を通した、愛と喪失、トラウマの物語。
    ACBDコミック賞2024最終ノミネート作。

BEST GRAPHIC ALBUM—REPRINT

  • Breaking the Chain: The Guard Dog Story, by Patrick McDonnell (Abrams ComicArts)
    1995年に連載が始まったコミックストリップ『MUTTS』に登場し最も愛されるキャラクターのひとりである「ガード・ドッグ」の30周年を記念した本。飼い主に捨てられ、一人ぼっちで苦しんでいたガード・ドッグは、動物の友だちである猫のムーチと犬のアールに見つけられ、近所の心優しい女の子のドゥ―ジーとその保護者オジーに救われ、愛と安全に満ちた生活がはじまる。動物の虐待や愛護を考えさせる作品。

  • Lackadaisy, vols. 1–2, by Tracy J. Butler (Iron Circus)
    1927年、禁酒法が全面施行されているミズーリ州セントルイス。密造酒業者、ギャング、そして力こそ正義という支配が街の裏社会を牛耳っていた。その原動力となっているのは「ラカデイジー」のようなもぐり酒場の常連客たち。控えめなリトル・デイジー・カフェの地下にひっそりと佇むラカデイジーは、未亡人でありながら意志の強いミッチ・メイが経営する店。カルト的人気を誇るアイズナー賞ノミネート作品、ウェブコミックの完全版。

  • The One Hand and The Six Fingers, by Ram V, Dan Watters, Laurence Campbell, and Sumit Kumar (Image)
    The One Hand』と『The Six Fingers』という2つの犯罪スリラーシリーズを交互に読むという変わった趣向の作品。
    The One Hand』はネオ・ノベナの刑事アリ・ナッサーの物語。ナッサーは人もうらやむ経歴を残して引退間近の白髪交じりの殺人課刑事だが、かつてナッサーが死刑にした「片手殺人鬼」と似たような残忍な殺人事件が発生して…。『The Six Fingers』ではネオ・ノベナの考古学専攻の学生ヨハネス・ヴェイルの物語。彼は常に自分の人生をコントロールしてきたが、歴史上悪名高い連続殺人犯の手口を使って残忍な殺人を犯した途端、すべてが制御不能に陥り始める…しかも、ヨハネス自身は犯行の記憶がない。この二つの物語が絡み合い、命がけの駆け引きが繰り広げられる。

  • Rescue Party: A Graphic Anthology of COVID Lockdown, edited by Gabe Fowler (Pantheon)
    毎年恒例のコミック・アーツ・ブルックリン・フェスティバルの創設者であり、愛されるインディーズコミックショップ「Desert Island」。COVID-19のパンデミックによって世界中がロックダウンされ、Desert Islandも無期限の閉鎖を余儀なくされた2020年4月、店主の呼びかけによって集まった、世界中のアーティストによる140点以上のシングルページコミック。Desert Islandのフリーペーパー「Smoke Signal」はBEST SHORT STORYにノミネートされていましたね。

  • Seattle Samurai: A Cartoonist’s Perspective of the Japanese American Experience, by Kelly Goto and Sam Goto (Chin Music Press)
    サム・ゴトウが2012年から2018年にかけてノース・アメリカ・ポスト紙に描いた250コマ以上の「Seattle Tomodachi」。キャラクターの「シゲル・トモ」とその別人格である「サムライ・シゲル」を通して、初期の日本人入植者とアメリカ生まれの彼らの子孫の生活を描くなかで、文化や郷愁、歴史、サムライの価値観を伝える作品だった。デザイン研究者ケリー・ゴトウが、父親の作品を復活させ、父の遺産を振り返る。

  • UM Volume One, by buttercup (Radiator Comics)
    黒人でノンバイナリー、そして助産師をめざすユージェニーが主人公の魔法少女コミック。ユージェニーは、権力者と宇宙的シャーマン的な助産師の一派の間で繰り広げられる、千年にも及ぶ争いに巻き込まれていく。もともとウェブコミックとして配信されていて、クラウドファンディングで紙の単行本が刊行されました。

BEST ADAPTATION FROM ANOTHER MEDIUM

BEST U.S. EDITION OF INTERNATIONAL MATERIAL

  • All Princesses Die Before Dawn, by Quentin Zuttion, translated by M. B. Valente (Abrams ComicArts)
    ナタンと呼んで』の邦訳があるカンタン・ズゥティオンの作品。
    原書は『Toutes les princesses meurent après minuit』(フランス、Le Lombard)。
    1997年の夏。8歳の少年は口紅を塗り隣家の少年に恋をしている、10代の姉ははるか年上の恋人がいて、両親の仲は冷めきっている。三人の家族の三者三様のラブストーリー。2023年のアイズナー賞には電子書籍としてノミネートされていましたが、単行本化されて再ノミネートです。
    アングレーム国際漫画祭2023子ども向け審査員特別賞受賞アイズナー賞2023Best Degital Comicノミネート作

  • The Jellyfish, by Boum, translated by Robin Lang and Helge Dascher (Pow Pow Press)
    原書は『La Méduse』(カナダ・ケベック、Pow Pow)。
    小さいながら自分のアパートを持ち、安定した好きな仕事に就き、本屋の客に恋をする。オデットは順調な人生を歩んでいるように見えるかもしれない。しかし彼女の目の前に「クラゲ」が現れ、人生が一変する。オデットにしか見えないクラゲは増殖していく……。
    ACBDケベックBD賞2023グランプリ

  • Mothballs, by Sole Otero; translated by Andrea Rosenberg (Fantagraphics)
    アルゼンチンの漫画家ソロ・オテロさんの作品。
    原書は『Naftalina』(スペイン、SALAMANDRA GRAPHIC)。
    2001年、深刻な経済・政治危機にあるアルゼンチン。亡くなった祖母ヴィルマの家に引っ越してきた19歳の少女ロシオは、1920年代のイタリアから始まる祖母の人生を回想する。ムッソリーニが政権を握ったイタリアからアルゼンチンに渡ったヴィルマの両親。学校にも行けず、家父長制の残る社会で孤独に生きたヴィルマの人生からロシオは何を学ぶのか。作者の家族の歴史にインスパイアされた作品。
    ACBD批評グランプリ2023ノミネートアングレーム国際漫画祭2023フランステレビ読者賞受賞

  • Return to Eden, by Paco Roca; translated by Andrea Rosenberg (Fantagraphics)
    原書は『Regreso al edén』(スペイン、Astiberri)。
    』『』の邦訳のあるパコ・ロカの作品。バレンシア州都の古いナザレ海岸で1946年に撮影された家族写真から出発し、フランコ独裁政権下で生計を立てることに深刻な問題を抱えながら、日々の食料をかろうじて得るために組織的に闇市場に頼らざるを得なかった、質素な家族の一つを通して、戦後スペインの姿を描き出す。

  • Sunday, by Olivier Schrauwen (Fantagraphics)
    作者のいとこである架空の人物ティボーの一日。ガールフレンドが長期旅行から帰ってくる日、ティボーは目を覚まし、何もせず、ジェームス・ブラウンのことが頭から離れず、酒を飲み、タバコを吸い、恋人との関係に妄想を抱き、メールを書くのに苦労し、『ダ・ヴィンチ・コード』を見る。その間ずっと人との接触を避け、自分の思考と恐怖の深淵へと堕ちていく。一方、かつての片思いの相手とティボーの別のいとこがティボーにサプライズ誕生日をプレゼントしようと計画し、外部と内部が衝突する。
    オリバー・シュラウウェンはベルギーのオランダ語圏出身で現在はベルリン在住。 この作品の原書はよくわからなかったです。
    BEST GRAPHIC ALBUM—NEWノミネート。

BEST U.S. EDITION OF INTERNATIONAL MATERIAL—ASIA

  • Ashita no Joe: Fighting for Tomorrow, by Asao Takamori and Tetsuya Chiba, translated by Asa Yonola (Kodansha)
    高森朝雄、ちばてつや『あしたのジョー』(講談社)。
    言わずと知れたボクシングマンガの金字塔。これまで英語版になっていなかったというのが逆に驚きです。

  • Hereditary Triangle, by Fumiya Hayashi, translated by Alethea and Athena Nibley (Yen Press)
    林史也『世襲制トライアングル』(KADOKAWA)。
    藤木光太郎と親友の梶原は、冬子を巡って三角関係に陥ったが、梶原が突然失踪する。冬子と結婚した光太郎はずっと心にわだかまりを抱えていたが、帰郷した際に思わぬ人に出会い…。

  • Kagurabachi, vol. 1, by Takeru Hokazono, translated by Camellia Nieh (VIZ Media)
    外薗健『カグラバチ』(集英社)。
    父のもとで刀匠をめざして修行に励む少年チヒロ。しかしある悲劇が訪れ…。日本語版を外国人が買い求めたことでも話題になりました。

  • Last Quarter, vol. 1, by Ai Yazawa, translated by Max Greenway (VIZ Media)
    矢沢あい『下弦の月』(集英社)。

  • Search and Destroy vol. 1, by Atsushi Kaneko, based on the work of Osamu Tezuka; translated by Ben Applegate (Fantagraphics)
    カネコアツシ、手塚治虫『サーチアンドデストロイ』(マイクロマガジン社)。手塚治虫の『どろろ』をベースにしたオマージュ作品。

  • Tokyo These Days, vols. 1–3, by Taiyo Matsumoto, translated by Michael Arias (VIZ Media)
    松本大洋『東京ヒゴロ』(小学館)。
    理想の漫画誌をつくるために大手出版社を早期退職した編集者。

BEST DIGITAL COMIC

  • The Beauty Salon, based on the novella by Mario Bellatin, adapted by Quentin Zuttion; translated by M. B. Valente (Europe Comics)
    原書は『Salon de Beauté』(フランス、Depuis)。
    Fnac FranceInterBD賞2025ノミネート作。フランスでも出たばかりの作品が早くも英語版になっているところが羨ましい。それだけカンタン・ズゥティオンの固定ファンができているのか。バンド・デシネがまずは電子版で刊行されて紙版が刊行されるという流れもできていそう。
    ジェシュアは美容室の若きオーナー。昼間は顧客のヘアスタイルやメイク、マニキュアを丁寧にケアし、夜になると女装をして友人たちと練り歩く。しかし壊滅的な疫病が到来して、この平穏な日常は崩壊する。ジェシュアは自分の美容室を病人のための避難所にする。メキシコの作家マリオン・ベラティンの小説を、『Toutes les Princesses meurent après minuit』『ナタンと呼んで 少女の身体で生まれた少年』のカンタン・ズゥティオンがコミカライズ。試し読みを見ると、熱帯魚の水槽に囲まれた美容室であり、疫病にかかった病人の肌は熱帯魚のようになるように表現されていて、とても幻想的。

  • Beyond the Sea, by Anaïs Flogny; translated by Dan Christensen (Europe Comics)
    原書は『Rivages Lointains』(フランス、Dargaud)。
    フランスでブロマンスマンガが出るなんてと驚いていましたが、英語の電子版が同時発売してたんですね。シカゴ、のちにニューヨーク、マルセイユを舞台に1930年代から数十年にわたる男たちの生きざまを描いたマフィアものです。2025年10月には『Smoke Gets in Your Eyes』とタイトルを変えてハードカバー版が発売されるようです。
    来年にはフランスで続編が出るらしくて個人的にとても楽しみです。

  • Gonzo: Fear and Loathing in America, by Morgan Navarro; translated by Tom Imber (Europe Comics)
    原書は『Gonzo, voyage dans l’Amérique de Las Vegas Parano』(フランス、Dargaud)
    2005年に亡くなったジャーナリストであり、主観的な記述を特徴とする「ゴンゾージャーナリズム」の生みの親で、小説『ラスベガスをやっつけろ』の作者でもあるハンター・S・トンプソン。心配性な漫画家モルガン・ナヴァロは友人の記者とともに、このハンター・S・トンプソンと彼の知人、未亡人、テリー・ギリアム、ラルフ・ステッドマン、ジョニー・デップの足跡をたどる旅に出発する。アメリカン・ドリームとはかけ離れた国でのクレイジーな冒険。

  • My Journey to Her, by Yuna Hirasawa (Kodansha)
    平沢ゆうな『僕が私になるために』(講談社)。トランスジェンダー女性が身体的にも法律的にも女性になるために性別適合手術(SRS)を受けにタイへ旅立つ。

  • The Spider and the Ivy, by Grégoire Carle; translated by M. B. Valente (Europe Comics)
    原書は『Le Lierre et l'Araignée』(フランス、Depuis)。
    1940年秋、レジスタンスに加わった若かりし頃の祖父と、1995年夏、祖父の見守るなかマス釣りをする子どもの自分。祖父の青春時代と自身の幼少期を結び付けることで、かつては戦争と国家主義のトラウマを抱え、現在は環境災害の脅威にさらされているストラスブール周辺地域を記録する。

今年のBEST DIGITAL COMICは5作品中4作品がバンド・デシネ、1作品が日本のマンガと、北米の作品がなかったというのが面白いです。電子書籍の普及?によってバンド・デシネの英語翻訳がかなり進んだのでしょうか。

BEST WEBCOMIC

BEST PUBLICATION DESIGN

アーティストに対する賞

アイズナー賞では漫画家に対する賞も設けられています。簡単にご紹介します。

BEST WRITER

BEST WRITER/ARTIST

BEST PENCILLER/INKER OR PENCILLER/INKER TEAM

BEST PAINTER/MULTIMEDIA ARTIST (INTERIOR ART)

BEST COVER ARTIST

  • Juni Ba, The Boy Wonder (DC); Godzilla Skate or Die, TMNT Nightwatcher and others (IDW)
    セネガル出身のジュニ・バさんは『漫海第4号』のアフリカマンガ特集でも取り上げた作家さんです!

  • Evan Cagle, Dawnrunner (Dark Horse), New Gods, Detective Comics
    イヴァン・ケーグルはカバーアーティストでノミネートです。

  • Bilquis Evely, Animal Pound (BOOM!); Helen of Wyndhorn (Dark Horse)

  • Tula Lotay, Groupies (Comixology Originals); Helen of Wyndhorn #1, Count Crowley: Mediocre Midnight Monster Hunter #3, Dawnrunner #1, Barnstormers TPB (Dark Horse); Somna and others(DSTLRY); The Horizon Experiment (Image)

  • Hayden Sherman, Absolute Wonder Woman, Batman: Dark Patterns, Superman, Ape-ril, Batman: The Brave and the Bold) (DC)

BEST COLORING

  • Jordie Bellaire, Absolute Wonder Woman, Birds of Prey, John Constantine, Hellblazer: Dead in America, The Nice House by the Sea (DC); The City Beneath Her Feet (DSTLRY); The Exorcism at 1600 Penn (IDW); W0rldtr33 (Image); G.I. Joe, Duke (Image Skybound)

  • Matheus Lopes, Batman & Robin: Year One (DC); Helen of Wyndhorn (Dark Horse)

  • Justin Prokowich, Jimi Hendrix: Purple Haze (Titan Comics)

  • Javier Rodriguez, Zatanna: Bring Down the House) (DC)

  • Dave Stewart, Dawnrunner, Free Comic Book Day Comic 2024 [general], The Serpent in the Garden, Hellboy, Hellboy and the BPRD, Paranoid Gardens, Shaolin Cowboy Cruel to Be Kin Silent but Deadly Edition (Dark Horse); Ultramega, Universal Monsters: Creature from the Black Lagoon Lives! (Image Skybound)
    『Dawnrunner』私はフランス語版モノクロ版を購入したのですが、デイヴ・スチュワートさんによるフルカラー版もちょっと欲しいです…。

  • Quentin Zuttion, All Princesses Die Before Dawn (Abrams ComicArts); Beauty Salon (Europe Comics)
    カンタン・ズゥティオンさんはカラリストとしてノミネートされていますね。

BEST LETTERING

  • Becca Carey, Absolute Superman, Absolute Wonder Woman, Plastic Man No More! (DC); Radiant Black, Rogue Sun (Image); When the Blood Has Dried, Murder Kingdom (Mad Cave Studios)

  • Leela Corman, Victory Parade (Pantheon)

  • Clayton Cowles, Animal Pound (BOOM! Studios); FML, Helen of Wyndhorn (Dark Horse); Absolute Batman, Batman, Batman & Robin: Year One, Birds of Prey, Jenny Sparks, Wonder Woman (DC); Strange Academy, Venom (Marvel)

  • Emil Ferris, My Favorite Thing Is Monsters, Book Two (Fantagraphics)

  • Nate Powell, Fall Through (Abrams ComicArts); Lies My Teacher Told Me (New Press)
    ネイト・パウエルはアメリカの下院議員ジョン・ルイスの自伝『MARCH』の作画をされていた方ですね。

~~~

さてアイズナー賞2025のノミネート作品いかがでしたでしょうか?
なんとなく印象としてメインストリームのコミックよりオルタナティブ系の作品が強かった…?と感じました。ノミネート最多出版社がファンタグラフィック社というのも興味深いです。
私も気になる作品は読んでみたいと思います!
また最優秀賞が決定されたらご紹介しますね!

参考資料:過去の受賞作品


いいなと思ったら応援しよう!

書肆喫茶mori~海外コミックスのブックカフェ 海外マンガの情報発信とお店を続けていくために大切に使わせていただきます!応援よろしくお願いします!