「なんかいい」が価値になる
例えば引越しを考えていて家を探すとき。駅から徒歩10分、間取りは30㎡以上、築20年以内……みたいに数値の指標を使って条件を絞り込むことは珍しくないと思います。
「風が抜けて気持ちいい」「歩くと楽しい路地がある」「寄り道したくなる公園がある」といった感覚って、実際に現地に行かないとわからないもの。でも、こういう数値化できない指標が、意外と居心地良さの決め手になったりします。
ちなみに私が今住んでいる家の決め手になったのは、お向かいにサボテンとメダカを育てまくるおじいさんが住んでいて、そのおじいさんが向かいの道まで勝手に庭化してしまっているという「はみだし」感。
あとは坂の上にあって、向こうの方まで景色が見渡せる気持ちよさ。
駅からはちょっと遠いし高低差も激しいですが、むしろその地形に翻弄される感じまで気に入りつつあります。
7月18日土曜。まちを歩いて見つけた「なんかいい」を自分のものさしに変換するワークショップ「ぶやぶや渋谷」に、ゲストとして参加しました。

まちあるきのヒントは、数値では測りきれないまちの魅力を可視化する「まち感性指標」。
そしてAI×感性データを軸に、まちを歩きながら撮った写真をアップすると、視点や発見を雑誌のように自動編集してくれるアプリ「timespace ZINE」。
イベントの詳しい様子は、イベントにも登壇されたまち感性ラボ・小島和人(ハモ)さんがnoteにまとめてくださっています。
20人ほどが参加した今回のワークショップ。事前トークの後は各自渋谷のまちに散らばり、グッと来たものを「timespace ZINE」に記録。その後ふたたび集まって、「まち感性指標」づくりを行いました。
構造物を額縁に見立て、その中で切り取られた風景を楽しむ「まちの中のがくぶちの数」、「公的にYesとは言えないけれど、警察につかまらないくらいのイタズラ」、「樹木の根に引っかかって転ぶ率」など、人それぞれの「感性指標」が生まれたのでした。
「なんかいい」という感覚を出発点にする時間。それを他者に開きながら言語化していくからこそ、熱量高いコミュニケーションが生まれるのでしょう。イベント終了後も、参加者の皆さんが時間を惜しむように会場に残り、あちこちで会話が弾んでいたのが印象的でした。
絶対的・客観的な数値に向かうのではなく、人それぞれのものの見方や感性がベースになっているから、正解・不正解はない。違いを楽しむ。
その余白を受け入れ合う空気が心地よかったです。
まち歩きの時間では、神泉界隈を歩きました。神泉の名前は、かつて湧いていた泉に由来します。その一つが、神泉駅すぐそばにあった弘法大師ゆかりの「弘法湯」。明治時代に隣接地に「神泉館」が開業したことで、周りは花街として発展していきました。昭和になると花街はラブホテル街となりましたが、今も花街の名残で「芸者階段」が残っています。
渋谷の地形や文化の成り立ちと深く関わる泉がこんこんと湧き出ていた土地。高低差があり、松濤の高級住宅地と円山町のラブホ街が隣接し、聖俗入り混じり猥雑で、いろんな人が行き交っていて、新旧ごちゃまぜで、不思議な階段や気になる路地がたくさんあって。
「なんかいい」を発掘しがいのあるエリアでした。
私自身、普段まちを歩く時も、「この先に名所旧跡がある」という情報よりは、「こっちの道なんか気になる」という嗅覚を優先しがち。
2019年から続けているSABOTENSのまち歩き連載「まちのミカタ」でも、嗅覚に従って歩いた結果、一般的なイメージとは違うけど素敵で味わい深いまちの表情に、たくさん出会うことができました。

ハモさんがnoteに書いてくださっていますが、昨秋に出版した『緑をみる人』で世界各地の人が撮った「スキマの緑」の風景を集めた時、丸い穴に植物が生え揃った様子を写真に収めた人たちがたくさんいたのが印象的でした。
限られたスペースに何かが収まることの気持ちの良さ。箱庭のような世界観。人工物の中で生命が芽吹くことを見守る嬉しさ。こうしたものを「好ましい」と思うのは、国を超えて根源的に共通した感性なのか。
そんな話題にも花が咲きました。

また、そうやって気になったものに名前を付けることでアンテナが立ち、観察を重ねることで愛着が生まれるという話題も。
私を含め、路上観察や都市鑑賞を楽しむ人たちには、独自の名前をつけた「マイテーマ」をいくつも持っている人は少なくありません。呼びやすい名前をつけることで、他の人とも発見を共有でき、なんなら「片手袋=石井公二さん」「ビル毛=小堺丸子さん」「装飾テント=内海慶一さん」みたいに、対象物を見た瞬間それを愛でる人の顔がセットで思い浮かぶことも。
散歩の達人の連載「COLLECTOR'S COLLECTION」では、先行企画である「散歩道場へようこそ」を含め、まちのさまざまな対象物を愛でる方たちに、これまで50人以上お話を聞いてきました。
今やまちの至るところに知り合いがいる状態で、ちょっと歩くごとに誰かにバッタリ会うので大忙しです。
テクノロジーを活用して、一人ひとりの「なんかいい」を出発点に、まだ見ぬ価値を生み出す「ぶやぶや渋谷」。
宝探しのようなワクワク感と、大きな可能性を感じました。これから他の地域でも展開予定とのことで、今後の広がりが楽しみです。
イベント全体の組み立て方や、参加者の心理的安全性を高めるためのきめ細やかなサポート、わかりやすい言葉でワークショップを進めるファシリテーション……勉強になることだらけでした。
ご参加いただいた皆さん、鈴木うららさんをはじめとするロフトワークの皆さん、まち感性ラボの小島和人(ハモ)さん、株式会社timespaceの高山累さん、井口尊仁さん、ご一緒させていただき、本当にありがとうございました。
