【小説】メンズエステのめぐみさん⑯
美咲と愛編は⑮からの続きです。
16話 美咲と愛(1/2)
冷静に考えると、変な状況だ。
1度だけしか会ったことがないのに、自分のトラウマを話した女性と、職場が同じで何度も会っているが、そんなに話もしたことがない女性。
ほとんど正体を知らない美女二人。そして、その二人は旧友だったと言う。
渡辺の緊張は頂点まで達していた。
しかし、気遣いができる二人は、昔話になっても、独りぼっちにならぬよう、渡辺にも話を振ってくれた。
緊張から、会話の内容は全く覚えていないが、会話を成立していることは分かった。
一方の二人も、数年ぶりの再会ということもあり、渡辺というワンクッションがあるおかげで、逆にスムーズに会話をすることができていた。
お酒をほとんど飲めない3人は、社会人の仕事帰りの飲み会には珍しく、全員ソフトドリンクで、イタリアン料理を楽しんでいた。
「あ、すみません。ちょっとお手洗い行かせてください。」
渡辺は、失礼しますと言いながら、愛の後ろを通って廊下に出た。
美咲も愛も、渡辺がいなくなり、会話の均衡が崩れたことに瞬時に気が付いた。
ほんの数秒の沈黙だったが、何時間にも思えるほど重く深いものだった。
「美咲さ、なんでいきなり大学来なくなっちゃったの?」
愛は何年間もずっと聞きたかったことを伝えた。
美咲はこの問いが来るのをわかっていたかのように、ふっと鼻で笑った。
「私、美咲の連絡先を色々探したけど全然たどり着かなくて。お店もいきなりやめちゃったからさ。店長に聞いても教えてもらえなかったし。」
沈黙が続く。
「あの時は、正直本当にむかついたし、悲しかった。親友だと思っていたし、同志とも思っていたから。
他の人に言わないならまだしも、私にも相談なくいきなりだったから。でも、今はこうやって会えたしもう過去はどうも思わないようにする。ただ、何があったかだけは聞きたいんだ。」
「そっか。うん。そうだよね。」
「でも、私、多分愛ちゃんのそういう所もうざく感じてたんだろうな。」
「え、どういうこと?」
美咲は、愛の問いには答えずぽつりぽつりと話し始めた。
~~~~~~~~~
【美咲、明日一度実家に帰ってきなさい。】
父からのメッセージに、嫌な予感がした。
普段だったらめんどくさいだのお金がないだの言って帰らないことが多かったが、今回はそんなことは言えないと直観が判断した。
最後に実家に帰ったのはいつだったのか。それさえも覚えていないほど実家には帰っていなかった。
例年より寒かったが、12月になったばかりでまだ初雪は観測していなかった。
実家に帰ると、父と母、弟の三人は非常に深刻そうな顔をしてリビングに座っていた。
「美咲。ごめん、大学をやめてくれないか?父ちゃんな、借金ができちゃったんだ。」
嫌な予感は的中した。
~~~~~~~~~
愛はびっくりした顔をしていたが、美咲は話し続けた。
「そこからは、大学を休学して働いた。メンズエステはもちろん、お酒飲めないくせにラウンジでも働いたし、パパ活もした。メンズエステのお客さんにもみんなに、+2万円で性行為をするって営業もしたし。
好きでもない男に愛想振りまいて、感じてないのにいったふりをした。
たった、2万円の為に。好きでもない人と。私ってやっすいなと思っても、その2万円でさえありがたかった。
もちろん情けない気持ちになったよ?
悲しくて辛くても、一生もやもやが残るって知ってたよ?
でもそんなこと言ってられなかった。」
愛が何か言いたそうだったが、そのまま話した。
「でも、愛ちゃんに相談したって無理だった。だって愛ちゃんも大変な環境だったし。なんにもできないでしょ?それに、愛ちゃんがなんかできても、助けられたくなかったし。同情なんてされたくなかったし。親友だからこそ対等でいたかった。でも、愛ちゃんって優しいから。私のこと何とか助けようとするでしょ?だから、嫌だったの。」
美咲の目には涙が溢れた。
「ごめんね。美咲。」
「なんで謝るの。」
「なんにもできなくて。親友なのに。」
目をハンカチで拭くと笑って答える。
「愛ちゃんずっと言ってたじゃん。体売るのは無理。そうことするのも、そういうことする人も生理的に受け付けられないって。だから言えないのもあったんだよ?」
「本当にそれはごめんね。確かにそう思っていた。でも、メンズエステで働いてて私も考えが変わったの。」
「変わった?」
「うん。お客様でも、家庭の悩みを抱えている人もいれば、すごく重い失恋をしている人もいる。みんなにいじめられた人もいれば、ただメンズエステが好きで来てくれる人もいる。みんな心に何かを抱えて生きてるって。でも、どんなに頑張ったって人の内側ってわからない。でも、、。いや、だからこそ、相手のことを知ろうとすることって大事だと思う。
・・・なのに、私は、体を売るってことだけに着目して、中身を見ずにただ拒否してた。そういう私も含めて美咲に謝りたい。本当にごめんね。」
私にも美咲にも涙が溢れていた。
「あの。すみません。」
愛の後ろから扉が開く。
涙でいっぱいになった渡辺が入ってきた。
「まずは二人に謝りたいです。ごめんなさい。聞いちゃダメってわかっていたんですが、聞こえてしまいました。」
「渡辺君にも聞かれちゃったか。私の過去。なんかつらいな。私、少し渡辺君のことを良いと思っていたから。でもこれでおしまい。」
「美咲さん。僕と付き合って下さい!僕と結婚して下さい!一緒に借金を返させてください!」
「渡辺君?」
「過去の話を聞いても美咲さんのことを好きって気持ちは変わりませんでした。実は、初めて会った時から美咲さんのことが好きだったんです。でも踏み出せなくて。。昔、学年の女性全員にいじめられた経験があったから。
でもそんな自分を変えたくて、踏み出したくて。メンズエステに行った時に、愛さんに施術してもらったんです。こんな過去がある僕ですが美咲さんといたいと思いました。」
「渡辺君?」
「はい。」
「情報が多くて。」
美咲は笑う。
「私、まだ少しいいかなって思ってたくらいだから、結婚はまだ考えられないかな。それに、今年の8月に借金はなんとか全部返せたから手伝う必要もない。
・・・でも、こんな私でよかったら今度は二人でご飯に食べに行ってくれませんか?」
「は、はい!やった!!!」
「あ、でも。私、浮気とか風俗にいく男って無理だから。」
美咲のぎろっとしたきつい視線に渡辺は慌てふためく。
「そ、そんなこと絶対しますぇせん!!」
その慌て方を見て、私と美咲は声を出して笑った。
次回最終回です!(7月16日18:00に公開予定です。)
