見出し画像

事件簿ファイル#88[特別編]:まだ動いているから大丈夫/見えない倒産シリーズ①



◼️SAP保守終了で始まる“見えない倒産”


【特別編イントロ】

今回の特別編は、通常の物語とは少し違う。
理由は一つ。
すでに始まっているリスクだからだ。

日本の中小企業の多くはSAPを使っていない。
だが、使っている企業は例外なく――
👉 取引の“中枢”にいる会社だ。
その会社が止まると、連鎖して止まる。
そして今、その中枢を支えている仕組みが
静かに“前提を失おうとしている”。

2027年。
この年を境に、
「直してもらえる前提」
「法改正に追いつける前提」
が崩れ始める。

だが本当に危険なのは、その瞬間ではない。
👉 間に合わない企業が、すでに出始めていることだ。
この物語は、その“手前”を描く。


【プロローグ】

その会社は、倒産していなかった。

売上はある。
利益も出ている。
資金繰りも問題ない。
銀行も、まだ融資を止めていない。

それでも――
その会社は、もう終わっていた。

原因は、資金ではない。
人材でもない。
市場でもない。
“システム”だった。

しかも、壊れてはいない。
正常に動いている。

それなのに、なぜ終わるのか。
理由は一つ。
壊れる未来が確定しているのに、誰も動いていなかったからだ。



第1章 正常という罠

創業35年。従業員48名。年商約8億円。
東陽精機は、典型的な“潰れない会社”だった。

売上は横ばい。
利益は薄いが黒字。
銀行との関係も安定している。
そして何より、業務が回っていた。

その中心にあったのが
SAP ECCだった。

20年前に導入された“会社の中枢”。
受注、出荷、在庫、会計――
すべてがそこを通る。

だから誰も疑わない。
👉 壊れていないものは、安全だと思っている。

第2章 通知は軽く、影響は重い

2026年4月。
社長の高瀬の元に一通のメールが届く。

「保守方針変更のお知らせ」

内容はこうだ。

  • 2027年で通常保守終了

  • 以降は特別対応

  • 新システムへの移行推奨

高瀬は言った。
「まだ先だな」

だが現実は違う。
基幹システムの移行には、通常3〜5年かかる。
👉 今動いても、ギリギリだ。
だが社内に、その認識はない。

第3章 見えない負債

20年間、会社は“積み重ね”てきた。
得意先ごとの対応。
独自の処理。
制度変更への対応。

その結果――
👉 誰も理解できない仕組みが完成した。

設計書はない。
説明できる人もいない。
これはもはやITではない。
👉 “業務そのもの”である。

見積は約6,000万円。
期間は約30ヶ月。

社長は言った。
「無理だ」
その瞬間、選択肢が消えた。

第4章 小さなズレ

異変は、制度対応から始まる。

「対応できないかもしれません」
理由は単純。
👉 変化を前提に作られていない

対応は可能。
だが、

  • 費用増

  • 納期不明

  • 保証なし

そして一言。
「今後は難しくなります」

空気が変わる。
だが、誰も動かない。
👉 まだシステムは動いているからだ

第5章 すでに遅れている

システムは動いている。
だから問題はない。
そう思っている。

だが現実は逆だ。

  • 対応できる企業はすでに動いている

  • 人材は奪い合いになっている

  • ベンダーは埋まり始めている

👉 “動いていない企業だけが取り残されている”

高瀬は、資料を見ていた。
数字。期間。費用。

そして――
何も決めなかった。
その瞬間、未来は確定した。


問題は起きていない。だが、すでに勝負は終わっている。


🧾 【本文要約】

本話は、SAP保守終了問題を「見えない倒産リスク」として描いたものである。

東陽精機(従業員48名・年商約8億円)は、20年前に導入した
SAP ECC
により安定した経営を維持していた。
しかし2027年の保守終了に関する通知を受けても、「まだ先の話」と判断し、対応を先送りする。
一方で現実は、基幹システムの移行には3〜5年を要するため、2026年時点で既に猶予はほぼ残されていない。
さらに長年のカスタマイズによりシステムはブラックボックス化し、移行は単なる置き換えではなく、業務そのものの再設計を伴うプロジェクトへと変質していた。
見積は約6,000万円・30ヶ月。

社長は「無理だ」と判断し、意思決定は停止する。
その後、制度対応のズレという小さな違和感が発生するが、システムは稼働し続けるため、組織として危機は認識されない。
本話の本質はここにある。
問題が起きていない段階で、すでに勝敗は決まっている。
またSAP導入企業は中小企業全体では少数であるが、サプライチェーンの中核を担う企業が多く、
その停止は連鎖的に広がる。


⚠️【本質】

先観経営論の本質「予兆」をあなたは把握しているか?

問題は「将来」ではない
問題は「すでに遅れていること」である


🧠【構造(なぜ動けないのか)】

本問題が深刻なのは、単なるIT課題ではないためである。

  • 業務とシステムが一体化している

  • 変更すると業務が止まる

  • 誰も全体を理解していない

  • 判断できる人がいない

👉 つまり「構造的に動けない」状態


🔍 【重要インサイト】

SAPを使っている中小企業は多くはない。
だが、その企業が止まると、取引は連鎖して止まる。


🛠 【解決の方向性(概略)】

本問題の解決は「システムを変えること」ではない。
👉 経営の意思決定の問題である。

方向性は大きく3つに分かれる。

  • すべてを置き換える

  • 一部だけを切り出す

  • 現状を延命する

だが重要なのは選択肢ではない。
👉 “いつ決めるか”である。
この違いが、企業の生死を分ける。
(※具体的な戦略は後続回で詳述)


📊【リスク(未対応の場合)】

  • 法令対応不能

  • 業務停止

  • 信用低下

  • 取引断絶

👉 そして最も危険なのは“連鎖”である


🎯【読者への問い】

あなたの会社は、
👉 「まだ動いているから大丈夫」と言っていないか?


▶ 【次回予告(#89)】

誰も怠けていない。
誰も間違っていない。
それでも、会社は動けない。

👉 次回
「誰も責任を取れないシステム」


📄 【免責事項・著作権について】

■ 免責事項

本記事は、企業経営におけるリスク認識の向上および意思決定の一助となることを目的として作成されたものです。
記載内容は、一般的な情報および公開情報に基づき構成されているが、その正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。
また、本記事における内容は特定の企業・製品・サービスの導入または不採用を推奨するものではなく、最終的な判断は読者自身の責任において行ってください。
本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害(直接的・間接的・派生的損害を含む)についても、作成者は一切の責任を負いません。
なお、本記事内に登場する企業名・人物名・事例等は、特に明記がない限りフィクションであり、実在の団体・個人とは関係ありません。

■ 専門領域に関する注意

本記事は、IT・会計・法務・税務等の専門的判断を必要とする領域に言及する場合がありますが、これらについては一般的な情報提供にとどまるものであり、専門的助言(アドバイス)を提供するものではありません。
具体的な対応については、必ず各分野の専門家(ITコンサルタント、税理士、弁護士等)に相談することを推奨します。

■ 著作権について

本記事に掲載されている文章・構成・表現・コンテンツの著作権は、作成者に帰属します。
著作権法により認められる引用の範囲を超えて、無断での転載・複製・改変・配布・販売・二次利用等を行うことを禁止します。
引用を行う場合は、以下の条件を満たすこと。

  • 出典を明示すること

  • 主従関係を守ること(引用が従であること)

  • 内容を改変しないこと

■ 二次利用・商用利用について

本コンテンツの全部または一部を用いた商用利用(教材化、セミナー資料、転載記事等)を行う場合は、事前に許諾を得てください。
無断利用が確認された場合、法的措置を含めた対応を行う可能性があります。

■ シリーズに関する位置づけ

本記事は『事件は社長室で起きている』シリーズの一編であり、
特定の課題に対する包括的な解決を単独で提示するものではありません。
全体像の理解には、シリーズ全体を通じた読解を推奨します。

提唱:先観経営論(PreVision Management Theory)
by 新井和弘


◼️見えない倒産シリーズ

いいなと思ったら応援しよう!