取調べで話すか黙秘か迷っている方へ‐判断を左右する5つの要素
「何も話さなければ、やったと思われませんか」「本当にやっていないのだから、説明した方がよいのではありませんか」
黙秘を勧めると、本人や家族からよく聞かれる質問です。日常生活では、質問に答え、誤解があれば説明することが誠実な態度とされています。しかし、取調べという異質な場面で日常生活での判断を持ち込むのは危険。捜査機関の証拠を十分に見られない段階で、自分の言葉を証拠として残すことのメリットとデメリットをきちんと比べて判断することが重要です。
どのような事件でも常に黙秘が最善の選択肢、というわけではありません。しかし、話すのであればそうしたほうがメリットが大きいことをきちんと言語化出来ていることが重要だと思います。言葉で説明できないということは、本当は黙秘のほうが良い場面なのかもしれません。
黙秘はどのような権利ですか
日本国憲法第38条第1項は、何人も自己に不利益な供述を強要されないと定めています。被疑者の取調べについても、刑事訴訟法第198条第2項は、自己の意思に反して供述する必要がない旨をあらかじめ告げるよう定めています。
黙秘は、やましい人だけが使うようなものではありませんし、卑怯な手段でもありません。身を守るために認められた正当な権利です。ただし、取調室では弁護士が隣に座ることはできません。黙秘すべきかどうか、隣でアドバイスすることは出来ないのです。きっちりと事前に方針を決めておく必要があります。
要素1 捜査機関が持つ証拠を確認できていますか
捜査段階では、被疑者側には捜査機関が持つ証拠を十分に確認できないのが通常です。防犯カメラ、通話履歴、位置情報、メッセージ、口座記録、関係者の供述。そのどれを持っているか分からないまま、過去の出来事を記憶だけで説明することになります。
人の記憶は、映像のように正確に記録・保存されているわけではありません。日付を取り違えたり、複数の出来事が混ざったりします。本人は正直に答えたつもりでも、客観的な記録と食い違えば、「嘘をついた」「供述が変わった」と評価される材料が増えます。
無実を訴える事件ほど、説明を急ぎたくなるものです。しかし、証拠を見ないまま詳細に話すと、本人が把握していない証拠との齟齬が生じる危険が高まります。一度生じさせたそのデメリットは、後で消すことは容易ではありません。
要素2 話す範囲を自分でコントロールできますか
「この点だけ説明するつもりだった」としても、一つ答えると、その理由、前後の行動、話に出てきた人との関係性などへとどんどん質問が広がります。
共犯者、余罪、会社の業務や複数の取引が関係する事件では、一つの説明が別の疑いを生むことがあります。どこまで答えるのかを、弁護士が同席していない取調べの場で、毎回間違えずに判断し続けるのはとても困難です。
一部だけ話して残りを黙秘することは確かに可能です。しかしそのラインを守ることが本当に実現可能なのかは、事前に検討することが必要です。
要素3 話すことで得られる具体的な利益は何ですか
「正直に話した方が印象がよい」「黙秘すると不利になりそう」という抽象的な期待だけで、供述することを選択するべきではありません。話すなら、どのようなメリットを得るために話すのかをきちんと言語化する必要があります。
捜査機関の筋書きとは別の合理的な説明を早期に示し、必要な証拠が失われないようにする場面もあります。被疑事実を認める事件で、行為の経緯や現在の認識を伝える意味がある場合もあります。
ただし、「話せば分かってもらえるはず」という期待は持つべきではありません。それとは別に、話をすることでどのようなメリットを得ようとしているのかをきちんと確定できて初めて、黙秘を解除する理由になります。
要素4 取調べ以外の方法で伝えられませんか
あなたの言い分を伝える手段は、取調べで話をすることだけではありません。弁護士があなたの話をまとめ、文章化し、それを捜査機関に提出することでも目的は達成できます。わざわざあなたを疑っている人に文書を作ってもらう必要などないのです。
取調べは、質問の順番や調書の表現をこちらが制御しにくい場所です。同じ目的をより安全な方法で達成できるなら、取調べで話す必要はありません。目的に最も合う手段を選ぶべきです。
要素5 すでに話したことを理由に、話し続けようとしていませんか
一度話した後でも、黙秘へ切り替える意味はあります。過去の供述は消せませんが、話し続ければ、証拠との矛盾の回数がどんどん増えていきます。
また、あなた自身が話している内容も、取調べを繰り返していくなかで変遷していってしまうリスクも増え続けます。
昨日はAと説明していたのが、今日はBという説明をする、それが明日Cとなれば、裁判では「供述が変遷を繰り返しており信用できない」と指摘されてしまいます。そんなこと起こるわけないと思うかもしれませんが、取調べという極度の緊張状態ではこのようなことは珍しくないのです。
一度話したのだからその後も話し続けなければならない、などというルールはありません。これまで何を話し、調書に署名したかを整理したうえで、今後の方針を決め直せます。
取調べ拒否という方法もあると聞いたのですが
黙秘は取調室には行くが質問に答えないという方針です。これに対して、取調べ拒否は、取調べの場への出頭、取調室での滞留、取調べの継続そのものを拒む弁護方法です。
逮捕・勾留されていない被疑者については、刑事訴訟法第198条第1項ただし書に、出頭を拒み、出頭後も退去できる旨の明文があります。他方、身体拘束中の取調べ拒否とは、法的な位置づけも実務対応も同じではありません。後者には現在も争いがあり、捜査機関との対応や記録化を含めた弁護活動が必要です。
取調べ拒否は、黙秘よりさらに対応が難しい方針です。自分一人で決断し実行することは極めて難しい。必ず弁護士と相談して方針を決めてください。
黙秘を決めた後に必要な準備は何ですか
黙秘は「黙っていればよい」というほど簡単ではありません。次の準備が必要です。
なぜ黙秘するのかをあなた自身が理解する
最初に「黙秘します」と伝え、その後の応答方法を決める
家族、処分、弁護士への不信を利用した説得を予想する
雑談、経歴、すでに話した内容にも応答しないことを理解する
話してしまった場合にも、そこで諦めず弁護士へ報告する
黙秘は本人の精神論だけで実現できるものではありません。
逮捕・勾留されていない任意取調べで、弁護士が警察署へ同行すると何が変わるのかは、こちらの記事で紹介しています。
家族が本人に伝える言葉も方針の一部
家族が本人と話せる場面があっても、家族が独自に取調べに対する方針を決めるべきではありません。
「事件のことは家族にしなくて大丈夫。取調べでどう対応するかは弁護士と決めて。」
「早く帰るために何を話すかではなく、まず弁護士と方針を決めてください。」
反対に、避けた方がよい言葉があります。「やっていないなら正直に話せばよい」「早く認めれば帰れる」「警察に逆らうと不利になる」「家族に迷惑をかけたのだから謝りなさい」「話を合わせた方がよい」といった言葉です。
どれも家族として自然に出てしまう言葉かもしれません。しかし、本人には強いプレッシャーとして届き、弁護士と一緒に決めた最善の方針を崩してしまうきっかけになることもあります。
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FAQ
Q. 黙秘すると逮捕や勾留が長くなりますか。
黙秘それ自体を理由に身体拘束を長くしてよいわけではありませんが、実際の見通しは事件の内容や他の事情も踏まえて判断する必要があります。
Q. 認める事件でも黙秘する意味はありますか。
あります。余罪、共犯者、証拠の範囲が分からない段階では、不利益が広がることがあります。他方で供述する利益がある事件もあり、一律ではありません。
Q. 途中で話してしまったら黙秘は失敗ですか。
そこで終わりではありません。何を話したか、調書に署名したか、どのような働きかけを受けたかを弁護士へ伝え、次の取調べから方針を立て直せます。
取調べ方針を決めたい方へ
取調べで話すか黙秘するか迷っている方は、公式LINEで「取調べ予定あり」とお伝えください。

取調べ日時、身体拘束の有無、すでに話した内容、調書への署名の有無を整理し、相談が必要かを確認します。
