取調べに弁護士が同行すると何が変わる?取調室の外で行っていること
こんにちは、弁護士の髙野です。
警察署の廊下で待っていると、取調室から依頼者が出てきます。
「想像もしていなかった証拠を見せられた。」「調書を作ると言われた。」「解析に回すのでスマホを提出してほしいと言われた。」
その場で依頼者と相談し、取調室へ戻って話を続けるのか、回答を止めるのか、署名に応じるのか、スマホを提出するのかを決めなければなりません。
現在の日本には、被疑者取調べに弁護士が当然に同席できるという制度はありません(議論は進められています)。それでも、警察署に同行し、依頼者が取調べを受けている間、部屋の外で待機するということには意味があります。気になることを言われた、供述調書への署名前などの節目節目で、依頼者本人が一人で判断しなくてよい状態を作れるからです。
私が実際に行った取調べの同行から、繰り返し現れた実務を抜き出してお話します。
取調室へ入る前に何を決めるのか
取調べに対する対応は、まずは事前準備が重要です。依頼者本人が確実に覚えていること、資料を見なければ分からないこと、推測で答えてはいけないことなどを分けていきます。
さらに、どの場面でいったん取調室を出るかを決めておきます。例えば、次のような場面です。
事前に知らされていなかった証拠を示された。
想定していなかった事実や関係者について質問された。
スマートフォンや資料の提出を求められた。
供述調書を作る、又は署名を求められた。
威圧的なことを言われた。脅された。
質問にどう答えるべきか迷った
重要なのは、迷ったら一旦出てきてもらう、という姿勢を徹底してもらうこと。一度話してしまったこと、署名してしまったものをあとからなしにすることは非常に難しいです。ですので、細かいことかもだけど、十中八九大丈夫だけど、ということでもとりあえず出てきて相談してもらう。この慎重な姿勢が重要であることを理解してもらうようにします。
途中で相談すると何が変わるのか
逮捕されていないのであれば、取調べを受けるかどうかは任意です。当然、一旦応じた取調べを続けるかどうかも任意です。取調室に居続けなければならないということはありません。
多くの方にとって、取調べという緊張を強いられる場で完全に冷静に判断をすること、それを続けることは簡単ではありません。
弁護士が同行することで、自分一人ではない、自分ですべて決めなくて大丈夫という少しの安心感があるはずです。それだけでも同行する価値はあります。
そしてもちろん、示された証拠や質問の内容を共有し、回答方針をその場で調整することで、必要のないこと、誤解を生じるような供述を事前に防止することが出来ます。これにより、将来の不利益の発生を防止することが出来ます。
もしかしたら、警察官や検察官にとっても、弁護士がその場にいるということはプレッシャーになっているかもしれません。不当な言動をすれば、直ちにそれが弁護士に告げ口され指摘されるという状況は、取調べにおける担当者の態度を柔らかくする効果も期待できるかもしれません(昨今の録音録画状況下での発言内容を見ると期待は薄いかもしれませんが)。
供述調書は「話したとおりになっているか」だけを見ればよいのか
供述調書の確認では、言葉が本人の発言と一致しているかだけを見れば足りるというものではありません。ニュアンスはもちろん、書くべきものがきちんとすべて書かれているかという視点も重要です。
弁護士が署名前の調書の下書きを直接読ませてもらうことはほぼ出来ません。本人が読んだ内容を外で共有するなど、実際の対応は担当者や事件によって変わります。
調書の読み聞かせが終わった後、署名前に必ず外に出てきてもらって、次の点を確認していくことになります。
推測にすぎないことが、確信していたように書かれていないか
本人の認識を支える事情が抜けていないか
事件と関係の薄い家族情報などが必要以上に残っていないか
過去の説明との間の変遷と捉えられるような書き方になっていないか
必要であれば、本人から追記や削除を求めます。内容に納得できない場合には、署名しない選択肢もあります。
捜査機関が現在の方針を話してくれることもある
取調べ同行には、捜査の現状を知る入口になる面もあります。
これは標準的な同行業務の効果ではありませんが、実際に私が同行した事件では、取調べの合間に担当者が待機中の私のところへ来て、現時点での捜査の見立てや、今後どのように捜査を進めるつもりなのかを、ざっくばらんに説明してくれたことがありました。
依頼者と私たち弁護士は、想定される最悪のケースも考えて、取調べに対する方針を決めざるを得ません。捜査機関がどのような証拠を持っていて、今後どのような捜査を進めていくかがわかっていないからです。
一方、捜査機関としては、そこまで大事にするつもりはないのに、と感じる場面もあるのだと思います。
このような場面で捜査機関としては「そこまではしないから話してよ。」と依頼者に説明することは出来ないでしょう。利益供与を理由に供述の任意性に疑義が生じてしまうからです。そういう時に弁護士が来ていると、間接的にこれを伝えることができ、捜査機関側にとってもメリットが有るわけです。
これは、弁護士が同行すれば必ず情報を教えてもらえる、という話ではありません。担当者によって対応は違いますし、その時点の見立てが後から変わることもあります。また、捜査機関の発言を確約のように信じるのも危険です。
それでも、同行当日に弁護士と捜査官が直接話す機会が生じ、捜査の大まかな方向を確認できる場合があり得ることは事実です。その時点での捜査機関の説明が確実とは限りませんが、得られた情報を他の事情と照らせば、どこまで協力し、何を提出せず、次の取調べまでに何を確認するかを考える材料になります。同行には、本人の防御に加えて、限られた情報から今後の見通しを組み立てる役割もあります。
取調べが終わった後に何を残すのか
取調べが終わった後は、依頼者とそのまま打合せを行い、聞かれたこと、示された証拠、答えた内容、署名した調書、提出した物、次回までに求められた資料を整理します。
特に、本人がその場では気に留めなかった質問が、後から見ると捜査期間が関心を持っているポイントであると気づくことがあります。直後に記録を作っておけば、次回の方針を立てやすくなり、記憶が曖昧になってしまうことも防げます。
弁護士に取調べ同行を依頼するか考えるときは、「警察署まで来てもらえるか」だけでなく、取調べ前、途中、調書への署名前、終了後のどの節目で、何を相談し、どう方針を決め直せるのかまで確認してみてください。
取調べ同行の価値は、密室の中で起きたことを外へ持ち出し、一人で決めなくてよい状態を作ることにあります。
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FAQ
弁護士は取調室の中に入れないのですか
現在の日本では、取調べに弁護士が当然に同席できる制度はまだありません。例外的に同席が認められることはありますが、通常は取調室の外で待機しています。
取調べの途中で本当に外へ出られますか
逮捕・勾留されていない状態での取調べは、出頭後に退室することは自由にできます。ただし、現場で取調べ担当者から退室を渋られることがあるのは事実です。その場合には、まずは担当者を無視して部屋を出たうえで、すんなり退室させてくれなかったことを弁護士に伝え、対応を検討することになります。部屋を出るのを諦めて、弁護士に相談せずに供述や署名することは絶対にやめましょう。
弁護士が同行すれば調書を確認してもらえますか
弁護士が署名前の調書を直接閲覧できるとは限りません。本人が見せられた内容を外で口頭で弁護士に共有してもらうことになります。その場合には、できるだけ調書の記載を正確に伝えて下さい。
捜査状況は必ず教えてもらえますか
必ずではありません。ただ、担当者が弁護士に現在の見立てや今後の方針を説明してくれるケースはあります。その内容も確約ではないため、他の事情と合わせて慎重に評価する必要があります。
取調べ前に同行の要否を整理したい方へ
警察又は検察から呼出しを受け、何を聞かれるのか、調書を作るのか、資料を持参すべきか分からない方は、公式LINEで「警察から呼出し」とお伝えください。

担当部署、呼出日時、現在の立場、すでに話した内容を整理し、取調べ前にどのような確認が必要かを一緒に整理します。同行が適切かどうかは、事件の内容や呼出しの目的を確認したうえで個別に判断します。
