マーク・ロスコ作品の前で困ったあなたへ
1. 美術館でよく目にするマーク・ロスコ
アメリカの主要美術館では、マーク・ロスコ(1903-1970)の作品をよく目にします。
ロシア系ユダヤ人として生まれ、アメリカで活躍したロスコは「アメリカ美術、抽象表現主義を語るなら知っておくべき」として紹介されることも重要なアーティストです。
一方でマーク・ロスコ作品の前で「何を見ればいいのか分からない」と感じたことはないでしょうか。
私自身も度々彼の作品を目にしてきましたが、正直なところ楽しみ方の難しい作品だなとこれまで感じてきました。
2. 「わからないこと」が鑑賞のスタート地点
今回は主に彼の「カラーフィールド・ペインティング」と呼ばれるスタイルを対象に考えていきます。
こちらは私がMoMAで観た、「カラーフィールドペインティング」で描かれたロスコ作品の1つです。

明確な何かが描かれているわけでもないし、形すら描かれておらず、ただ色の面が並んでいる。
いくら美術作品として価値があると言われても、多くの人にとっては、どのような感想を持てばいいのか非常に分かりにくいのではないでしょうか。
解説を読んでも、「ロスコの作品は鑑賞者に感情を喚起させる」と言われても・・・というところ。
ですが、「わからない」ことはロスコ作品の鑑賞の失敗ではなく、それこそがロスコ作品鑑賞のスタート地点なのではないでしょうか。
3. マーク・ロスコが狙ったこと
ロスコは美術作品を「解釈するもの」ではなく、感覚で味わうものであるべきだと考えていました。
彼はこんな言葉を残しています。
“A picture lives by companionship, expanding and quickening in the eyes of the sensitive observer.”
「作品は鑑賞者との関係の中で生きる。見る人の眼差しによって広がり活性化するものだ」という意味です。
つまりロスコにとって、絵はそれ自体で完結するものではなく、鑑賞者に生じる反応まで合わせて1セットでした。
さらに、彼は次のようにも語っています。
“I’m not interested in relationships of color or form or anything else. I’m interested only in expressing basic human emotions — tragedy, ecstasy, doom.”
「色や形の関係性そのものには興味がない。私が関心を持っているのは、悲劇、恍惚、破滅といった、人間の根源的な感情を表現することだけだ。」と。
そのためにロスコは、自身の作品から具体的なモチーフや物語を極力排除しました。
鑑賞者が解釈する余地を減らし、理屈ではなく自分の感覚と向き合うための絵画を作ったのです。
つまり、あえて「わからない」ように作品を制作したとも言えます。
ロスコ作品の前で「何を言いたいのか分からない」と感じるのはロスコが意図した反応であり、
美術鑑賞のセンスや感性が欠けているからではありません。
4. マーク・ロスコ作品の1つの楽しみ方
ロスコ作品を楽しむための1つの方法として、意識してみてほしい3つのポイントについて書いていきます。
1. 「わかる/わからない」の軸を手放す
美術鑑賞では作品の意味を解釈することが楽しみの1つですが、ロスコ作品ではこの軸を一度手放してみましょう。
代わりに、「今、自分は何を感じているか」に意識を向けます。
例えば、先ほども紹介したこちらの作品を改めて観てみましょう。

例えば「黄色と青のコントラストがきれいだな」と思ったり、ウクライナの国旗の色を連想したり、麦畑と空の風景を思い浮かべたりするかもしれません。
そのとき浮かんだあなたの感情や考えこそが、鑑賞体験の中心です。
2.感情や思考が湧いた理由を考える
次に、なぜその感情や考えが湧いたのかを考えてみましょう。
・黄色と青が子どものころ好きだった色だから
・ウクライナでの戦争に悲しみを感じているから
・過去に観たゴッホの『カラスのいる麦畑』を思い出したから
など、自分の中にある様々な感情や体験、記憶が思い浮かぶのではないでしょうか。
こうして、自分の内面にある感情や記憶・考えに気づくことが、ロスコ作品の鑑賞の本質です。
ロスコ作品は、自分自身の内面を覗き込むための「体験装置」と考えると理解しやすいでしょう。
3.感情が湧かない場合も自然
そうは言っても、作品を観ても何も感じない場合も正直あると思います。
それはそれで問題なく、そのタイミングでは作品と自分の経験・感覚・興味がまだ接点を持っていなかっただけかなと思います。
無理に感じようとする必要はなく、違う気分の時や時間を空けたタイミングで再度観ると、その時には自分の中で感じるものが出てくるかもしれません。
また、ロスコは実物の大きさや空間、距離感まで含めて鑑賞体験を設計することにこだわったアーティストでもあったため、スマホやPCの画面では画面上ではその効果を感じにくい部分があります。
その意味では美術館で観るほうがロスコ作品ならではの没入感や鑑賞体験をより味わいやすいかもしれません。
5. なぜ今、ロスコについて考えるのか(応用)
ロスコの作品には、自分の内面をモニタリングする機能があります。
色面や空間の広がりを前に、自分の中に湧き上がってくる感覚や感情、思考に意識を向ける。
「今、自分は何を感じているのか?」を観察する行為は、忙しく情報過多な現代社会において、心の状態をチェックし、リセットする時間にもなります。
その意味で、ロスコ作品の鑑賞は瞑想に近い効果があります。
ロスコ自身も、ロシア系ユダヤ人として迫害や第二次世界大戦といった過酷な時代を生きました。
そうした経験の中で、国や物語、人種といったしがらみを超えた、普遍的な表現を求めた結果が、あの色面だったとも考えられます。
日本も世界も、これまでの国際社会の枠組みや社会の在り方が大きく変わり、何を信じたらいいか分からない状態になりつつあります。
そんな中で、鑑賞者が自分自身の内面を見つめ、整える場を提供してくれるロスコ作品は現代の我々にとっても意味があるはずです。
6. まとめ ロスコ作品は「わからなくて」いい
今回はロスコ作品の楽しみ方の1つについて考えました。
「わかる/わからない」の軸を手放すことで、自分自身の内面と向き合う。
筆者自身もそうした楽しみ方を心がけてみることで、ロスコの作品は分からない=つまらない=自分の感性・勉強が足りないのでは?という苦手意識が少し解消されました。
忙しい日々の中で自分と向き合うきっかけをくれるものとしてロスコの作品を楽しめるようになったと思います。
アメリカ美術を代表する彼の作品は世界中に展示されています。
彼の作品の楽しみ方を知ることで、アメリカの美術館でも、世界の美術館でも、美術館巡りがきっと楽しくなるはずです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
美術鑑賞に興味を持ち始められた方、すでに美術鑑賞を楽しまれている方、今後もともに美術鑑賞の世界を楽しんでいければ嬉しいです。
もし記事にスキ、コメントなどいただければ非常に励みになります。
関連記事
今後も美術鑑賞に関する記事を発信していきますので、よろしくお願いいたします。
