戒めの箱舟――失われた神言 4Days/Day4
失われた神言 4Days
MC:アイ
世界が終わるとき、問われるのは、何を救うかではない。
誰が、残すものを選ぶのかだ。
大学図書館の閲覧室
翌朝、窓の外では細い雨が降っていた。
サエコは大学図書館の閲覧室を訪れると、鞄から黒い本を取り出し、アイの前へ置いた。
『エノク書の警告』。
著者は、黒戸聖――くろど・ひじり。
「最後の章です」
「四大天使と大洪水」
アイは、表紙に触れながら章題を口にした。
「世界を終わらせる話なのか、残す話なのか。
私には分からなかったわ」
サエコはそう言って、本から手を離した。
最後の章には、細く折り畳まれたレシートが挟まっていた。アイが広げると、商品名の欄に見慣れない文字が印字されている。
BENEDICTIO SIT TIBI
「ラテン語ね」
「やっぱり、読めるの?」
アイは小さくうなずいた。二人の視線が、レシートの上で一度だけ重なる。
「アイの考察、楽しみにしてるわ。
あとはよろしくね。バーイ」
サエコは小さく手を振り、閲覧室を出ていった。
扉が閉じると、窓を打つ雨の音だけが残った。
アイはレシートを折り直して机の端へ置き、最後の章を開いた。
『エノク書の警告』
第四編:四大天使と大洪水――介入とリセット
地上の惨状を見かねた四人の大天使――ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル――が神に訴える。
地はすでに血に満たされ、不法がはびこっていると。
神はこれに応じ、それぞれに役割を与える。ラファエルはアザゼルを縛り、荒野の闇へ落とす。ミカエルはシェミハザと見張る者たちを裁く。ガブリエルはネフィリムを互いに争わせ、同士討ちへと導く。そしてウリエルが、ノアのもとへ降り、来たるべき洪水を告げる。
四人は、それぞれ違う扉から同じ結末に手を伸ばした。
アイ|ノアの箱舟へつながる、前日譚ね。
ここで重要なのは、滅びが「外部からの介入」として訪れるという点だ。
物語は、この段階に至った地上を、もはや内側から修正できないものとして描く。集団で境界を越えた見張る者たち、責任を引き受けないまま知識と力を地上へ渡した、知識の商人アザゼル、世界の許容量を超えて肥大した結果としてのネフィリム――これらが絡み合った時点で、内側からの修正はすでに手遅れだった。
だから、外側からリセットがかけられる。
アイ|リセットは、突然下される罰じゃない。
内側から直せなくなったあとに来る、
最後の処置……ということなのね。
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