【英国文豪、令和を歩く】第80回:Sauna time, sweat and shine, feeling fresh and doing fine!
京都、三条通の界隈。明治時代から続くような、重厚な木造りのカッフェー。琥珀色の照明の下、二人の奇妙な連れが向かい合っている。一人は、華やかなスカーフを首に巻き、知的な光を瞳に宿した女性、ウィル。もう一人は、ツイードのジャケットを無造作に着こなし、パイプ代わりに手にしたペンを弄んでいる男、ドイルである

サウナ。フム、蒸気と熱気で満たされた小部屋に身を投じ、限界まで耐え忍ぶ……。ワトソン、これはまるで、かつて私が調査した『ライヘンバッハの滝』の断崖で、死を覚悟しながら岩陰に潜んでいた時の緊迫感に似ているな。もっとも、あちらは冷たい水飛沫だったが、こちらは灼熱の蒸気だ。現代人は、自ら進んであの『セバスチャン・モラン大佐』に追いつめられるような極限状態を求めているというわけか

あら、ドイル。あなたはいつだって物事を物騒な方向へ持っていくのね。私にとってサウナは、もっと詩的な場所だわ。それはまるで、煉獄の炎で魂の汚れを焼き払い、再び無垢な赤子へと生まれ変わるための儀式。劇作家が古い台本を破り捨てて、真っ白な紙に向き合うような、そんな神聖な空白の時間なのよ

儀式、か。論理的に見れば、激しい発汗によって体内の老廃物を排出し、血管を拡張させる健康法に過ぎないが……。だが、あの『水風呂』という代物はどうだ? 燃え盛る暖炉から極寒のテムズ川へ飛び込むような暴挙ではないか。ホームズなら、そんな無益な肉体的労働は『努力の浪費』だと爪を噛んで窓の外を眺めるだろう。彼は仕事のためなら精力絶倫だが、意味のない苦痛には冷淡だからね

そこがいいのよ、ドイル! その極端な温度の差こそが、生の実感(リアリティ)を呼び覚ますの。熱さに悶え、冷たさに震え、その後に訪れるあの……現代の言葉で言う『ととのう』という境地。それは、ハムレットが混濁した意識の中で真実を掴み取ろうとする、あの静かな狂気にも似た恍惚だわ。肉体が消えて、精神だけが宇宙の星々とダンスを踊るような……

宇宙とダンス、か。君の表現はいつも飛躍しすぎる。だが、確かにベーカー街の自室でコカインの霧に逃避していたホームズに教えたい気もするな。退屈な新聞や、簡単すぎる事件に飽き飽きした時、この『サウナ』とやらは、脳を刺激する最も有効な、そして合法的な解毒剤になるかもしれない

ええ。それにね、サウナの中では王様も乞食も、名探偵も詩人も、みんな裸のただの人間よ。衣装も、肩書きも、偽りの仮面もすべて剥ぎ取られて、ただの『命』としてそこに座っている。これほど平等で、残酷で、そして美しい舞台が他にあるかしら?

裸の人間、か。確かに、服の皺や靴の泥から職業を当てる私の特技も、そこでは通用しないな。……よし、ウィル。もし次の事件が未解決のまま私の思案に余るようなことがあれば、私もその『蒸気の迷宮』へ足を運んでみるとしよう。案外、ライヘンバッハの滝つぼよりも深い真実が、その熱気の中に浮かんできそうだからね

ふふ、名探偵が真っ赤な顔をして、タオル一本で瞑想している姿なんて、それこそ喜劇の最高のワンシーンだわ。さあ、ドイル。あまり考えすぎるとのぼせてしまうわよ? 次は水風呂の代わりに、この冷えたシャンパンで乾杯しましょう
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