【映画】「RRR ビハインド&ビヨンド」感想・レビュー・解説
いやー、これは面白かったなぁ。まあ、本編の『RRR』が死ぬほど面白いんだから、メイキングだって面白くて当然なんだけど、それにしたって面白い。撮影の裏側はちょっと凄すぎるなぁ。
というわけで、本編の感想は以下を。
例えばだが、本作の主人公2人が初めて出会うメチャクチャ印象的なシーンがある。橋の下の少年を助ける場面だ。そしてこのシーンについて出演俳優の1人は、「15日目もまだ吊るされていたし、5~6日間はずっと空中ブランコをやらされていた」みたいに話していた。
たぶんこの俳優が言及しているのは、「橋の下で主演2人が手を繋ぐシーン」だけだと思う。そこに至るまでの、馬に乗ったりバイクに乗ったり、少年を助けるための準備をしたり、みたいな部分は除いて、「橋の下で手を繋ぐシーン」(僕の記憶では、長くたって1分も無いようなシーン)だけで15日以上掛かった、という話だと思う。
これだけでも、どれだけ大変だったかが伝わるだろう。
また本作にはスタッフも数多くインタビューに答えているのだが、制作統括(だったと思う)が、「ラージャマウリ監督の現場は覚悟が要る」と話していた。その一例として彼は、「すべてのシーンで、準備に10日~15日ぐらい掛け、さらにその後の撮影でも同じぐらいの時間を費やす」みたいなことを言っていたのだ。一般的に、シーン毎の準備と撮影にどのくらい時間が掛かるのか知らないが、さすがにこんなに時間を掛けることはないんじゃないかと思う。
それだけ時間が長くなるのは、監督のこだわりが強いからだ。スタッフや役者の多くが、「監督には明確なビジョンがある」と、シーン毎の完成形をはっきりとイメージしていると証言していた。そして、その自分のイメージに到達しないとOKを出さないのだ。
本作では、世界中で大流行した「ナートゥダンス」の撮影についても触れられていたが、このダンスシーンは「完全なシンクロ」が求められていたそうで、少しでも手の上げ方が違ったりすると最初からやり直しになったという。ナートゥダンスが披露される宮殿ではダンスシーンを何カットも撮っているが、その1カット毎に10回以上は撮り直しているそうだ。ナートゥダンスは18回撮り直し、20回以上やり直したシーンもあると語っていた。
またこのダンスに関しては、役者の1人が「個性を出そうとしたら監督に怒られた」と話していたのも印象的だった。「2人が別の個性を持つことはもちろん知っているが、ラーマとビームは私が作ったキャラクターだから、私の指示した通りに踊れ」と言われたという。「指示した通り」というのは、とにかく「シンクロ」である。
しかし、誰もが「メチャクチャ大変だった」と言っていたのが、インターバル前のバトルシーンである。予告でも使われていたと思うけど、野生動物がブワーッと飛び出す印象的な場面から始まるシーンである。
監督は、大ヒットした『RRR』が世界中で上映される際、この野生動物が飛び出すシーンだけはスクリーンではなく観客の方を見る、と言っていた。本作では、このシーンを観た(たぶん)アメリカ人の反応が小さくワイプで映し出されるのだが、客席で熱狂していた。
ちなみに監督は、「インド国内での大ヒットは予想通りだったけど、アメリカで熱狂的に受け入れられたのには驚いた」と言っていた。チャイニーズシアターでの上映に招かれた監督は、「アメリカに住むインド系の人が押し寄せたのだろう」と予想して会場に向かったのだが、9割以上がアメリカ人(これは白人を指すのだろう)でビックリしたと言っていた。そしてなんと、チャイニーズシアターでの上映の際には、ナートゥダンスの場面で観客がスクリーンの前に出てきて一緒に踊ったという。監督は後に劇場関係者から(だと思う)、「あんな光景を見たのは初めてです」と聞かされたそうだ。
閑話休題。インターバル前のシーンである。このシーンには、インド国内外の役者、スタントマン、エキストラなどが1500人以上参加していた。まずその人数だけでも破格の規模だろう。しかしそれだけではない。このシーンでは、野生動物が徘徊し攻撃を仕掛けてくるのだが、それはすべてCGであり、撮影時にはいない。それをどう撮るかが問題だったのだ。
監督はリアリティを求める人で(ただ編集担当の人が、最後の方のシーンでは、リアリティを無視してでも火と炎を過剰に足した、みたいな話をしていたので、リアリティ一辺倒というわけではない)、このシーンでは「動物の動くスピード」をリアルに見せたかった。そこで、それぞれの動物のスピードに合わせてLEDライトが光る仕掛けを用意し、それで動物の動きを体感してもらおうというわけだ。
しかしそれはカメラマンも苦しめることになる。カメラも当然、動物の動きに合わせて動かさなければならないわけだが、最初は何度やってもそのスピードについていけなかったそうだ。何度もリハーサルを繰り返し、トラの気持ちになって考え、ようやくトラのスピードを追うカメラワークが実現できたという。
また、動物の代わりに、無線のラジコンを無数に走らせて動物に見立てるなんてこともしているのだが、監督が撮影した映像を観ながら、「動物が近くにいるのに(この人物は)驚いていない」と指摘するシーンが収録されていた。確かにそれでは、動物を合成した後に不自然になってしまう。
しかし、「合成する段階で調整すれば良いのでは?」と感じるかもしれないが、本作では、インターバル前のシーンにおける動物のアニメーションは、すべて撮影前に完成させていたのだそうだ。そうしないと、1500人の動きを制御出来なかったからだろう。しかしそういう作りにしたことで、役者は「あらかじめ作られたCGに合う動きをする」ことが求められたというわけだ。これも、映画制作の現場は知らないが、普通ではないやり方ではないかなと感じた。
しかしこのインターバル前のシーンには、誰もが予想しなかった、そして不可抗力でしかない最大の障壁が襲ってきた。それがコロナウイルスである。全体で60日という撮影期間を見込んでおり(実際には65日だったそうだ)、その半分が過ぎた頃にコロナウイルスの第一波がやってきた。1~2ヶ月で収束すると考えていたそうだが、実際には8ヶ月も撮影が中断されてしまう。しかも、撮影が徐々に解禁されても、撮影に入れない事情があった。国際線の飛行機が飛んでいなかったのだ。外国からの役者がインドまで来れなかったのだ。そのため、国際線の再開を待って撮影を再スタートさせたそうだ。役者もホント、よくもまあ集中力を持続させたものだなと思う。
さて、監督は昔からアクションに目がなかったそうで、映画でも絵本でも小説でも、アクションがあればとても喜んでいたそうだ。だから『RRR』でも、重要なシーンや感情表現など、物語における必要な要素をアクションで見せていった。
そしてそのアクションは、「思いのほかリアルにやっている」という感じで、そのことにも驚かされた。役者たちは実際に殴り合っているそうで、主演俳優の1人は、「撮影の最後に毎回謝り合っているのも面倒になって、『かかってこいや!』みたいなことを言うようになってた」みたいな話をしていた。
監督は「物語を思いついたら、大体そのシーンも一緒にすぐ浮かぶ」そうなのだが、そんな彼が「どういうシーンにしたらいいか」と悩んだのがラーマの登場シーンで、実際には6~700人の群衆(映画では数千人に見える)の中を突っ切ってある人物を捕まえると感じになったのだが、このシーンもメチャクチャガチだった。リアルを求める監督の期待に答えるため、カメラマンも手持ちカメラで群衆の中に入り込み、ラーマ役の俳優は群衆の中でもみくちゃになりながら暴れまわっていた。
さらに、主演俳優の1人が「あの奇想天外なシーン」と言っていた「2人が合体して戦うシーン」も、ガチでやってる(もちろん、上に乗ってる方にはワイヤーが付いていて、下の人に体重が掛からないようにしているが)。「ホントにこんなことやってんのかよ」と、なんか笑ってしまった。
まあそんなわけで「メイキング映像」としても楽しめるのだけど、本作で最も興味深いのは「監督自身が演出意図を丁寧に説明してくれる」という点ではないかと思う。これって例えば、「是枝裕和とかクリストファー・ノーランとかが、自作の演出意図を説明している」みたいに想像すると、「なかなかないシチュエーションだよね」と感じるのではないだろうか。
本作では監督が自ら、「このシーンではこういうことが伝わってほしいから、だからこういう演出をした」みたいなことをかなり詳しく話してくれる。それを聞くと、脚本の段階でかなり精密に作られているんだなという感じがする。また、アクションや撮影の規模みたいなものに注目されがちだけど、それらはすべて「伝えるべきことを伝えるために必要な要素」なのだということが改めて理解できるのも良かった。
というわけで、個人的には、『RRR』をまだ観てないという人にもオススメしたい作品だ。メイキングを観ると、「マジか、こんなヤベェ映画が存在するのか!」となって本編を観たくなるんじゃないかと思う。もちろん、本編を観た人なら間違いなく面白いだろう。「凄まじい撮影をしている」とはなんとなく想像していたと思うが、「まさかここまでとは!」という感じになるんじゃないかと思う。
ちなみにどうでも良いことだけど、出てくる人が「RRR」を発音すると、僕には「アララ」にしか聞こえない。日本語で「アールアールアール」みたいに発音するときっと、外国では通じないんだろうな。あと、エンドロールが衝撃的に短くてビックリした。
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