『友情結婚』第5話
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第5話:エピローグ
気持ちを告白した日の夜から、ひと月経った。
この日、礼は遥斗にキッチンに来ることを禁止し、ひとりで夕食を作っている。
初めて一緒に料理をした時に作った、遥斗の大好物だというミネストローネで煮込んだロールキャベツを、当時を思い出しながら作る。美和と一緒に猛特訓し、バッチリだとお墨付きをもらった、自信作だ。
ロールキャベツと副菜、遥斗に教わった特製ドレッシングをかけたサラダをダイニングテーブルに並べると、遥斗が歓声をあげた。
「すごく美味しそうです!ありがとうございます」
「喜んでもらえてよかったです。お誕生日、おめでとうございます」
今日は、1月15日。遥斗が、26年前に誕生した日。この日に、遥斗の好物を作りたくて、料理を猛勉強した。まだ遥斗のように、速く美味しく作ることはできないけれど、着実に腕を磨けている。辛うじて。
いつもしているように、2人で手を合わせてから食べ始める。礼は、ご飯を片手に持ち、遥斗の食べる様子を窺った。
美味しいと言ってもらえるのか不安で、遥斗がロールキャベツを口に運ぶ動作がスローモーションに見える。
「美味しい!」
固唾を飲んで見守っていると、遥斗の満面の笑みと、力強い言葉飛んできて、礼は頬が緩んだ。
礼もロールキャベツに手を伸ばして食べると、肉汁が口の中に広がる。美味しい、と自分でも合わせて初めて思えた。
それから、遥斗の箸はどんどん進み、おかわりまでしてくれた。
美味しいと幸せそうに食べてくれるのが嬉しくて、ここまで料理を頑張ってきてよかったな、と心から思う。
食後に、とっておきのコーヒーに合うケーキを出し、リビングのローテーブルに運ぶ。
「わあ、ケーキまであるんですか?嬉しいなぁ」
礼の用意したケーキを見て、遥斗は嬉しそうに目を輝かせた。
「手作りはまだできなかったんですけどね。喜んでもらえてよかったです」
「そんな、そんな。お祝いしてくれることが嬉しいじゃないですか」
さすがにまだケーキを焼けるほど料理は上手くなれていないので、市販だ。
遥斗が礼の誕生日に用意してくれたのは、あんこをたっぷり使ったスイーツの盛り合わせ。市販ではなく、遥斗が朝から小豆を煮て手作りしてくれたものだった。
礼には全て手作りする技量はまだない。遥斗は「料理は俺の趣味だから気にしなくていいです」と言ってくれるけれど、遥斗の料理をする姿を見ていたら、同じようにできるようになりたいなと思う。
来年は、遥斗の好きなケーキを手作りできるようになりたい。密かに決めた目標だ。
心の中で決意し、ケーキに立てたローソクに火をつける。電気を消して、「ハッピーバースデー」と歌うと、遥斗も一緒に歌ってくれた。
「遥斗くんも歌ってくれるんですか?」
「嬉しくて、つい。一緒に歌いたくなっちゃいました」
笑いながら尋ねたら、遥斗は満面の笑みでこう言ってくれた。礼にお祝いされて嬉しいと言ってくれることが、言葉にできないくらい嬉しくて心がギュッとなる。
「ほら、ローソクの火、消してください」
「はい」
遥斗がローソクの火を吹き消したあと、電気をつけて、もう1度「おめでとうございます」と伝えた。
そうしたら、「その笑顔は反則です」と言って軽く遥斗に口づけされた。瞬間、顔がボッと熱くなる。
「可愛いです、礼さん」
いたずらっ子の顔をした遥斗に追い打ちをかけられ、礼の心臓は遥斗に聞こえてしまうのではないかと思うくらい高鳴っている。
「遥斗くん、からかってますよね?」
「いいえ?本当のことを言ってるだけです。礼さん、全然慣れませんね」
「・・・勘弁してください」
「そういう所、可愛くて好きです」
礼は遥斗の方を見ていられなくなって、顔をふいっと逸らした。すかさず「可愛い」と遥斗の声が聞こえて、心臓が飛び跳ねた。
いい歳した大人なのに、遥斗に甘い言葉を言われるとドギマギしてしまう。
「さ、食べましょう」
遥斗にそう促され、ケーキを2人で食べはじめた。
「美味しい!礼さん、用意してくれてありがとうございます」
今日、何度めになるのか分からないお礼を言われる。ふと思いついて、遥斗の名を呼んだ。
「何ですか?礼さん」
そう言ってこっちを見た遥斗に、礼は顔を近づけて頬にキスをした。少し離れると、遥斗がキスされた頬に手を添えて目をまん丸にして驚いていた。
その表情があまりにも可愛くて、自分の頬が緩んでいくのが分かった。
「さっきのお返しです」
「・・・礼さん、それはズルいです」
遥斗は、少し赤くなった顔を隠すように、礼から顔を逸らしてケーキを食べるのを再開した。
その反応に満足し、礼もケーキを口に運ぶ。
あれから、ソファに座る時は肩が触れるくらい近くなった。テレビを見ていると、時折、遥斗の顔が近づいてきて口づけされる。礼からも、稀に遥斗に顔を寄せる。出かける時は、手を繋ぐようになった。
いろんな変化はあるけれど、礼と遥斗の関係は何と言うのだろう、と時々不思議に思う。
お互いの利害のために、友情結婚をした。それから、距離が近づいて、想い合っていることを知った。
はじまりが特殊だったので、恋人、夫婦・・・、どれもしっくりこない。しっくりこなくて、首をひねる日々だ。
ふとスマホに視線を落とすと、スマホが光った。通知を見ると、清水さんからだ。
『先日、私と夫、双方に弁護士が入って話し合いがスタートしました。夫 が子どもを強く希望しているので、離婚を前提に条件の突き合わせをしています。ようやく、前に進めてほっとしています』
出口の見えない悩みに迷い込んでいた清水さんが、前に進めたようだ。結局、礼は大した力になれなかったが、清水さんが明るい方へ歩き出せたことを、とても嬉しいと思う。
「ん?礼さん、嬉しそうですね。何かありました?」
「なんでもないです」
遥斗が礼の顔を覗き込み、ニコニコする。清水さんには後でゆっくり返信をすることにして、スマホを脇において遥斗に笑いかける。
「ねえ、遥斗くん」
「何ですか?」
「私たちの関係って、なんですか?」
唐突な礼の質問に、遥斗が不思議そうな顔をした。あの日から、確実に変わったことはあるけれど、恋人、夫婦・・・2人の関係を表すにはどれもしっくりこないのだと話すと、遥斗は合点がいったように微笑んだ。
「人生のパートナー、じゃないですかね?」
瞬間、目の前が、パッと開けるような感覚があった。
「妻だとか、夫だとか、世間的に”そういうものだ”と思われているような役割は取っ払って、支え合って生きていく。困っていたら当たり前のように助けるし、自分が困ったら助けてもらう。2人で困った時は、2人で力を合わせて頑張る。変わったことは―確かにありますけど、そこは最初から変わりません。そういう風に、礼さんと生きていきたいと思っていますけど・・・どうでしょうか?」
「私も、そう思います」
そう言って、衝動的に遥斗の唇に己の唇を寄せる。遥斗は一瞬面を食った顔になるが、すぐに満面の笑みを浮かべた。背中を包み込むように抱き寄せられ、礼は遥斗の背中に腕を回す。
「遥斗くん。本当に、お誕生日おめでとうございます。私と出会ってくれて、人生のパートナーに選んでくれて、ありがとう。こうして一緒にお祝いできて、すごく嬉しいです」
遥斗の耳元で呟くと、より強く抱きしめられた。
礼の気持ちは、伝わっただろうか。遥斗を大切に思う気持ちはたくさんあるけれど、その全てを表現できないことがもどかしい。
「急に可愛いことするのは、反則です」
遥斗の顔が近づいてきて、倍返しのように唇を塞がれた。
あとがき
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
初めてオリジナル長編小説を書いたので、拙いところが多々あり、反省しきりの毎日です。
それでも、今の私にできることは全て詰め込みました。読んでくださったあなたが少しでも「面白い」と思える瞬間があったら、この上なく幸せです。
本当に、ありがとうございました。
