人工呼吸器の「次の一歩」だけ書いてみた。
はじめに
人工呼吸器の画面を前に、手が止まったことはありませんか?
気管挿管して、A/C(assist control)を選んで、
1回換気量とFiO₂(fraction of inspired oxygen:吸入酸素濃度)とPEEP(positive end-expiratory pressure:呼気終末陽圧)を入れる。
ここまでは、たぶんもう出来る。
それでも、人工呼吸器の前に立った瞬間、
「今の設定で本当にいいのか」
「圧が高いけど、どこが悪いんだ?」
そんなふうに、次の一手がわからなくなることはないだろうか。
人工呼吸器が難しく感じる理由は、
設定項目が多いからでも、専門用語が多いからでもない。
多くの場合、
どこから見て、何を考えて、どの順番で直せばいいのか
『思考の地図』を持っていないだけだ。
ピーク圧。プラトー圧。
コンプライアンス。気道抵抗。
言葉は知っているのに、
それが「今この患者で、何を意味しているのか」がつながらない。
そして一番怖いのは、
患者と呼吸器が噛み合っていないまま、設定だけ弄り続けること。
このnoteは、
人工呼吸器に熟達するための本ではない。
初期設定が終わったあと、
人工呼吸器の画面を前にして立ち止まらないための、
考える順番を整理するためのnoteだ。
・まず、患者と呼吸器は同調しているのか
・悪いのは気道が狭い(気道抵抗が高い)問題なのか、肺そのものなのか
・次に触るべきつまみは、どれなのか
この3つを、
波形と圧を使って、できるだけ単純な言葉で整理していく。
もしあなたが、
「人工呼吸器がなんとなく怖い」
「上級医が何を見ているのか、少し知りたい」
そう感じたことがあるなら、
この先はきっと役に立つ。
ここからは、
人工呼吸器を“設定する話”ではなく、“患者の呼吸状態を読み取る話”を始めよう。
※下記noteにも記載していない、完全書き下ろし(←いってみたかっただけ)です。
以下、参考文献。
人工呼吸器の話は、やはり田中竜馬先生以上にわかりやすい先生を知りません。
個人的にhospitalistの田中先生の章が非常によくまとまっていておすすめ。
第1章〜呼吸器分析の前に「同調しているか」を見る〜
人工呼吸器を前にして、
まず確認すべきことは何だろう。
SpO₂(percutaneous oxygen saturation:経皮的酸素飽和度)か。
ピーク圧か。
それとも血液ガスか。
答えは、そのどれでもない。まず数字を見る癖から卒業しよう。
患者と人工呼吸器が同調しているか。
これが、すべての出発点になる。
同調していないと、数字は信用できない
人工呼吸器が出してくる測定値、ピーク圧やプラトー圧は、
あくまで「機械が感じた圧」だ。
患者が必死に吸おうとしていたり、
逆に吐こうとして腹筋を使っていたりすると、
その努力がそのまま圧の数字に混ざる。
つまり、
同調していない状態で見る数値は、ノイズ入りになる。
この状態で
「ピーク圧が高いから肺が悪い」
「換気量が足りないから増やそう」
と考えるのは、かなり危険だ。
だから最初にやるべきことは、
設定をいじることでも、鎮静を深くすることでもない。
今、この患者は呼吸器の呼吸と噛み合っているか?
それを見抜くことだ。
同調は「数字」ではなく「波形と患者」を見る
同調しているかどうかは、
数値よりも波形と患者の呼吸様式のほうがはるかに簡便に教えてくれる。
見るのは、主に3つ。
・患者の体
・圧波形
・流量波形
まず患者を見る。
呼吸に合わせて肩が大きく動いていないか。
腹筋を使って吐こうとしていないか。
呼吸器のリズムに「逆らっている感じ」がないか。
『なんか変だな』『苦しそうだな』
と思ったら。
次にモニターを見る。
VCVでよくある「吸いたいのに来ない」非同調
VCV(volume controlled ventilation:従量式換気)では、
1回換気量をこちらが決めるが、
それが患者にとって十分かは設定次第だ。
ここで起きやすいのが、
患者の吸気要求に対して、設定吸気量が少なすぎる状態。
このとき、圧波形はこうなる。

吸気の途中で、圧が下に凹む。
これは、
「患者はもっと吸いたいのに、機械が送る空気量が足りない」
というサインだ。
このときにやるべきことは明確で、
・吸気流量を上げる
※上記は理論上の話であり、実はmodeをPCVに変えたほうが同調がよくなる場合がある、詳細は成書を。
PCVでよくある「もう吐きたい」非同調
PCV(pressure controlled ventilation:従圧式換気)では、
圧の高さだけでなく、吸気時間を設定する。
吸気時間が長すぎると、
患者はこう感じる。
「もう吸い終わったのに、まだ圧がかかっている」
このときの圧波形は、

吸気の最後で、
圧がぐっと持ち上がるような形になる。
患者は腹筋を使って吐こうとし、
呼吸器とケンカを始める。
この場合の修正は、
・吸気時間を短くする
基本的にこれだけでして、モニターが正常に戻るか確認。
まぁ、時々圧サポートが大きすぎる場合もこういう波形になります。
圧サポートを下げてみてもいいかも。
呼気が終わらないのも、重要な非同調
もう一つ、必ず見てほしいのが呼気流量だ。
呼気流量がゼロに戻る前に、
次の吸気が始まっていないか。
もしそうなら、
患者は息を吐ききれないまま、
次の吸気を強いられている。
これは、後で出てくる
auto-PEEP(内因性PEEP)
に気づく入り口になる。
第2章〜ピーク圧とプラトー圧は「どこが悪いか」を教えてくれる〜
第1章で、
「同調していない状態では、数字は信用できない」
という話をした。
この章の話は、
同調が取れていることが前提になる。
その上で初めて、
人工呼吸器が出してくる圧の数字が意味を持ち始める。
ピーク圧が高い=危険、ではない
ピーク圧が高いと、
つい身構えてしまう。
でも、ピーク圧が高い理由は1つではない。
人工呼吸器が表示しているピーク圧は、
大ざっぱに言うと、2つの圧が合わさったものだ。
・空気を気道に通すための圧
・肺を膨らませるための圧
つまり、ピーク圧が高いとき、
悪いのは「気道」かもしれないし、「肺そのもの」かもしれない。
プラトー圧は「肺が膨らみ切った時」の圧
プラトー圧は、
吸気の終わりで、空気の流れを止めたときの圧だ。
呼吸器(特にVCVで)で吸気ポーズをし、その時の圧を測定するとプラトー圧となる(わからなければMEさんに聞こう)。
この瞬間、
呼吸器は空気を押し込んでいない。
だからプラトー圧は、
呼吸器の影響が除かれた状態で、肺にかかっている圧
と考えていい。
ここが、この章で一番大事なポイントだ。
2つの圧を「差」で見る
見るべきなのは、
ピーク圧とプラトー圧を別々に眺めることではない。
2つの差を見る。

差が大きいとき:空気の通り道が怪しい
ピーク圧は高いが、
プラトー圧はそれほど高くない。
この場合、肺を膨らませること自体はそこまで圧を使わないけど
「気道に空気を通すために」強めの圧が必要な状態。
つまり、
・気道が狭い→閉塞性肺疾患や痰含めた気道狭窄疾患
こうした可能性が高くなる。
差が小さく、両方高いとき:肺が硬い
ピーク圧もプラトー圧も高い。
2つの差は、それほど大きくない。
この場合、
圧は主に「肺を膨らませるため」に使われている。
ということは、気道というよりは肺そのものが硬いと推測される。
肺炎、ARDS(acute respiratory distress syndrome:急性呼吸窮迫症候群)、肺水腫などがこのグループに入る。
数字を「治療」に変えるために
この章で覚えてほしいのは、
具体的な数値や計算式ではない。
・ピーク圧が高い
→ピーク圧とプラトー圧の差を見る
→ 気道抵抗が高いか、肺が硬い(コンプライアンスが低い)か分かる
この整理ができると、
次に触るつまみが自然にわかってくる。
ここまでの整理
ここまでで、
人工呼吸器を見る順番はこうなる。
同調しているか
ピーク圧とプラトー圧の差はどうか
問題は気道か、肺そのものか
次の章では、
これらを使って、
・なぜ呼気時間が大事になるのか
・なぜauto-PEEPが問題になるのか
・なぜPEEPが効く場面と効かない場面があるのか
設定変更につながる考え方を整理していく。
ここから先は
¥ 300
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
