急性心不全のさわりだけかいてみた。〜第2部:検査編〜
はじめに
さて、心不全編第2弾。
今回は検査編です。


採血
採血の目的は、
心不全かどうかを決め打ちすることではありません。
ショックを見逃さないこと。
そして、致命的な鑑別疾患を取りこぼさないこと。
この二つです。
この視点で見ると、必要な検査と、そうでない検査が見えてきます。
まず初めに確認するのが、動脈血液ガスです。
血液ガスでは、
乳酸とアシドーシス、そして酸素化を確認します。
血圧がまだ保たれていても、
乳酸が上がっている場合は要注意。
その時点で、循環はすでに破綻し始めていて、
ショックの初期状態を示しているかもしれません。
普通に低酸素で乳酸が上がってる場合もありますが
一度は『ショックじゃないか?』と思うこと。
酸素化については、P/F(PaO2/FiO2)比を一度確認しておくと、
この先の呼吸管理や重症度評価がスムーズになります。
お次は採血項目。順番にいきましょう。
まず確認したいのが、肝酵素と腎機能です。
AST、ALT、BUN、クレアチニン。
肝酵素上昇、腎機能障害が共に出ていれば、一度はショックを考えるべき。
(ただし、体うっ血の所見として両方出現する場合もあるので、その他の所見と合わせて評価です)
もう一つ大事なのが、腎機能が悪いと、そもそも心臓マーカーが高く出やすい、という点です。
腎機能障害がある患者さんでは、BNPやトロポニンはそもそもベースが高めです。
この背景を押さえずに数値だけを見ると、判断を誤りやすい。
トロポニンは、少し扱いに注意が必要です。
トロポニンは、心不全のマーカーではありません。
あくまで心筋障害のマーカーです。
だから使う場面は限定する。
ACS(Acute Coronary Syndrome:急性冠症候群)を少しでも疑うとき。
他心筋炎など心筋障害を背景とする疾患を疑う場合。
その判断材料として測る。
それ以外でルーチンに測ってしまうと、
心不全でも、腎不全でも、敗血症でも上がる。
結果として、「陽性だけど意味が分からない」状況が量産されます。
測る前に、
「この結果で、何を判断したいのか」
を一度考えてみましょう。
それだけで、無駄な混乱は減ります。
Dダイマーも同じ考え方です。
心不全だから測る検査ではありません。
目的は、肺塞栓の鑑別ではないでしょうか。
ただ、個人的には心不全による低酸素血症と、肺塞栓による低酸素血症は、
胸部X線を読めば、ある程度は見分けられるというスタンスです。
なので心不全と肺塞栓の鑑別のためだけにDダイマーを測るのは、
ナンセンスと言わざるを得ないです。
ただし、
急な呼吸苦や胸痛があって、背景因子もそろっている。
そういう場面では、Dダイマーを測ること自体は自然です。
大事なのは、
「なぜこの検査を出したのか」を自分で説明できること。
最後にBNP。
とても便利な検査ですが、万能ではありません。
目安としては、
BNPが100未満なら、心不全を一度疑い直す。
400を超えてくると、心不全の可能性はかなり高い。
ただし、ここで思考を止めない。
敗血症性ショックや重症肺炎でも、BNPは上がります。
例えば発熱や咳嗽が主訴にあって、血圧も低い。
その患者さんでBNPが800だったとしても、
主役が心不全とは限らない。
この場合は、感染症として抗菌薬と全身状態の立て直しが優先で、
心不全は二次的な問題として扱う方が自然です。
採血は、答えを教えてくれる検査ではありません。
考えるための材料を増やしてくれるものです。
だからこそ、
「いま何を疑っているのか」
「何を否定したいのか」
その問いを持ったままオーダーする。
それができると、採血はきちんと武器になります。
まとめ(採血で見るポイント)
・肝酵素 → AST、ALT
・腎機能 → BUN、Cre
・循環・ショック評価 → 動脈血液ガス、乳酸
・酸素化評価 → PaO2、FiO2、PF比
・ACS鑑別 → トロポニン(疑う場合のみ)
・肺塞栓鑑別 → Dダイマー(これをメインで判断しない)
・心不全補助診断 → BNP

胸部X線〜心不全なら"血流再分布"に注目〜
急性心不全の評価で、胸部X線はとても大事です。
ただし、何となく撮って、何となく眺めると一気に情報量が落ちる。
まず意識したいのは、撮影条件です。
原則は立位。
外来や状況的に難しければ座位でも構いません。
ただ、臥位だけは注意が必要です。
臥位では胸水評価はほぼ不可能です。
胸部X線での目的は二つ。
肺うっ血像の確認と、胸水の評価。
他にも心不全らしい所見として、まず挙げられるのが心拡大です。
心胸郭比が大きいと、それだけで心不全っぽく見える。
ただし、これは単独では弱い所見です。
慢性心不全や心筋症では、症状が落ち着いていても心拡大は残ります。
「心不全ならあってほしい所見」ではあるけれど、
「心不全を確定する所見」ではありません。
個人的に重要なのが、血流再分布です。
見るときのコツは単純で、
肺門から同じ距離の上葉と下葉の血管径を比べる。
・上葉の血管が下葉より太い
これは、心不全を疑う所見です。
背景には、
間質液の貯留 → 肺コンプライアンス低下 → 細小血管の圧迫
という流れがあり、結果として上流側、つまり上葉に血流が逃げてくる。
この機序を知っていると、所見の納得感が増します。
肺血管影の増強も、心不全ではよく知られた所見ですが、
重要なのは、場所と分布。
基本は
・両側性
・肺門中心優位
心臓近傍の血管がうっ血しやすいため、
陰影は中枢(肺門)から強くなります。
ここで一つ、よくある落とし穴。
末梢優位の浸潤影です。
末梢から強く出る陰影は、
心不全らしさを下げます。
感染症や間質性肺炎を考えた方が自然なことが多い。
次に、例外的なパターンを。
胸水が左優位。しかも片側性。
この場合、心不全の可能性は下がります。
心不全由来の胸水は、基本的に両側性です。
一方で、
右優位の肺うっ血や胸水、
しかも上葉優位。
この組み合わせは要注意です。
重症の僧帽弁逆流(MR)では、
逆流ジェットが左下から右上に向かい、
右上肺優位のうっ血を起こすことがあります。
片側性=心不全らしくない、で診断を早期閉鎖してしまうと、
このパターンを見逃します。
胸部X線は、
「心不全かどうか」を単独で決める検査ではありません。
でも、
両側性
上葉優位
中枢(肺門)優位
この三点がそろうと、かなり心不全っぽい。
逆に、末梢優位の浸潤影は、心不全から一歩引いて考える。
この感覚を持って読むだけで、
胸部X線は一気に使える検査になります。
――――――――――――――
心不全診断:胸部X線で見るポイント
・撮影体位 → 立位(原則)、座位(代替)
・血流再分布 → 上葉血管径>下葉血管径
・カーリーBライン、胸水
・分布の考え方
→ 両側性・上葉優位・中枢優位が心不全らしい
・心拡大 → 心胸郭比上昇(単独では非特異)


心電図
急性心不全の患者さんでは、心電図は必ず記録します。
ただ、ここで一度整理しておきたいのが、心電図の役割です。
心電図は、心不全を直接診断する検査ではありません。
一方で、原因検索や、危険な鑑別を外すためには欠かせない検査です。
まず確認したいのは、虚血性心疾患の可能性です。
とくに新規のST変化がないかを見ます。
ST上昇を認める場合は、
心不全としての評価や治療よりも先に、
虚血性心疾患、
とくにSTEMI(ST Elevation Myocardial Infarction:ST上昇型心筋梗塞)
を考える状況になります。
この場合、論点は利尿をどうするかではありません。
循環器内科オンコールを含めて、カテーテル戦略をどう組むか、
という話になります。
心電図を読むときは、可能であれば過去の心電図を入手して比較します。
ST変化が新規なのか、もともとあったものなのか。
ここは、できる範囲で確認しておきたいところです。
次に、心不全の背景として押さえておきたい所見があります。
心房細動。
左脚ブロック。
STストレインパターンを伴う左室肥大。
これらは、心不全を合併していても不思議ではない所見です。
ただし、いずれも特異的ではありません。
これらがあるから心不全、
ないから心不全ではない、
という使い方はしません。
あくまで、臨床像や他の検査所見と合わせて、
心不全の背景を補強する情報として扱います。
心不全における心電図で一番大事なのは、
心不全らしさを探すことではなく、
虚血性心疾患と徐脈性不整脈を見逃さないことです。
(頻脈性不整脈を見逃すことは少ないので、、、笑)
急性心不全の診療では、
心不全治療そのものよりも、
原因への対応が先行する場面があります。
心電図は、その判断に使う検査として位置付けておくと整理しやすいと思います。
肺エコー〜肺うっ血と胸水評価について〜
急性心不全の評価で、肺エコーはとても相性がいい検査です。
理由は単純で、肺うっ血をその場で確認できるからです。
特に重症呼吸不全やショックのレントゲンが来る時間も惜しむ場合、迅速に評価できるメリットがあります。
胸部X線は有用ですが、
撮影条件に左右されますし、
変化が出るまでに時間がかかることもあります。
一方で肺エコーは、
いま、この瞬間の肺の状態を直接反映します。
心不全診療では、かなり心強い武器になります。
肺エコーでまず押さえるのが、
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