【書評】くいたろう作「ぼくと かあちゃんの カツカレー」(お疲れカツカレー賞受賞作品)
まずは、
くいたろう様の
「ぼくと かあちゃんの カツカレー」が、
お疲れカツカレー賞を受賞されたこと、
心よりお祝い申し上げます。
この賞は、
私こと、
ペンネーム「お疲れカツカレー」が、
note投稿9ヶ月記念として
開催した企画から生まれた賞です。
モチーフを「カツカレー」とした
作品群の中から、
理解・共感・感動という視点で
最も優れた一作を
お疲れカツカレー賞として
選ばせていただきました。
それでは、
受賞作「ぼくと かあちゃんの カツカレー」について、
全文を引用しながら、
書評をお届けします。
なお、全文引用許可は
くいたろう様よりいただいております。
■家族のかたち:「起」
物語は、
6歳の男の子・勝也(カツヤ)の
一人称「ぼく」の視点で語られています。
おそらく幼稚園児です。
起承転結の「起」。
冒頭から、
母への深い愛情が描かれています。
かあちゃんは、
ほかほかのごはんみたいに
ぴかぴかの匂いがする。
大好きだ。
「なんでかあちゃんは、ごはんのにおいがするの?」って
父ちゃんに聞いたら、
父ちゃんおっきな口あけて、ワハハって笑ってた。
「いいか、勝也。
じつはな、母ちゃんはお米の神さまなんだ。
だから名前にも米がついてるんだぞ」
父ちゃんは、
ぼくにこっそりヒミツをおしえてくれた。
すっげえ!
かあちゃん神さまだったんだ。
かあちゃんはいつも ぴかぴかだし、
きっと父ちゃんの言うことは本当だ。
かあちゃんの匂いを胸いっぱいにほおばるから、
ぼく、ぴかぴかなんだあ。
この「ぴかぴか」という言葉は、
物語全体を通して
繰り返し登場するキーワードです。
視覚的な輝きだけでなく、
嗅覚や感情にも拡張された、
主人公にとっての
「幸福の象徴」として機能しています。
また、父の語る
「母は米の神様」というユーモラスな秘密も、
後に伏線として回収される重要な一節です。
導入部では、
以下の3つの伏線が巧みに配置されています。
・「ぴかぴか」という幸福の象徴
・主人公の名前「勝也(カツヤ)」=カツ
・母は米の神様(名前に「米」の字)=ライス
この時点で、
物語のモチーフである「カツカレー」が、
家族のメタファーとして
機能する予感が漂います。
■兄になるという変化:「承」
妹・麻衣子が生まれ、
主人公は「にいちゃん」になります。
起承転結の「承」。
母の愛情が妹に向かう中、
主人公は寂しさを抱えながらも、
兄としての自分を受け入れようと
懸命に努力します。
「麻衣子、兄ちゃんだよ」
去年、ぼくは「にいちゃん」になった。
初めて見たマイコの手は
とってもちっちゃい。
おそるおそるさわったら、
ごはんみたいにあったかくて、
すごくびっくりした。
かあちゃんが、
ぼくたちをうれしそうに見てたから、
ぼく、ぴかぴかのにいちゃん
になろうって決めた。
かあちゃんのおっぱいはもう、
マイコのもんだし、
かあちゃんのりょうても、
抱っこするからマイコのもんだ。
ぼくの手は、
かあちゃんのシャツのはしっこに、
つないでもらった。
ぼくは、ぴかぴかのにいちゃんだからな。
「カッちゃん、いつもありがとうね」
そんなとき、
かあちゃんはすこし困ったような顔になる。
かあちゃんは困っているのかな。
ぼくはお腹が空いたような気持ちになった。
かあちゃんのごはんみたいな匂いで、
おなかいっぱいになりたいなあ。
心の中で、
ちいちゃな石ころを
ちょんと蹴飛ばしてみた。
「ぼく、にいちゃんだもん」
ぼくは父ちゃんみたいに、
わははって笑ってやった。
かあちゃんも、
ふふふって笑ってくれて、
ぼくはまた、ぴかぴかになった。
母の手が妹に渡ってしまったことを、
主人公は静かに受け止めます。
それでも
「ぴかぴかのにいちゃんになる」
と決意する姿は、
いじらしく、健気です。
日常の中に訪れる変化と、
それに向き合う子どもの葛藤が
丁寧に描かれています。
しかし、物語としては、
主人公の「日常」が危機をむかえています。
主人公にとっては、
「非日常」が始まり、ピンチ状態です。
■運動会という試練:「転」
物語は運動会に移ります。
主人公にとって
晴れの舞台です。
主人公は母に見てもらいたくて、
精一杯がんばります。
しかし、
母は妹の世話に追われ、
主人公の姿を十分に見られません。
起承転結の「転」。
運動会でも
主役は妹のように
主人公は感じてしまいます。
「みんなー!おうちの人に
かっこいいところをたくさん見せようね!」
ユウコ先生の元気な声に、
ぼくたちは、力いっぱいうなづく。
今日は運動会だ。
かけっこも、玉入れも、
ぼくはすごいがんばった。
かあちゃんにいっぱい見てほしくて、
おっきく手をふる。
かあちゃんが気づくと、
にこにこ手をふりかえしてくれた。
でもかあちゃんたちはマイコを追いかけて、
運動会みたいに走ってる。
今日がマイコの運動会だったらよかったのに……。
「さあて、『親子リレー』は父ちゃんの出番だな」
父ちゃんがはりきって、おんぶのかっこうをする。
父ちゃんのほうが力持ちだし、足も早い。
だけど…「…ぼく、かあちゃんとやりたい…」
みんなの音がおっきくて、
ぼくの声は神さましか聞こえないくらい、
ちっちゃくなった。
それでも、
「よし、最後だし、かあちゃんと行こうね」
かあちゃんには聞こえたんだ!
ぼくは、ジャンプして、
かあちゃんの背中にとびついた。
「カッちゃん、重たくなったねぇ」
かあちゃんの声が、
ぼくをなでなでしてくれる。
「うん、ぼくもう6さいだもん」
「カッちゃんおんぶして、かあちゃん走れるかなあ」
「あるいても、いーんだよ」
「びりっけつになっちゃうよ」
「いんだ。かあちゃんとなら、びりっけつでも」
ぼくは恥ずかしくなって、
かあちゃんの肩に顔をこすりつけた。
「カッちゃんがいいなら、いっか」
ぼくとかあちゃんは、
歩いてるみたいに走った。
かあちゃんの匂いを
胸いっぱいにほおばったら、
ぴっかぴか。
父ちゃんもマイコもちっちゃく見えた。
主人公はさらなるピンチです。
親子リレーという、
親が子どもをおんぶして走る競技が
まさに始まろうとしています。
主人公は
今まで我慢していましたが、
ついに限界をむかえます。
勇気を出して、
親子リレーは父とではなく、
母とやりたいと申し出ますが、
小さな声しかでません。
神様にしか聞こえないぐらいの
小さな声がやっとです。
もうダメかと思った瞬間、
この小さな声が、
母には届きます。
神様にしか聞こえない声が
母に届くのです。
「よし、最後だし、かあちゃんと行こうね」
親子リレーで母におんぶされる主人公。
母から重くなったと
成長したことを伝えられます。
母がうまく走れるか心配していても、
主人公はすべて受け入れます。
それでも6才の男の子です。
うれしくて恥ずかしくて、
母の肩に顔をこすりつけます。
母の匂いを胸いっぱいに吸い込み、
「ぴっかぴか」になります。
「ぴかぴか」から、
「ぴっかぴか」になっている点は、
見逃せません。
主人公の大きな心情変化です。
主人公のピンチは、
母によって救われます。
主人公は母の愛を再確認するのです。
そしてまた、
母の愛情は、
始めから変わってはいないことを
主人公は理解します。
ここで、
「母は米の神様」という伏線が回収されます。
母の存在が主人公にとっての
「光」であることが再確認されたと
私は解釈しました。
なお、細かい点ですが、
「声がぼくをなでなでしてくれる」
という表現は、
聴覚から触覚への巧みな転換であり、
感情の深さを感じました。
また、ユウコ先生というのは、
たぶん、あのnoterを想起させます。
きっと友情出演でしょう。
■カツカレーという家族のかたち:「結」
運動会の親子リレーも終わり、
物語もフィナーレです。
起承転結の「結」。
ゴールしても、
まだかあちゃんの背中にぶらさがってた。
そしたら、
「カツカレー食いたくなっちまったなあ」
父ちゃんは、
かあちゃんを指さして「米」
ぼくを指さして「カツ」
ぼくたちの黄色いタスキを指さして「カレー」だって、
たのしそうに言った。
ぼくとかあちゃんで、大好きなカツカレー!
「すげー!!とうちゃん、てんさいだあ!」
ガハハハ!とげんこつが入りそうなくらいの口で、
父ちゃんが笑った。
カツカレーをおなかいっぱい食べて、
ぼくはぴっかぴっかになった。
物語の最後で、
物語のタイトル
「ぼくと かあちゃんの カツカレー」が、
家族のメタファーとして
鮮やかに浮かび上がります。
母=ライス、勝也=カツ、タスキ=カレー。
家族の構成が変わっても、
愛情のかたちは変わらない。
むしろ、より豊かに、
より温かくなっていく。
主人公は、
実際のカツカレーではなく、
母と子の愛情のメタファーとしての
カツカレーを食べ、
お腹が満たされます。
(母=ライス、勝也=カツ、タスキ=カレー)
母親からの愛を再確認して、
主人公の心は満たされたのです。
最後に主人公は
「ぴっかぴっか」になります。
これは「ぴかぴか」から始まり、
「ぴっかぴか」を経て、
「ぴっかぴっか」へと変化した、
心の成長の証です。
■まとめ
くいたろう様の
「ぼくと かあちゃんの カツカレー」は、
カツカレーと運動会という
日常的なモチーフを通して、
家族の愛と子どもの成長を描いた
珠玉の作品です。
子育て経験のある読者には、
胸がきゅっとなる場面が
多々あったのではないでしょうか。
子どもの視点から見た家族の変化を、
ユーモラスかつ繊細に描いた筆致は見事です。
読み終えたあと、
まるで本物のカツカレーを食べたかのような、
温かく満たされた気持ちが残りました。
あらためまして、
くいたろう様、
お疲れカツカレー賞の受賞、
おめでとうございます。
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チップをいただけるような素敵な雑記が書けたらなぁ~(遠い目)。