ナワリヌイ自伝感想文:獄中で笑い、薔薇戦争で迷い、プーチンで怒る
ロシアの反体制派リーダーとして活躍、毒殺未遂を経て獄死したアレクセイ・ナワリヌイの自伝を読みました。
日本語訳も出ていますね。
私は英語バージョンを読んだので、以下、自分的解釈と邦訳にズレがある場合はご容赦。
政治犯の獄中日記は、すでにロシア文学の一ジャンルとして確立されている説あり。前半はナワリヌイの生い立ちの記そして政治活動の記録ですが、後半はリアルなロシア・塀の中体験談となっています。
毒殺未遂の場面から始めてスリリングな本にしたかったのに、結局、獄中日記になってしまった…と自虐するナワリヌイ。厳粛かつ重い本ではあるのですが、実は随所にギャグが散りばめられています。笑っちゃいけないと思うんだけど何これ可笑しい!!と思った読者は多いはず。例えば、
獄中日記のテンプレに陥りたくなかったのに、囚人仲間とのエモいエピソードありすぎな件。エモいの1回につき1ドルもらったらイーロン・マスクより金持ちになってまうわ!!
↑これがナワリヌイ節。
不条理の極みともいうべきプーチン体制下の牢獄生活において、なぜナワリヌイが強靭な精神を持ち続けることができたのか。家族と支持者の応援(何千通も手紙が届く)はもちろんのこと、ユーモアのセンスと知的好奇心が、彼の強さの秘密だと思われます。
牢獄生活で主に彼が綴っているのは、「体制の不条理」「食べ物」そして「本」の話。
食べ物の件は、別の記事でも書きました。
読める本が限られる獄中生活、仕方なく読んだ本がうっかり面白い、それがナワリヌイ。例えば、「かんたん英国史」(みたいなタイトル)読んでるなう、のエピソード。↓
かんたん英国史、誰が薔薇戦争に勝ったか書いてないのは常識すぎるから?なんでイギリス王族の名前はヘンリーとエドワードばっかりなんだ?相関図書きながら何度も読んだけどさっぱりわからん…勝ったのは赤薔薇だと思うんだけど自信ない。Googleがあればすぐわかるのに!
正解だよ!赤薔薇が勝ったんだよ!ヘンリー多すぎ、笑う。でもロシアもいいかげんアレクセイ多すぎるよな(笑)
本好き人間として、ツッコミ入れながら読書しているナワリヌイには共感しかないです。もし自分が塀の中で暮らすとしたら、刑務所図書館から借り出す本は「太平記」にします。何度読んでも相関図書いても「足利の誰だ問題」が解決しないやつ。
すみません、ナワリヌイ自伝のキモは食べ物の話でも本の話でもなく、プーチン体制の不条理であるべきでしたね。
….と、ここでレビューの核心に入るかと見せかけて別の本の話をします。プーチンず・ロシアの腐敗のリアルが、もっとよくわかる本があります。これな:
ソ連崩壊後、ロシアで資産運用して大金持ちになったアメリカ人(今はイギリス籍)、ビル・ブラウダーによる手記。プーチン体制と真っ向から対立、投資のプロを辞めて人権活動家になった、ナワリヌイの先輩的なポジションの方です。
ナワリヌイ自伝では、プーチン体制の腐敗の実態については、むしろあっさり流されています。それこそ、誰が薔薇戦争に勝ったのかが常識すぎて「かんたん英国史」に記載されないように、ロシアの体制=腐敗、が当たり前すぎて説明に手間を取ってない感じ。
一方、ブラウダー本は「ここがこう腐っている」「こうやって盗む」「こうして殺される」など、プーチン体制の腐敗メカニズムを具体例満載で暴露しています。「汚職お品書き」のリアル(警察への賄賂の額により、証拠隠滅から家宅捜索まで幅広く対応いたします)、裁判所もグルになって堂々と公文書を捏造する国家ぐるみの詐欺は、オーシャンズイレブンも地面師たちもビックリ!
ナワリヌイは何度も「プーチンは国民からロシアという国を盗んだ」という言い方をしています。ブラウダー本を読むと、「盗んだ」が比喩ではなく、本当に「盗んだ」のだとよくわかります。
そういうわけで、ナワリヌイ自伝とブラウダー本はセットで読むのがおすすめ。
長くなっちゃったので、続きはこちらで。
