目に映っているのに見えていないもの:画像生成AIに「空気」を伝える
どうも、ナギ@還暦です.
ご訪問ありがとうございます.
写実系の生成画像を、垢抜けさせたい
本日は、そんな方に向けてプロンプトのコツを、
実際の作例を交えて書いてみたいと思います.
私の苦々い黒歴史については、プロフィールをご覧ください.
現代の生成AIは本当に魔法のようです.
「笑顔の女性」
「美しい風景」
と言葉を打ち込むだけで、瞬時に鮮やかな画像が生成されます.
ですがこんな状況にひとしきり慣れてしまうと、
どこか「物足りなさ」や「平坦さ」を感じてしまうこともあります.
いわゆる「AIっぽさ」から抜け出せない、という悩みや
生成しているこちらが逆に「作らされている」
というような感覚を覚えること、ないでしょうか?
今日は、そんな「初心者からの脱出」を目指す方に向けて、
少し視点を変えるお話をしたいと思います.
テーマは「目に映っているけど、見えていないもの」です.
私たちは世界を「名前」で切り取っている
少しだけ、人が世界をどう認識しているかという話をさせてください.
私たちが風景や人物を見るとき、脳は無意識のうちに対象に「名前(ラベル)」を貼っています.
「可愛い女の子がいる」
「赤いリンゴがある」
「海が広がっている」.
これらは対象を直接的に示す概念であり、言葉です.
生成AIでプロンプトを打つとき、多くの人がまず入力するのも、こうした「名詞」の羅列でしょう.
しかし、私たちが何かを見て「美しい」「切ない」「懐かしい」と感情を揺さぶられるとき、実はその前段階で、もっと別のものを受け取っています.
それは、対象を包み込む「条件」です.
頬をかすめる光の柔らかさ、部屋の湿度、空気中を舞う細かな埃、そして背景の曖昧なボケ味。これらは、私たちが「あ、女の子だ」と認識するよりも早い前段階で、無意識の領域・感情の根っこに直接働きかけてくるものです.
私たちは「対象(モチーフ)」を意識的に見ていますが、その背後にある「条件(光や空気)」は目に映っているのに、見えていない(意識していない)ことが多いのです.
映像作品における「絵作り」
映画などの優れた映像作品を注意深く観察してみてください.
彼らは「何を撮るか」と同じくらい、あるいはそれ以上に「どう撮るか」に心を砕いていることがわかります.
被写体をカメラの前に立たせるずっと前から、窓の外から入る光の角度を計算し、スモークを焚いて空気の層を作り、どのレンズで背景をどれくらいぼかすかを決定します.
被写体という「名詞」を置く前に、感情を決定づける「形容詞」や「副詞」にあたる舞台装置を完璧に組み上げているのです.
私もそうでしたが、生成AIでポートレイトを作るとき、最初の頃は服のシワや目の色、髪型といった「具体的な対象」ばかりを言葉で指示していました.
AIは非常に優秀なので、名詞だけでも絵を作ってくれます.ですが、光や空気感といった「条件」の指示がないと、AIはそれを「平均的な、無難な設定」で補ってしまいます.これが、どれだけ描き込んでも「どこかで見たような、のっぺりとしたAI画像」になってしまう最大の原因だと思います.
プロンプトに、対象に加えて「条件」を書き込む
では、具体的にどうすればいいのでしょうか.
答えはシンプルです。「対象」への執着を緩めて、モチーフが置かれている「条件」に注目して、プロンプトでデザインしてあげるのです.
ここでは、実際に私が使っている考え方とプロンプトの実例を挙げてみます。
(※プロンプトはコピーしやすいように構造化しています。ご自身の環境で試してみてください)
段階1:対象だけを指示したプロンプト(初心者)
まずはよくある「名詞中心」のプロンプトの例です.
## Subject & Style
* **Profile:** Japanese young woman, 21 years old, portrait
* **Quality:** Highly detailed, realistic, high resolution
## Environment (Setting)
* **Location:** A veranda or a room.
* **Clothing:** Basic clothes in navy or charcoal grey.
## Pose & Composition
* **Body Language:** Standing still, looking at camera.
* **Action:** A neutral gaze.
これでも綺麗な画像は出ますが、ライティングや空気感がAI任せになるため、カタログ写真のような平坦な仕上がりになりがちです.
段階2:「見えないもの(条件)」をデザインしたプロンプト
次に、被写体の指定は最小限に留め、その周囲にある「光」「空気」「カメラのレンズ(光学的な振る舞い)」を言語化して記述してみます.
## Subject & Style
* **Profile:** Japanese young woman, 21 years old, portrait
* **Aesthetic:** Soft cool lighting, shallow depth of field. Controlled shadows with a slight blue tint in low-light areas.
* **Color:** Subtle cool-leaning color grading, pale but realistic skin tones.
* **Quality:** Smooth transitions between light and shadow, filmic but grounded.
## Color Temperature & Lighting
* **Color Temperature:** 7000K (Cool Daylight / Shaded)
* **Lighting Source:** Soft, indirect light from a North-facing window or a cool overcast sky.
## Environment (Setting)
* **Location:** A quiet, shaded veranda or a room with soft, cool ambient light.
* **Atmosphere:** Silent, contemplative, and clear. A crispness in the air.
* **Clothing:** High-quality basics in navy or charcoal grey that absorb the cool light.
## Pose & Composition
* **Body Language:** Standing still, calm and poised.
* **Action:** A steady, neutral gaze, focused on the "being" of the subject.
* **Camera:** 85mm long lens, slightly compressed, minimal movement.
「色温度7000K、北向きの窓からの間接光(7000K, North-facing window)」
「静寂で澄み切った、ひんやりとした空気(Silent, contemplative... A crispness in the air.)」
「85mm中望遠レンズによるわずかな圧縮効果(85mm long lens, slightly compressed)」
これらの言葉は、直接的に「女性の容姿」を描写するものではありません。しかし、この「条件」を指定することで、女性の肌に落ちる影にわずかな青みが宿り、背景との距離感が生まれ、画像全体に「静けさ」や「冷たい温度」といった実在感が立ち上ってきます.
特に今回は、このような発想の一例として、服の指定(### clothingの項目)に、ただのネイビーではなく「冷たい光を吸収する(absorb the cool light)」として、光との相互作用として書きました.
モチーフを直接描写するのではなく、モチーフが存在する「空間や光のルール」を記述する.どのくらいこのプロンプトが結果に反映するかは、AIのモデルによって正直変わってきます.
ここでお伝えしたいのは、こういうプロンプトの発想もできるのでは、というご提案です.そして、私にとっては、このような条件をよく反映してくれるAIモデルが、すぐれたモデルのひとつの条件です.
「見えないもの」に名前を与える喜び
AIとの対話は、自分の「観察眼」との対話でもあります.
日常の中で「美しい」と感じた瞬間があったら、何が(What)美しいのかではなく、どんな条件下で(How)それが美しく見えているのかを分解してみてください.
それは逆光のせいかもしれないし、夕暮れの青い空気(ブルーアワー)のせいかもしれません.人間の目には見えない、古いレンズの収差(光の滲み)がもたらすノスタルジーかもしれません.
目に映っているけれど、見えていないもの.
そこに意識を向け、言語化し、AIに「環境」を整えさせる。モチーフを描写するのではなく、モチーフが「存在してしまう空間」を作る.
アナログカメラのファインダー越しに光を待つようなこの感覚を、プロンプトという言葉の束で再現できるのが、生成AIの面白さだと私は思っています.
あなたの次のプロンプトに、一行「どんな光が降っているか」を書き加えてみてください。きっと、生成される画像が纏う空気が、ひと味変わるはずです。
*
記事のなかの作例は、以前つくった Cool Introspectiveというプロンプトをベースにしています.
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この記事でお伝えしたプロンプトや考え方が、
あなたの作品づくりのヒントになれば幸いです。
そもそも、なぜ還暦を迎えた私が今になって、
AIでポートレイトを作り続けているのか。
実は、そこには40年以上前の「ある苦い記憶」と執着が関係しています。
私が生成AIという新しい「暗室」に出会い、胸の内に封印していた幻を再び現像し始めるまでの物語を、こちらのプロフィール記事にまとめました。
AIがもつ完璧な美しさに抗い、「不完全で生々しい記憶の光」を探し続ける私のささやかな研究プロジェクトについてもお話ししています。もし少しでもご興味をお持ちいただけましたら、ぜひ一度覗いてみてください。
