「僕」をめぐる冒険/櫻坂46『The growing up train』
14thシングルは、どの曲も耳馴染みがいい。平成初期=90年代前半ぐらいの邦楽ロックや歌謡曲とかがベースにあるように思う(検証はしてない)。『The growing up train』はBOØWY以降のバンドブームの曲みたいだ。
まだサブスクもiPodもなく、1曲単位でなくアルバム全体で曲を楽しんでいた時代だ。テーマごとに曲を並べてストーリー性をもたせたり、隠しトラックを入れたり、2ndアルバム『Addiction』のように曲間をInterludeでつないで長い1曲のようにするのもよくあった。たとえば、コレ。
My Bloody Valentine『loveless』はA面にあたる前半曲をつないで脳髄が溶けるような没頭感をつくりだす。先日の東京公演は3rd BACKS LIVE!!をやった会場で開催された。
この時期の最高傑作はSmashing Pumpkinsの『Mellon Collie and the Infinite Sadness』だろう。2枚組全28曲の大作でありながら、最後の曲『Farewell And Goodnight』が1曲目のタイトルチューンにつながるようになってて、まさに「終わりのない」循環構造になっている。
横道にそれまくってしまったが、最後の曲『僕は向いてない』から1曲目の『The growing up train』へそのまま連結している感じがして、これは「僕」の内省と成長をテーマにしたコンセプチュアルなアルバムとして聴くことができるのではないかと思いつく。これまででは『Start over!』もまさに「スタートオーバー」をテーマにした楽曲構成になっていた思う。藤吉センターシングルの傾向なのか?
さて、表題・共通カップリングは以下のとおり。
『ドライフルーツ』はひとまず措く(また考えるかもしれないので)。『Sunny side up』は『君と僕と洗濯物』の続編であり、マザコンの曲。「キミは太陽」とか駄洒落までかましてくる。『キスが苦い』も主人公の独りよがりがキツい。どちらも村上春樹の劣化版みたいだ。『くらげらしく』は、くらげのようにありたいと思いながら、お互いの毒針で傷つけあった過去…という秋元構文の歌詞。守屋・向井・中川の声を存分に楽しめるコンテンツだが、披露される機会は少なそう……。
これらのユニット曲は、メロディやアレンジは好みなのに歌詞は…という感じ。ストリーミングの全7曲構成はそのバラエティ感がいいけど、『The growing up train』『光源』『僕は向いてない』を収録した通常盤CDがより密度の濃い1枚になっている。
全員曲『僕は向いてない』は、これまでの櫻坂の軌跡を遡行するようにキーワードを散りばめる。ここに出てくる「僕」は他2曲と違う主体だ。『The growing up train』の「僕」は現在の櫻坂そのものだし、『光源』は過去の欅坂・櫻坂と出会い、それを目指す四期生たちが主人公となる。では、『僕は向いてない』の主体はどこにあるか?
もっと優しくなりたい
愛が溢れる人間になりたい
誰もがそう思えたら
晴れ間が多くなるのに…
例えば、この「僕」は『五月雨よ』に出会ったBuddiesである。歌詞のあちこちに、これまでに私たちが櫻坂に惹かれた瞬間が埋め込まれていると思う。たぶん聴く人によって響く箇所が違うだろう。(他人と同じように)生きることに向いてない「僕」を、まっとうに生きることを肯定してくれる。それは、永遠と愛を信じ、未来を夢見る、といった子供じみた妄想かもしれない。いや、その妄想が叶うかもしれないと信じさせてくれるのが彼女たちだ。
『The growing up train』MVでは、彼女たちの成長をペンライトの銀河が見守るような演出だったけど、実際は私たちも乗客となってどこまでも連れていってくれる解釈のほうがよかったかもしれないと、シングルを通して聴いて感じる。3つの「僕」が国立で出会うのだ。
