だからこそ、この季節は忘れられない【22】最終話#創作大賞2025 #恋愛小説部門
エピローグ
(現在・カイ視点)
俺は小説『すれ違う季節』のラストまで読み終え、本をそっと閉じた。
スーツケースのハンドルを握り直し、春の色に染まった道を歩き出す。
目の前の菜の花の黄色いじゅうたん、桜の淡いピンク、そして透き通るような青空。その風景を目にした瞬間、胸の奥がふいにざわめいた。
小説のラストで描かれていた、あの場所がまさにここだった。
――俺は、リコにこの場所を「好きだ」と話した覚えはない。
それでも、リコはあえて小説に書き残した。
もしかしたら、リコはここで、俺を待っているのではないか。そんな根拠のない想いが、足をこの場所へと向かわせていた。
「…いるわけ、ないか」
思わず、口から漏れたその言葉を、春の風がさらっていく。
そもそも小説のエンディングは、二人が再会する結末ではなかった。この景色の中に、リコがいるなんて、都合の良い期待だと自分を嗤いそうになった、その時。
――あっ。
桜の木の下、ベンチに座る一人の女性が、そっと空を見上げていた。風が吹き、花びらが舞う中、俺は足を止め、視線を奪われた。
心臓が高鳴る。時が止まったような感覚。
「…リコ」
名前を呼ぶ声が、自分でも驚くほど静かだった。
その声に気づいたのか、彼女がゆっくりとこちらを振り向く。目が合った瞬間、リコはふっと微笑んだ。
5年ぶりに会ったとは思えないほど、自然な笑顔だった。まるで、昨日も会っていたかのように。
リコは立ち上がり、俺の前に一歩近づく。
「カイ。…よく見つけたね」
たった一言。けれど、その言葉にすべてが詰まっていた。
言葉にならない想いが胸にあふれた。
リコは俺の目を見て、その距離を縮めてくる。吸い寄せられるように視線を向けたその唇が、ゆっくりと近づいてくる。まるで、この5年間が瞬く間に埋まるかのように、抵抗も迷いもなく、そっと俺の唇に触れた。
「あ…、条件…」
「約束破っちゃった。どうしようか?」
リコは少し微笑みながら、俺の様子をうかがっている。
「…じゃあ、なんーー」
「私たち、進化しちゃおうか?」
桜吹雪の中、俺の言葉を遮り、彼女はそう呟いた。
「何に?」
リコは俺に指をさして言う。
「……ペットと、ご主人様ね」
茶化すような口調。
俺は呆れたように笑った。けれど、その笑いは、たしかな温かさと、懐かしさで満ちていた。無性に嬉しくて、思わず笑ってしまう。
「……ま、いっか」
そう言って、俺はリコの手を取った。
何でもいい、俺たちの関係に名前なんかいらない。言葉にできないなら、ただ、隣にいればいい。
桜並木の道を、俺たちは並んで歩き出す。
どこへ向かうのかはわからない。
けれど、今はただ、この春の景色の中に、彼女といることが心地よかった。
終わらなかった物語が、静かに、新しく動き始める。
「っていうか何それ?」
「スーツケース」
「見ればわかるって…それ、もしかして私の真似?」
「そうそう、放浪してた」
風が吹くたび、桜の花びらが舞う。
笑いながら歩く二人の足元に、ひらりと落ちた。
To be continued…
お読みいただき、本当にありがとうございました!
どうも、いつもぐでぐでしている、ぐで子です。
今回の『だからこそ、この季節は忘れられない』は、≪創作大賞2025・恋愛小説部門≫に応募しています。
note初心者。小説を投稿なんて、右も左もわからない中、「創作大賞」というコンテストの存在を知ったことが、すべてのはじまりでした。
――何かを始めてみたい。
その気持ちを大事にして、40代の今、少しだけ背伸びして挑戦しています。
この作品を通して、誰かとつながれたら。それがどんな小さなものでも、私にとっては宝物です。
もし応援していただけたら、嬉しくて、たぶん泣きます。涙ちょちょぎれます(笑)!どうぞ、よろしくお願いいたします!
😻ありがとうございました😻
