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だからこそ、この季節は忘れられない【21】#創作大賞2025 #恋愛小説部門


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第9話 春のはじまり・移ろいゆく私たち

(小説:すれ違う季節)抜粋

いつか話した、カイが「好きだ」と言っていたあの場所に、私は立っている。

桜並木の向こうに広がる菜の花畑。風に揺れる黄色い海と、満開の桜が重なり合い、淡い水色の空に溶けていく。ひらひらと舞い降りる花びらが、そっと頬を撫でる。

あれから、5年。
カイとの記憶は、少しずつ輪郭を失いながらも、確かに私の中に生き続けている。忘れたくないと願えば願うほど、指の隙間からこぼれ落ちる砂のように、掴みきれないことにも気づかされた。

それでも、不意に思い出すのだ。

雨の匂いがした時、バーで流れていたあの曲を耳にした時。知らない街を歩いていて、ふと似た景色に出会った時。カイのボールペンを使った時。

春夏秋冬、カイと過ごしたあの日々を――。

思い出は波のように静かに私の心に押し寄せ、そして引いていく。
その都度、私は期待してしまうのだ。

――もしかしたら、この瞬間、彼も同じように私を思い出しているのではないかと。

どこかでカイも、同じ風を感じてくれているなら。
同じ景色を思い浮かべてくれているなら。
そんなふうに、心が重なる気がする。それはもう、確かめようのないことかもしれない。

でも――
“つながっている”と信じられること。それが、今の私にとっての「愛する」ということだから。

桜の花びらがふわりと舞う。
私はそっと目を閉じた。

きっと、あの日もこんな風が吹いていた。

(小説:すれ違う季節END)

つづく


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