[小説] ジェームス・モルガンのゲーム | 五、天地創造 (5/14)
朝焼けの中、オート二輪車は走り続けた。
今日からは試験後の予習期間なので学校をさぼってもさほど問題にはならないだろう。
ミアはジェームスがどこへ行ったのか勘付くだろうし良く思わないだろうけど、彼は自分の衝動を止めることができなかった。
どうしてもあそこにあったゲームがどういうものなのか見てみたかったのだ。
こんなに朝早くにハヤト・ウェイはいないかもしれないけれど、それならば湖畔を少し散策して時間をつぶせばよいと考えた。
ひとりで飛ばして来ると、思ったよりも早くアルガン湖に到着した。
ジェームスはオート二輪車を降りると、足早に波打ち際に近寄り、例の丸い建物が目視できる角度を探して建物へと近づいた。
建物は昨日と同様、静かにその場に建っていた。
ドアをあけて中に入ると、今日は最初から照明が点いており、正面にハヤト・ウェイが立っていた。
彼は昨日と同じような、しかし色違いのゆったりとした服を着て、どこにも力が入っていないような美しい立ち姿でそこにいた。
「やあ、ジェームス・モルガン。ずいぶん早かったですね」
「すみません。早すぎたかな…?」
「いいえ。時間はたっぷりあった方がいいですから」
「もしかして、あなたはここに住んでいるの?」
「ええ、お察しのとおりです。私はここに住み込みで整備をしています。昨日無事に点検が終わりましたので今日はゲームを体験していただけます。やりますか?」
ジェームスは「もちろん!」と返事をして目を輝かせた。
「では早速こちらへ」
ジェームスの背中にそっと手を当てると、ハヤト・ウェイは丁寧に昨日の部屋へと案内してくれた。
部屋の中央にテーブルがあるのは昨日と同じだったが、今日はテーブルの上に一冊の本が置かれていた。
近寄ってみると、その本の表紙には美しい庭園が描かれており、見たことのない文字でタイトルが書かれていた。
その文字は当然ジェームスには読めなかったので首をかしげていると、ハヤト・ウェイが彼の肩に手を置いて行った。
「あなたはこの字が読めませんでしたね、すみません。これでどうですか?」
ハヤト・ウェイが何をしたのか解らなかったが、その瞬間、表紙に書かれた文字がジェームスにも読めるようになった。
そこには “天地創造” と書かれていた。
驚いてジェームスがハヤト・ウェイの方を見ると、彼はにっこり笑って見せた。
「単純な翻訳機能ですよ。私は長年旧時代の文字と現代の文字を研究していますから、この文字が現代の文字ではないことを忘れていました」
「この本は紙…で出来ているように見えるけど、違うの? 電子ペーパーのようなもの?」
「まあ、そんなところです。ではさっそくやってみますか?」
ジェームスが頷くと、ハヤト・ウェイはゆっくりと本を持ち上げ、真ん中あたりを開いてまたテーブルに戻した。
すると、驚くべきことに、本の形状が変形し、テーブルの上はみるみるうちに小さな庭園となった。
小さいけれど、まるで本物のようにそれは見えた。
ハヤト・ウェイに座るように促されたので、ジェームスは側にあった椅子に座った。
それは体に完全にフィットする座り心地のよい椅子だった。
この椅子だったらいつまでも座っていられる…とジェームスは思った。
同時にハヤト・ウェイは向かい側に腰を下ろした。
こうして向かい合って座ると、なぜだかずっと昔からこうしていたような気持ちにもなった。
椅子に座ると、目の前に半透明の絵が表示された。
その絵はまるで何もない空間に突然現れジェームスを驚かせた。
本の表紙に描かれていた庭園と同じ絵だった。
ハヤト・ウェイの方を見ると、彼の前には何も表示されていなかったが、彼の目線を見ると、彼の前にも同じような絵が出ていると想像できた。
ハヤト・ウェイが空中で妙な指の動きをすると、ジェームスの前に表示されていた絵が変わった。
そこには見たこともない形状の、どうやら生き物のようなものが横並びにずらりと並んでいた。
「これからゲームの初期設定をします。このゲームは自分で選択した生き物の楽園を作るゲームです。まず最初に生き物を選択します。これからずっと繁栄を見守っていくことになるので、愛着が湧く見た目のものがおススメです。目の前に画面が出ているでしょう? そこに並んでいる生き物の絵の上で指をこう、横に動かすと隠れている生き物を次々と見ることができます」
これは “画面” と言うのか…と思いながら、ジェームスは言われたとおりに生き物の絵の上で指を横に動かしてみた。
すると、並んでいる生き物たちがスルーっと横移動し、隠れている生き物たちが現れた。
ほとんどの生き物は見たこともない形状をしていたが、中にはジェームスたちとそっくりな者もいた。
「気に入った生き物はいましたか?」
「そしたら、これ。僕たちに似た形のものがいい」
「ではその絵の上に指で触れてください」
ジェームスは自分たちと同じに見える生き物の上を指で触れた。
それは空中を指すようで何にも触ったような感触はなかったが、ちゃんと生き物が選ばれた。
すると、生き物の絵が少し大きくなって右側に移動し、左側に小さな四角形が点滅している場面となった。
「ではその者たちの総称を決めてください」
「総称とは?」
「生き物の種類の名前です」
「じゃあ、僕たちと同じ、“ヒト” にしよう」
左側の点滅している四角が動いて、“ヒト” という文字になった。
「文字入力は難しいので私が代行しました」
急に文字が出てびっくりしているジェームスにハヤト・ウェイが説明した。
「次はこの生物の性の種類を選んでください。選択するものに触れるとチェックが入るので、選び終わったら一番下の “確定” に触れます」
画面が変化し、何種類かの性別を表す文字と図が現れた。
女性・男性・中性・両性・可変性・無性
ジェームスはためらうことなく全ての性別を選んで “確定” に触れた。
それを見ると、ハヤト・ウェイはふふふと笑った。
「ここから先は、細かい設定を手動でもできるのですが、自動設定も可能です。どうしますか?」
「うーん…よくわからないので自動設定でいいや」
「かしこまりました」
ハヤト・ウェイが空中で指をパタパタと動かして、最後に人差し指をポンと弾くようにすると、テーブルの上の庭園に小さな洞窟が出現し、周りに何人かのヒトが配置された。
(つづく)
六、最初のヒト →
だいたい17:00に公開
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