見出し画像

[小説] ジェームス・モルガンのゲーム | 四、ハヤト・ウェイ (4/14)

← 第一話から読む
← 三、ドーム

 その人は、ジェームス・モルガンがこれまでに見た人物の中でも類を見ないほどの美しい容姿をしていたのだった。

 一見女性のようにも見えるが、その声から、男性なのだろうとジェームスは認識した。

「あ…あの、勝手に入ってしまってごめんなさい。」

 咄嗟にジェームスは謝った。

「いいえ、問題ありません。ここは解放されている場所です。私はここの管理を任されているハヤト・ウェイという者です」

 ハヤト・ウェイは丁寧に自己紹介をすると、深々とお辞儀をした。
 ジェームスとミアの二人も慌てて頭を下げる。

「ぼ、僕はジェームス・モルガン。こっちは恋人のミア・ハーネス」

「ようこそ、ジェームス・モルガン、ミア・ハーネス」

「それで、ウェイさん、ここは一体何?」

「私のことはハヤト・ウェイと呼んでください、ジェームス・モルガン。ここは、ご存じのとおり旧時代の施設です。あなたは、何故、ここに来てみようと思ったのですか?」

 ジェームスは少し考えてから、「何となく…」 と答えた。
 その返答でハヤト・ウェイは満足したように頷いた。

「あちらの部屋にこの施設のメインルームがあります。見学なさいますか?」

 ハヤト・ウェイは三つ並んだドアのうち、真ん中のドアを指して言った。

 ジェームスは「もちろん!」と返事をしたが、ミアは乗り気ではないようだった。

「ミア・ハーネス、あなたはどうです? ここで待っていますか?」

 ハヤト・ウェイはミアの表情を読み解きそう訊ねた。

「わ、私も行くってば!」

 ミアはとにかく一人にはなりたくない様子だった。

 二人はハヤト・ウェイについて一つの部屋へと入った。

 その部屋は思ったよりも広かった。
 中央に大きなテーブルといくつか椅子が置かれているだけの部屋だった。

「ここはゲームをする部屋です」

 ハヤト・ウェイは静かな声で語り始めた。

「ゲームって、ここで?」

 ジェームスは不思議そうな顔で部屋を見渡した。
 彼が知るゲームとは、このような場所でやるものではなかった。

「そう、ゲームです。ここでは模擬世界ゲームをプレイします」

「模擬世界ゲーム…?」

「…そうですね…。簡単に説明すると、架空の世界を作れるゲームといった感じでしょうか」

 ジェームスはそんなゲームを聞いたことがなかったので大変に興味を引かれた。

「動くんですか?」

「動きますよ」

 ジェームスは期待に胸を膨らませてハヤト・ウェイを見た。

「ああ、でも、今日はたまたま装置を点検する日でして…今日に限って動かすことができないのです」

「あ、いえ、いいんです。お仕事の邪魔しちゃってごめんなさい」

 ジェームスは慌てて謝った。自分が彼の邪魔をしていると初めて気が付いて少し慌ててしまった。

「いいんですよ。それよりも、そろそろ日没も近づいて来ました。日が沈むとここから市街地へ戻る道は真っ暗になってしまいます。今日は早めにお帰りになった方がよろしいですよ」

 それを聞くとミアは嬉しそうにお礼を言うと、さあ、もう帰ろう、とジェームスを促した。
 ジェームスはしぶしぶミアの後に続いて部屋から出た。

 ミアは来るときとは反対に足早にこの建物の出口へと向かって行った。
 あわててジェームスがついて行こうとすると、ぽんと肩に手を置かれた。

 見上げると、ハヤト・ウェイがこちらを見下ろし、にっこり微笑んでいた。

 ハヤト・ウェイは少し前かがみになると、ジェームスの耳元で「明日、また来てください」と囁いた。

 ジェームス・モルガンは自分の心臓がドキンとなるのを感じ、そして小さく頷いた。

「ジェームス・モルガン! 何してるの? 早く帰ろう!」

 ミアが早々と出口の外に出て、向こうでもどかしそうに振り返って彼を呼んだ。

 ジェームスはペコリとお辞儀をすると、ミアに続いてこの建物から外に出た。
 辺りはすっかり夕焼けに包まれていた。

 振り返ると建物の入口にハヤト・ウェイが立っていた。
 そして手を振ると彼は扉を閉めて中に入ってしまった。

 彼ともっと話しがしたかったなとジェームスは後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。

 そうして二人はどんどん薄暗くなっていく道をオート二輪車を飛ばして街まで帰って来た。

 家につくるころにはすっかり夜になってしまった。

 ミアを家まで送ると、ミアは黙ってオート二輪車を降り、小さな声で「じゃあ、またね」と言った。

 あんな場所に行ったものだから、彼女も彼女なりに頭の整理をしているようだった。

 ジェームスはそっと彼女の身体をひきよせると、その頬に口づけた。

 それでミアも少しは気が晴れたらしくて、手を振ってアパートの階段を登って行った。

 彼女の部屋に明かりがつくのを確認すると、ジェームスはオート二輪車を走らせて自分の家へと帰った。

 布団に入って目を閉じても、あのゲームの部屋の情景が瞼の裏に浮かんでなかなか寝付くことができなかった。

 空が白み出すこと、ジェームスは我慢がならなくなって独りオート二輪車にまたがると、高層道路をアルガン湖へ向かってひた走った。


五、天地創造 →



一気読みしたい人へ
TALESで全話先行公開中



#SF
#多様性
#SF小説
#自分探し
#ディストピア
#思考実験
#社会シミュレーション
#人類文明
#人類とは

いいなと思ったら応援しよう!