[小説] ジェームス・モルガンのゲーム | 三、ドーム (3/14)
オート二輪車を降りて湖畔へと徒歩で近寄ってみる。
水際に近くなるとそこで草原は終わっていて、足元は何だかわからない未知の材質へと変わった。
それは灰色のツルツルした素材で、上を歩くとコーンコーンと妙な音を響かせた。
ミアは気味悪がってジェームスの腕にしがみつき、恐る恐るその上を歩いた。
湖の表面には、小さな細波がたっていて、波打ち際に近寄ると、ザザ…ザザと小さな波の音が聞こえた。
ジェームスは波打ち際に立つと、湖の中を覗いてみた。
水はやたらと透き通っていて波の下がよく見えた。
ジェームスが立っている場所からすぐ先の方が急激に深くなっているのが見えた。
水面は穏やかだったが大変に恐ろしい光景だった。
水には絶対に入らない方がいいな…と思って彼は一歩後ろに下がった。
日はだいぶ傾いてきて、あたりは黄金色の光に満ちていた。
その美しさと、波の音しかしない静寂さが、とても不気味だった。
「ねえ、もういいでしょう? 帰ろうよ」
ミアが怯えた声で言った。
「うん、そうだね…」 言いかけてジェームスは視界に入ったものに釘付けになってしまった。
ずっと向こうの方、湖とはちょっと離れた場所に、来るときには見えなかった構造物が見えたのだ。
「あれ、何かな?」
ジェームスが指さすと、ミアもその方向を見た。そして彼女も見た。
「何? あれ…。ボウルをさかさまにしたみたいに見えるけど…」
それは球体の上半分を切り取ったような形の、ちょうど一軒家くらいの大きさに見える構造物だった。
あんな周りに何もないところにあるものが、何故さきほどまで見えなかったのか不思議だった。
ジェームスは、少し湖から離れて歩いてみた。
すると、視界からその構造物は消えてしまった。
また、湖に近寄ってみると…それは見えた。
「たぶんだけど、角度によって見えたり見えなかったりするみたい」
「何なの…それ……あ、ちょっと、ジェームス・モルガン!! 待ってよ。まさかあそこに行く気?」
「嫌だったらオート二輪車のところで待ってて、すぐ戻るから」
それを聞くとミアは慌てて着いて来た。こんなところで独りになる方が嫌だったらしい。
半球体の構造物は近寄るとやはり家くらいの大きさだった。
地面と同じ灰色のツルツルした素材でできている。
ジェームスの知る限り、現代人はこのような形状の建物は建てない。
やはり旧時代のものなのだろうか。
構造物には入口のようなものがついていた。
扉らしきものから突き出ているレバーにジェームスが手をかけると、ミアが不安そうに彼の服を引っ張った。
「やめときなよ」
ミアの声は震えていた。彼女は予測不能な事態にめっぽう弱いのだ。
ジェームスは彼女の手を握ってやると、「大丈夫だよ」と優しく声をかけた。
レバーに手をかけると動きそうだった。
思い切って上に押し上げると、ガチャンと音がして、扉が開いた。
扉は押して開けるタイプだった。ゆっくりと押していくと、滑るように音もなく、扉は内側へと開いた。
中を覗き込むと、真っ暗で何も見えなかった。
ジェームスが一歩踏み出そうすると、ミアが再び服を引っ張って首を何度か横に振った。彼女は無言で 「やめよう」 と言っている。
そんな彼女にジェームスはにっこり微笑みかけ、今度は彼女の肩を抱いてゆっくりと、だが確実に一歩、建物の中に足を踏み入れた。
すると、それと同時に建物内の照明が一斉につき、中は明るくなった。
この建物がどれほどの時間放置されてきたのか知らないが、未だ照明が生きていることも驚きだった。
正面に壁があり、ドアが三つ並んでいた。
これにはミアも興味を引かれたらしく、ジェームスにくっついて建物の中へと入って来た。
建物の中に入ると、二人の足音がコーンコーンと響いた。
「これはこれは。お客様とはめずらしい」
ふいに後ろから声がしたので驚いて二人が振り向くとそこには風変わりな人物が立ってた。
その人は、真っすぐなサラサラの黒髪を腰まで伸ばし、長身で病院で着るようなゆったりとした衣類を身に着けていた。
そして何よりも、美しかった。
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