【ピヲピヲ文庫連載ミステリー】『7組のクセツヨな招待客』~第5話~
『夢鳥の幽館』の主、鳥尾吊士(とりお つるし)は招待客たちの囁き声も気にしないかのように続けた。
「まず、皆さまに、この洋館について簡単にご紹介したいと思います。当館は、私の曾祖父が建てたものであり、代々我が一族が所有してきました。数多くの重要なイベントや会合が行われてきた歴史ある場所です。皆様にも、この特別な空間をお楽しみいただければと思います」
鳥尾は続いて、自分がいかに稀有な資産家であるかを仄めかすように「我が一族は、数世代にわたって様々な事業を展開し、幸いにも、大きな成功を収めてまいりました。私自身も多くのビジネスに関与し、その中で得た知識と経験を基にこれまで当館を維持し、さらなる繁栄を築いております」
彼の冷静で優雅な態度は、彼が今しがた口にした大いなる成功を裏付けるかのような印象を招待客一同に与え、招待客たちは、彼がただの資産家以上の存在であると感じ始めていた。招待客たちはみな、鳥尾の言葉に耳を傾けながらも、この館と彼自身に隠された秘密や謎めいた過去に思いを巡らせた。
「皆様には、ぜひ私のビジネスの成功の一部を垣間見る機会を提供できればとも考えています。本日は、特別な体験を皆様に提供するため、さまざまな楽しみをご用意しております。どうぞ、心ゆくまでお楽しみください」と彼は微笑みながら言った。
鳥尾は一瞬間を置いて、招待客一同の注目が自分に集まるのを待った上、微笑みながら先を続けた。
「皆さん、本日はお越しいただきましたことについて、改めて感謝申し上げます。わざわざ遠いところからお越しくださった方もおられるようで、私としても皆さまにお目にかかれたことが非常に光栄でございます。これより、少し退屈な話もあるかもしれませんが、今一度、皆さまに当館にお集まりいただいた理由について、ご説明させていただきたく思います。」
「ああ、招待状に何やら書いてたけど、難しくてよく分からなかったな。何とかフェースとか、、、」と剛が誰に言うでもなく、口を挟んだ。
鳥尾は、話の腰を折られたことを全くに気にする態度も見せず、笑顔を崩さずに答えた。
「はい、聞き慣れないビジネスかもしれませんが、我々は今、未来のテクノロジーを利用したあるビジネスモデルを構築するため、極秘のリサーチプロジェクトを進めております。本日は、皆さまに、本プロジェクトにご協力いただきたいと考えております」
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鳥尾は、またもや一瞬、勿体ぶったような間を開けた後、先を続けた。「皆さま、ブレイン・マシン・インターフェースという技術をお聞きになったことがありますでしょうか? これは、脳とコンピュータを直接つなぐ技術のことを指します。脳の信号を読み取って、それをデバイスに伝えることで、思考や意図をコンピュータに直接反映させることができます。例えば、考えただけでデバイスを操作したり、脳波を利用して情報をやり取りすることが可能となるという研究です」
剛が言った。「その研究の話なら、何となく聞いたことがあるな。脳波を通じてヘリコプターを飛ばすとか何とか……」
鳥尾は微笑んで答えた。「まさにその通りです。この研究自体は随分と前から行われており、人の脳波及び神経とコンピュータを直接繋ぐこの技術は、人々の生活を劇的に変えることができる可能性を秘めています。これが実用化されれば、人間の脳波や全神経から発する信号を利用してデバイスを操作することができるほか、言葉を発さずに思考だけで他人と会話をしたり、リアルタイムで体の状態をモニタリングして異常が検知されると医療機関に通知するといったことも可能になるかもしれません。実にさまざまな分野での応用が期待されているものなのですが、我々は今回のパーティーで皆さまからご提供いただくデータをもとに、本技術を基盤としたビジネスモデルのさらなる構築を進めてゆきたいと考えているのです!」
招待客の大半は、鳥尾が語るビジネスの構想を半信半疑の気持ちで聞いていたが、彼の威厳のある声の調子と緩急を付けた話しぶりには、茶化すのが躊躇われる迫力のようなものが潜んでいた。
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「今回のリサーチプロジェクトの一環として、皆さまには、我々が開発したウェアラブルデバイスを装着いただき、簡単なゲームやアンケートにご参加いただきたく思います。そして、特定の状況下で皆さまの思考や行動を観察・分析し、それを我々のビジネスモデル成功のための貴重な参考データとして活用させていただくことを考えています」
「ウェアラブルデバイス……?」。先ほどの剛の質問により、主との距離がいくぶん縮まったと感じたものか、今度は梓が困惑ぶりを鳥尾に伝えようとするかのように疑問を口にした。
鳥尾は親しみやすい笑顔で答えた。
「はい、ウェアラブルデバイスとは、身体に身に着けて使用する小型装置のことです。今回のプロジェクトには、本デバイスの機能性をテストするという目的も含まれています」
そこで、今度は麗子が口を開いた。
「あら、私、あまり体に変なもの付けるとか嫌だわ」
鳥尾は笑顔で麗子に向き直り、「ご安心ください。今回使用するのは、リストバンド型のデバイスで、手首に装着するものです。これにより、皆さまの心拍数や体温などの生体信号をモニタリングします。まあ、腕時計のようなものとご理解ください。もちろん、全く危険なものではございません」
「脳波を測定するんですよね? そんな腕時計みたいなもので大丈夫なんですか?」と、明が疑問を口にすると、鳥尾は笑顔を維持したまま、「我々は、手や腕の神経活動を感知し、それを基に推定される脳の状態を評価するためのリストバンド型デバイスの開発に成功しました。従いまして、センサーを搭載したデバイスを頭皮に別途装着することなしに、こちらのリストバンドのみ装着いただき、パーティーをお楽しみいただければと思います」
「さっきの話ですけど、我々の思考や行動パターンを反映したデータって、具体的に何に使うんですか?」とリナが話に付いていけなかいのように困惑顔で聞いた。
鳥尾が面倒がる素振りも見せず、この質問に優しく答えた。「恐縮ながら、まだ機密事項も多く、すべてをお伝えすることはできませんが、皆さまから集めたデータを我々が管理するコンピュータに蓄積し、それらを分析したうえ、その結果をもとに新しいテクノロジーやビジネスモデルの開発に活用します。例えば、人々がより健康的な生活を送れるような模索中のテクノロジーのさらなる開発を推進したり、少し具体的なことを申し上げますと、昨今懸念されているプロテイン・クライシスを解消するためのビジネスに役立てたりすることを考えています」
ナオミが総括した。「要するに、私たちはそのリストバンド型のデバイスを手首に巻いて、鳥尾さんの仰るゲームやイベントに参加する。そして、イベント中にデバイスから得られる私たちの生体反応をデータとして活用し、鳥尾さんの次世代型インターフェースを用いたビジネスモデルに役立てる、、、と、つまりはこういうことですか?」
「実に聡明な方だ! 仰るとおりです! ただし、生体反応だけでなく、私も各イベントには基本的に同席しますので、皆さまの行動を適宜観察、記録させていただきます」
招待客一同は、鳥尾のビジネスモデルと自分たちへの要求を頭の中で反芻し、それらを繋げて理解しようと努めた。
※※※※※
スミレが主に問いかける。
「あの、私たちがすることって、その腕時計みたいなものを手首に巻いて、イベントに参加する。本当にそれだけなんですか? 何だか、とても簡単なことのように思えるのですが。。。」
鳥尾は笑顔でゆっくりと頷きながら答える。
「はい、仰るとおりです。皆さまにとっては、非常に簡単なことに聞こえるかもしれません。しかしながら、皆さまのように異なる属性、、、要するに年齢、背景、ご職業もバラバラな方々が、一定の状況下で、それぞれどのような思考、行動パターンを取るのか、それを解析することに我々のニーズがあるのです。そのため、どのようなカップルの組み合わせが今回のリサーチ対象として適切なのか、我々は実に数多くの応募を前に、慎重に検討を重ねました。その結果、ここにお集りいただいた皆さまが、今回のプロジェクトに最適なメンバーの組み合わせであるとの結論に達したわけです。イベントに参加すること自体は実に簡単に見えますが、その一方、このプロジェクトは誰でも参加できるものではございません。皆さまは、数多くの応募者の中から検討に検討を重ねて最終的に厳選された選ばれし方々なのです!」
鳥尾は、熱を込めて一同に訴えかけた。
(🐦つづく🐦)
※ 本作はフィクションであり、今回作中のキャラクターが語った技術についても、筆者の創作が含まれておりますことをご了承ください。
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