超人トループ/第1部・第11話;異次元人?
前回
九月四日金曜日、榎門みなみはキッチンカーで麒麟焼きという菓子を売っていた青年に、朱雀の装飾が施された銀色の指環を与えられた。どうやっても、この指環はみなみの指から抜けなかった。
九月九日水曜日、みなみは攫猿と名乗る怪物に襲われた。その時、謎の青年に与えられた指環が、みなみを赤い戦士・超人朱雀に変身させた。超人朱雀となったみなみは、攫猿を倒した。
自分の周囲で起きていることに、みなみはただ圧倒されるばかりだったが…。
日付が九月十日木曜日に変わった時、みなみに事の真相が伝えられた。
みなみは幻影を見ていた。赤い人面の大蛇・燭陰たちの世界に来ている幻影を。燭陰が体を巻き付ける岩山にて、みなみは燭陰からいろいろな話を聞いた。
(あの世には、燭陰みたいな人面蛇が他にもおる。燭陰たちは、寿命で死んだ人間の魂を食べとる。寿命で死なんかった人間の魂は食べれせん。つまり、事故で死んだ人とかの魂は食べれせん。殺された人の魂も食べれせんってこと? でも、殺された人間の魂を食べる種族もおるのかな?)
みなみは右手の薬指の指環を見て、思った。
(アクロバティック・ゴワゴワも、指環で変身しとったけど…。まさか、殺された人間の魂を食べる種族が、人間に変な指環を配っとるの? 同じ人間を殺させる為に!?)
自分の推理に、みなみは寒気すら覚えた。そして、この推理は正解らしい。
「正解だ。人間に殺された人間の魂を食らう種族がいる。奴らは自分たちの糧を増やす為に、人間に人間を殺させようと、昔から画策し続けておる」
燭陰の言葉を聞き、みなみは顔を歪めた。
「ちょっと待って。そんなの今すぐ、やめさせな…!」
座っていた岩から咄嗟に立ち上がり、みなみは強い声で言った。その一方、燭陰は全く動じない。
「勿論だ。我々の糧が減るからな。だから、利害関係を共にする其方たちの力を借りることにしたのだ」
口を閉じたまま、燭陰は話を続けた。
「人間に殺された人間の魂を食らう種族の中でも、共工という者が最も悪辣だ。共工は昔から何度も、人間が戦乱を起こすように誘導してきた。人間に殺された人間を増やす為に。これを阻む為に私は麒麟を創り、其方たちの送っているのだ」
ここまで話を聞いて、みなみは思わず口を開いた。
「つまり、歴史として語られる戦争の殆どは、その共工が関わっとるってこと? それを阻む為に燭陰が送っとる麒麟って、首の長いアフリカの動物やなくて、中国の神獣? それは昔からやってたん?」
みなみに問いに、燭陰は「然様」とだけ答えた。ここで、みなみは疑問を抱いた。
「燭陰たちは、戦乱を止める為に、何度も麒麟を送り込だんやね? なんで、燭陰は自分で行かんの? 麒麟って、人工生命体みたいなモンなんやろ? そんなの創るより、自分でやった方が楽やない?」
この疑問の理由は至って単純だった。
「我らには、其方らの世界に行くことができぬのだ。だから我は、麒麟を遣いとして、其方らの世界に送っているのだ」
みなみは「なるほど!」と手を叩いた。そのみなみに、燭陰は更に情報を付け加えた。
麒麟は、幼体で人間の世界に送り込まれる。共工が動きだす頃には麒麟が成熟しているという、最高の頃合いを見計らって、燭陰は麒麟を送り込む時期を決めているらしい。しかし共工も計画を妨害されたくないので、燭陰の予想を外す為に策を弄しているそうだ。
「今回は、麒麟の成熟前に共工たちが動き始めた。まだ麒麟は戦えぬ。だから、人間たちの中から特別な力を持った超人を捜し、その者たちに超人リングを与え、超人トループを結成するよう、麒麟に命じたのだ」
みなみは話を聞きながら、いろいろ思う。
(超人トループ? なんか、英単語がちょいちょい入るのが謎やけど…。特別な力を持った超人? ウチが?)
自分が特別な力を持っていると、みなみは信じられなかった。本当にみなみは、自分を『目が少し良いだけの凡人』と思っているのだ。しかし、他のことの方がもっと気になった。
(超人リングを与え、超人トループを結成するよう、麒麟に命じたなら…。あの、キッチンカーの残念イケメン、麒麟なん!?)
燭陰の話から類推すると、みなみにリングを与えた者が麒麟ということになる。ならば、キッチンカーで麒麟焼きを売っていた青年が、麒麟ということになるのだが、みなみには信じられなかった。
(人間にしか見えんのだけど? 成熟前とか言うとったけど、成熟したら麒麟になるの?)
燭陰が人間とは異なる姿をしているので、麒麟が人間と同じ姿というのが、みなみには引っ掛かった。しかし麒麟について考えていると、みなみの中に疑問が生じた。
「ねえ。燭陰はウチらの世界に来れんから、麒麟を送り込んどるって言うたよね? 共工も、燭陰と同じ生き物なんよね? なら、共工もウチらの世界にこれへんのと違う?」
頭に浮かんだ疑問を、みなみはサラサラと言葉にした。この問に燭陰は頷き、口を閉じたまま答えた。
「然様。だから共工も、命を創って其方らの世界に送っておる。相柳という、創られた命をな」
相柳という人工生命体を、共工は何度も人間の世界に送り込んでいると、燭陰は話した。正確に言うと、人間たちが戦乱を起こすように誘導しているのは、共工ではなく相柳とのことだった。
「相柳は我らと同じような姿をしているが、頭が九つもある。体には猛毒を持っている、危険な存在だ。人間の世界では、九人の人間に分身して行動している」
ここまでの話を、みなみは脳内で咀嚼する。
(頭が九個もある蛇って…。八岐大蛇やヒドラの仲間やな。ウチらの世界では、九人の人間に分身しとる。ウチが会った麒麟も人間の姿をしとったから、それと同じやね)
みなみは話の内容を消化していくと、あることに気付いて息を呑んだ。
「まさか、あの人たちが相柳!?」
みなみは戦闘の後、怪しい人物に四人も遭遇した。戦いに敗れて攫猿の変身が解けた男を連れ去った、レインコートの女とチャイナドレスの女。その直後、黒いリムジンに乗って現れた黒い紋付き袴を着た壮年の男性と、白状を持ったサングラスの女。みなみは彼らが相柳の分身体に思えてきた。みなみは、リムジンの二人が渡した名刺を、スカートのポケットから取り出した。
「木日柳一に二柳杏。これ、漢字をバラして組み直したんや。どっちも相柳になる」
二人の名前の共通点にも気付いたみなみは、体が震え始めた。
(相柳は、ウチに目を付けて監視しとんの? 木日柳一の方は、指環に突っ込んできたし。あれは警告?)
相柳がみなみを敵対勢力として認識し、警戒しているとしてもおかしくはない。その可能性が、みなみの体を震わせた。そんな中、燭陰の話は続く。
「相柳は人間に等活リングを配り、同族殺しの怪物・等活に変貌させる。今しがた、其方が戦った者も等活の一人だ」
燭陰の話を聞いて、みなみの脳に約二時間前の記憶が甦る。
「等活覚醒。…攫猿!」
この男の掛け声で男の白い指環が腕輪に変わり、男の姿を攫猿に変貌させた。そう言えば、超人朱雀に変身したみなみを見て、攫猿はこんなことも言っていた。
「同類に手を出しちまったとはな…。等活の女なんて、レア中のレアだからな!」
ようやく、ここに来てみなみは全てを理解した。
「あの男は相柳に渡された指環で等活になっとっただけで、元々は人間やった。で、ウチも指環で変身したから、等活やと誤解したんやな」
等活について考えていると、つい数秒前に感じた相柳への恐怖は、自ずと薄れた。それ以上に強い気持ちが、みなみの中に生まれたからだ。
「今日の男みたいなの…。等活は他にもたくさんいるんやろ?」
みなみは真剣な面持ちで、燭陰を見上げた。燭陰は口を閉じたまま、「然様」と返した。この言葉に、みなみは深く頷いた。
「等活たちに、好き勝手させたらアカンと思う。なんでウチが選ばれたんか解らんけど、戦う力を貰うたからには、等活を止めたろうと思う」
みなみの心に燃えた炎は、先の恐怖心を焦がし尽くした。その炎は、みなみの視線も熱くしていた。その視線を受ける燭陰は、岩のように固い表情のまま、頷いていた。
気付いた時、みなみは自室の床で寝ていた。日は昇り、時刻も午前六時十五分になっていた。ベッドには優子が寝ている。急にみなみは現実に戻されたが、右手の薬指には依然として、朱雀の指環が銀色の光を放っていた。
第12話へ続く!
