超人トループ/第1部・第12話;影で蠢ていてる!?
前回
九月十日木曜日。午後七時半頃、榎門みなみはアパートの自室を出た。今日は、部屋に泊めた有馬優子も一緒だ。
「めっちゃ楽しかった。修学旅行みたいで」
みなみの部屋に一泊した優子は、ご満悦だったようだ。そう言われて、みなみも笑みを浮かべる。
「そんなら、もう一泊する? 優子ちゃんがすぐ寝てしもうたから、ウチは不完全燃焼やし」
そう言われた優子は、何かを考えているのか暫し唸り声を上げた。
「次は、みなみが私の家に泊まるとか…。UMA研究会で、何処かに調査旅行に行くとか。そういうのもアリだね?」
唸り声の後、優子は満面の笑みでそう言った。そんな優子を見ていると、みなみも自ずと表情が綻んだ。
「UMAの調査旅行は丁度ええね。結城先輩にも話さんとね」
普段のみなみは、大学まで一人で歩いているが、今日は話相手がいるので楽しかった。そして、こうして優子が生きていることのありがたさを、強く噛み締めていた。
(あのキッチンカーの残念イケメンに指環を嵌められて、本当に良かった。でなきゃ、ウチらは等活に殺されとった)
右手の薬指に輝く銀色の朱雀の指環を眺めながら、みなみはしみじみと思った。
優子との会話が途切れた時、みなみは燭陰から聞いた話を思い出していた。
(共工が自分の食糧を増やす為に、人間を等活に変えて、人殺しをさせようとしとる。等活に変身する為の指環を人間に配っとるのは、共工の手下の相柳。相柳は九人の人間に分身しとる)
話を振り返りながら、みなみは右手の薬指に輝く指環に目をやる。
(等活が何人おるんやろう? 相柳も、あの四人の他に五人もおる)
考えると、不安が押し寄せて来る。その不安を取り払うように、みなみは首を横に振った。
(でも、この超人リングがあれば、等活にも負けん。人殺しなんて、絶対にさせへん)
みなみは強く自分に言い聞かせつつ、指環と優子を交互に見た。与えられた力と使命を受け入れて、自分なりにできることをしていく決意は固まっていた。
この世の影で暗躍する存在を、みなみは知った。それは同時に、影で暗躍する存在にみなみの存在を知られたことも意味する。
みなみが燭陰から話を聞いていた頃、都内某所にある和風の屋敷に集まっていた者たちがいた。人が就寝するように時間に集まるだけでも奇妙だが、集まった者たちは年齢や服装がバラバラなので余計に奇妙だった。屋敷の一角、二十畳ほどの広間に、その者たちは集まっていた。電灯を点けず、縁側から差す月光を灯にして。
部屋の地袋の近くには、黒い紋付き袴を着た壮年の男性と、サングラスを掛けて白杖を持った女性が立ち、五人の男女と向き合っていた。
「燭陰側の勢力に動きがあったのでな。今回は、こうして集まってもらった」
紋付き袴を着た白髪の男性が喋り始めた。この人物は、みなみと遭遇したリムジンに乗っていた男性。【木日柳一】と書かれた名刺を差し出した者だ。このまま彼の演説が始まるのかと思われたが、聞く側の一人がいきなり声を上げた。
「五之首と六之首の姿が見えないな。あの二人は良いのか?」
そう言ったのは、黒いリクルートスーツを着た男性。丁寧に整えた頭髪とメタルフレームの眼鏡が彼を優秀なサラリーマンのように見せていたが、鞘に納めた紫色の刀を右手に持っているのが異様だった。彼の問いには、白杖の女性が答えた。
「五之首は屋台の営業、六之首は香港と台湾のライブツアーとのことです」
【二柳杏】と書かれた名刺を持つ彼女の答に、スーツと刀の男性は舌打ちをした。
「人間の芝居が会議より優先だと? どういう奴らだ」
辛辣な発言だが、出席者たちは誰も顔色を変えない。
「そう言わないで。五之首と六之首も、それぞれ頑張ってるんだから。同じ相柳どうし、仲良くしようよ」
スーツと刀の男性の隣には、ぶ厚い眼鏡をかけた太った男性がいた。白いポロシャツと紫色のハーフパンツを着ていた彼は、スーツと刀の男性の首に手を回して宥めようとした。スーツと刀の男性の顔が引きつる。
「八之首の言う通りです。五之首と六之首の活動は役に立っています。不要な批判は謹んで頂きたいです。三之首」
スーツと刀の男性が太った男性に何かを言おうとするより前に、二柳杏が彼を制した。スーツと刀の男性は舌打ちをし、太った男性は彼から離れる。二柳杏の言葉で、スーツと刀の男性が【三之首】、太った男性が【八之首】という名前であることが判明した。
「済まなかったな、二之首。引き続き用件を頼む、一之首」
三之首は、二柳杏を【二之首】、木日柳一を【一之首】とそれぞれ呼んだ。一之首こと木日柳一は、遮られた話を再開した。
「超人朱雀が現れて、等活が一匹やられた。青龍、玄武、白虎…ここに朱雀も加わり、超人トループは四人揃った」
一之首の伝達に、一人だけ反応した。それは紫のチャイナドレスを着た女性で、彼女はクスクスと笑った。この声に三之首が眉をひそめたので、彼女は「失礼」と平謝りした。
「いえ。超人朱雀に倒されたのが、私がリングを売った等活だったもので。あんな簡単に負けるなんて、リングを売った身としては恥ずかしい限りで…」
チャイナドレスの女性はそう言っているものの、その語り口には反省などは感じられず、楽しそうなくらいだった。
「今度の朱雀の子、凄く可愛かったわねぇ…。前の朱雀だった子に比べたら、雲泥の差…」
チャイナドレスの女性は満面の笑みで、そう呟いた。すると、彼女の隣にいた紫のレインコートを着た女性が、すかさず質問した。
「九とどっちが可愛い?」
彼女は、チャイナドレスの女性と共に攫猿に変身した男を連れ去った人物で、室内でも閉じた雨傘を右手に握りしめていた。レインコートの女性の問いに、チャイナドレスの女性は答えた。
「断然、あの子」
この回答に、レインコートの女性は「ショック~」と言いながら頭を振る。明らかにふざけていて、堪えている雰囲気は皆無だった。この茶番に、三之首がまた舌を打つ。
「四之首、九之首。いい加減にしろ。遊びじゃないんだぞ!」
この言葉で、四と呼ばれていたチャイナドレスの女性は【四之首】、九と呼ばれていたレインコートの女性は【九之首】だと判明した。叱られた二人は、「失礼」とニヤけながら平謝りした。
ここに来て、今までずっと黙っていた者が挙手をした。
「一之首に二之首。質問良いかな? 超人トループが揃ったのは解ったけど、麒麟はどんな感じ?」
挙手をしたのは、この中で最も背の低い者。紫色の通学帽に似た帽子をかぶった少年で、声変わり前の高い声をしていた。彼の問いに、一之首が答える。
「良い質問だ、七之首よ。麒麟はまだ成熟しておらん」
一之首の回答は簡潔だった。質問した少年・七之首は頭の後ろに手を組みながら「そっかー」と答える。
「麒麟が動きだしたら、真っ先に俺に教えろ。奴は俺が殺る」
三之首が目をギラギラと輝かせながら、鞘に納めた刀を前に翳した。すかさず八之首が「やる気満々だねぇ」と囃し、三之首に睨まれる。そのやり取りをレインコートの九之首が笑い、三之首は更に怒る。雰囲気が悪くなってきたところで、一之首が咳払いをした。
「ところで四之首。超人朱雀に敗れた等活…攫猿はどうした?」
咳払いのついでに、一之首は質問した。チャイナドレスの四之首は、滑らかに応えた。
「リングも破壊されてしまいましたし、あの調子では他のリングを使いこなせるとも思えなかったので、他の等活に処分させました」
この回答に、一之首は不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「共工様たちの糧にしたか。悪い判断ではないな」
そう呟いた後、一之首は声を張り上げて、全体に呼び掛けた。
「共工様たちの元に届いた糧は、まだ充分ではないと聞いておる。引き続き人間から等活を選び、人間を殺させるよう励んで欲しい。共工様たちに糧を届けることが、我ら相柳の使命であることを、絶対に忘れるな!」
広間に一之首の声が轟く。「御意!」と威勢よく答えたのは三之首のみ。他は無言で、太った八之首とレインコートの九之首に至っては、ニヤニヤ笑っていた。
第13話へ続く!
