社員戦隊ホウセキ V 第2部/第120話;止まない攻撃
前回
八月十七日の火曜日。
暑宜にある大国の軍事基地からステルス爆撃機が飛び発った。沸佐に本陣を構えたニクシムを葬る為に。愛作をはじめとする人質の犠牲も厭わずに。
しかし、作戦は失敗した。
ニクシムがこの報復をしない筈が無かった。
「今すぐ宝世機で沸佐の基地に行くぞ! 爆撃だけは絶対に止める!」
キャンピングカーで小田射場に出向いていた時雨は、ブレスに向かって告げた。大国の軍隊のステルス機が、沸佐の方へ飛んだと聞いたからだ。
ブレスからは、「了解という」光里と伊禰の声が聞こえて来た。
十縷と和都は時雨と共に車の外に出て、宝世機を召喚しようとした。
しかし、その時だった。彼らのスマホが勝手に盛大な警報音を鳴らした。時雨たちは動きを止めて、スマホの画面を見た。画面には、ニクシム神を背にするマダムが映っていた。
『邪悪な地球の民よ。人質もろとも、妾たちを殺そうとするとはな。其方たちがどれだけ腐っているか、よく解った』
マダムの声明で彼らは知った。
核爆弾の投下は失敗に終わった。
今、氷漬けになった核爆弾が、都内の頭上を浮遊していること。
暑宜の基地を、オブシディアン・チャリオッツと多数のウラームが襲撃していることを。
マダムの声明は空気を凍り付かせたが、時雨は表情を変えなかった。
「核爆弾に対処する。行くぞ」
時雨は選択に迷いは無かった。十縷たちも異論を唱えなかった。
沸佐の基地跡。岩の姿で構えるニクシム神の前で、マダムとスケイリーはゲジョーが掲げる銅鏡の映像を眺めていた。
鏡面の半分には、上空を浮遊する氷漬けになった核爆弾が。もう半分には、チャリオッツと多数のウラームに襲撃される暑宜の基地の様子が、それぞれ映されていた。ゲジョーが放ったドローンが撮影している映像だ。
彼らの背後に聳えるニクシム神は、放出する鉄紺色の光の勢いを激しくしていた。
「連中の恐怖や悲鳴が確実に集まってんな。ニクシム神もお喜びだ。俺も早く暴れてえなぁ」
ニクシム神の光に目をやり、スケイリーがせせら笑う。自分が地球の民を襲う光景を想像しているのか、細かく身震いしていた。
そんなスケイリーの気持ちに水を差すような事態が、すぐに起きた。
「来たな、シャイン戦隊」
マダムが呟いた。その声に反応して、スケイリーは再び銅鏡を見た。
銅鏡は映していた。景色をガラスのように割り、上空に飛び出してきたホウセキングを。いや、腰に備えた梯子が金色に染まっていて、胸などに白金の追加装甲が見られるので、ホウセキング・ゴージャスだ。核爆弾に対応する為、上空に駆けつけたことは言うまでも無かった。
スケイリーに焦った様子は無い。マダムも表情を変えず、悠然と銅鏡を眺めていた。
銅鏡を掲げるゲジョーは、ずっと無表情だった。
ホウセキング・ゴージャスが核爆弾のすぐ近くに来れたのは、新杜国光の力添えだ。新杜家の者が交信する橙色のイマージュエルが持つ、憎心力を感知する力を使い、マダムの術を施された核爆弾の位置を正確に特定したのだ。
ホウセキング・ゴージャスの中では、ゴージャスチェンジャーを装着したレッドが息巻いていた。
「絶対に止めるぞ!」
レッド・ゴージャスの意志を受け、ホウセキング・ゴージャスは金色の梯子に備えたマズルから豪快に放水した。虹色の光を纏うこの水は、霧雨のように核弾頭に掛かる。これで術が解けたのだろうか。核弾頭は急に重力を思い出したかのように、真下へと急速な落下を始めた。
ホウセキング・ゴージャスも動く。右腕に備えたヒスイのタイヤが回転すると体が緑色に光ると巨体に似合わぬ高速移動を始めて、ホウセキング・ゴージャスは上空から一気に地上へと舞い降りた。ホウセキング・ゴージャスは見上げた先では、核弾頭が地上へと一直線に落下してくる。ホウセキング・ゴージャスは徐に左腕を頭上に掲げた。ガーネット由来のプロペラを掲げるように。
「飛んでけぇぇぇぇっ!!」
レッド・ゴージャスが叫んだ。グリーンたち四人も、続いて叫ぶ。その声に呼応して、ホウセキング・ゴージャスの左腕のプロペラが猛烈に回転し、光を纏った扇風を巻き起こした。光の色は赤が主で、緑、黄、ピンク、青も絡んでいた。
光る風は、落ちて来る核爆弾を捉えた。核爆弾は風に押されて、急速に舞い上がっていく。それこそ、落ちて来る時よりも速く。核爆弾はどんどん高度を上げていく。雲を超えたかと思うと、すぐに地球全体を見下ろすような高さまで到達していた。もう地球の重力の影響を受けない程の高さだ。そんな高さに達したところで、思い出したかのように核爆弾は爆発した。
社員戦隊の関係者は、寿得神社の離れの一階に集合していた。彼らは、ちゃぶ台に置いたリヨモのティアラが投影する映像を凝視していた。ホウセキング・ゴージャスが核爆弾を遥か上空まで吹っ飛ばしたのを確認すると、一同は胸を撫で下ろした。リヨモが鳴らす鈴のような音が、その雰囲気を更なるものにする。
「流石は北野さん率いるピカピカ軍団。最悪の事態は免れましたね」
最も安堵していたのは琴名で、畳の上に寝転ぶくらいに気が抜けていた。
「琴名君、まだ早いよ。人質の救出が最大の目標なんだから」
元上官の露花が琴名に喝を入れるのは、自然な流れだった。
そして…。露花の指摘は的確と言わんばかりに、悪い知らせがすぐに入った。
「また別の反応だ! 今度は何だ?」
国光が右手に握っている、サンストーンのような石で創られた半月型の櫛が、警告灯のような橙色の光を放った。その光と国光の切迫した声が、また場の空気を張り詰めたものにする。
リヨモは感情の音を鈴から耳鳴りに変えつつ、想造力を作用させて映像を切り替える。ホウセキング・ゴージャスに代わって出て来た映像に、一同は息を呑んだ。
「ここは…名潟町? 国の中枢を叩く気ね…」
映像を見て千秋が呟いた。
映像では、ビル街に多数のウラームが出現し、手当たり次第に人々を襲撃していた。
ホウセキング・ゴージャスによって核爆弾が宇宙まで吹っ飛ばされても、ニクシムは動じなかった。
「このくらいは、できると思ってたぜ」
敵なのに、スケイリーは社員戦隊の活躍に声を弾ませていた。隣で同じ映像を眺めるマダムも、落ち着いた様子を崩さない。
「それでは、次の作戦じゃな。ゲジョーよ。星を牛耳る者たちが最も多く集まっておる場所は何処じゃ?」
マダムはすぐゲジョーに訊ねた。ゲジョーは銅鏡を脇に置き、右方向を向いた。
「名潟町という区域ですが、距離と方角は…」
ゲジョーは目を閉じて右掌を前方に翳した。数秒後、ゲジョーは目を開いてマダムの方を向き直り、場所を特定できたとの旨をマダムに伝えた。マダムは頷いた。
「ゲジョーよ。その場へ繋がる穴を開けて貰えぬか?」
まずマダムは、ゲジョーにそう言った。すぐにゲジョーは虚空を叩き、景色を割って七色の光が渦巻く穴を開けた。人間が通れる程度の穴を。
次にマダムは、スケイリーと目を合わせた。
「スケイリーよ! ウラームたちと共に、この星を牛耳る者たちに鉄槌を下しに行くのじゃあっ!」
マダムの声を受けて、スケイリーは「しゃあ!」と威勢よく叫んだ。
「待ってたぜ、この時を! それじゃあ、行ってくるぜ! ウラーム共、俺に続け!」
スケイリーは拳を頭上に突き上げて、いざ進み出した。スケイリーの後ろには、多数のウラームが続く。ゲジョーが景色に開けた穴を潜って、大部隊が進撃を始めた。国家機関の中枢を目指して。
ゲジョーとマダムは、静かにその背を見送った。ウラームは大部分が暑宜と名潟町に向かった都合、この場には数体しか残っていない。そんな中、ゲジョーは隣に立つマダムの顔を見上げた。その目に迷いは無く、真っ直ぐに前を見据えていた。
一台の黒い車が、名潟町の道路を爆走していた。スケイリーと多数のウラームに襲われるこの場から、我先に逃げんとばかりに。
「ミサイルから逃げるつもりだったけど…。もう少し遅れてたら、ドロドロ怪物にやられてたな。助かったよ」
後部座席に座る男性が、運転席の男性と助手席の女性に声を掛けた。後部座席の男性は、肌が浅黒く、顔は脂ぎっていた。国会議員の出鱈名誉だ。
核爆弾が都内の上空を浮遊していると知った彼は、真っ先に部下を呼びつけて、都内からの脱出を図った。
出鱈が部下の車に乗った後に、スケイリーたちが名潟町に出現した。そのことに、出鱈はひたすら安堵していた。襲われているだろう、他の国会議員や役人たちのことなど、全く気に掛けず。
しかし…。修羅の街と化した名潟町からは、簡単に逃げ出すことはできなかった。
「怪物だと!?」
運転席の男性が裏声で叫んだ。ビルの窓ガラスを突き破り、上から人型の異形が降りて来たからだ。白い体に、鎖帷子のような金の鱗を纏った異形。左小手だけが暗色をしている。スケイリーだ。道路に舞い降りたスケイリーは、自分に近づいて来る出鱈を乗せた車を、悠然と眺めている。
「轢き殺す!」
運転手の男性は思い切った判断をした。ブレーキを踏むどころかアクセルを強め、前方に居るスケイリーをそのまま轢こうとした。対するスケイリーは、車が加速しても全く動じない。
「クズい匂いがプンプンするぜ」
スケイリーは体を開き、突進してくる車を受け止めた。普通の人間なら、吹っ飛ばされているような速度だ。しかし、スケイリーは微動だにせず、車の突進を受け止めた。この驚異的な力に、車内の三人は震撼する。
「いいねえ。俺が怖えかぁっ!?」
スケイリーは怪力で、車を押し始めた。車は左斜め後ろに後退させられ、ガードレールを突破して歩道に乗り上げ、そのままひっくり返された。
車内から三人の悲鳴が響く。スケイリーはその悲鳴に陶酔しながら、裏返した車を見下ろす。
「一番クズい奴は…こいつだな」
スケイリーは車体後部に近寄ると、怪力でドアを引き剥がした。車内で逆さになっていた出鱈は、スケイリーと目が合って息を呑む。車内に手を伸ばしたスケイリーは、出鱈の体を掴むと、シートベルトを引きちぎりながら出鱈を車外に引っ張り出した。
「や…やめてくれ…。命だけは…」
スケイリーに胸倉を掴まれた出鱈は、涙ながらそう訴えた。そんな出鱈に、スケイリーは乾いた笑いを捧げる。
「いいな、お前! ニクシム神に最高の捧げ物ができそうだ」
スケイリーが笑っている間に、裏返った車から出鱈の部下の男女が這い出てきた。二人は懐から特殊警棒を取り出した。
「坊ちゃまを放せ!」
勇敢な二人は、特殊警棒でスケイリーの背や後頭部を殴打した。しかし、打撃は効かなかったどころではなく、警棒はスケイリーの堅牢さに屈して折れてしまった。
「あ? そうだな。これが一番良いか」
スケイリーはそう言うと出鱈を脇に放り、標的を部下の男女に変えた。男女は格闘術で対抗しようとしたが、スケイリーに及ぶ訳がなく、それぞれパンチの一撃で沈められた。悶えながら、二人は地に伏せる。
「お前ら、しっかり見てろ」
スケイリーは杖を取り出した。先端には、鉄刀木身無を模した、褐色と白の市松模様が描かれた貝が備えられている。杖の先は、尻もちをついてる出鱈に向けられた。
そして…。貝からは一本の針が発射された。猛毒を有した、鋭い針が。針は出鱈のジャケットを貫通し、腹部に突き刺さった。出鱈の悲鳴が一帯に響き渡る。二人の部下も、堪らず絶叫する。
「簡単には死ねないぜ。長々と苦しめ。お前らは、あいつが死ぬのをそこで見てろ。ニクシム神の糧になれ」
顔が蒼褪めて倒れ伏す出鱈と、腹這いのまま愕然とする部下二人。その三人を嘲笑いながら、スケイリーはこの場を後にした。
彼らの苦痛は、沸佐にすぐ届く。ニクシム神が放つ鉄紺色の光は、勢いを増していた。
次回へ続く!
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