社員戦隊ホウセキ V 第2部/第119話;何を守る為に力を使うのか?
前回
八月十四日の土曜日の正午過ぎ。
ニクシムが沸佐にある大国の軍事基地を壊滅させた。
これを受けて、大国の軍隊は核ミサイルでニクシムを攻撃させることに決めた。愛作をはじめとする人質の犠牲も厭わずに。
国会議員の出鱈名誉は、そう語った。
八月十六日の月曜日の深夜から八月十七日の火曜日の早朝にかけて、十縷、和都、時雨の三人は、小田射場で海を見張っていた。核ミサイルは潜水艦から発射されると予想して。
しかし…。
八月十七日の火曜日。寿得神社は早朝から慌ただしかった。
神社の離れの二階では、最音子がティアラの投影する映像を凝視している。リヨモは映像を凝視はしていないが、想造力を作用させ続けて、画像が途切れないようにしている。場の空気は張り詰めていて、静かだった。
その静寂を壊すかのように、何者かが階段を駆け上がって来る音が響き渡った。その人物はすぐ二階に到達した。露花だった。
「二人とも聞いて。北野の予想、正しいかもしれない。ミサイルじゃなくて、爆弾の線が強くなってきた…!」
息を荒くしながら、露花はそう言った。最音子とリヨモの反応は、驚きというよりも悪鬼に取られたような感じだ。リヨモの体が鳴らしたのは、耳鳴りのような音と歯車のような音で、鉄を叩くような音は含まれていなかった。
同じ頃、離れの一階でも同様のことがあった。一階には光里と伊禰が居て、ここに琴名が駆け込んで来た。
「すいません! 北野さんと通信できませんか?」
靴を脱ぐのが面倒なのか、琴名は縁側に上がることなく、光里たちに呼びかけた。すぐ光里と伊禰は琴名に歩み寄った。光里が左手のブレスを、琴名の顔の近くに差し出した。そのブレスに向かって、琴名は言った。
「鉄山先生が、訊き出してくれたんですけど…。ついさっき、暑宜の基地からステルスが飛び発ったみたいです。沸佐の方に」
暑宜の基地とは、日本にある大国の軍事基地である。息を切らせながら琴名が告げた内容に、光里と伊禰は息を呑んだ。
「潜水艦から核ミサイルを撃つのではなく、飛行機で核爆弾を落とすつもりなのでしょうか?」
伊禰は声を震わせた。光里も顔が硬直している。
光里のブレスは、時雨の回答をすぐに伝えた。
『今すぐ宝世機で沸佐の基地に行くぞ! 爆撃だけは絶対に止める!』
この声を受けて、光里と伊禰の表情は緊迫感を増した、すぐさま二人は屋外に出て、それぞれイマージュエルを召還するのだった。
電車なら約一時間を要する距離も、最新鋭の軍用機にとっては目と鼻の先だ。
音速をも超えるその刺客は、もう目標地点に到達しつつあった。
ここは沸佐。大国の基地があった場所だ。ニクシムに襲撃され、ただの荒地と化している。
鉄紺色の光を発する巨岩と、黒いガラスの檻があるのが、以前との違いだ。
黒いガラスの檻の中には、愛作たち数名の人質が収容されている。
黒いガラスの檻の近くに近づいて来た者が居た。白い体に金の鱗。左の小手だけが暗色。スケイリーだ。
「てめえら、見放されたみてぇだな」
スケイリーは嘲笑うようにそう言った。彼の言葉が解るのは愛作だけだ。愛作はガラスの近くまで歩み寄り、スケイリーに言葉の意味を訊ねた。スケイリーはケラケラと笑いながら答えた。
「すげぇ殺気が近づいて来やがる。シャイン戦隊じゃねえな。あの感じ、お前らもろとも俺たちを殺すつもりだろうな」
感情が知覚できるスケイリーは、何やら不穏な影に気付いているらしい。しかし、決して焦った様子は無く、見下しているくらいの雰囲気を纏っていた。
スケイリーが何を言っているのか、愛作は理解できなかった。
ニクシム神の前には、マダム、ザイガ、ゲジョーの三人が集まっていた。マダムは空を見上げて、目を細めている。
「本当に、核兵器とやらで妾たちを殺す気のようじゃな」
マダムの目は捉えていた。遥か前方、雲よりも高い位置を飛翔する影を。色は灰色で、形は扁平な逆三角形。
ゲジョーから聞いた情報から、マダムはその翼が核兵器たるもので自分たちを殺しに来たのだろうと推察した。
地上のマダムに睨まれる中、ステルス爆撃機は攻撃態勢に入る。機体下部が、観音開きの扉のように開いた。開いた扉の内側から、何らかの物体が落下する。物体は空を切りながら、猛烈なスピードで斜め下へと突撃していく。ニクシム神を背にする、マダムたちの居る方へと。
「妾たちを殺す為に、自分たちの仲間を平気で見捨てるとは。許し難い極悪人どもめ!」
マダムは金切り声を上げながら、指を広げた右掌を斜め上に突き出した。掌には、紫色の光が灯される。
核爆弾は瞬時に高度を下げ、ザイガもゲジョーも視認できる位置まで迫っていた。しかし、マダムの掌が光を発すると、爆弾も同じ光を纏うようになり、その動きを止めた。
時が止まったかのように、爆弾は空中で静止した。
「これは…。空中で爆発して、毒の光を撒き散らすのか…。恐ろしい代物じゃな。こんな物ばかり創るとは、つくづく腐った星じゃ」
呟いていると、紫に光るマダムの掌に、一瞬だけ緑の光も混ざった。それと同時に核爆弾も緑の光に包まれ、次の瞬間には爆弾は氷漬けになっていた。おそらく、爆発を防ぐ為の処置だろう。
核爆弾の爆発を防いだマダムの元に、スケイリーが歩み寄って来た。
「危うく、全員死ぬところだったな。恩に切るぜ、マダム」
空中で静止したまま氷漬けになった爆弾を見上げながら、スケイリーは言った。
「見せしめに人質を何人か殺して、ゲジョーの力でその映像を地球の連中に見せびらかすか?」
暴力衝動の強いスケイリーらしい提案だった。しかし、マダムは賛同しなかった。
「いや。人質を平気で見放すような者たちじゃからな。見せしめで何人か殺したところで、何とも思わぬだろう」
その隣で、ザイガは大きく頷いた。
「確かに。それよりも覇権を握る者たちに恐怖を与え、よりニクシム神に力を捧げた方が得策かと…」
ザイガは思いついた策を語った。
核爆弾は凍結させたまま都内の上空を漂わせる。これで、何処にいつ落ちるか解らない恐怖を不特定多数の民に与え、ニクシム神の力に還元させる。
自分はオブシディアンで爆撃機が帰還した基地を襲撃し、報復で基地を破壊する。
「スケイリーはここで待機を。すぐにシャイン戦隊が動くだろう。その時の対応は、お主に任せる」
最も警戒すべき社員戦隊の動きも、ザイガは予想していた。
マダムもスケイリーも、異論を唱えなかった。
「良い作戦じゃな。解った。そのように動こう」
「流石だな、ザイガ将軍。痛みが解る人は、相手が一番苦しむ方法もよく解ってるねぇ…」
かくして、ニクシムの動きは決まった。
「ゲジョー。あの翼が何処に行ったか、解るか? その場所にオブシディアンで乗り込む。ウラームも幾らか同行させたい」
ザイガは出撃の準備を整えるべく、ゲジョーに指示を出す。その背中を、スケイリーは斜に構えた様子で眺めていた。
(本心を包み隠すねえ。怖いモンだ)
スケイリーの背後では、マダムの念力で氷漬けにした核爆弾が移動を始めていた。少しずつ高度を上げ、沸佐の基地から確実に遠ざかっていた。
ステルス爆撃機で核爆弾を投下し、ニクシムを殲滅する作戦は失敗に終わった。
それから数分も経たないうちに、また多数のスマホやテレビがゲジョーの電波ジャックに遭い、マダムの演説が映された。
『邪悪な地球の民よ。人質もろとも、妾たちを殺そうとするとはな。其方たちがどれだけ腐っているか、よく解った』
マダムが話す内容を理解しているのは、社員戦隊をはじめとするごく僅かな者たちだけだ。そんなことなど頓着せず、マダムは語金切り声を上げた。
『これより、妾たちは報復を行う!』
マダムが叫ぶと、画面が切り替わった。上空を浮遊する、氷漬けにされた核爆弾に。
『これは、妾たちを殺す為に使われた、核爆弾というものじゃ。其方たちにお返しする! 何処に落とすかは、まだ決めておらん。それまでの間、怯えるが良い! その恐怖を、ニクシム神に捧げるのじゃあっ!』
映像はすぐに切り替わった、今度は、黒耀石で創られたような戦車が、軍事施設と思しき場所を破壊している映像だ。暑宜にある大国の軍事基地を、オブシディアン・チャリオッツが襲撃したのだ。映像の片隅には、多数のウラームが兵士たちを襲っている様子も窺える。
『人質もろとも妾たちを殺そうとした者たちは、命を以って罪を償ってもらう! その悲鳴をニクシム神に捧げよ!』
ステルス爆撃機が暑宜の基地に帰投したことは、ゲジョーが簡単に突き止めた。沸佐の基地の時と同じで、大国の兵士たちは抵抗も空しく、ニクシムの強さに屈していく。絶望的な映像を、人々はまたしても見させられた。
ニクシムが流した映像は、多くの政党の本部ビルがある名潟町をも震撼させていた。とある政党のビルの一室では、出鱈名誉が絶叫していた。
「ミサイル攻撃が失敗した!? 何処に落とされるか、解らないだと!?」
出鱈は個室に居て、部屋に備え付けのテレビでマダムの声明と衝撃的な映像を見ていた。
「暑宜の基地も、ドロドロ怪物にやられてる…」
氷漬けの核爆弾が上空を彷徨う映像と、暑宜の基地をチャリオッツが破壊する映像は、出鱈の顔を蒼褪めさせた。そんな顔のまま、出鱈はスマホで誰かに架電をした。
「俺だ。ドロドロ怪物の映像、見たか? 核ミサイルが都内の何処に落とされるか解らない状態だ。今すぐ来てくれ。都内から少しでも遠くに行きたい」
出鱈が誰に架電したのは不明だ。しかし告げた内容から、彼が自分だけ助かろうと考えていることはだけは、明白だった。
暑宜にある大国の軍事基地は、チャリオッツと多数のウラームに蹂躙される。
チャリオッツを駆るのは、ザイガの変身したホウセキブラックだ。一人のコクピットの中、ブラックは破壊活動を続けながら思っていた。
(単独行動の口実が作れて良かった。一人で居た方が、マ・カ・リヨモを殺すには好都合だ)
思わず鈴のような音が小さく鳴る。それくらい、ブラックは胸を躍らせていた。
(愚兄の血を継ぐ者を根絶やしにし、我が復讐を完遂させる)
本当に彼は、リヨモを殺すことしか考えていなかった。
次回へ続く!
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