見出し画像

【clum! '95 #62】近付く背丈

←   前の話へ

1996年、3月下旬。春休み。

佐賀城跡のお堀の周り、淡いピンク色の蕾が膨らみ始めた桜並木の遊歩道を、二人で並んで歩いていた。

中学2年生(新3年生)になる佐野さの立夏りっかと、中学1年生(新2年生)になる僕、早坂はやさか一頼かずより

お試し期間を終え、正式に付き合い始めて数ヶ月。まだ少しぎこちなさが残るものの、僕たちの手はしっかりと繋がれていた。

ふと、立夏が足を止めた。

隣を歩く僕の顔をじっと見つめ、自分の目線との距離を測るように首を傾ける。

「……ねえ、一頼。あんた、また背伸びた?」

「えっ? ああ、この前家で測ったら結構伸びてましたよ。158cmくらいかな」

出会ったばかりの1995年4月、僕はまだ148cmしかなく、立夏の肩あたりまでしかなかった。

こちらを見上げるのが当たり前だった僕が、今では立夏の160cmという視界に、あと少しで届くところまで迫っている。

「そっか……。去年の4月はあんなに小さくて、『可愛い弟』って感じだったのに。もう、私の鼻先くらいまであるじゃない」

立夏は少しだけ眩しそうな顔をして笑った。

繋いだ手の位置も、以前より自然な高さになっている。

気づけば、去年ぴったりだった制服の袖が少し短くなっていた。牛乳も、背が伸びると信じて毎日欠かさず飲んでいる。

僕は、自分の成長を喜んでくれる立夏の笑顔を見て、誇らしい気持ちになると同時に、胸の奥をチリリと焼くような、やるせない思いに囚われた。

「……でも、どれだけ身長が伸びても。年齢だけは、絶対に追いつけないんですよね」

「……一頼?」

「立夏が中3になれば、僕はまだ中2。

立夏が高校生になれば、僕はまだ中学生。

……僕がどれだけ時間をかけても、立夏と同じ『今』を同じ学年で過ごすことはできないんだなって、今更だけど痛感しちゃって」

僕は、繋いだ手に少しだけ力を込めた。

背を伸ばし、体格を立派にすれば、いつか彼女を脅かす闇から守れるかもしれない。

けれど、彼女が大人になっていくスピードを追い越して、先に大人になって彼女を包み込むことは、それだけは、どう頑張っても追いつけない。

「……バカね。学年なんて関係ないでしょ。あんたはあんたのペースで大きくなればいいの」

立夏は少し照れくさそうに顔を背けたが、繋いだ手は離さなかった。

「追いつかなくていいよ。……横にいてくれれば、それで」

立夏のその言葉だけで、十分幸せだった。

それでも、彼女を受け止められる大人の男に早くなりたいと思ってしまうのは、欲張りなんだろうか。

↓  マガジンはこちら ↓

いいなと思ったら応援しよう!

ゆりしま みつき|青春群像の庭師|『clum! 』連載中 よろしければ応援お願いします! いただいたチップは製作費に使わせていただきます。