【clum! '96 #03】プロジェクト:リザルト

翌日の昼休み。碧翔学園の校舎に、稲城くんによる「魅惑の校内放送」が響き渡った。

「……生徒の皆さん、こんにちは。本日、調理部から心温まるお知らせがあります。現在、調理室では、まるで雲のように柔らかな特製シフォンケーキの試食を行っています。限定50食。春の陽だまりのような甘さを、あなたに——」
「……何よ、あの昼メロみたいな喋り方は!」
バスケ部の昼練を終えたばかりの立夏が、廊下のスピーカーを見上げて吹き出した。横にいる僕も、苦笑いしながら頷く。
「稲城くん、ノリノリですね。でも、あんな声で言われたら、女子生徒が殺到しちゃうんじゃ……」

案の定、放送が終わるやいなや、1年生の教室から女子たちが調理室へと走り出すのが見えた。
調理室の前では、立夏の指示を受けた樹先輩が、なぜか白衣のまま腕組みをして立っていた。
「……ふん。シフォンケーキの膨らみは、卵白のタンパク質が熱によって凝固し、内部の空気が膨張する物理現象に過ぎない。君たち、そんな非効率な甘味に釣られてどうするんだ」
せっかく集まった1年生たちが、樹先輩の傲岸不遜な態度にドン引きして足を止めている。

「ちょっと樹! 客を追い散らしてどうすんのよ!」
「うるさいぞ佐野くん。僕は玲が忙しくなりすぎて、僕との時間が削られるのを危惧しているだけだ。……そもそも、玲の料理を赤の他人に食わせるなど、本来なら許容しがたい……」
「はいはい、お兄ちゃんは黙ってて」と、中からエプロン姿の玲先輩が現れ、樹先輩の口に強引にクッキーを突っ込んだ。
調理室の隅では、野瀬が約束通りカメラを構えていた。
「……あー、いいですね玲先輩。その困り眉。あ、迅先輩! ちょっとそこ、玲先輩の横に立ってください。あ、エプロン外さないで! むしろ紐を結んであげて!」
「……野瀬。お前、さっきから調子に乗りすぎだぞ」
折館先輩は、渋々といった様子で、玲先輩が持ってきたおそろいの「フリル付きの白エプロン」を無理やり着せられていた。

金髪碧眼のクォーターがフリルのエプロン。
そのミスマッチな光景に、1年生女子たちから「……かっこいい」「ギャップ萌え?」と小さな歓声が上がっている。
「ほら、迅くん。動かないで。紐が曲がってるよ」
「……玲、これ本当に部員勧誘に必要か?」
「ええ、とっても。ほら、見て。1年生の子たちが興味津々よ」
折館先輩は溜息をつきながらも、玲先輩の真剣な瞳に抗えず、そのまま看板息子(?)として立たされる羽目になった。

そんな喧騒の中、一人の女子生徒が、おどおどしながら僕の影に隠れて入ってきた。
「あの……私、入学したばかりで……その、料理は全然できないんですけど……」

「あ、君は……」
「早坂くんの知り合い?」
「はい。小学校が一緒だったんです。1年C組の田口です。……その、家庭科の授業で、お米を研ぐのすら失敗しちゃって。でも、さっきの放送の声が優しかったから……」
玲先輩がぱあっと顔を輝かせ、田口さんの手を優しく握った。
「大丈夫よ! 私も最初はそうだったわ。一緒に、少しずつ覚えていきましょう!」
「やったね玲ちゃん! これで廃部は免れたわ!」
立夏が玲先輩の背中を叩き、調理室には賑やかな春の空気が満ちていった。
野瀬くんはカメラを覗きながら、なぜかものすごく満足そうに笑っていた。
……あの顔は、たぶん何か企んでる。
【今回のおまけ】




野瀬「??これは一体?」
稲城「『自動挿絵生成Gem』というのをどこかでいただいて試してみたそうですよ。どこで自分の設定を入れていいか分からず、文章にだけ合わせて作ってもらったらこうなっちゃったそうです」
野瀬「なるほど。髪が短いバスケユニフォームの女子が立夏先輩で、ポニーテールの方が玲先輩かな? ちと紛らわしい」
稲城「学ランにセーラーの碧翔学園も見てみたかった気がするね」
野瀬「時代的にはそっちが自然なんだろうけどね」
次の話へ →
↓ 収録マガジンはこちら ↓
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップは製作費に使わせていただきます。