【clum! '96 #04】僕らの歩幅
1996年、葉桜の緑が眩しい4月。
放課後の碧翔学園中等部、バスケ部男子部室裏。
部活の片付けを終えた折館迅と早坂一頼の間に、春ののどかさとは裏腹な、重苦しい沈黙が流れていた。
きっかけは、昼休みに野瀬が「恋愛雑誌のアンケートによれば、付き合って3ヶ月でキスするのが全国標準らしいっすよ」と、ニヤニヤしながら吹聴したデマ(あるいは誇張された統計)だった。

「……折館先輩」
一頼が、絞り出すような声で口を開いた。
「なんだ」
迅は部室の壁にもたれ、腕を組んで目を閉じている。金髪碧眼の横顔は相変わらずモデルのように整っているが、その眉間には、いつも以上の深い皺が寄っていた。
「……3ヶ月、ですよね。僕と立夏さんが付き合って」
「そうだな。俺と玲もだ」
「野瀬が言ってたこと、気にしてますか……?」
「……フン、あいつの言うことだ。根拠も何もない」
迅は鼻で笑ったが、組んだ腕の指先がピクリと動くのを一頼は見逃さなかった。

一頼は、地面に落ちた葉っぱをバッシュの先でいじりながら、正直な胸の内を明かす。

「立夏さんは……その、すごく元気ですけど。でも、僕、知ってるんです。彼女が実はすごく繊細で、ゆっくり時間をかけなきゃいけないってこと。だから、手を繋ぐだけでも、僕にとっては奇跡みたいな時間なんです。でも……」
「でも?」
「男として、頼りないって思われてないか……たまに不安になるんです。立夏さんは、もっとカッコいい人が似合うんじゃないかって」
迅は目を開け、少しだけ視線を和らげた。

「お前は十分やってるだろ。……俺の方は、もっとタチが悪い」
迅は自嘲気味に息を吐いた。
「俺は、付き合う前に……玲を無理やり抱きしめて、キスした前科がある。あの時、玲は拒まなかった。だが、それは怖かっただけかもしれない。そう思うと、正式に付き合ってからは……怖くて、指先に触れるのが精一杯だ」
「えっ……折館先輩でも、緊張するんですか?」
一頼が驚いて顔を上げると、迅はバツが悪そうに視線を逸らした。
「当たり前だ。あいつは……壊れそうなんだよ。小さいし、優しいし、やわらかいし……だから、結局。俺たち、まだ『手しか繋いでない』んだな」
その言葉に、一頼はどこかホッとしたような、情けないような顔で笑った。
「……はい。僕も、手だけです」
「……そうか」
「……はい」
二人の間に、先ほどまでとは違う、不思議な連帯感が生まれた。

「野瀬の雑誌の話なんて、捨てておけ。この学校の時間は、雑誌の統計とは違うスピードで流れてるんだ」
迅が自分に言い聞かせるように言うと、一頼も力強く頷いた。
「そうですよね。立夏さんが笑って、僕の手を握ってくれる。今はそれだけで、100点満点です」
「……ああ。そうだ」
二人は少しだけ晴れやかな顔で部室裏から出ていった。
その頃、女子教室では、立夏が「最近、一頼が手を繋ぐとき、前よりぎゅってしてくる気がするんだけど……これって、もしや、そういうこと!?」と、玲を相手に大騒ぎしているとは、露知らず。
【今回のおまけ】

稲城「なんで、いつもあんな悪い顔できるのさ、野瀬」
野瀬「……ほんとだ。面白い記事を見つけたから2人に見せたかっただけなのに〜」
稲城「今回はサービスカットになってしまいました。最初は着替えながら話そうかとしてたんですね」
野瀬「まぁ、ちょっと難しいからね」
稲城「いろいろと?」
野瀬「いろいろと。とはいえ、体育館裏も、どう見ても早坂が今から締められるみたいな空気も出してて微妙」
次の話へ →
↓ マガジンはこちら ↓
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップは製作費に使わせていただきます。