【clum! '96 #05】優しい予感
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男子たちが部室裏で「3ヶ月の壁」に悶々としていた頃。
3年B組の教室では、放課後の柔らかな夕日を浴びながら、佐野立夏と岡本玲が机をくっつけて語り合っていた。
女子サイドは、男子たちが思っている以上に「彼らの変化」を敏感に察知しているようだ。
「ねえ、聞いてよ玲ちゃん! 最近の一頼、なんか……変なの!」
立夏が鼻息荒く、玲の机に身を乗り出した。ポニーテールがぶんぶんと左右に揺れる。

「変、っていうと?」
玲は持参したタッパーの片付けを止め、穏やかに微笑んで聞き返す。
「今日ね、部活の合間にちょっとだけ手を繋いだんだけどさ。一頼の手、すっごい熱くて、しかもめちゃくちゃ力がこもってるっていうか……。まるで『絶対に離さないぞ!』っていうか、あるいは『これから重大発表します!』みたいな、妙な気合を感じるのよ!」
立夏は自分の手をぎゅっと握って見せた。
「もしかして……一頼、私のこと嫌いになったのかな? 私の声がうるさすぎて、耳が限界とか!?」

「ふふ、それはないと思うな。逆じゃないかしら」
玲は立夏の突飛な心配を優しく否定しながら、窓の外の校庭に目を向けた。

「……多分ね、立夏ちゃん。一頼くん、焦ってるんだと思う。ほら、この前の『プチレモン』って雑誌にも書いてあったでしょう? 『カップルの進展スピード・アンケート』とか」
「あー! あれね! 『付き合って3ヶ月で初キスが50%』とかいうやつ!」
立夏は叫んでから、ふと顔を赤くして声を潜めた。
「……一頼、ああいうの読んだのかな。真面目だから、『守らなきゃいけないルール』だと思ってそうだし……」
立夏は少しだけ視線を落とし、左腕のリストバンドを指でなぞった。

「私……一頼が待っててくれるの、すごく嬉しいんだ。私の勝手な理由で、怖がったり避けたりしちゃうの、一頼は嫌な顔しないで『立夏のペースでいいよ』って言ってくれる。だから……一頼が無理して『男らしくしなきゃ』って焦ってるなら、なんか、申し訳なくて」
「それは、迅くんも同じかもしれない」
玲がぽつりと呟いた。
「最近の迅くん、一緒に帰ってるときに、時々すごく難しい顔をして黙り込むの。私の顔をじっと見て……何かを言いかけて、結局『お腹空いたな』とか、全然違うことを言うの」

玲は11月の、あの強引なキスの感覚を思い出していた。あの時は怖かったけれど、今は、彼がその記憶を「悪いこと」として大切に扱いすぎているのがわかる。
「迅くんは、私を大切にしようとして、自分の気持ちにブレーキをかけてる……。でも、時々そのブレーキが壊れそうなくらい、一生懸命なのが伝わってくるの」
「あー……わかる。迅って、意外と不器用だもんね」
立夏はカラッとした笑い声を上げた。
「ねえ、玲ちゃん。私たち、気づかないフリしてあげよっか」
立夏が悪戯っぽく笑った。

「男子たちが『3ヶ月だから何かしないと!』って空回りしてるの、ちょっと可愛いじゃん。一頼が真っ赤になって頑張ってるなら、私はいつでも準備できてるよ、って……いつか、ちゃんと伝えられたらいいな」
「そうね。……わたしたちのスピードで進んでいけばいいって、きっと、いつか分かってくれるよ」
二人は顔を見合わせて笑った。
1996年の夕暮れ。
男子たちが勝手に作り上げた「ノルマ」よりも、ずっと深くて温かい信頼が、彼女たちの心には育っていた。
【今回のおまけ】
野瀬「2人とも、ちゃっかし彼女達の手のひらの上で踊らされてる。あはははは」

野瀬「で、ご褒美代わりにこれよ」
稲城「……立夏ちゃん……っ!」
野瀬「机の配置的にも何もかもNGなんだけど、なんかすごく綺麗な寝顔みたいになったね。ほんと、残念な先輩だよ」
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